表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
1章 災害が起きてもダンジョンが生えてものんびりしたい
2/324

ダンジョンにて回想する1


 五月十日、突然M9クラスの地震が世界中で、というか全世界津々浦々で起きた。揺れていた時間は三分ほど。その短くも長い時間で世界は変わった。その地震による被害は、地域によってはほぼ壊滅状態になるほど。被災者は全人類、死者、行方不明者はおそらく二十億人を超えている。

 日本は普段から台風、地震、火山の噴火、それらによる二次災害も含めると常にどこかで起きていると言っても過言ではないくらいに自然災害の総合商社だ。そのおかげと言うべきか、免震、耐震構造の建物がほとんどを占めていて、地震による被害は人口に対する割合では世界で一番少なかったらしい。

 一方で普段地震とは無縁の地域では、石造りの家屋やビルの倒壊により生き残りの方が少ない、それどころか全滅の地域もあり、小さな島国などは津波にも思える大波で大変な被害が出ていた。

 その世界の半分を破壊した大地震と時を同じくして、地球にダンジョンが発生した。


 そしてここがそのダンジョンのひとつ、我が家ダンジョンというわけだ。

 なぜそんな危険な場所に自由に出入りしているかと言うと世界中、特に日本各地の一般家屋から役所まで、届けがあっただけでも数万はくだらない数のダンジョンが存在していて、その数多あるダンジョン全てを把握し封鎖するなど到底できるわけもなく、それを良い事に興味本位で潜っているというわけ。

 把握しきれてもいないし国や自治体が管理しようにも手が足りないのが現状だ。幸いダンジョンから巨大な虫が這い出てくるといった事例は未だ無く、後手に回りやすいお国柄の日本では自衛隊や警察、役所も対応が遅れている事に対する危機感は薄い。一般人も似たようなものとはいえ自宅にダンジョンができてしまったとなると途端に焦り始める事もしばしばあるようだ。


 俺はそれなりにゲーム脳を自負してるダメ人間だし異世界とか転生とか未だに憧れてるし……さすがに厨二は卒業したけどね。いやマジで。ほんとほんと。ともかく恐怖がないわけじゃないけど変わり映えしない毎日が非日常を求めた俺の背中を押したのだ……なんて。ま、好奇心に負けたと言った方が正しいかもしれないし、どうにでもなれという気持ちがあったのも否めない。

 三メートル程もある穴を降りる事ができたのは、少し錆び付いた金属製のワイヤーで出来た縄梯子のようなものが物置にあったからだ。しかも鉤爪みたいなのが付いたお誂え向きなやつ。なんでそんなものがあるのかって? そんなの普通に生活してたら使わなそうなものを買ったり貰ってきては溜め込んでいた爺ちゃんにでも聞いてくれ。俺が高校を卒業した年に死んじまったけどさ。


 迷路のような薄暗い土壁に囲まれた穴の中を(しばら)彷徨(さまよ)ってようやく2層まで辿り着いたというわけだ。1層には蟻一匹いなかったというのに、壁に空いた斜め下に向かう穴から続く2層へと出た途端、一メートル程のでかい蟻がいた。マジでびびった。人生で初めて、本気でちびるかと思った。その時、俺の手には懐中電灯のみ。武器になりそうなものは持っていなくて即退却。気付かれる前に走り出した確信はなく追ってきているかもしれない。ようやく冷静さを取り戻したのはワイヤーで出来た縄梯子を目にした時だった。振り返り、何もいない事を確認する。暗闇に耳をすます……辺りは静まり返り自分の心臓の音が聴こえるほどだ。胸を撫で下ろし少し震える脚で踏み外さないように縄梯子を登り蓋をする。そして俺は膝から崩れ落ちた。立ち上がろうとしても立ち上がれない、まるで産まれたての子鹿。それからなんとか気合いで立ち上がり平静を装った。

 両親には報告していないけど、とりあえず入らないように言っておいた。そもそも入る気がなかったようだしある日突然穴の中で蟻の餌になるなんて事はなさそうだ。蟻の方から出てきちゃったらやばいけど。


 その後自室へ戻りスマホを見てみたところ、電波が入っていた。地震直後は災害慣れしている日本インフラと言えど一時的に全てが止まっていた。地域にも依るがそこからわずか一日少々で電波が戻る、ビバ日本! さすがだぜ。そういうわけで、数年来のネット上の友人に連絡を取る。



 ゆんゆん:へーい! そっちどーよ? ってか生きてるか?

 とんちゃん:なんとか。棚の物とかほとんど出ちゃったし食器も使い物にならなくなったからうちの雑貨屋の在庫漁ろうかと思ってたとこ。

 ゆんゆん:ほほー。便利だな雑貨屋。なんでもありそうじゃん。そんな君にお願いがあります。武器をください。

 とんちゃん:は? 武器ってなに? なにと戦ってんのよ?

 ゆんゆん:でかい蟻

 とんちゃん:蟻(笑)

 ゆんゆん:ちがう。でかい蟻。『でかい』蟻だぞ。一メートルくらいの。

 とんちゃん:写メぷりーず。


 友達を信じないなんてひどい奴め! と一瞬思ったが、逆なら信じないだろうしな。だって一メートルの蟻なんてあり得ないしな。でもあり得ちゃったはずだ。見間違いの方が良いとは思うけど、たぶん残念ながら見間違いじゃない。信じてもらうには……証拠がないとなんだけど、あんなの見ちゃったら言わずにはいられないだろう。


 ゆんゆん:残念ながら無い。けどでかいのいたんだって、うちのダンジョンに。

 とんちゃん:へ? ゆんゆんの家にダンジョン生えたの?

 ゆんゆん:うん、生えた。っていうか凹んだ先がダンジョンだった。

 とんちゃん:入ったの!? なにやってんの? ばかなの? しぬの?


 よく考えてみると確かに馬鹿だよなぁ。普通の穴だったとしても崩落で生き埋めなんて事にもなりかねないわけだし。でも結果生きてるし……ともかくアレは生かしておいちゃいけねぇ気がする。差し当たっては武器が欲しいな。


 とんちゃん:あぶないことするよねー。そんな巨大蟻がほんとにいるか知らないけどやめときなよ。

 ゆんゆん:……いやだー! 俺はファンタジックに生きるんでい!

 とんちゃん:何言ってんだか。私雑貨屋見てくるからゆんゆんは戻ってくるまで待ってること! 話はそれからだ。いいな?

 ゆんゆん:善処します。


 ゆんゆん=俺。ネット上の名前から、ゆんゆんと呼ばれている。呼び名のイメージが全く当て嵌まらないのは自覚している。一方のとんちゃんもネット上の名前からだ。お互い本名は知ってるけど、呼び慣れた方で定着している。ちなみにとんちゃん、一応生物学的に女。つまり異性の友人というとても貴重なポジションだ。最近あったあんなことやこんな事まで、同性よりも気兼ねなく話せるから不思議だ。特に直近で話した事に関して大変お世話になって、そのおかげで俺の心はなんとか保たれているがそれでも思い出すのはつらい。だから今俺の中で最も沸騰している興味の対象、ダンジョンを利用する事にしよう。


 それにしてもどうしようかなー。考えてもみればとんちゃんに武器になりそうな物をおねだりしても車で数時間かかる場所に住んでるし、すぐには手に入らないんだよな。となると、何が納められてるかわからない物置にもしかしたら何か……そうだ、あれがまだあれば勝機はあるな。


 金属ワイヤー製の縄梯子があった物置を漁ってみるとすぐにお目当の物が見つかった。さっそく手に取り構え振り抜くと……『ブンッ』懐かしい音が鳴る。

 よし、この金属バットがあればなんとかなりそう。あとは念のため防具になりそうなもの……なんかあるかな〜。

 ふと目線を上げると、安全第一とプリントされたお馴染みの黄色いヘルメットを見つけたので確保。それとスキーウェアも見つけたのでこれも確保。ちょっとカビ臭い気がするけどこの際気にしない。靴は冬用の少し底の高いブーツでいいか。それらを部屋に持ち帰ってフル装備にしてみた結果……ダサい。非常にやばい。この組み合わせは絶対に外ではできない、そんなミスマッチ感溢れるコーディネートになった。だが問題ない。なぜならダンジョンは我が家にあるし。

 ふとダンジョンは中で他のダンジョンと繋がってないよな? と思ったが、まぁその時は諦めて挨拶でもして探検仲間になれる事を祈ろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「その時、俺の手には懐中電灯のみ。武器になりそうなものは持っていなくて即退却」 大きな虫に襲われて死んだ人が居ると把握しているのに、武器なしで探索しようと思うって、主人公の抜けているところ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ