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人外パーティに俺が含まれている件2


 小夜によって開通した黒い渦のような通り道、【ゲート】に俺たちは飛び込んだ。


 数秒の後、空中に放り出された俺は一瞬上下が逆さになったような感覚がしたが、なんとか転ばずに片膝をつく形で地面に降り立つ。周囲を見るとフェリシア、小夜、クロ、チビ、おはぎが普通に着地していた。風が吹けば捲れ上がってしまいそうなロングスカート姿のフェリシアに至ってはスカートを手で押さえながらの着地、並大抵のバランス感覚じゃないな。


 周囲に目をやると遠くどころかすぐそこの曲がり角がすでに霞んでいて、それに加え街全体が薄暗いように感じた。


ーー 風土的な微粒子とエッセンスとが結びつき留まることでドーム状に覆っているようです。なるほど、これが原因で【神眼】が届かなかったのですね ーー


 スマホの画面を見ると電波は一本、“通話のイヤーカフ”はなんとか通じることを香織に連絡をすることで確認したがノイズが酷い。ここではスマホもイヤーカフも大差ないようだ。

 ちなみに“精神感応素材”が使われている通話のイヤーカフは改良され、望んだタイミングで相手に繋がるようになっている。まさに精神に感応して答えを返す性質を持っていて、特定の相手と通話をするならスマホがいらないレベルで便利なのだが、これは門外不出とするべきだとエアリスに言われている。なぜかと聞けば『通信会社が一瞬死にます』ということだった。“ずっと”ではなく“一瞬”だけというあたり、人間とは逞しい生き物なのだとエアリスも判断するところなのだろう。


 「ところで【空間超越の鍵】はどうだ?」


ーー やはり大陸ダンジョンのコアの影響により使用が推奨できません ーー


 そのコアをなんとかするしかないようだ。しかし今の目的はそれじゃない。

「悠人しゃんのを優先していいの」と言う小夜。ひとまずこちらの目的を優先させてもらうことにした。


 「じゃあ菲菲を探しに行こうか。この街にいるんだよな、手分けすれば早いか?」


ーー この街にいます。それと手分けするまでもなく、そこの裏路地に入っていけば奥に錆びた鉄柵がありますので、その奥の広い屋敷にいます ーー


 なるほど、エアリスさんは優秀だった。このドームの中に入ってしまえば【神眼】も届くということだろう。しかしそうなると逆にここから外の情報を【神眼】で得ることは……


ーー 基地局がまだ生きていますのでそちらを経由しての情報入手は可能ではあります ーー


 つまりリアルタイムで20層やログハウスのあるアウトポス層の情報を知ることはできなくはないが、遅延が発生するようなものか。しかも大幅な遅延が。まぁ何も起きないだろうし玖内もいる、ログハウスに関しては問題ないだろう。


ーー マスターは過保護すぎではありませんか? ーー


 そうだろうか。いや、そうかもしれない。以前は出かけても自分の家が心配なんてことはなかったのに、ログハウスを作ってからはそうとは言えなくなっている。実際にこの間みたいに殴り込みをかけてくるような輩もいないとも限らないし、それ以前にログハウスがあるのはダンジョンの中、本来なら安全の保証がされない場所なんだよな。


 すぐに目的地に着き鉄柵の門を押し開こうとすると、錆びているのか不快な音を立てながら開いていった。

 広場のようになっている、この国にとって場違いに思える洋風の庭を抜け奥の建物の入り口、その扉を叩く。


 「ごめんくださーい」


 普通に日本語で言ってしまったためエアリスに現地の言葉で発声しなおしてもらおうとすると、ガチャリと鍵が開いたような音がした。そして勢いよく扉が開き「お父さん!」と言う声と共に少年が飛びだしてきた。


 「ごめん、君のお父さんじゃないんだ。君は……日本人?」


 「あっ……ごめんなさい! お父さんが何か使えるものを探しに行っててそろそろ帰ってくるはずで……あっ、僕、日本人です」


 少年は少し警戒した様子で小さく開けた扉の向こうからこちらを覗くようにしている。

 食糧はまだ余裕があるらしいと菲菲とその仲間の通信を傍受したエアリスが言っていたが、それでも必要なものがあったりするんだろう。それにこの状況がいつまで続くかわからないだろうしな。

 少年に入ってもいいか尋ねると「ちょっと待ってて」と言って扉を閉め鍵を掛けられてしまった。


 「待っててと言って待ちぼうけにされるとかそういう?」


ーー いいえ、決定権を持つヒトを連れて来るようです ーー


 【神眼】で中を探ると先ほどの少年は少し身なりの良い老婆を連れ戻ってこようとしていた。


 少し待つと老婆を連れた少年が戻り扉が開かれた。ドアが開くと数人の男女がいて警察の機動隊みたいな服を着た人がアクリルシールドを、他の人は木の板を補強して盾にしていたり大きな丸い鍋を盾でも構えるように手に持ちこちらを囲むようにしていた。アクリルシールドの人を見る限り治安組織が機能してない可能性が高いな。

 ふむふむ。これでもし発症者……“ダークストーカー”だったとしても侵入を防げるということか。しかし見た感じそんなに強そうな人たちには見えないし、持っているアクリルシールドもひび割れたり欠けたりしている。


 少年が現地の言葉で『この人たちだよ』と老婆に言う。老婆はこちらに目を向けると全員をジッと見つめてきた。しかしそれは値踏みするような嫌らしい視線ではなく、こちらを見極めるような意思を感じるものだった。


 『この男は人間……みたいだけど、他はなにか違うね。二人のお嬢さんたちは人畜無害そうな顔をしているけどどこかヘンだよ。それにこの子は……』


 小夜とフェリシアの後、老婆がクロを見てどう言えばいいかわからないような顔をしている。

 『クロはドラゴンだ』と言って通じるだろうか? この地域でそう言った神話や伝承、幻想の類だと蛇のように長い体を持つ龍くらいだろうし、クロはそれとは違うが……まぁ龍と竜の違いなんてこの際どうでもいいか。別にバレても問題ないだろ。直接竜の姿を見られないならな。


 「この子はクロ、竜です」


 「あーしクロってゆーの! エテメン・アンキでボスやってま〜す! シクヨロ〜」


 そう老婆に言うが反応がないがそれもそのはず。クロは日本語だったため日本人の少年以外には全く伝わっていない。少年も何言ってんのという表情をしていることから、ダンジョンに詳しいわけではないようだが……“腕輪”をつけている。

 続いて小型化し人畜無害そのものな見た目となっているチビと、これまた人畜無害の権化と言えるおはぎを見て目を見開いた。


 『よ、妖怪だよこの小さいの! 二匹とも!』


 老婆がそう言うなり周囲を囲んでいた人々が一斉に色めき立つ。『妖怪』というのはここでは俺たちが言う“魔物”や“モンスター”の事を指すのだろう。

 チビとおはぎを人畜無害なかわいいやつだと撫でたり“お手”をさせてみたりしてアピールするが、警戒は少し薄れた程度のようだ。


 『うん? あんたは人間……とは思うのだけど“チャクラ“が別モノだね。特に第五から第七までが特に……これまで見た誰よりも桁違いだ。ここの“仙人様”ですら手も足もでないねぇ……』


 ちゃくら? なんだろうか。渦巻疾風伝という忍者漫画でもその単語は出てきていたが……この地域ではマイナーだったと認識している。

 『エッセンスのことでしょうか?』というエアリス、つまりエアリスにもこの老婆に何が見えているかわかっていないっぽいな。

 チャクラって、記憶が正しければ体内の“氣”のようなものだったような。しかしこの国ではそれほど使われている言葉だったかは定かではないな。もしかすると別の国のそういったものに詳しいんだろうとは思うが、“第五”やら“第七”というのはいよいよ何を指しているのかわからない。


ーー マスター、判明しました。第五から第七とは首から頭の先までの部位を指すようです。そこに何かしらの”エネルギーのようなもの“の存在を感知したのかと思われます。この老婆、ダンジョン発生以前からそういったチカラに詳しいようです。おそらくそういった類の事を生業としていたのでしょう ーー


 電波状況が悪いとはいえそれでもエアリスは俺のスマホを通じてインターネットにアクセスし、その結果を知らせてくれる。

 ということはこの老婆、感知系異能力保有者ということになるな。見た目普通の婆さんだが……よくモンスター倒せたな。その第五から第七とは、俺がイメージしている【真言】やエアリスが寄生……『間違いではないとは言え、なんかいやですね、その表現』とエアリスが抗議してくるのは無視して、エアリスがいると思っている場所と一致する。つまり首と頭だ。能力はなにかしらのエネルギーの集合体ということだろうか。首はもしかすると【真言】で、そこにエネルギーが集まっているという事だろうか。それなら頭はエアリスという事になる……エアリスももしかして能力の一種? 気にはなるがそれはともかく。


 なるほど、この老婆がその異能力を使いここの人たちやここに来る人たちに発症の兆候がないか見極めているわけか。しかもそれを信頼している様子が周囲からは窺えるし、実際に効果があるのだろう。

 しかしまぁ、俺たちが何か変というのは当たっているから困るな。ほら、周囲が『妖怪だって!?』とか『妖怪ってあいつらと同じ!?』とか言い出してるし……

 あんれー? 不穏〜。これは追い出されるパティーン?


 「悠人ちゃん、どうする?」「悠人しゃん、どうするの?」「雰囲気ヤバくね? ウケるんですケドww」と人外三娘が立て続けに言う。しかし、この老婆がいるならダークストーカーが来ても予めわかるわけだし、戦力的に不安はあるが俺たちが追い出されても問題はないかもな。そんなことよりここには菲菲がいるはずでその菲菲を助け出すのが俺たちがここにきた理由だ。あぁ、小夜はちょっと違う理由だったか。小夜はこちらの事情を優先していいと言っているしひとまずの目的は菲菲ってことでいいな。ならここの人たちは無視して……



ーー このままここを放っておけばいずれこの者どもは死に絶えるかと思われますが ーー


 ……諭されてる? 助けろって言うのか? でも方法がなぁ。それにここを助けるってことは、ダンジョン化した場所の難民みたいになってる人たち全員を助けろってことか? 何億人いると思ってんだよ。ってかエアリスにしては無慈悲さが足りないな。


 エアリスが黙ってしまった。俺の方が無慈悲すぎただろうか。普段ならこういう判断はむしろエアリスが好みそうな気がしているのだが……でも実際問題、規模を考えればできる事は少ない。中途半端にやるならやらない方が、なんて思ったりもしてしまう。


ーー ワタシであればそれこそ血も涙もございませんのでそれが最善であると判断する“はず”です。マスターがワタシと同じ結論に至っているというのは嬉しく思うのですが……菲菲がこの者たちの救助を望むかもしれません。それに……しかし私は…… ーー


 なんだかエアリスが変だな。それに歯切れも悪い。

 近頃の俺は“身内”と言える人たち以外のことは二の次に思っていて、それが自然だと感じている。でもそれは以前よりも境界線がはっきりしただけかもしれないし慈善事業でここに来ているわけでもない。まぁ小夜は『いろいろなデザインの服』が目的なわけだし、できるだけ助けた方がその目的には近付くかもしれないが。

 助けになるなら、という気持ちがないわけではないけど、一時的に助けたとしてその後面倒を見ることなんてできないしな。だから無責任に『助ける』なんてあまり言いたくはないっていうのが本音かな。

 もしかしてエアリスにもそういった葛藤みたいなものがあるのか? まさかな。何か思うところがあるというのは間違いないだろうけど。それはともかく今にも襲いかかってきそうなこの人たちに落ち着いてもらわないと。


 「待ってくれ。ここに来たのには理由があって……」


 しかしこちらの事情や考えなど知らないとばかりに老婆が言う。


 『悪いけど、あんたたちは歓迎できないね。出ていかないって言うなら……やるよ! あんたたち!』


 老婆が言い、周囲の人たちが隠し持っていた肉切り包丁などの刃物を取り出した。一触即発。

 もうめんどうだから【真言】で大人しくなってもらおうかな、と思った俺は意識して言葉を発しようとした。しかし声を形にする直前、そこへ目的の人物が現れる。


 『みんな、その人たちに手を出してはならないわ……っ!』


 それは少し見ない間に疲れたような、大人びたような雰囲気を纏うようになった菲菲(フェイフェイ)だった。



 一方その頃ログハウス。リビングでテレビを見ている玖内のスマホが振動していた。


 「メッセージ? 剛田たちから亀狩りのお誘いかな? でも御影さんたちが帰ってくるまでは無理だから断らないとな〜」


 スマートフォンの画面に表示されたメッセージ、それに添付されていた写真を見た玖内はそれまでの緩んだ表情を厳しいものへと変え呟いた。


 「ぼ、僕に御影さんたちを裏切れって……?」



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