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人外パーティに俺が含まれている件1


 小夜が香織に謝って一応仲直りという形になった。香織も小夜の気持ちを知って、よりかわいく思ってしまっているらしい。俺としては香織のその大人な部分にとても救われた。


 リビングに戻った俺たちは改めて大陸ダンジョンへと向かうメンバーを決めることにした。


 「じゃあ改めてメンバーを決めようか」


 と、そこでログハウスの玄関が開く。


 「こんにちはー。何か用事ですか御影さん?」

 そう言って入ってきたのは玖内道景、大学四年で卒業後はクラン・ログハウスに所属する事が内定している。とは言ってももうすでに所属しているのと変わらないし、実はログハウスにも玖内用の部屋がある。

 しかし俺は玖内を呼んだ覚えはない。


ーー ワタシが呼びました。念のための捨て……護衛として ーー


 エアリスよ、今“捨て駒”って言い掛けなかった? 玖内は貴重な男子勢だからな?

 ともかく玖内はエアリスに呼ばれたようだ。俺に『何か用事か』と聞いてきたのだから、おそらく俺のスマホから連絡したのだろう。……これじゃあ俺のスマホなのか、エアリスのスマホなのかわからないな。

 念のための護衛として呼んだというエアリス。それはおそらく俺のことをよく思っていないという日本の探検者や海外勢、あるかもしれないモンスターによる急襲などなどからログハウスを守るためにだろう。

 これから急ではあるが大陸ダンジョンへと向かうことを伝えると玖内は素直に引き受けてくれたのだが、バイトとか講義とかは大丈夫なのだろうか?


 「バイトは大丈夫ですよ。空き缶潰すバイトは今日シフト入ってないですし。それに講義も今日はないです」


 エアリスのことだからそれを調べた上で呼んだのかもしれないな。玖内にはバイト代を出さないとだな。そう思って悠里に目を向けると頷きを返してくる。さすが、クラン・ログハウスの社長は頼りになる。

 それにしてもまだ空き缶を潰すバイトしてたのか。聞けば玖内はゴミ処理場がキャパオーバーになっている地域に住んでいるらしく、その地域ではプライベートダンジョン内に生ゴミなどの生活ゴミを捨てているのだという。それってどうなんだと思うが、ゴミ袋から出して土をかけておけば次の日には無くなっているのだとか。しかし空き缶は一応金属資源、それを回収する仕事の一環として空き缶を潰していると。それにプライベートダンジョン内はモンスターが出現する。御影ダンジョンはなぜか1層にモンスターは出ないが、他にそういった場所は聞いた事がなく、玖内の仕事場も例に漏れないということだろう。そんなところでの労働だから、ただの一般人では危険なのだ。だが玖内ならば問題なく、本人もほとんど一人でできる仕事なので気が楽なんだと。


 気を取り直してメンバー選出。何度目の仕切り直しかわからないが、これを決めなければ出発もできないからな。


 「わふっ!」


 「にゃーもいくにゃー」


 狼と猫。他のみんなは手を挙げない。いつもなら誰かが手を挙げるし、何よりさっきは手を挙げていた香織が手を挙げていない。香織と小夜が一応の仲直りをしてから俺は二人に飲み物を、と一度部屋を出ている。その時に何か話していたのかもしれないな。念のため香織に視線を送ると、彼女は笑顔で首を横に振った。その笑顔が何かを押し殺したような笑顔には思えず、変な遠慮をしているわけではないと感じた。

 悠里はクランの書類仕事、杏奈はリナと一緒に『連携コンボの特訓』をする予定らしい。ダンジョンが現れてから、現実のまま考えると想定外ばかり起きるだろうと感じていて、俺にとって最も身近な非日常と言えるゲームや漫画に置き換える事がよくあった……今もそうだろうな。そんな俺にとって『連携コンボ』という言葉は、具体的にどういった、とは言えないが可能性のように感じていた。

 あとはさくらだ。こういう時こそついてくるイメージがあるんだが。


 「珍しいね、さくらも行かないなんて」


 「行きたいのはやまやまなんだけど、今回はお邪魔しないでおくわね〜。それに……」


 現在大陸の国は政府が機能していない。軍も同じく機能しているとはとても言えない状況で、しかしさくらが行くのは後々問題になり得るためというのが大きいようだった。というのもさくらはクラン・ログハウスのメンバーではあるが、自衛官であり“特務”だ。特務というのは総理大臣直属の『特殊任務遂行部隊』で他の自衛隊よりも権限としては上位の場合がある“ということになっている”。その立場のあるさくらが他国に無断で行くというのはリスクが大きいため今回は見合わせるということだ。


 「ってことはペルソナも“特務”だから……御影悠人で行った方がいいか」


 その変な言い回しに玖内が首を傾げる。そういえば玖内には未だに俺がペルソナだということを言っていないんだった。


 「あ、リーダーが御影悠人、つまり俺ってことな、玖内」


 「……なるほど、そういうことですか。御影さんって盤面を見るように物事を考えるんですね」


 「あ、あぁ、そういうゲームって昔よくやったからかな。できるだけ俯瞰して見れるようにとは心がけてる」


 「ははは……」と乾いた笑いで誤魔化したけど……バ、バレてないよな? まぁ嘘ではないし、そもそも今更隠す必要がないとは思うが玖内のペルソナに対するリスペクトを見ていると正体が俺と知った時にがっかりされてしまうかもしれず、なかなか言い出せないというのが続いている。みんなも察しているようで誰もそのことに触れないでいてくれる。それもあってますます言い出せる空気ではないように感じてしまい、今に至る。うーん、言った方が楽になれるのはわかるんだけどな……ま、今はいいか。


 ということで大陸ダンジョンへ行くのは……


 「俺と小夜、チビとおはぎか」


 「小夜、ボクもいいかな?」


 「フェリ様も行くの? んじゃあーしも行くし〜!」


 フェリシアとクロが言うと小夜は少しの間を置いて「いいなの」という。続けて「人外パーティ完成なの」とも言った。たしかに、生粋の人間が俺しかいない。そして小夜から見ると俺は“人間枠”ではないらしい。


 「悠人しゃんがヒトならわたしの攻撃を防げるはずがないの。ただのヒトに防がれたら自信喪失なのよ」


 あぁ、そういう基準なのね。小夜が魔王だってことは玖内は伝えていないこともあり、俺にはその時の玖内の顔がそのやりとりの意味を全くわかっていないように見えた。


 そういえば小夜が魔王として放ったあの黒い光、【破局之暴君】といったか。なんで『ネロ・カタストロフ』だったのかをこっそり聞くと「雰囲気なの」と返ってきた。ベータの教育の賜物か。でもあんまり良い教育ではない気も……。いや、まぁそうだな、雰囲気って大事だよな。俺だってペルソナの格好をしている時はハードボイルドを演じているしな! エアリスに同意を催促すると『え? あ、はい、そですね』と返ってくる。なんだろう、このモヤっと感。

 ちなみにベータは保存袋に回収済みだ。


 そんなこんなで大陸ダンジョンへ向かうのは俺、小夜、クロ、チビ、おはぎ、そしてフェリシアに決まった。



 半端にしていた朝食を摂り終えてから部屋に戻り大陸ダンジョンへ向かう準備をする。とはいっても俺の場合一見なんの変哲もない革袋のように見えるが実際は中に多くのものが入っている保存袋を持っていくだけだ。それを腰に提げリビングに戻るとさくらが紅茶を淹れてくれ、暖かいものと冷たいものがそれぞれ入った容器を渡してくれる。続けて悠里が弁当を用意してくれたようで「お腹減ったらちゃんと食べるんだよ」と言って渡してくる。お母さんか。


 そういえば……と、小夜に“星銀の指輪”を渡す。小夜はそれを至極自然な動きで左手薬指に嵌めようとしていた。しかし当然ながらサイズが合わない。


 「悠人しゃん、どうしてぶかぶかなの?」


 「それはね、中指用だからだよ」


 以前も何度か他のメンバーが同じようなことをしていた気がするんだが、“女性はみんな指輪を薬指に嵌めたがる説”はログハウスにおいては定説と言っても過言ではないかもしれない。 

 星銀の指輪にはみんなに渡したものと同じ効果が付与されていて、【ゲート】を使えるが【転移】は使えない小夜には役に立つ事もあるかもしれない。【拒絶する不可侵の壁】と【不可逆の改竄】があるため、危険な目に遭っても少しくらいは役に立つだろう。そもそも小夜にとって星銀の指輪なんて必要ないとは思うが、俺たちの一員である証とかそういうやつだ。


 フェリシアが準備を終えてやってくる。彼女はこれから街にでも行くかのようなひらひらしたスカートを履いていて、こちらに見せつけるようにくるりと一回転する。そして何かを言って欲しそうにこちらへと満面の笑みを向けてくるわけで、「お、かわいいな」といつも通り言ってやる。もはやテンプレだが、それでも彼女は良いようだった。


 改めて考えてみると、これから未知のダンジョンへ行こうって時にそんな格好で大丈夫なのかと思ったが、考えてもみればフェリシアの持っている服は全てエアリスにより強化済み、しかもエアリスが言うにはフェリシアが今着ている服はエッセンスを流し込んでさらに強化される仕組みを搭載したプロトタイプらしい。どうして俺にそれがないのかと聞けば『ワタシへの依存度が減るため』らしい。依存度の心配よりも俺の命を心配してくれるのがエアリスさんだと思ってたんだが、最近方針を変えたのだろうか? まぁいいか。


 「よし、小夜たのむ」


 「おけまるなの」


 おけまる? どこでそんな言葉を……まぁ予想はつくんだけど。


 「クロ、変な言葉教えちゃいけません」


 「えー? おにーちゃんはキライなワケ? チャンサヤかわいくね? 割とアリじゃね?」


 かわいくない、なんて言ったらダメだろうし何も言わないが正解だな……。まぁ実際かわいいけど。


 「それじゃあ行くの」


 小夜がそう言うとリビングの床に黒い渦のようなものが発生する。これに飛び込めば良いらしい。


 「小夜ちゃん、悠人さんのことお願いね」


 「香織に言われるまでもないの。大型宇宙船に乗ったつもりで任せるがいいの」


 香織と小夜は少し打ち解けたようで嬉しく思う。大型宇宙船がどの程度かは知らんけど。


 「悠人さん、無事に帰ってきてくださいね。ずっと待ってますから!」


 「うふふ〜。困ったら連絡してね〜?」


 二人の言葉がしばらく帰ってこない人向けの言葉に思えたらしい杏奈が「日帰りっすよー」とツッコミを入れている。というか香織の言葉は本当にしばらく帰ってこない人に向けた言葉なんじゃないだろうか。

『少しの時間と分かっていても永遠にも思える時もあるのですよ』と何かを回想しているかのような言葉に違和感を覚えつつなるほどと思ったが、エアリスにそういう事を教えられるというのはなんだか変な気分だった。

 それで終わればいいのだが、『ちなみに』と蛇に足を描き足してしまうのがエアリスである。もう“蛇足のエアリス”にでも改名すればどうだろうか。それとも“蛇足(エアリス)”だろうか? それはまぁいいが続けられた蛇足に焦りのようなものを感じてしまった。


ーー しばらく、もしくは二度と帰ってくるなという意味がある場合も ーー


 そんなわけないよな? 香織は早く帰ってきて欲しそうな顔をしていると思う、たぶん。

 よし、早く帰ろう。そうすればきっとわかるはずだ。


 悠里と玖内とリナは普通の見送りだったので少しホッとしつつ、小夜に続いてゲートへと飛び込んだ。


ブックマーク、評価ありがとうございます。

読んでくれているみなさんのおかげで、筆者、喜んでおります。

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