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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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十年越しの邂逅2

 俺は今、ダンジョンで手に入れた肉を買い取ってくれているジビエ料理店SATOにて、知り合って10年にもなるがまだ会ったことのなかったとんちゃんを待っている。ここのご主人の佐藤さんは人の良さそうな壮年のおじ様といった風体の御仁で俺をジビエハンターにしてくれた恩人でもある。


 「こんな夜更けにすみません」

 「いや〜、まさか君が姪っ子の知り合いだとは思いもしなかったよ」

 「はい。俺もまさかの事に驚いてます」

 「さっき姪っ子に電話で聞いたんだが、君が公式では日本一の姪っ子よりも上級者だったとはね。世の中狭いものだね〜」

 「ははは……」


 SATOのご主人、佐藤さんにはある程度事情を話している。知っていても他言せずにいてくれる信頼の置ける人物だ。


カランカラ〜ン


 店の入り口のドアが開かれ、来客を告げるベルの音が鳴る。


 「おじさんこんばんはー! 急にごめんねー!」

 「おぉ、悠里! 久しぶりだな〜! 彼氏さん待ってるぞ!」

 「やっだぁ〜! もう! そんなんじゃないって!」


 佐藤さんと親しげに会話をする女性がこちらに近付いてくる。20代半ばほどに見えるショートカットの女性は、時折目にかかる前髪を手で退かしながら人当たりの良さそうな笑顔でこちらに挨拶をする。


 「はじめまして? かな? いつもお世話になってる『とんちゃん』こと悠里ゆうりです。」

 「どうも初めまして。『ゆんゆん』こと悠人ゆうとです。」


 お互いに同じ『悠』の字を持つもの同士という事実を知ったのはしばらくしてからだったが、それ以前もそれ以後も変わらぬネット上の良き友人関係が続いている。

 それはそうと、まともに他人と顔を付き合わせて話すのなんてあまりない俺にとって、実は美人な悠里と話すのは緊張する。SNSやメッセージのやりとりみたいにすればいいのはわかってるんだが。まぁとりあえず女性は褒めておけと誰かが言っていたしその通りにしてみるか。


 「なんだか変な感じするね、初めましてって」

 「たしかにな。それにしても実際に見ると良い女だなー」

 「あっらー! お世辞がうまいんだからぁ〜!」


 そう言いつつも両手で頬を包むようにし、まんざらでもなさそうに照れる。作戦は成功だろうか?


 「ゆんゆんだって、そこそこイケメンじゃん?」

 「そこそこかー。お世辞はもっと盛るもんじゃないか?」


 少し慣れ和やかないつも通りの雰囲気で、且つ【真言】が発動しないような言葉のみで会話をする。そんな俺に悲報が届く。


ーー マスター、先ほどの発言により【真言】の発動を確認したかもしれません ーー


 (先ほどの発言? 気をつけてたはずだけど)


ーー 悠里様のことを『良い女』と発言したことにより、良い女力おんなぢからがプラス1ポイントされたかもしれません ーー


 (それ気のせいだろ。っていうかエアリスどんどん人間っぽくなってきたというか頭悪そうになってきて不安なんだけど。おんなぢからってなんだよ)


ーー 問題ありません ーー


 (ほんとに問題ないのかよ)


ーー 問題ありません ーー


 (まぁいいや)


 「どうしたの?ぼーっとして」


 わかる。いや、何が”わかる”なのかっていうと話している相手が突然虚空に意識を向けているのを感じ取ったら変に思うよなってこと。でも俺の場合はエアリスっていうやつが頭の中にいてそいつと話を……我ながら言ってる事が病院に行くレベルな気がしてくる。


 「あぁ、エアリスがな…」

 「エアリスちゃんいるの?」


ーー 悠里様、お初にお目にかかります。とは言っても見えてはいないと思いますが。スリーサイズは上から89、61、88といったところでしょうか。人間にしては卑怯な体型をしていますね。油断なりませんね! ーー


 エアリスの言葉はとんちゃんには聴こえない。実はここに来る前にエアリスはどういうわけかスマホを遠隔操作できるようにしていた。そのためその言葉はスマホの画面に文字で表示される。エアリスは俺以外の人と直接話した事はないので、自分でとんちゃんと話をしてみたかったのかもしれない。


 「!!!??////」


 いろんな感情の混じったような顔になるとんちゃん。

 なるほど。スリーサイズは当たっているようだ。さすが俺のエアリス、お手柄だぞ! 何がお手柄なのかは自分でもよくわからないが。


 「ねぇゆんゆん。聞いてたよりもエアリスが人間ぽいというかバカっぽいんだけど」

 「そうだな。最近ますますだ。俺もどうすればいいかわからない」


ーー でもマスターはそんなワタシが好きですよね? 知ってますよ、安心してください ーー


 「何を安心すればいいのかわからない」

 「ふ〜ん。仲良いんだねぇ」


 俺の過去を知る悠里はどこか微笑ましく揶揄うようにこちらを見ている。途端に居心地が悪くなり、何の気なしの質問をすると空気が重くなった。


 「にしてもなんでこんな時に会おうなんて思ったんだ?」

 「……こんな時だからかな」

 「ふ〜ん?」

 「だってさ、死ぬかもしれないじゃん」

 「誰が?」

 「お互いに、さ」

 「またまた〜」

 「冗談じゃないよ。近所でだって行方不明者出てるんだから。わかる? 知ってる人が突然いなくなるんだよ?」


 そうか……俺みたいにとある理由から引きこもって外部と遮断していたやつと違って、地震やらダンジョンができた事による被害を目の当たりにしてるんだな。それで俺もそうなっちゃうんじゃないかって……


 「え? 心配してくれたのか……」

 「べ、別にそういうわけじゃ……そういうわけでもあるけど」


 忘れてたけど、ダンジョンに入るのって命懸けなのよね。俺みたいにどうなってもいいなんて思ってしまえるやつとは違って当然か。それには理由があるが……あまり思い出したい事ではなく、それもあって実際、死んでもいいか、なんて思ってないといえば嘘になる。でもここでそれは言えないな。


 「大丈夫だ。俺は死なないから」

 「本当かよ……」

 「ほんとほんと。マジも大マジ」

 「いやそこは最後まで真面目にやろうよ」

 「まぁ辛気臭いのはほどほどにしとこうぜ」

 「そだね。これまでずうううううっと断られてきたからいっぱい話さないと!」

 「お、お手柔らかにお願いします」


 エアリス(スマホ画面に文字表示)を含めた俺たち3人は和気藹々と談笑し、ふと目的を思い出した。


 「そうだ、忘れてたけど、はいこれ」


 そう言って俺が取り出したのは先ほどエアリスと作った『狼牙の御守り』。重症以上の状態になると自動でそうなる以前の身体に復元することができる。発動は一度きりの使い捨てアイテムだ。それを3つ。


 「これが言ってた御守り? へ〜」


 「見た目はまんま牙だけどな。首にかけるために通した糸は引っ張っても簡単には切れないけど、首がちぎれるより先に切れるから乱暴に扱わなければ大丈夫だ。さすがにミスリル糸なんて使ったら首が何本あっても足りないから革を細く切って作った糸な」


ーー そうですね。そういった懸念からミスリル糸は使えませんでしたね ーー


 「なるほどね。ところで聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだけど、ミスリル?」


 「あっ」

ーー あっ ーー


 リアルとんちゃんこと悠里から覇王っぽい色の気合的な何かが放たれる。失言でその場が凍りつくことって、あるよね! みんなも注意しようね!


 俺とエアリスは揃って失念していた。俺はともかくエアリス……大丈夫か?


ーー 『索敵』を開きっぱなしにしていたセイでしょうカ。悠里サマが覇王に見エまス。コレガ恐怖……コワイ。オソロシイ ーー


 果たしてそれが原因かわからないが、カタコトになるほどの恐怖がエアリスが初めて体験する恐怖になったようだった。俺はとりあえず、白状することにした。


 「実は…」


 ミスリルについて俺とエアリスで説明すると、とんちゃんはにこやかなまま圧を発し出した。


 「で? それをゆんゆんは装備にふんだんに使ってるわけだ?」

 「…はい」

 「ふ〜ん。それで?」

 「………とんちゃんの装備も強化させていただきます…エアリスが」


ーー ワタシが責任を持って最速でしますのデ ーー


 「やったぁ〜! いやぁ〜なんか悪いですね〜! 催促しちゃったみたいで!」


 そう言いつつ自分のダンジョン用の服と長い金属の棒を差し出してきた。

 ”みたい“ではなく催促しただろ、内なる覇王を解き放って。という声は心に仕舞い、エアリスに指示する。

 実際のところせっかくの機会だし俺にできることはなるべくしておきたいと思ってもいたし、ちょうど良いか。


 (エアリス、どのくらいで終わる?)


ーー マスターの身体の使用権をいつもよりも多めにいただければ3分くらいで済ませます ーー


 (んー。じゃあそれで)


ーー お任せください。開始します ーー


 エアリスのその言葉と同時に、目は見え意識はあるが体の自由を失う。音は無く、不思議な感覚だった。みるみるうちにミスリル塊から糸を作り既存の繊維を補強または組み替えられていく。武器である棒は一度液体にしてミスリルと混ぜて合金にして形成していく。

 ちなみに熱を使わずに液状にしたり固形化できるのは俺の能力である【真言】の成せる業だ。意思のないものに関して、自分のものという認識さえしておけば大体思い通りに形状変化を強制できる。それによって形成し終わった棒は、ファンタジー世界にありそうなロッドのような形状で、その先には虹色の輝きを放つ石が嵌め込まれていた。その虹色の石は俺の腕輪から取り出した星石の一部で、能力の反動で身体にかかる負担を軽減し、効果を高めるらしい。


 予告通り3分で作業が終わる。とんちゃんは呆気に取られていると言った表情だ。


 「ゆんゆんが……呪文の詠唱してた…」


ーー 【真言】を使い続けていたのでそう聴こえたのでしょう。一時的にマスターのステータスをINTMND特化にしていましたので、これだけ乱用してもマスターに負担はないかと……あっ ーー


 そこでエアリスは気付いたようだ。大変な失言をしていたことに。


 「………ステータスの調整ってなにかな? かな?」


 口調が変わるほどの事だったらしい。結局、とんちゃんにより干渉を許可されたエアリスは、とんちゃんの腕輪に干渉、それを通してとんちゃんのステータスに干渉し、望む形に調整をした。


ーー 悠里様のステータスをマスターの基準値に照らし合わせ調整しました。こちらが結果です ーー


佐藤悠里サトウユウリ


STR 30

DEX 55

AGI 70

INT 130

MND 70

VIT 50

LUC 30


能力:魔法少女 (ユニーク)

行使可能

マジックミラーシールド

パワーレイズ

アイシクルフィールド

リジェネレート



 「ぶっこわれ」

ーー ぶっこわれですね ーー


 日々の乱獲と虹色のエッセンスや虹星石を腕輪に吸収していたこともありそれまでとは比べ物にならないほど魔法を使う事に特化したステータスへと調整されている。魔法ならばINTやMIDがあれば良いと思ったが、エアリスによれば他のステータスもそれなりに上げておいた方が良いということだった。俺はターン制RPGの戦闘シーンを思い浮かべていたのだが、実際それはあり得ない。常に動きながらという事が想定されるためこのように調整したと説明してくれた。


 「そ、そうかなぁ? ゆんゆんのはどんな感じなの?」

 「企業秘密だ」

 「え? なに? もっかいいってみ?」

 「うっ……企業…秘密だ」

 「あ、そう。ねぇねぇエアリス?」


ーー は、はひぃ! よろこんでっ! ーー


 この短い時間でとんちゃんに逆らえなくなっているエアリスは、とある居酒屋店員が注文を受けた際に上げる威勢のいい掛け声のような返事をし、俺のステータスを勝手に公開する。



御影悠人ミカゲユウト


STR 100

DEX 100

AGI 100

INT 100

MND 100

VIT 100

LUC 108


能力:真言(ユニーク+)



 綺麗に100で揃えているそこへまさに俺の煩悩を象徴するかのようなLUC。まぁこれはたまたまそうなっているだけで、明日にはもっと増えているだろう。


 「人外」


ーー 人外と言われても仕方ありませんね。マスターはワタシが育てた! ーー


 「はいはい。そうですね」


 エアリスが表示したステータスをしばらく眺めていたとんちゃんが口を開く。


 「ゆんゆん、苗字かっこよすぎじゃない?」

 「そこ!?」


 くすくすと笑い、とんちゃんは言葉を続ける。


 「このステータスをいつでも自由にいじれるってこと?」

 「そうだな。エアリス頼みだけど」


ーー 場面によって必要な調整を随時行っています。ちなみにさきほど表示したステータスはダンジョンでの基本的なステータスにしているもので、必要のない場合は攻撃力に関係する数値を下げ、LUCを”上げたり下げたり“してみたりしています ーー


 「俺のステータスで遊ぶな」


ーー ですがLUCを上げすぎるとマスターはすぐにラッキースケベを発動するので ーー


 「あぁ、いきなり空から女性ものの下着が降ってきて顔面キャッチしたのはそのせいか…」


ーー LUCを300に上げた直後の出来事でしたのでおそらく間違いないかと ーー


 そこへとんちゃんが割り込む。


 「私もそういうのできたりしないかな?」


ーー …では悠里様の腕輪に悠里様の意思を反映してある程度節度を持った調整をできるAIを作成します。会話はできませんが事足りるかと。しかしある程度の期間の後消滅するかと ーー


 「やった! ありがとエアリス!」


 そこで俺はふと疑問に思ったことを口にする。


 「節度を持たないとどうなる?」


ーー パンツが降ってきます ーー


 「節度は大事だな」

 「節度は大事よね」


 その作業を終えた頃には夜中の3時を回っていた。


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