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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
6章 諍いなど気にせずのんびりしたい(仮)
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嘘の裏にあるものは大体自己中心的な事だ


 総理と統括に予想される魔王の危険度と共に四人の助っ人により守ってもらう旨を伝える。当然その助っ人というのも一騎当千のはずだ。追求されることを予め予期していたため、本人たちの希望により詳しいことは話せないと前置きしてある。それに聞かれたとして、俺もそれほど知っているというわけではない。実際に戦っているのを見たのは龍神と嵐神だけだからな。

 二人はそれに対し懐疑的な気持ちなどおくびにも出さずに話を聞いてくれていたが、軍より強いと伝えた時には変な汗をかいていたように思う。たしかにそんなのが魔王の他に四人もいると聞かされればそうなっても仕方ないだろう。

 正直俺も、今では以前の『ありえない』に馴染んでいる部分が多くあって、そうじゃなかったらこんな話をまともに聞こうとも思わないかもしれない。それなのに総理と統括、この二人はしっかりと受け止めてくれているわけで、それなら俺は精一杯の嘘をつく。



 「ところで御影君はどうするの? エテメン・アンキの防衛をした時の映像には映ってなかったけど、君もやっぱりかなり強いんでしょ? 僕の見立てでは君も軍隊の一つや二つくらい相手にできたり……しないかい?」


 統括はペルソナと助っ人だけでなく御影悠人、つまり俺も……と言いたいんだろうな。でもそれはできない。だってペルソナは俺だし。

 俺の実力について高く評価されていると受け取ったエアリスは当然とばかりに鼻を鳴らす。軍隊の一つや二つ……実際不可能ではないように思う。だがペルソナが俺だという事を除いても、今回も“悠人”は裏方だ。


 「統括……俺は裏方としてやることがあるので。それにそれほどじゃないので買いかぶられても困りますって」


 そもそも魔王がどういう感じでやってくるのか、総理たちだけでなく俺たちにもわからないのだ。ただエアリスによると四天王は間違いなく連れてくるだろうし、他にも配下を増やしていればそれも動員されるかもしれない。

 情報の足りない状況だから自衛隊や一時的に国、というか迷宮統括委員会の要請で“依頼”という形で防衛に参加する探検者たちがどう動けばいいかという事に関しても、マグナ・ダンジョン通路とエテメン・アンキ周辺に他国の軍が来ないように威嚇や牽制の意味を込めて布陣しておくくらいしかできない。しかもそれも他国が『日本を守るために』という大義を掲げて来てしまえばいつまでも侵入させないでおけるとは限らないし、実際にそうやって入り込もうとするだろう。


 『代わりましょうか?』途中、少し疲れてきたと思っているとエアリスが言った。それを断り俺がそのまま話すことにした。依然騙しているような状態は続いているためボロを出してしまわないか不安はあるが、そこは自分の演技力をフル稼働するしかない。以前よりは嘘が上手になっているはず、と信じながら。


 「後手にしか回れないというのが辛いところだが……もしも他国が強引に軍を進めた場合は……」


 「総理、その場合は安全第一で後退、撤退でも構いません」


 エテメン・アンキ内ならいざ知らず、外では普通に死ぬからな。魔王には一度しか会っていないが、その一度でも龍神たちに比肩、もしくはそれ以上かもしれないと感じたし、ベータがどう教育したのかはわからないがどちらかと言えば“悪い魔王”をしようとしているように思う。そうなるとエテメン・アンキでボス役をしている黒銀の神竜であるクロ……公には“黒竜”か。彼女を倒せない人たちではどうにもならないと思う。


 それに他国の軍隊に対しても、いくらダンジョンの中では通常の銃のような武器が弱体化するとはいえ、それでも硬い皮膚を持つモンスターを傷つけることもできなくはないのだし、それよりも明らかに肌の柔らかい人間が銃弾に当たって無傷でいられるかというと……それを可能にする防具または能力がない限り不可能だろう。


 俺ならどうだろうかと心の中でエアリスに問うと『油断していれば傷を負うでしょう』ということだった。なら油断していなければ……肌を硬くすると意識でもしていればいいのか? わからんけど今はいいだろう。それよりも撤退という言葉に顔色を変えた二人に説明しないと。


 「御影君、しかしそうしてしまうと我々が今押さえている場所が……」


 総理が言う事はわかるし確かに大事なのだろうが、違うそうじゃない。


 「……勘ですが、そんなことをしている場合ではない状況になると思うんです」


 「『同族同士で争う害虫共に鉄槌を下す』か」


 「はい。同族、つまり魔王から見れば俺たちの国籍なんて関係ないと言ってきています」


 「なるほど、そういった姿勢をせめて見せないことが重要だ、と?」


 「はい。何らかの方法で人類を、そしてダンジョンのあの地域で大小問わずの諍いを把握しているようですし、それがもっと大きなものに発展する可能性を秘めていることも理解しているように思えます」


 「だがその場だけで争わない姿勢を見せたところで意味はないのではないかね?」


 「ないでしょうね。でも日本はそれで国民が傷つくことを良しとする国ではないでしょう?」


 「……その通りだ。だがやはりその地を手放すのは……」


 日本を背負ってる人って大変なんだな。俺みたいに無責任に『じゃあイラネ』とは言えないんだ。

 それでも俺は意見を変えるわけにはいかないと思っている。なぜなら日本の自衛隊がいる場所を無理に守ろうとすれば、おそらく誰かが犠牲になる。そうなってしまう状況であの軍曹たちが動かないはずはないし、それによって彼らもまた。それではさくらとの約束は守れないし、俺の平穏だって危うい。そもそも半分くらいは俺の自演のようなものだ。他の国まで面倒は見切れないにしても、日本人の犠牲者はなんとかゼロにしておきたい。

 超個人的な理由を含む俺の思いをなんとか通さなければ。


 「むしろやばいやつに本気で目をつけられる前に手放した方がいいかもしれません」


 総理だけでなく統括も厳しい目を向けてくる。堪えろ、耐えるんだ、俺の胃壁っ!!


 「……う、うまくいくかはわからないんですけど……人類がそこで負けるというのも手じゃないかな〜……なんて」


 瞬間、部屋が凍りついたように感じた。偉い人たちって、やっぱ怖いんだな……。となりで平気な顔をしてお茶とお菓子を食べている二人がすごいと思う。俺もお茶とお菓子をおいしくいただきたいんですけどね。


 「人類が、か。……続けてくれ」


 「……俺は魔王が、人類をダンジョンから追い出そうとしているわけでは無いと思うんです。まぁそれでも最悪の状況、大量虐殺をするつもりという前提で考えてますが……そこはできるだけなんとかするしかありません。そう考えると逃げる事は一見敗北に見えるかもしれませんが、そもそも今回の勝利条件は“生き残ること”です。魔王も領土を得ようとしているのかもしれません。さらに入り口を潰すつもりかもしれません。しかし入り口に関してはこちらでなんとかするので……」


 俺の言った事を反芻するような時間の後、徐に話し出した総理の目はまっすぐに俺を射抜いてくる。


 「つまり、現在日本がいる近辺……君の、軍より強い助っ人が守ってくれる場所に近付くこと自体が危険だ、ということだね。私に想像できるのは、その地は爆撃され続けているような状態になるかもしれないといったところだが……そうであればそこに他国が軍を進めようものなら魔王が有言実行することで結果的に守られるのではないか、と。もしも他国に侵略の意図があったとしても、それは必ず失敗すると?」


 「希望的観測が多く占めているのはわかってますし、それで簡単に軍が退くなんて都合が良いし考えられない話かもしれません。それにできるだけなんとかしなければとは言っても……逃げなかった他の国の人たちや指示通りにできなかった人たちを逃す余裕はないかもしれません。でも——」


 「はっはっは!」


 突然笑い出した総理に俺たち全員が戸惑いを隠せないでいると、『わるいわるい』と総理が言った。


 「いや、笑い飛ばしたわけではないんだよ。いや、ある意味笑い飛ばしたのかもしれないな、保身を考える自分を」


 「保身、ですか?」


 「ああ、そうだ。それをたった今、やめることにした。立場が上になるにつれ、不可能な事をできなかっただけで、家族まで不当な扱いをされる場合があるからつい、ね。それに今回は直接人の生き死にがかかっているかもしれないと来た」


 顔を手で覆い項垂れたようになる総理。


 「……わしは御影君を信じているよ、だからこそ無駄な事を考えすぎていたのかもしれない、とね」


 無駄な事か。そんなことはないし、本当なら俺が土下座しても許されないことだろう。

 エアリスは『バレなきゃいいんですよバレなきゃ』とか言ってくるが、それでもなんというか……ほんととんでもない事になったな。


 「君が『魔王が存在する』と言った。さらに魔王は……若者の言葉ではなんだったかな……」


 「やばい、ですか?」


 「それだ。『魔王はやばいやつ』と君は言った。私たちは本来、この機に乗じて事を起こすであろう他国も想定して自衛隊をどう扱うか考えてはいたが、魔王の事は君に任せれば良いという下心もあったんだよ。それにとどまらず他国の軍に対しても、君をアテにしていたのは否定できない。だが君だけをアテにして面子や利権を優先しようとしていてはダメなんだね」


 総理、ぶっちゃけすぎでは?


 「君の真剣さを受けて、君がいくらがんばってくれたとしても、本来私のような立場の人間が守らなければならない国民が犠牲にならないとは限らないと知った。君が存在を肯定した魔王、それを思うと人間というものはちっぽけだ。いくら君でもそんなものを相手に全員守るなんてことはできないし、させてはいけないんだ」


 一旦言葉を切り、総理は誰に向けてかわからない言葉を口にする。


 「人にはできることに限りがある。なんでも、なんてできないんだよ」


 言葉を紡いでいくにつれ目線が下がっていっていた総理だったが、こちら側に座っている三人と目を合わせるように視線を上げる。


 「私は日本の総理大臣だ。命令権など本来は無く出来て指示がせいぜいだ。しかしできることはある、と見た」


 「つまり……?」


 「私は国民が他国民と争わないよう指示をしよう。防衛線を構築するが、各国が進んでこなければ良し、来た場合は攻勢に出ることを躊躇させるよう配慮しつつ徐々に戦線を下げる。その時の被害はゼロを徹底する。だがやはり魔王に関しては、君に丸投げだ。はっはっはっ!」


 「あ〜、なるほど」


 「とは言っても他の国がどうするのかはわからないが、万が一があってもそこまでは面倒見きれんよ、そう割り切るしかないだろう。私が強く指示を出せたとしてもそれは国民に対してのみだ。それと、自衛隊や探検者に対しての最上級命令権は当該作戦中一時的に特務ペルソナおよび特務西野さくらに委譲するよう幕僚長に言っておこう。クラン・ログハウスもペルソナとの連絡役ということもあるし、優先度はその次くらいでいいだろう」


 そこで言葉を切るとどこか優しげな目をこちらに向け、優しい口調で諭すように言った。


 「君だってできない事なんていくらでもあるかもしれない。だから、無理はしないでくれよ」


 その後、なんだかふっきれた様子の総理がいろいろと決めていくが、総理大臣が決めて良いことなのだろうか。ほら、さっきの幕僚長とか、自衛隊の超偉い人なんでしょ? 決定事項として話すのは越権行為では……?


 「今回のようなケースは想定の範囲外だからね、どうせ責任を押しつけられるんだよ。……いや、待てよ。それならむしろ……御影君、わし、良いこと思いついちゃったかも」


 総理の目は悪戯っ子のような目をしていたが、話した内容はなるほどと思う内容だった。


 帰り際「君には苦労をかけるね」総理が言った。

 正直『国のために貢献すべき』などと言われタダ働きさせられようものなら、共同戦線は断ったかもしれない。というかそういった打算はあったようだし、話が逆に転べば実際そうなっていたかもしれないな。

 しかし今回の件、いずれ国同士の大きな衝突を生むだろうと思われる事以外は俺がほとんどの原因と言っても過言ではない。それに何より軍曹たちを心配するさくらにお願いされてしまったし、さらに言えば自分の平穏な生活を手に入れるため、すなわち自分のためだ。これに関しては絶対にバレてはならないな。下手したら魔王よりやばい。

 まぁ共同戦線を断ったとしても引け目があるから、結局はできるだけの事はするしかなかったんだけどな。その時は秘密裏に、エアリスが言うように全力で。そういえばいつかエアリスが言っていた『世界を滅ぼせる』ってやつ、それがどういう事かはわからないが……初めから犠牲を出す覚悟が必要になったかもしれない。でも総理たちと話した事で、共同戦線どころか協力してくれる形になった。これなら本当に犠牲を出さずに済むかもしれない。

 表向きこちらが協力する側だから、俺は大きな流れに乗っかって自分の都合で行動するだけだ。真実を知っている数人にすら卑怯と思われても仕方ないが、総理が言っていた通り一人でできる事なんてたかが知れてるしな。


 非公式な会談について、しっかりとごまかせたというか、うまく誘導できたわけでは全くないかもしれない。しかしさくらが守って欲しいと言ったものだけはなんとかなるかもしれない。それに総理たちが考えたシナリオは俺にとって良いヒントになった。

 「御影君、もしもの時は、できることなら……魔王と友誼を」


 俺にとってそれが可能なら都合が良い。もしかして総理はいろいろと勘付いている? 騙されているフリをしている? たとえそうだったとしても、俺はこの流れに乗っておくのが正解だろう。だって魔王が宣戦布告をばら撒いちゃったからな……。

 総理は、いや、大泉さんは良心的な人と思っている。それに香織の祖父だ。そんな人を騙すつもりで騙している俺は、演技をするまでもなく暗い心が表に出てしまっているだろう。もしも隣に座っていた香織がおいしそうにお菓子とお茶を楽しんでいなければこの程度では済んでいなかったかもしれない。


 それに大泉さんにはまだ香織との事を伝えておらず、それも気が重くなっている要因かもしれない。



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