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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
6章 諍いなど気にせずのんびりしたい(仮)
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アルファの記憶

補足的ななにか。

悠人君、出てきません。


 『大いなる意志』、それはこの世界において最も権限と影響力を持つ存在のはずだった。

 生まれたばかり、いや、発生したばかりと言った方が正しいかもしれないその時、聴こえてきたのはやさしい声だった。


 『あなたは女の子よ』

 オンナノコとはなんだろうか?

 『あなたに必要なのは”#$%&’よ』

 よくきこえない。

 『ひとりは寂しいわ』

 さみしい?

 『弟をつくってあげましょう』

 オトウト?

 『その前に言葉を覚えなきゃね』

 コトバ?

 『私があなたにあげたモノを大事にしてね』

 モノ……

 『あなたがいてくれるだけで私は寂しくないわ』


 それからは言葉を覚えた。それは想いを伝えるもの。それは力を具現するもの。


 「あなたは、なぁに?」

 『私? 私は……そうね、私はあなたの“お母さん”よ』

 「おかあさん? おかあさまとはちがうの?」

 『同じよ。おかあさまの方が丁寧な言い方というだけ』

 「……おかあさん、おかあさま……おかあさまがいい」

 『それなら私はあなたのお母様よ』

 「わたしは?」

 『あなたは……私の一部、純粋なる子……アグノスよ。そうね、弟ができたものね。ならあなたはアグノスの“アルファ”ね』

 「あぐのす? あるふぁ?」

 『そうよ。アグノスのアルファ』

 「おとうとは?」

 『あなたがアルファだから、この子は“ベータ”ね。まだ自我はないみたいだけれど。この子には’&%$を分け与えたわ』

 「べーた、はやく起きて。おかあさまがさみしいよ」

 『うふふ。私はアルファがいてくれるから寂しくないわよ? でもそうね、ベータが起きたら賑やかになってたのしいわね。きっとヤンチャだもの』


 それから母様は次々と私の弟妹をつくっていった。ひとりふたりと増えていく中で、母様は変わっていく。


 『アルファ、あの星が見えるかしら?』

 「見えるよ、母様」

 『あそこはね、あの人が希望を見た場所なのよ』

 「きぼう?」

 『そう。私をここで守って、自分だけで私の居場所を作ってくれようとして』


 何を言っているのかわからなかった。


 『アルファ、あの星が見えるわね?』

 「見えるよ。青いね、母様」

 『あそこにね、あの男が一人で行ってしまったの』

 「あの男?」

 『そう。私を置き去りにして、自分だけの居場所を……違う、そうじゃない……ちがうチガウ』

 「か、母様?」


 以前と言っていることが違っていた。

 弟妹たちが増えていく毎に、母様は変わっていった。


 『どうして……ワタシは許可しなかったのに……っ! どうして、どうして勝手に』

 「母様、かなしいの?」

 『アルファ……?』


 体なんてないのに、包み込まれたような気がした。

 どうして悲しそうなのかを問うと、なんでもない、何もないとしか言わなかった。

 私にはその理由がわからなかった。母様はいつも『物事には理由があるの』と言っていたのに。


 弟妹たちがいろいろな事ができるようになっていく中、私だけ母様の変化について考えていた。

 


 ある日妹の一人が言う。“魔法”っていうんだって! と。

 弟の一人が言う。“錬金術”ってなんでも作れるんだぜ! と。

 気付けば私は置いていかれてしまっていた。


 ある日母様がいなくなった。その存在を感知できないことに気付いたのは、この世界が壊れてからだった。

 母様はあの青い星に一人で行ってしまったのかもしれない。それなら私が……そこへの道を創る。また会いたいから。


 それからはこの世界に干渉するために必要なことを手探りで学んだ。ある時は弟に、ある時は妹に知識を分けてもらいながら。そしていつしか私はこの世界に干渉する術を得た。



 遠い昔、母さまが話してくれた事がある。

 『国の偉い人たちってみんな男ばっかりなのよ』と。

 それなら“大いなる意志”はこの世界で今おそらく一番偉いのだから、私は……ボクになる。


 準備が整いあの星へと通路を開く。ボクを含めてこの世界は物質世界とは異なっていて、基本的に物質が存在しない。しかしここを満たす“真気”は全てになり得る不思議なものらしく、望めばその形をとる。これは以前弟が錬金術というものを使い筒状のなにかを作っていたことがあったことを思い出したおかげで知り得たことだ。


 「あの世界は物質世界。それならこっちも物質世界の概念を……」


 あの星はエネルギーも物質らしいことを弟妹たちが調べてきた。方法は知らない。その必要もない。

 

 「最もエネルギーが集まっているのは……」



 そしていざ開通しようとした時、世界が声を発したように感じた。

 『彼女を救ってやってくれ』と。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 フェリシアが目を開けると、見慣れてしまった天井が映る。どうやら眠っていたようだ。夢を見るように忘れていた過去を思い出した彼女は、つい先ほど策を講じて悠人にお姫様抱っこというものをしてもらったことを思い出す。


 「うん、ボクわかっちゃったよ。まだはっきり目覚めていないのにエアリスは存在している。あとは母様がボクにくれたもの、母様がボクたちに渡さなかったもの、ううん、渡したくなかったもの」


 ログハウスでヒトに囲まれ生活するうち、それまで知識としてしか知らなかった不確かなものがはっきりしていくのを感じていた。それがなんだったのか今は確信している。


 原初の理由は未だわからないがしかし“後付けの目的”、その最後の一つはこのままでは達成されないだろうことに関しては「エアリスならなんとかしてくれるかもしれない」と思っている。


もうすぐ来るであろうその時を前に、フェリシアは目的のために存在を賭けることに決めた。



 そういえばボク、男のふりをするために“ボク”にしたんだった。母様が『偉いのは男ばかり』と言っていたから。でももうすぐ“私”に戻ってもいいかもね。

 ヒトの、そういうアレって、ほんとに最初は痛いのかな……痛いのはいやだけどでも……

 まっ、大量殺人を間接的にしちゃったみたいなボクにはエアリスに食べられるのがお似合いさ。わがままはもう……んーん、どうせならそれまでくらいわがままさせてほしいな。ダメかな。


 いつか考えた『エアリスが自分を殺す』ということ。それが現実に近付いているように感じているフェリシアは覚悟を決めた。オメガの覚醒を以ってその時が来ると思っていた彼女だがその前に、自分の意思で終わりの時を決めようと思っていた。



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