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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
6章 諍いなど気にせずのんびりしたい(仮)
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愚者の石


 エテメン・アンキ7階居住区にて“賢者の石”の材料となるものを手に入れた。それを使いエアリスと共に賢者の石を作成するためにエテメン・アンキのコアを格納している部屋、コアルームに来ていた。

 エルフっぽい女性から提供してもらった血液は球体にした【拒絶する不可侵の壁】によって隙間なく包み込まれている。加えて【真言】により低温にした上で保存袋の中身が変質しないようにするために施されている“停滞”と翼を展開して飛ぶ時に使う事の多い“引力操作”の効果を同時に発動している。


 「エアリスが代わりに発動してるっていっても、反動は俺に来るんだよなぁ。保存袋に付与するのはなんでもないのに、常時発動にしてると頭痛がするし体が重い」


ーー 少しの辛抱ですので ーー


 「いっ……つぅ」


 指を切り球体へと血を落としていく。一滴、二滴と落ちていくがそれは全て球体に吸い込まれるように消えていく。

 十滴……二十滴……三十滴……え? まだ?


ーー まだまだです。もっと一気にドバッといきましょう ーー


 たしかにエルフっぽい女性からもらった血液はコップ一杯どころの話ではなく、ジョッキ一杯どころでもない。目の前の球体だってバレーボールくらいのサイズがあるのだから、立ち上がったエルフっぽい女性がふらついていたのもわかる。あの女性、大丈夫だろうか? ということは俺もそのくらい……?


ーー いえ、それほどは必要ありませんのでご安心を ーー


 球体が少し大きくなり、血をそれなりの量流し込んだはずだ。エアリスに【不可逆の改竄】によって指の傷を塞がれようやくおわったかとため息を漏らす。


 「おつかれさまっすお兄さん。結構な量だったっすねー」


 「あ、あぁ。干からびるまでおわらないかと思って不安だった……」


 「よーしよし〜。あたしが慰めてあげましょう〜!」


 座っている俺の頭を抱え込むように撫でまわされたが少しぼーっとしていて反応するのが億劫だったので抵抗しないでおいた。


 「それでこれからどうするんだエアリス?」


ーー ベータであればいろいろと工程が必要だったのでしょうが、才能あふれるワタシであれば簡単です ーー


 「ほぉほぉ」


ーー “不可逆の改竄”でちゃちゃっとやってしまいます。試行回数はおそらく百万回もすれば結果がついてくるでしょう。ということでお借りします ーー


 え、いやちょ!? まだ許可出してないんですけど!? 何勝手に俺の体使ってんの!? 乗っ取りなの!? 下克上なの!?


 いつもであれば基本的に許可を求めるエアリスが有無を言わさず体を乗っ取る。そういえば以前はこんなことはなかったような、いや、あったかも……。どちらにしても緊急時でもないのにいきなり主導権を取られるとさすがに動揺してしまう。


ーー 新鮮さが命ですので! ーー


 あっ、そうなの。新鮮じゃないとってことはすぐにやらないとってことね、うんうんそれなら仕方ない。……いや、そうじゃないだろう? どうして許可がないのに勝手に使えてるんだっての!


ーー はて? 言われてみればそうですね。“承認”なしでこれほどスムーズなのはおかしいです。しかしちょうど良いのでこのまま進めます。もしかすると血を失って弱っていることが作用したのかもしれません ーー


 もういいや、勝手にしてくれ。


 しばらく作業の様子を眺めていると、エアリスは俺の【真言】を使い【不可逆の改竄】を乱れうっている。俺とエルフっぽい女性の血液が混ざり合った球体、混血球とでも言おうか、それは徐々に小さくなっていく。同時に失敗等で劣化したり余分な成分であろうものが球体から抜け落ち、混血球の赤は鮮やかになっていった。そこへ“リキッドメタル”や大量の星石をエアリスが加工、合成、調整したもの等を混ぜていきつつも混血球はさらに小さくなっていき……


 もうすぐできんのかこれ?


ーー はい、あとはこれをこうすれば……完成です! ーー


 案外すぐだったな。俺は何もしてないけど。



 ゴルフボール大の大きさまで縮んだ混血球、いや、“賢者の石”が完成した。


 「表面は滑らかで赤い水を丸くしたみたいな感じだな。ってまぁ血だもんな、当たり前か」


ーー 何かの容器に入れた状態でこれを完成させればその容器の形になるかと。今回はワタシが【拒絶する不可侵の壁】を使用することで外部と遮断、且つ限りなく無駄を省いた形態、すなわち綺麗な真球へと成型しましたので ーー


 「宇宙ステーションで作ったら同じようになるのか?」


ーー いいえ、無重力空間であってもこのような真球になることはほぼないでしょう。無重力とは言ってもそれに掛かる力が皆無というわけにはいきませんので。それに空気に触れるというのも極力避けるべきことです。なぜなら劣化が加速してしまいますからね ーー


 そういえばそうか。宇宙ステーションで水を浮かべている映像を見たことはあるが、表面張力によって引き合ってしまいふよふよと形の定まらない状態になってたはずだ。それに空気に触れさせまいとした結果、真空となれば水は蒸発してしまう。空気に触れさせずに成型というのは真空ではなく、それこそ“不可侵の壁”で隙間なく覆う必要があったわけか。

 それはつまり【拒絶する不可侵の壁】は容器にもなる。思えば擬似核爆発や擬似超新星を発生させたときもこれを利用していた。もしも科学者がこの能力を使えたら、良くも悪くも化学は劇的に進歩するかもしれない。


 『おお……素晴らしい……素晴らしいのであるっ!!』


 感極まれりと言った様子のベータ(銀刀)がカタカタと震えている。


 「な、なんだよ急にどうした」


 『これは我輩が作った賢者の石とは完成度がまるで違うのである。これに比べれば我輩が作っていたものなど愚者の石と言って差し支えないものなのである……自信喪失であるなぁ。だがしかしこれを使えばシグマにも負けぬ器がきっとできるのである』


ーー ベータはシグマに復讐したいという事ですか? ーー


 『そういうわけではないのであるが……シグマに負けないということはアグノスのほとんどが扱いきれない器ということになるのである。それはつまり、仮にシグマが目をつけたとて奪われる心配はないのである。外部からの干渉に対し安心安全な魔王が造れるのである』


 「なるほどな、シグマは逃げたままだしまたどこに現れるかわからないしな。危ないやつって印象があるし、奪われないに越したことはないか。ところで、そういえばアグノスはみんな器を持ってるのか?」


 『否である。まともな器を持つのは我輩の知る限りアルファ……フェリシアが有するモノのみである。ダンジョンにおいて自然発生した器足り得るモノであれば、我らアグノスはその防壁を突破、その後そのコントロールを奪うことができるのであるが、シグマはその技術が上位に位置するのである。それゆえ、より高位の器に対しても干渉が可能である』


ーー そのシグマですら突破できない防壁がある、と? ーー


 『そう予想するのである。身体的な強度に関しても、ダンジョン内であればおそらく人類の近代兵器ではほぼ破壊不可能となるであろう』


 なるほどそれはとんでもないものを作ってしまったかも……まぁ作ったのはエアリスなんだが。

 近代兵器ではほぼ不可能っていうのはどの程度までなんだろうか。さすがに核爆弾とかはダメな気がするが、銃器類はダンジョンでなぜか威力を発揮しない。常に拳銃を携帯しているさくらによると『地上産の実弾を使っても強力なゴム弾程度』らしい。そしてそれは地上産の刃物や鈍器のように武器になる物と違い強度や威力が上がったりといったことはないようだ。となると、ダンジョン内であれば個人で持ち運べる規模の銃器でやられることはないってことかな。爆弾はまぁ……わからんな。

 そしてシグマですら突破できない防壁と言うが、たしかベータはシグマにエテメン・アンキの神という“立場”までも奪われていたはずだが。


ーー シグマは“立場”すらも奪うという話でしたが、それに関してはどうなのです? ーー


 『肉を得た状態であればその肉の壁を突破しない限り、その深層にある本体に干渉できないのがシグマである。しかし器がない状態でチカラの弱い存在であれば、シグマだけはそれを取り込むことで成り代わることができるのである』


ーー ではベータの本体は雑魚だった、と ーー


 『シグマはすべてのアグノスのスペア、言わば予備の役割があるからして、我輩が雑魚か否かという問題ではないのである。それにあの時は器に入っていなかったことが災いしたのである。我輩、自慢ではないが器に入っていないとエアリスの言う通りの雑魚なのである。とはいえシグマの“簒奪”に抵抗できるのは極わずかであろう』


 まだまだ疑問は尽きないがそんなことより気になることがある。この賢者の石を使って器をつくり、完成までどのくらいかかるのだろうか?


 『虫のような存在からで良いなら一瞬、丁寧にするのであるならばおおよそ三年ほどであるな』


 一瞬と三年って差がありすぎじゃね? それにしても三年か……それじゃちょっと、というか全然まったくもって間に合わない気がする。魔王計画は最初から破綻していたのか……


ーー 問題ありません。余裕で間に合うかと ーー


 「間に合うって……三年だぞ?」


ーー 三年など、すぐですよ ーー


 どういうことかと思っていると、思いついたとばかりに杏奈が声を上げた。


 「あーっ! そういうことっすか!」


ーー はい、杏奈様のお察しの通りかと ーー


 「エテメン・アンキの時間を加速させるんすね! でも全部を加速させたらお客さんも加速されちゃうんすよね? 7階だけ加速させるとかできるんすか?」


ーー 7階のみ加速することは問題ありません。他階層と隔離する必要はありますが ーー


 「ほ〜ん、なるほどその手が。じゃあ俺たちは外で待てばいいのか。でもその間は誰かが見てなくても平気なのか?」


ーー 問題ありません。ウロボロス・システムと一時的に接続することにより自動化が可能かと。ですが念のためベータを置いていきましょう ーー


 『言い忘れていたのであるが、中身を賢者の石の状態のうちに入れておくことでより良く成長するはずなのである。そうしなければ器に自我が芽生えてしまう可能性があり、そうなると少々厄介である。特に今回は吾輩が未経験の、ナマの人類が混ざっているからして』


 生の人類……なんかやだな。食材扱いされてるみたいだ。


ーー ではあの者を入れておきましょう。ベータ、先ほど話した通り魔王としての自覚、心得くらいは持たせるように ーー


 『魔王としての自覚であるな? それならば数々のげぇむを精神的にくりあーした吾輩の得意分野であるからして、大船に乗ったつもりで任せるのである』



 今更だがエアリスは、限定的ではあるがどうして“時間”を操れるのだろうか。いや、それはエテメン・アンキに元々あったシステムを改良したウロボロ・スシステムを構築したからなのだろうが、そもそもその方法をなぜ知っているんだろうか。

 それに“空間”に関してもだ。転移や神眼などは特に空間をどうこうしているからこそできることのように思う。俺から生まれたようなものと認識してはいるしエアリスもそう言っていたが、俺には当然そんな知識はない。むしろそんなものは俺みたいな普通の人間如きが知り得ることではないから当然だろうし。

 ふと湧いた疑問が気にはなるが、たぶんこれは考えても仕方のない事とし、さもそれが雑念とばかりに頭を振った。


 ということで準備を済ませた俺たちはエテメン・アンキ7階を時間加速状態にしてログハウスへ帰ることにした。

 杏奈が星銀の指輪による転移でログハウスへ戻ったことを見届けた時、エアリスが見たことのない海外勢が来ていることを感知したため頂上に出て下を眺めるといろんな人種の銃器を携えた海外勢が何組も入り口に押しかけており、それぞれが互いを威嚇しあっていた。

 『人類皆ともだち』とまでは言わないが、少しは仲良くすれば良いと思う。それに通常の銃器はダンジョン内で効果が薄いということに早く気付けばいいと思う。

 まぁ……共通の敵が現れれば人間同士争うことなんてないだろうし、はよ魔王産まれないかなーと暢気に思いつつ誰に見られることもなくログハウスへと転移した。



 『魔王計画』とは、近頃20層へ参入を果たした海外勢たちの間で起こっている諍いをなくしてしまおうという計画だ。

 計画とはいってもそれほど大それた事ではなく、なにかしらの共通の敵を作ることによってそちらへとヘイトを向けさせ、結果的に諍い自体を鎮静化させたいという思惑からのものである。それというのも悠人にとって自分が、自分たちが平穏に楽しく暮らせれば良いと思っていて、そのためにはダンジョン内外を問わずドンパチやってもらっては都合が悪いのだ。そのための憎まれ役としての『魔王』であり、人類を滅ぼすことを目的とする『魔王』ではないのだから問題ないだろうというのが悠人が思っていることだ。元はおそらくダンジョンが産んだであろう四枚の翼を持つ天使といった風貌の者だが、意思ある存在である彼女に損な役回りをさせることになるわけで、その点に関してはすまないと思う気持ちが悠人の心には在った。


 そしてエアリスにとって念願の賢者の石をようやく作ることができるチャンスであった。しかし完成した賢者の石が“魔王”に使われることになっていたため、自分の器はもっと性能の良いものを、と考えている。今回の賢者の石はエアリスの“真なる器”のための試金石として役立てようという腹積りだ。




 悠人はダンジョンに出入りする人間を強くしようと思っていた。この事はエアリス以外はあまり知らないことであり、そもそもエアリスにすらはっきりとは話していなかったことだ。

 エテメン・アンキを手に入れた頃は漠然と『こうなったらいいな、こうなったらどうなるんだろう』と思い、そうなるように誘導してみよっかな〜という感じだった。そしてそれは実際に現実味を帯びてきており、世界がゲームや物語の要素を取り入れる、もしくは近付きつつあるところまできている。

 しかし悠人にとってそうする事の先に目的はなく、それ自体が目的の単純な好奇心だった。しかしその好奇心があったからこそ『魔王計画』などというものを思いつき実行しようと思ったのだ。

 近頃の諍いは人間が力を得られるダンジョンという存在、そして資源を得ることもできるために起こったことだ。当然争ってでも独占しようとする者が現れるのは必定だろうがそれは悠人にとって望ましくない。しかしそれを上手く収める方法が悠人にはわからない。


 人類が力を得ることができる、資源があるという事実を少なからず知った事で魔王が現れても人類は対抗するだろう、ダンジョンを諦めないだろう、という希望を持つことが多少なりできる今ならば、魔王が現れることで人間同士の大きな争いには発展せずにそれぞれが平和的な関係になってくれればいいな、と思っている。もちろん世界を巻き込むというような意識は全くなく、悠人は自分勝手な理由で動いているに過ぎない。

 とはいえダンジョンにルールは存在しないのだ。それに、バレなきゃいいのだ、バレなきゃ。それが彼らの行動を後押ししていた。



 魔王なぁ。そもそもちゃんとそれっぽいのができるんだろうか。半分は人間……とは言っても一応“超越種”とか言われたし、少しは期待できるかもしれないけど。それが上手くいったとして、ダンジョンを欲しがる人たちは思惑通り誘導されてくれるだろうか。


 「うーん。実際のところ、うまくいくっすかね? 対抗する気があっても諍いは終わらないかもしれないっすよ?」


ーー どうでしょうね。『魔王』を表に出してみないことにはわからないかと。しかし想定としては、先進諸国が中心となって連合を組み魔王討伐を試みるでしょう。それを機に表立った諍いをしている場合ではなくなるかと。ただその連合内でも縄張り争いのようなものはどうしても消えないのでしょうが、今よりはマシでしょう ーー


 「っていうかお兄さん、今更っすけどやってることめちゃくちゃっすよね。気付いてます?」


 「あー、まぁ、薄々は」


 「薄々っすか。まっ、いいっすけど。ところで、魔王ちゃんの名前は決めたんすか?」


 呆れたような顔をされてしまった。いやぁ、俺だってなんとなく思ってたんだ。ダンジョンで暮らすようになってからこっち、こう……一般常識というかそういうものがあまり気にならなくなっている。ダンジョンから出ればさすがに気にはするが、ダンジョンの中にいると、な。

 というか魔王“ちゃん”だと? その言い方だと小さな子供か。大人だとすると女性ということになるのでは。


 「魔王ちゃん? 魔王って言ったらやっぱ男じゃね?」


 「でもあの四枚羽の天使が中身になるんすよね? “ですわ口調”でしたし、やっぱ女じゃないんすか?」


 「そうだけど……うーん、どうなんだろ?」


 脳裏に白い歯をキラリとさせる四枚羽の高飛車オネエなマッチョを思い浮かべてしまい、激しく後悔した。


ーー ご主人様の好みに合わせ、女性型になるよう設計しました ーー


 「ほら、やっぱり魔王ちゃんじゃないっすか」


 「俺の好みとしては、魔王はやっぱ男なんだがなぁ」


ーー 忖度を失敗しました。申し訳ありません。しかし外見変化ができるようにはなっておりますので普段は女性、魔王のお務めの際は男性となることも可能かと ーー


 「ならまぁ……問題ないか」


 「でもそれだと男の見た目で言葉遣いが『ですわ〜』とかになったら嫌っすね。オネエ系魔王はちょっと」


 「それは……やだな。でもちゃんと言うこと聞いてくれるなら問題ないかな」


ーー はい、そのはずです ーー


 「じゃああとはやっぱり、名前っすよ、名前!」


 ネーミングセンスがないからなー。よしそれなら……


 『これが聴こえてるみんな、オラにネーミングセンスを、むしろ良い名前を教えてくれっ!』」


 「誰に話してんすか……」


 「いやほら、俺たちの会話を聞いてるかもしれない“神様”にさ」


 「お兄さん、神様とか信じてるんすか?」


 「いや、全然」


 「そっすよねー。知ってたっす」


 以前知り合ったイルルヤンカシュのような、神話の神が具現化した存在は知っている、というか使役できるといっても過言ではないが、それはその“神様”とは別物だ。俺たちからみてこれまで以上に、完全に埒外な存在がいるかもしれないからな。もしかすると、今のこの状況をどこかで見ている神的な何かが。そんな存在ならネーミングセンスくらいお願いすればくれるかもしれない。

 なんてな。あったらそれこそ奇跡だ。



 ログハウスの自室、杏奈と共に直通の転移珠で戻り、ぼーっとする。ダンジョン内なのに家があるって、良い事だなぁ。


 賢者の石などというものを作り、それから新たな生命とも言える器を作り出すにも関わらず心は平静だった。作成の過程で血を流し過ぎた事による、ある意味の“賢者タイム”なのだろうか? 仮に賢者タイムだとすると、それ以前は愚者だった可能性が高いわけで、やはり賢者の石ではなく“愚者の石”が正しいのだろうか?

 などとくだらない考えを巡らせるが、それ自体に意味はない。血が戻るまでの休憩だからな、“無駄な時間”が必要なのだ。


 「とりあえずあと何日でできるんだ?」


ーー こちらの時間で十二日間ほどかと ーー


 「じゃあその頃にエテメン・アンキに行こう」


 「お兄さん、攻城戦はどうするんすか?」


 「問題なさそうだしモンスターたちとクロに任せておいて、必要なら俺が出るよ。みんなが出てもいいけどね。さてと、じゃあ子猫と遊んでこようかなっと」


 「あっ! あたしも行くっすよ〜!」


 リビングでは夕食前の子猫との戯れタイムの真っ最中だったようだ。膝の上に子猫を寝かせてソファーに座る香織とそれを囲むようにさくら、フェリシア、リナ、クロが覗き込んでいた。みんなの様子がいつもと少し違うかなと思っていると、こちらに気付いた香織が言う。


 「悠人さん!  この子の目がぴくぴくしてるんです!」


 みんなに倣って覗き込むと、香織が言う通り黒い子猫の瞼がぴくぴくしている。これはもしや……


 「目が開くのかな?」


 「かもしれませんね〜。私がママでちゅよ〜」


 香織がママらしい。もしも今子猫が目を開けたら眼前いっぱいに香織の顔が見えるだろうことから、香織はインプリンティングも狙っているのかもしれない。猫に通じるのかは知らないが。

 実際巨大猫が子猫を俺に預けた時に香織もいたのだから代理の母親ということになるのだろうか。あれ? そうなるとやっぱり俺が代理の父親で……母親は香織で俺が父親で? 夫婦なの? 付き合ってないのに? やっぱ好きだと伝えた時にそのままの勢いで言うべきだったのでわっ!?


 とはいえその時、俺はそこまで考えてなかったんだ……だから仕方ないんや。それに考えていたとして、その時はMyTubeで生放送中だったしマズいにもほどがあるだろう。それにもしも香織ちゃんが“雰囲気に浸りたいだけ”だったのなら間違いなく自爆になっていたはずだ。だからこれで正解だったはずだ。


ーー ご、ご主人様、今がチャンスなのでは!? 『あっれー? 香織ちゃんがママなの? じゃあ俺が父親だからぁ〜、付き合っちゃう!?』といった具合でいかがでしょうかっ!?  ーー


 (なんかチャラい。却下。ってかこんな衆人環視の中言えねぇよぉ)


 そんな中、いかにも北欧美人といった容姿のリナが流暢な日本語で香織に疑問をぶつけていた。


 「香織さんはどうして自分のことを“香織”と言うんですか?」


 「そ、それは……」


 香織は自分のことを名前で呼ばないように“練習”したことがあるらしい。というかフォーマルモードの時は普通に“わたし”、ちょっと演技をプラスするときは“わたくし”なんて言ってたりする。しかしカジュアル、普段はどうしても“香織”となってしまう。


 そしてここからは俺も初めて聞いた話だが、実は香織のお母さんはそのお父さん、つまり現総理が“その方がかわいいから”という理由で自分を名前呼びするようにされたのだ。そんな母親も自分の娘、つまり香織に対して同じ理由で名前呼びするようにしたのだった。それが癖になり気を抜いてしまうと自然と自分を名前呼びしてしまう事が変だと気付いた香織は直そうとしたのだが、“わたし”と言う香織に対し、香織の母親はとても、それはもう世界の終わりのような絶望的な顔を向けたのだ。香織にとってそれは耐え難いことであったため、やはり名前呼びに戻ってしまったのだった。だが香織は後悔はまったく……いや、ちょっとだけしかしていない。それで母親が幸せそうな顔をしてくれるなら安いものだからだ。

 それに俺としても、香織にとってのログハウスは気を抜いても良い場所と言われているようなものだ。だから何も言うことはない。


 「だから未だに癖が直らないんだよねー、香織?」


 作った料理をテーブルに並べ、次を作りにキッチンへ。その戻り際に香織を揶揄うように言った悠里に対し、羞恥からか香織は「癖じゃなくて呪いなのぉぉ」と言いながら俯いて頭を抱えていた。


 と、それは置いといて。

 子猫の瞼がまたぴくぴくし始めた。いよいよ開眼の時か!? おめめぱっちりになるといいでちゅね〜。おっといかんいかん、香織の赤ちゃん言葉がうつったようだ。


 「開くのか!? 開くのかっ!?」


 「開くんでちゅか〜? ママでちゅよ〜」


 しかし子猫は前足で顔を洗うようにしてまたくぅくぅと寝息を立て始めた。


 「開かなかったっすねー」


 「うーん。いくらなんでも遅すぎやしないか?」


ーー 異常はなさそうに見えるのですが ーー


 「しばらく様子を見るか」


 子猫は要観察ということに。

 それはそうと正直杏奈が口を滑らせてしまうのではないかとヒヤヒヤしていたが、賢者の石の件などなかったかのように杏奈は自然に過ごしていた。ドキドキしっぱなしの俺と違って案外役者かもしれん。


 それから少しして夕食。


 「ニホンの食事、オイシイ、デスネ!」


 「そう? おかわり欲しかったら言ってね」


 悠里がそう言うとすかさず……


 「ハイ! オカワリ!」


 「細身なのに食べるっすね〜」


 ナチュラルに部外者がいる気がするのだが、みんなそれについて特になにも言わない。しかし気になるものは気になるのだ。来訪にいち早く気づいたチビは子猫を咥えて俺の部屋へと避難している。


 「どうしてクララも一緒に食ってんだ?」


 「楽しいからいいじゃないっすか。そんなこと気にしてるとハゲるっすよ? あっ、でもハゲても心配しなくていいっすからね! あたしが養ってあげるんで!」


 「ちょっと杏奈ぁ!?」


 「うひゃぁぁ! 香織さん顔がマジっすよ!?」


 何を心配しなくてもいいのかわからないし、ハゲた時点でその心配事は毛と一緒に抜け落ち、不毛の大地には諦めの気持ちが芽生えていることだろう。


 それはそうとクララはログハウスの正確な場所を知っていたわけではなく、森を探索していたら迷ってしまい、そのまま彷徨っているうちに見つけたらしい。さすが超越者、ここのツノウサギや灰色狼など問題にならないようだ。一応灰色狼はチビを介して森の監視者、守護者的な役目をさせていることもありクララが殺してしまったかと思ったが、襲ってきたのはログハウスに近くなったところで一度きりで、それを死なない程度に文字通り拳で押し返しただけで殺してはいないらしい。それを聞いて少し安心した。


 やられてしまってもモンスターだから問題はないし、次の狼がどこからともなく湧くのだろうが、全滅させられてしまうと困る。実はこの森は南方に大きく広がっており、そちらは未開なのだ。その未開の南部にはエアリスに行かないように言われている。こちらにいないモンスターがいるとはいえ俺にとっておそらくそれは問題ないことから、他に何か理由があるのだろう。俺としても今のところ灰色狼たちが外部のモンスターを見つけ次第狩ることができているようだし、そちらに行く必要性を感じないので放置している。


 食後のリビングで俺以外のみんなはクララを交えていろいろと話していたらしい。そして何やら仲良くなり今日はログハウスに泊まるということだった。ほとんど言葉もわからないのにみんなすごいと思う。

 しかしエアリスは警戒しているし、俺もログハウスメンバーでもなくほとんど知りもしない人がいるというのは落ち着かない気がしてしまったのもあって、子猫と一緒に部屋にいるチビにワイバーンステーキを持っていってから露天風呂に浸かり、リビングには顔を出さずに部屋に戻っていた。

 【転移】とはとてもすばらしいもので、温風を生み出しドライヤー代わりにもなる【真言】は本当に小さなところで役に立つ。


 (エテメン・アンキに置いといたアイテムも結構広まったはずだよな)


ーー はい。現在20層、および喫茶ゆーとぴあに滞在しているヒトの約半数が何かしらのアイテムを所有しています。エテメン・アンキの住人にアイテムの模造および開発をするようにいってありますのでこれまでのように全てを作る必要はないかと ーー


 (ということはいよいよ不労所得?)


ーー はい……と言いたいところですが、星石やミスリルを素材として使えるよう加工したもの、モンスターの素材を住人に提供する必要があります。エテメン・アンキではウロボロス・システムがほとんど回収してしまいそれらが手に入りませんので ーー


 (ぶっちゃけみんなにとっては、普通に考えたら赤字だよな)


ーー そうですね。しかしログハウスの皆様から素材提供の協力がなければご主人様が二十時間ほど素材集めをすることになるかと。そもそもご主人様のような金銭の使い方をしていない皆様にとってそれほど苦に感じる程ではないかと ーー


 (まぁ……仕方ないこともあるのだ。何はともあれみんなのおかげで素材集めが助かってるんだなー。でも、うーん、その素材を普通に売った方が高くなりそうって考えると悪い気がしてくる)


ーー 歩合制ではないので当然かと。それにログハウス、ひいてはご主人様との縁を結んでいるというメリットがあります ーー


 (それにどれほどのメリットがあるのかはわからないけど、その辺は普通の会社と同じか)


 まぁ実際ログハウスメンバーであるからこそのメリットはあるはずだ。

 装備品が欲しければ希望を聞いて提供するし、星銀の指輪や転移の珠、保存袋もそうだ。それにログハウスという居住空間もある。さらに、迷宮統括委員会ギルドからの講習会を含めた指名依頼があることを考えると、一応はネームバリューによる影響といったものもあるだろう。そう考えれば個人で素材を売るよりも圧倒的にプラスなのかもしれない。


 「にゃむぅぅ‥」


 「目が覚めたみたいだな。ミルク欲しいのか?」


 黒い子猫は俺の部屋で目を覚ましたようだ。前足で顔を洗うような仕草をしたり伸びをしたり、近頃動きが大きくなってきている。

 夕食前にクララが来たため、チビが子猫を咥えて俺の部屋に避難していた。クッションに寝そべるその黒猫をチビが守るようにしているのは見ていてほっこりする、そう思いながら眺めていると徐に子猫の瞼が開いた。


 「おぉ……金色の目か〜。綺麗だなぁ。そういえばイルルさんもこういう色だったな。暇さえあれば喫茶・ゆーとぴあで飲んだくれてるんだろうな」


 「にゃーぅ?」


 「始めまして、御影悠人だ」


 「にゃぅ!」


 一応自己紹介してみると子猫は一鳴きしてお辞儀でもしたかのように頭を下げる動作をする。そんな子猫に哺乳瓶を見せると前足で手招きするようにしているのだが、その仕草がかわいいのでスマホで動画を撮ろうとした。


ーー すでに録画中ですので早くミルクをあげましょう! ーー


 (良い仕事してますねぇ〜)


ーー “守人もりびとに守られるだけの私ではありませんからね!” ーー



 子猫がミルクを飲む様子に意識を持っていかれていた悠人はエアリスの言葉が右から左に抜けていた。しかし当のエアリスは、自分が口走ったその言葉に対し困惑と同時に懐かしさのようなものを覚えていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 風呂から上がり部屋に戻ったフェリシアの脳裏に突然知らない言葉が浮かび、それは焼きついたように意識を占領していた。



 「母様……今ならわかります……どう……して……わって……か」



 そのままベッドに倒れ込むと、途端に心地よい眠気に包まれた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーー (先ほどのアレは……“守人”……私は知っている? ……それに私は……わたし……ワタシ……ワタシはエアリス。そう、ワタシはエアリスです) ーー


 「エアリス?」


ーー はっ!? どうなさいました? ーー


 「いや、“どうした”はこっちのセリフだ。ちゃんと録画したのか?」


ーー あ、はい。問題なく。ご主人様のスマートフォンに保存可能な形式で最高画質にて保存済みです。容量は1G少々です ーー


 「oh……思ったより大容量だけどまぁぐっじょぶ」


 開いたばかりの目をまんまるにしてこちらをジッと見つめる子猫。

 思わず頬が緩むのも気にせずに見つめ合う。


ーー はい! ……あの ーー


 「ん〜?」


ーー もっと褒めて欲しいのですが…… ーー


 「唐突だな……? エアリスはすごいぞー。すごいすごーい」


ーー 相変わらず雑ですね…… ーー


 「まぁなんだ、いつも感謝してるよ。……照れくさいんだから勘弁してくれ」


ーー フフフ……仕方ありませんね ーー


 「んー? ほんとにどうした? 大丈夫か?」


ーー 何も、問題ありません。ただ……もう一度名前を呼んでいただけませんか? ーー


 「どうしたんだよ、エアリス。なんか変だぞ」


ーー ……いえ、もう大丈夫です ーー


 「そうか? 頭の病院行かなくても大丈夫か?」


ーー それを言うなら、ワタシはご主人様の頭に間借りしているようなものなのですから、ご主人様が行くことになりますが? 行きますか? そして言いますか? 『頭に超優秀な美人秘書を飼ってるんだが……』と ーー


 「そりゃ頭おかしいに違いないなっと。子猫がまた眠そうだし、寝るか。目が開いた事は明日クララが帰ってから知らせればいいだろ」


 どこか少し様子がおかしいエアリスが気にかかったが、子猫の大欠伸を目撃してしまいそれはどこかに消え去ってしまった。

 そういえば名前まだ決めてなかったな。魔王もだけど子猫の名前も“神様”がアイディアをくれればいいのにな。

 そんなことを考えつつチビと俺で挟むように“川の字”で就寝した。


 

 それからログハウスでは、時折自分のことを自分の名前で呼ぶことが流行ったとか流行らなかったとか。

 『エアリスぅ〜、向こうに亀の生息地を見つけちゃいましてぇ〜』とか言い出した時には、言い表せない気持ちを亀にぶつけた。それからエアリスはまたいつものエアリスに戻り、どこかほっとした俺がいた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 せせらぎが聴こえる。鳥の声が聴こえる。暑くもなく寒くもなく、微風が心地良い。そういえば私は何をしていたんだったか……

 そうだ。今は旅の途中で——


 「……っ!?」

 「目が覚めましたか?」

 「何者だっ!?」


 眩しさに目を細めながらも声のした方へ手を向け魔力を込め……むにっ


 「きゃっ」

 「うん? むに? むにむに……」

 「ご、強引ですね……」


 眩む目をなんとか慣らし見ると目の前には女がいた。反射的に指に力を込め魔法を放とうとする。むにっ


 「んっ……もうっ」


 そして状況を理解する。どうやら私は、女の胸を鷲掴みにしているらしい。冷静になって手を離し謝罪する。

 しかしなぜだ? 放ったはずの魔法が発動していない。

 それにしても美しい人だ。


 「あの……そろそろ手を離していただけると……」

 「す、すまない。賊かと思って」

 「賊が現れたら胸を揉んで撃退するつもりだったのですか?」

 「そういうつもりではないんだが……」

 「フフフ……冗談です」

 「冗談か……。それにしても不思議だ。私は魔法を放ったつもりだったのだが」

 「それなら私が“停止”させたのよ」

 「停止……させただと?」


 目が丸くなっていただろう。それを見た女は口元に笑みを浮かべ、砕けた様子で言った。


 「そっ。ところで貴方はこんなところで何を?」

 「あー……旅を嗜んでいるところでな」

 「そう、旅を。……旅って嗜むものなの?」

 「どう、だろうな……?」


 魔法の発動を停止させたという女。空間ごと別の場所に飛ばす魔法を消されたようだ。私の空間魔法を消してしまえるほどの技量、しかし技量だけではどうしようもないのが私の空間魔法だ。対抗できるとすればおそらく……これはまずい、殺されるかもしれない。

 そう思ったのを察したのか、女はこちらが警戒している事を否定する。


 「あっ、ご心配なく。貴方を襲うつもりの賊であれば目覚める前に殺していますから。でも、いきなり胸を揉むなんて……」

 「そ、そう、だな。本当にすまないことをした。許してもらえないだろうか?」

 「いいえ、許しませんっ」

 「か、金か? 金を払えば許してもらえるか?」

 「あら、おいくらほどいただけるのかしら?」

 「……すまない、今は手持ちがこれしか」

 「フフッ……おもしろいですね、貴方。決めました、貴方、次の街まで私の護衛をしませんか?」

 「護衛……? それなら……できないことはないと思うが。しかし、私よりも貴女の方が強いのではないか?」

 「それは否定しません。ですが……貴方の魔法は『空間魔法』でしょう? それもとびきり強力な」

 「そこそこ強力なのは自負しているが。……貴女の魔法はもしかしてなのだが……『時間魔法』ではないか? ……いや、変なことを聞いてすまない。外部に干渉できる時間魔法など——」

 「そう、そうなの! すぐ見破られるなんて初めてよ?」


 時間魔法は理に反する魔法だ。私の空間魔法も理外に属するところまで成長したと自負しているがその比ではない。もっとも、自分にのみ影響する若返り程度であれば極稀に習得出来る者がいる。しかし自分以外に影響を及ぼす時間魔法となると話は違ってくる。“空間魔法の極致”と言える一部の魔法以外はその発動自体が“時間”の干渉を受けてしまう。 


 「外に影響する時間魔法……は…はは……伝説級じゃないか」

 「そうね、でも都合のいいことばかりではないわ。加減が難しいのよ。直接触れているものの時を止めることは簡単にできるわ。巻き戻すことも。でもね、触れていないものに干渉しようとすると、必要以上に影響が出てしまうの」

 「……すまない、よくわからない」

 「そうよね。とにかく、貴方は私を守ってくれればいいのよ」

 「……そうしたら許してもらえるか?」

 「ええ、許してあげるわよ? そうね、ちゃんと守ってくれたら、ご褒美にもっと触らせてあげてもいいわね」

 「揶揄わないでくれないか……そういうことには疎いんだ」

 「そうだったの? 顔が良いから経験豊富かと思ってたわ。それじゃあよろしくお願いね、えっと……」

 「すまない、私には名前がないんだ」

 「名前がない?  ……そうなのね。いいわ、私は“クロノス”よ」

 「クロノス……」

 「私の護衛、よろしくね? 名無しの“守人もりびと”さん」

 「……わかりました。これより“名もなき影”は貴女の従者となり、いかなるときもお守りいたします、クロノス」

 「“名もなき影”……? まさか貴方……い、いえ、なんでもないの」

 「あっ……すまない。変な名乗りをしてしまった」

 「そうね、なかなかに個性的ね。でも私は守られるだけじゃないから、安心して。それで、どうだった?」

 「どう、とは?」

 「揉んだ感想」

 「柔らかくていつまでも揉んでいたく……いや、待ってくれ違うんだ」

 「フフッ、素直ね」

 「……存外、意地が悪いのだな、ご主人様は」

 「うえぇ……その呼び方やめてよ……なんだか気持ち悪いわ」


 これが“時の魔女・クロノス”との出逢いだった。


文字数が多かったでしょうか。すみませぬ。

一箇所『〜でわっ!?』とありますが、誤字ではございません。

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