悠里リセット!
今回は比較的文字数少なめです。
「それじゃ、じゃーんけ〜ん…ぽいっ!」
勝った順に一緒に行きたい人を指定して、二組になるまで適当に繰り返そうというかなり適当な決め方だ。しかし物言いが付いてなかなか進まない。
「あ〜! 香織さんずるいっすよ! 見てから変えるなんて!」
「杏奈だって能力使ってるでしょ!?」
「ふっ…負けられない戦いがまさに今っすからね…っ!!」
「香織だって負けられない!」
俺と悠里は早々に敗北。少し離れたところで勝負の行方を窺っていた。
「はぁ。あの二人はまったく…」
「社長、なんとかしてくださいよー」
「ぅぅゎ……やめてよねその変な呼び方」
「だって実際『クラン・ログハウス』は会社形式だし、悠里はその社長じゃん?」
「そうだけどさ…」
「…面倒押し付けちゃってごめんな」
「なによ急に」
「言えるときに言っておこうと思ってな」
「どうしたのよ…」
「どうもしてないよ」
お互いむず痒い感じになったところで敗退したフェリシアがこちらへやってくる。
「いやぁー、負けちゃったなー。チビ、残念だね? 残念だったね?」
「わふぅ」
「良い雰囲気のところ、お邪魔するよー?」
「なっ……フェリ!? 良い雰囲気なんかじゃ…」
「そうかな? そうかな?」
俺たちの顔を交互に覗き込みながら揶揄うように言ってくる。良い雰囲気っていうよりいつもは言わない事を言ったせいで気まずい雰囲気になってるんだが……そう思っていると、さっき『社長』と呼んだ事の仕返しか悠里が「良い雰囲気でしたか? 会長?」なんて事を言う。呼ばれ慣れていない事もあってむず痒いな。悠里もきっと同じように感じたのだろう。
「…なかなかに違和感があるな」
「ふふ…でしょ?」
さくらも敗退しこちらへ、それからしばらく経っても香織と杏奈はまだジャンケンをしていた。
「それにしてもなかなか決まらないな」
「そうだね。うーん、仕方ない。二人ともー?」
最後に残っていた香織と杏奈を呼んだ悠里は「社長命令! 香織と杏奈は悠人と別パーティー!」と言った。それに対し「越権行為だー!」「ずるいぞー! 自分だけお兄さんと組む気だなー!?」と言った声が上がっていたがなんのその。強引にパーティを割り振っていく。
「言われるのは嫌でも自分では言うんだな」
社長命令により、俺、悠里、フェリシア、クロが大型の反応のある左側へ行くことになった。小型の反応が多い右側には香織、杏奈、さくら、リナ、そしてチビが向かうことに。
「ふむ…。こっちの組は実質二人か」
「ボクが雑魚ってことかな? かな?」
「戦う気ないだろ?」
「むむぅ」
「クロも戦いたくないだろ?」
「どうせ復活するしイイケド? おにいちゃんやさしいね! ウケるww」
「そこはウケたらダメなとこだと思うけどな?」
クロはああ言っているが、俺たちがエテメン・アンキ外で倒したメガタウロスたちは未だ復活していない。原因はわからないが、確実に復活するとは言えないんじゃないかと思っている事を伝えると、クロは難しい顔をしてなにかを呟いていた。
それはそうと。
「さて、悠里さん」
「なんでしょう、悠人さん」
「戦力配分おかしくね?」
「…なんとかなるでしょ」
「不安だ…」
そして俺たちは左通路へ。約二名が最後まで文句を言っていたが、我が社の社長は両手で耳を塞いでいた。文句があっても聞かなければいい。なんというワンマン体制。暴君、此処に誕生せり。
「何か言った?」
「言ってない」
「そう、ならいいけど」
我が社の皆様は読心がデフォなのだろうか。おそろしい。今頃大学で講義を受けているであろう玖内にも教えてあげなければならないな、女性陣には逆らわない方がいい、と。
すでに敵の配置を把握している俺たちは次の広間にメズキが十五体いることも知っている。そして四体ほどがこちらからの通路を取り囲むように見えない位置で武器を振りかぶり、あとは振り下ろすだけの状態で待機している事もだ。そこへ向けて俺の【真言】が久しぶりに活躍する。
「『中央に集まれ』」
通路の出口を横から狙っていたメズキ、部屋の中で武器を構えていたメズキの全てが部屋の中央へと集まりだす。その中央には体格が他より一回り大きな個体がいる。その個体は【真言】の呪縛に必死の抵抗をしているようだが、どうやら抜け出すには至らなかったようだ。
集まりきったところへ悠里の【アイシクルフィールド】が炸裂し、メズキたちはまとめて氷漬けにされた。しかしそれだけで倒せはしないらしく、俺はエリュシオンではなく銀刀を、腰を低くして構えた。
キンッという音と共に氷漬けされたメズキの集団を両断し銀刀を鞘に収める。
「ふっ……またつまらないものを斬ってしまった」
「おにいちゃんすごいネ! 斬り口が綺麗すぎてウケるんだケドww」
真っ二つになった断面を見たクロはこんなの初めて見たと喜んでいた。
「そこはウケてないで同じとこに住むよしみで冥福でも祈るべきだろう」
「そっか。じゃあ、なむー。ウケるww」
そんな「なむー」で冥福が得られるかは別として、メズキたちのエッセンスが上へ向かって少しずつ流れていくのが見て取れる。俺はエッセンス回収をせず、そのままにしておくことにした。悠里も俺に倣いそうしてくれるようだ。
ーー よいのですか? なかなか大量のエッセンスですが ーー
(いいんだよ。なんとなくそうした方が良い気がするってだけだけど)
次の部屋へと行く途中、悠里が話し始める。
「初めはさ……」
「うん?」
「初めは、悠人に会えた方が嬉しくてさ…」
「おう、俺もまぁ、嬉しかったぞ。ネットはネットってことで会わないようにしてたのは俺だけど」
「は、恥ずかしいから黙って聞いてよ」
「おうふ。すまん、続けて、どうぞ」
「……舞い上がってたっていうか、無理なお願いしちゃったしさ、その後も接し方がわからなくてさ」
「無理なお願いされた覚えなんてないけどなー」
「『狼牙の御守り』とか、その時はまだ貴重だったミスリルで私の杖も強くしてもらってさ」
「今じゃ杖っていうか鈍器だよな。あれから更に強化されてるし、メズキくらいなら叩き潰せるだろうな」
「それにステータスの調整も。今思えば図々しいよね」
「あー、あの時の悠里は怖かったなー。ダンジョンのモンスターより怖かったぞ。でもさ、ダンジョンに潜るのは命が賭かってるって自覚してたからだろ? 仕方ないって。それにそんな便利なやつが目の前にいたら、利用しない方がどうかしてる」
「それは…そうかもだけど。その後だってお世話になりっぱなしっていうか」
「ん? そうか? むしろ世話になってるのこっちだし」
実際、俺だけでログハウスにいたらどうだっただろうと考える。すると答えは簡単に出た。毎日ダンジョン肉で焼肉かステーキかバーベキューだっただろう。それに明かりもなく暗い生活をしていたに違いない……。
「そうかな。でも初めて20層に来た時から悠人は命の恩人だし…」
「それはそうかもな。でもイミテイト・ダンタリオンの時の俺の命の恩人は?」
「……私か。さくらもだけど」
「そういうことだ。だから変な遠慮なんてしなくて良いと思うぞ」
悠里が黙り込んでしまった。弱音を吐けるところがこれまでなかったのかもしれないし、いざそうなると悠里みたいなしっかり者は弱いのかもな。
「とりあえず一旦リセットしてさ、これから新たに、ってのでもいいだろ?」
「リセットかぁ。そっか」
「ネット上の付き合いだったとは言え、友達っていうか姉っていうか、なんか俺にとってはそんな感じだったし。自分勝手なこと言い合ってただろ? あんな感じでいいじゃん。我儘でいいじゃんか」
「そっか、姉か。言われてみれば私にとっても悠人は友達だけど弟みたいな、ときどきその……」
「え? なんだって?」
「やっぱいいや、それよりもう次の部屋だね」
「お、そうだな。えーっと、次の部屋はさっきのちょっとでかいのと同じくらいのが十体ともっとでかくて武器がトゲ付き棍棒のやつが一体だ。中ボスかな?」
「ありがとね、悠人」
「おう。索敵は任せとけ、エアリスに」
「それもだけどそっちじゃないよ。それと、これからもよろしくね」
「あぁ……こちらこそ」
「エアリスもよろしくね」
ーー はい、よろしくお願いします。あっ、聴こえていませんよね、わかります ーー
フェリシアが近くにいるというのにエアリスの声が外に聞こえる現象は止まっているためスマホの画面に乗り移ったエアリスが嬉しそうに文字を表示していた。
「あっ、これが一つ目かな」
「一つ目?」
「そう、我儘一つ目。ダンジョンデート」
「え〜? ボクもいるよ? ボクもデートかな?」
「じゃああーしもデート〜! デートってなーに? ウケるww」
「賑やかなデートだなー。ウケるぅw」
「クソウケるぅww」
クロを真似てみるとクロがそれにかぶせてくる。
そしてやりとりを静聴していたエアリスがヨヨヨしていた
ーー ヨヨヨ…ヨヨヨヨ…… ーー
(久しぶりだなそれ)
ーー 涙がちょちょぎれますねっ…! ーー
(いや、別に。で? 索敵に問題ないな?)
ーー はい、もちろんです。先ほどの集団とは違い、最も大きな個体を囲むように展開しています ーー
(なるほどな。それにしても数が多いな……)
「まっ、やってみっかに〜」
「なにそれ?」
「この間そういうCM見たら頭から離れなくなった。じゃ、いってみっかに〜」
「うん!」
「がんばぇ〜」
「がんばえーww」
俺と悠里は“首領・メズキ”とその取り巻きに向かい駆け出した。