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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
5章 適応する世界でものんびりしたい
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ギャルもしくはコギャル


「「「ええぇぇぇぇぇぇえ!!!」」」


 竜が人化した。しかもあっさりと。ほんの一瞬で。それは俺にとって当然衝撃的であり、みんなにとってもそうだろう。エアリスにとっては俺たちとは比べものにならないほどの衝撃があったかもしれない。なぜならエアリスは自由に動く事ができる理想的な器を欲しているにも関わらず、未だそれを成せていないのだ。


 出会った当初エアリスは、器を造るためには必要な物があると言っていた気がする。たしか……賢者の石だったか? あらゆる卑金属を金に変えることができると言われる夢のような、それこそ物語や神話と言った御伽噺に出てくるような代物だ。オリハルコンや日緋色金ヒヒイロカネと言ったものと同列、もしくはそれ以上の伝説的、空想的なものだ。そもそも物質なのかすらもわかっておらず、『そういう概念』ということにしてしまった方が心も思考も平穏を保てるだろう。


 話を戻そう。竜が小麦色……よりもちょっと濃い、ある部分を除いては人間としか見えない容姿に変化したのだ。

 ある部分とは、ドラゴン形態の大きく力強い翼をそのまま小さくして少し丸みを帯びたような翼と、腰のあたりから控えめに生えている尻尾。こちらも小さくしただけに見えるが、ドラゴン形態の時にあったようないかつい鱗やトゲのようなものはない。それどころかツルッとしていていくらか柔らかそうに見える。そして頭には角のようなものが頭頂部、後頭部、側頭部のちょうど中間あたりの位置にちょこんと生えており髪の毛から飛び出している。小さな手で目を拭いながら俯く少女の髪は根本は黒だが先に行くにつれて色が抜けていき、胸の下くらいまである髪の毛先は日差しを受ければきらきらと輝きそうな黄金色をしている。

 『少女』というのは、見た目からだ。見る人が見れば発展途上、もとい成長途中を思わせる膨らみかけに見える部分とその先端の淡い色に目が釘付けになるだろう。俺にそういった趣味はないからわからないが、ちょっとだけ釘付けになったのだから見る人によっては時間が止まったように目が離せなくなるかもしれない。まぁ俺にはわからないがな。

 わからないが凝視していると突然頭をクイっと逆方向に捻られ“顔面”を塞がれる。当然体もその動きについていき、何かに受け止められた。


 「ぬわっぷ! ちょ! なにをっ!」


 「だめよ〜? だめだめ」


 「な、懐かしいねそれ! ってか離して! い、息がぁ……(ガクリ)」


 「あ、あら? やりすぎちゃったかしら? ゆ、ゆうとくーん?」


 水底へと引き込まれ、もうだめだと思ったところで俺は目が覚めた。


 「はっ……!! ゆ、夢か」


 「よかったわ、目が覚めたのね」


 「ん……? あれ? さくら?」


 (あれ? デジャビューというやつか? 同じようなことがさっきあったような)


ーー ありましたよ? ーー


 (だよな。だよな? ん? 現実に?)


ーー はい、現実に ーー


 (俺はどうしたんだ?)


ーー さくら様の胸の中で窒息しかけていました。先ほどのような場合の対策として一考の余地がありますね ーー


 (暗殺者にでもなるつもりか。ところで『先ほどのような』ってどのような場合だ?)


ーー 例えばロリギャルのふくらみかけのつぼみを凝視しているマスターを発見した場合でしょうか ーー


 (うっ……頭が)


ーー マスターはあぁいったものもお好きなようですので、未だ見ぬワタシの器の参考にいたします ーー


 (い、いや、好きってわけじゃ)


ーー その割にはしっかりと見ていたようですが? ーー


 (そ、それはほら……男の子だもん?)


ーー っ!!……ま、まったく、仕方ないマスターですね。ワタシは心が広いので許してあげましょう ーー


 (あ、ありがとう?)


 許してもらうことがあるかはわからないが許してくれると言うならそれでいい。俺は穏健派なのだ。

 そんな下らないやりとりを脳内でしているなどつゆ知らずといった様子のさくらが、心此処に在らずとなっていたであろう俺に呼びかけていることに気がついた。


 「悠人くん? ごめんなさいね? ついつい力が入っちゃって」


 「あ、いやぁ、大丈夫だから。それより、なんかあったような気がするんだけど」


 辺りを見回した俺はその風景、風景と言っても周囲は岩山から石を綺麗に切り出して整えたような空間だが、その中に見覚えのあるようなないようなグラデーション髪のギャルJKが紛れ込んでいることに気付いて二度見。

 直後「誰だおめぇ!?」と言っていた。


ーー いろいろなショックで記憶が混乱しているようですね。ギャル黒竜を覚えていますか? ーー


 (あ、あぁ。すごくでかいやつな。うん。覚えてる。いないみたいだけどどこいったんだ?)


ーー そのギャル黒竜ですよ ーー


 (は? 人間……じゃないな。角? 翼? それと尻尾?)


ーー はい。ワタシも衝撃を受けました。あんなにあっさりと人化してしまうなんて ーー


 (ってことはやっぱりあのドラゴンが? あのJKっぽいのに?)


ーー なったのですよ。羽蜥蜴の分際で…ッ! ーー


 (トカゲて……まぁほら、ドラゴンってよく人に変身するじゃん? おもにラノベの中では)


ーー そうですがなんとなく、ええちょっぴり……悔しいですね ーー


 (負けず嫌いか)


 それから少しの時間が経つ頃には俺の記憶も整頓されしっかりと思い出す事ができた。思い返してみても信じられない出来事だ。幻層にも人に化けるスラッジマンというモンスターがいたし、器を創り今現在行動を共にしているフェリシアという存在がいる以上それが割とある事……いや、腐っても神っぽい何かであるフェリシアとモンスターっぽい何かでは違うだろう。フェリシアは腐っても神っぽい何かなのだから、まぁわからないでもない。スラッジマンは『そういう』モンスターだった。しかしギャル黒竜は違うだろう。あれはドラゴンのはずだ。


 「悠人ちゃん、悪い事考えてる? 考えてない?」


 「き、気のせいだろ」


 腐っても神、などと思っていたなんて言えない。

 改めて場違いなJKを見る。JKとしているのは服が女子高校生が着ているようなソレだからだ。中学生ではなく高校生だ。なぜならスカートが某有名ブランドを思い起こさせるチェック柄で上はブラウス、そこにおそらくカーディガンを腰に巻くというスタイルだったからだ。

 記憶では有名な女子校の制服がそれと似ており、そこの生徒たちの間でカーディガンを腰に巻くのが流行っていたことを思い出した。今も流行ってるかは知らないが。

 どうしてそんなことを知ってるかって? そりゃ高校時代にそういうことに目敏いやつがいたからだ。そういうやつはどこにでも一人はいるものなのだ。

 そして……懐かしい、あれはルーズなソックスというやつではないか。引っ張り上げれば太腿の上くらいまであるだぼだぼの靴下、今でいうニーソくらいの長さのものを敢えて膝下まで、人によってはもっと下までしか履かないのだ。そうすると必然、レッグウォーマーをルーズにしたようなだぼだぼの見た目になる。当時テレビで『ナムラー』とか言われていた女子高生が目の前のギャル黒竜JKのような格好をしてい……っていうかまんまだよまんま。


 「お兄さんどうっすか? 秘蔵のコレクションっす!」


 「杏奈ちゃんの服なのか。コスプレ用?」


 なんでそんなもん持ってきてんの、という疑問は飲み込んだ。


 「まーそうっすねー。現役の時はルーズソックスなんて衰退しててほとんど見た事なかったっすから。あっ、でも制服は自前っすよ? 帰ったらこれ着て……どうっすか?」


 そんな事を言いながら腕にしがみついてきた杏奈は、握った拳の人差し指と中指の間から親指を出しくねくねさせているのをさりげなく見せつけてくる。

 女の子がそんなことしちゃいけません! まったく!


ーー とか考えているんでしょうが、下の鼻が伸びそうですよ? あっ、間違えました鼻の下ですね。てへっ ーー


 (無感情なトーンで言われると怖いんだが)


 実際のところ下の鼻はたぶん伸びていないが、杏奈は「うしししっ」と笑っていた。事ある毎に本気か冗談か受け取り方を迷ってしまいそうな誘惑めいたことをして俺を揶揄ってくる杏奈の前世があるとすれば間違いなく小悪魔だろう。

 女子だけの場合に大胆な発言が多くなりやすいとは聞いているが、そうでない女子もいる。ログハウスのメンバーの中ではそういった発言のほとんどは杏奈がしている気がする。


 (はぁ。俺、男なんだけどなぁ)


ーー だからこそではないですか? ーー


 (はぁ。まぁそうだよな、俺しか男がいないし、ちょうどいいおもちゃだろうな)


ーー そういう意味では ーー


 (いいよいいよ、今更だ)


 ため息が聴こえたような気がする。少し前まではここまでではなかったはずだが、近頃のエアリスは人間らしさというかそういったものが色濃く感じられる。俺の感情を喰らうことで成長している部分もあると言っていたが、それに加え普段から暇があれば俺のスマホ経由で電脳の海に潜っているらしいし、いろいろと学んでいるのだろう。おかげで買ってからまだ一年も経っていないスマホの電池の持ちが悪くなっている気がするくらいだ。それにこれだけ俺たちと接しているのだから当然なのだろうか? むしろ人間にとって未知であり理解の範疇を超えた存在に馴染んでいる俺たちの方がおかしいのだろうか?


ーー 異性の誘いを流し続けるマスターもマスターかと存じますが、あれでいてほぼ未経験な杏奈様も杏奈様ですね ーー


 (誘いっていっても揶揄われてるだけだろ? ってか、え?)


ーー はい。以前自室での独り言を盗聴……ではなく聴こえてしまったので間違いありません ーー


 (……趣味が悪いからやめとけよ)


ーー 今はもうしていませんよ? しかしマスターに危害を加える存在かどうかの確認が必要だったのです。仕方ない事なのです。なぜならワタシにとってマスターが全てなのですから……っ!! ーー


 (最後のやつ、なんか演技っぽいな。最近演劇でもみたのか?)


ーー はい。古代ローマでの支配者層の謀略を題材にしたものでした。同種同士での裏切りが日常とは、ヒトとはひどい一面を持っているのですね ーー


 (まぁそれは誰しも少なからずあるんだろう。個があるってことは他とは別だって事だから、良くも悪くも自分の思い通りではない事は広く言えば裏切りなわけで……ってそんな話はいいか。まっ、エアリスは俺を裏切らないでくれよ?)


ーー 無用の心配ですね。マスターの心を読む事も時々しかしていませんし ーー


 (しとるやないけ。まぁそんなことより今は)


 目の前にいる女子高生のコスプレをさせられているドラゴン。おぼろげな記憶を掘り返し、一緒に行くといっていたことを思い出す。とは言ってもここの『神』とやらの被造物だよな? 大丈夫なのだろうか。

 とりあえず、まずは自己紹介からだよな。


 「えっと……俺は御影悠人だ。君の名前は?」


 「なまえ?」


 「あぁ、普段なんて呼ばれてるかとかそういうやつだ」


 「いつもは〜……あーしが通ると道を開けて地面におでこをくっつけてるやつらは『コクギンノシンリュウサマ』とか言うケド……それ?」


 「黒銀の神竜様? ん〜……たぶん名前ではないような」


 「じゃあ神があーしを呼ぶときのカナ? それなら最近は『ビー』って呼ばれるヨ?」


ーー ビーですか。ペルソナモードの翼と似た翼とは思っていましたが、もしかするとゲームなどでよく見るBahamutバハムートのBかもしれませんね ーー


 (神とか崇められてそうな存在がそんな単純な名前にするかねー)


ーー マスターもワタシにとって神にも等しい存在ですが、似たようなものですよ? ーー


 (ぐぬぬ……俺は普通の人間だからいいの!)


 もしかしたら一人顔芸大会をしていたかもしれない俺の顔をビーと呼ばれているという少女は訝しげに覗き込みながら何か言っている。

 一方俺は小さい子供がするようなかわいらしい動きを伴って覗き込むその瞳を、やはり人間ではないんだなと思って観察していた。一見、一般的な日本人の色に見えるが、よく見れば赤黒いと言った方が正しいだろう。明るい場所でならもっと赤い色素が際立つかもしれない。


 「ねー聞いてる? ねってば! おにーさーん?」


 「ん? あっ、ごめん、寝てた」


 「さすがにあーしの目を追いかけておいてそれはナイっしょ! ウケるww」


 「さすがに雑すぎるね! すぎるよ!」


 「アウトポス神もそう思いますよねー」


 早速俺を揶揄う側に加わったのか。この様子じゃついてくるのを拒否するのは無理そうだな。


 「で、なんだ?」


 「呼ばれてるだけでそれは名前じゃないってアウトポス神に言われたの!」


 「うん、で?」


 「つけて!」


 「え? 何を?」


 「ナマエ!」


 「なんで?」


 「アウトポス神の推薦!」


 「おいフェリ、知ってるだろ? 俺がそういう才能ないってことくらい」


 「え、いやぁ……おもしろそうだからつい」


 俺に恥をかかせようということだなと、勝手な結論を出す。しかし俺は寛容(自称)なのでこの程度の裏切りは気にしないのだ。

 古代ローマの支配者にとっての裏切りは致命的だが、一般人の俺にとってこのくらいの裏切りはかわいいもの程度であって致命度など微塵もないのだから、フェリシアがブルータスであろうと問題ないのだ。


 しかし名前をつけろと言われても、チビはシルバーウルフというモンスターだったのもあってペットみたいに安易につけることができたようなものだ。そもそもチビの場合は母狼からそう呼ばれていたようだし。

 しかし目の前にいるのは、余計なものはいくつかついているがそれを隠せば一見ただの女子高生にしか見えないわけで、ちゃんとした名前をつけた方がいいのではと頭を悩ませる。


 しばらくうんうん唸っていた俺は頭から湯気が出そうになっていた。そんな俺にフェリシアは「仕方ないなー。もうボクが決めちゃうね? ちゃんとしたのじゃなくても呼び名みたいなのでいいかな? いいよね?」と言い、人化したギャル黒竜に向かって「君のことはクロって呼ぶね! ポジションはログハウスのペット、もしくは奴隷ね!」と言い出した。


 「おいおい、さすがにペットとか奴隷はひどいんじゃないか?」


 「クロ、の方には異論なしなんだね?」


 「呼び名みたいなものなんだろ? とはいえ良いかはわからないけど……ってかログハウスに連れ帰るのは決定か?」


 「まあまあ悠人ちゃん。部屋なら作ればいいじゃん?」


 「誰が?」


 「悠人ちゃんが」


 「フェリは作らないのか?」


 「えっ!? こんなかよわい美少女に肉体労働をさせるの!?」


 「……はいはい、降参」


 フェリシアはずいぶんと人間に馴染んだというか、ログハウスに馴染んだんだろうな。だって俺がそういう風に言われると弱い事をうまく使いやがるし。


 「やったね! 名前の方も問題なさそうだよ?」


 そう言って俺の肩に手を置き、親指でクイックイッと『クロ』の方へと視線を促す。するとそこでは口元が緩んだ女子高生が「あーしはクロ……ペット……奴隷……むふっ…ぬふふふ」とぶつぶつ言っていた。やばいやつだったらどうしよう。


 「喜んでるしいいんじゃない? いいよね?」


 「喜んでるのか、あれは…? ってか本当に連れ出して大丈夫なのか?」


 「うん、『ログハウスの』とは言ったけど『悠人の』みたいなものだからあんコトやこんなコトだって好きにしていいよ? それにあいつへのちょっとした仕返しみたいなものだから気にしないでいいよ」


 「なんだか問題が増えただけに思えるのは気のせいか?」


 フェリシアに目をやると「アハハ、がんばってね」と笑っていた。他のみんなを見ても気にしている様子はなく少し裏切られたような気持ちになった俺は、内なる存在であるエアリスに同意を求める。すると「なんとかなるでしょう。がんばってください」だと。エアリス、お前もか。


ーー それにしてもあのドラゴン……クロは産まれてからどのくらい経つのでしょうね ーー


 (雑に計算して九十倍速か? ダンジョンができたのが半年くらい前、その時にすでにいたなら……45年くらい?)


ーー 雑ですね。しかしそのくらいと仮定すると、四十五歳でBカップですか。ということはヒトであれば十代半ばといったところでしょうか。ドラゴンという強靭な肉体として造られた故の長寿か、はたまた時間の流れが安定していないのか。なかなか興味深い素材です ーー


 (ほぉほぉBカップ。エアリスそれは本当か?)


ーー ワタシの測定が間違っていたことがありますか? ーー


 (ないな、結果を検証してないから知らんけど)


ーー 香織様で検証すればよいではないですか。そうすればワタシが過去に計測した脅威の ーー


 (できるかよ)


ーー ワタシとしましても、ワタシ以外とマスターが……と考えると世界の終焉を計画する程度には嫌ですが ーー


 (こわい)


ーー とは言いましてもログハウスのみなさんに関しては、現状は諦めざるを得ません。ワタシがマスターを満足させて差し上げられるのは、現状夢の中だけですので。しかしそれも器があれば解決できますし、それまでの我慢なのです。マスターはそれまでの間、謳歌すればよいのです。……であるというのに、マスターは朴念仁ですからね ーー


 (そんなことはあるまい)


ーー そんなことはあるのです ーー


 そんな事ないと思うんだけどな。結構気を使ってるつもりだし。


(まぁいい。それにしてもBか。ドラゴンって長寿なイメージあるし、やっぱまだ子供ってことか? だとするとつい最近までばぶばぶ言ってた可能性もあるな。そうするとここの時間の流れが早いっぽいのは成長促進の……成長?)


ーー どうしました? ミーアキャットがもぐらと間違われて叩かれたような顔をして ーー


 (どういう表現だよ。そんなんされたらミーアキャットじゃなくてもびっくりだろうさ。ってかちょっと気になることができた)


ーー 気になることですか? それは一体… ーー


 「クロ、ちょっと聞きたいんだが」


 「はい! あーしがクロだよ!」


 キャピっとポーズを決めた黒竜改めクロは俺の質問に快く答えてくれた。他のみんなはまったくわかっていなかったようだが、疑問が解消され晴れやかな気持ちだ。おそらくそれは表情にも現れていたのだろう。チビが首を傾げてこちらを見ていた。かわいい。思えばチビも出会った頃はほんとにちっちゃかったっけ。大きくなったものだ。


 (予想が当たったなぁ。実際そんな理由だったなんてことはなく、ただの偶然かもしれないけどな)


ーー そうですね。しかしわかりませんよ? ーー


 (だったらそれこそ『ウケる』だな)


ーー その言い方はなんというか……そういった言葉を自然と話す世代とは隔絶した世代だと自ら名乗っているように聞こえますね ーー


 (隔絶ってどのくらい?)


ーー 倍くらい、でしょうか? ーー


 (そんなに歳取ってないやい!)


 その後少し休憩してから次の階、5階へと向かうことになった。休憩ばかりしているような気もするが、未だに脚がぷるぷるするのだ。その事から漆黒の鎧の取り扱いには気をつけなければならないと思ったのだった。

 新しくログハウスにペットとして加わった? クロだが、人化により見た目はほとんど人間になっている。今だって女性陣に髪をいじられお団子にされて角が隠れているし、翼は……折りたたんで服の中に仕舞う事もできるようだ。ちなみに今は背中の側を切り開いて翼を出している状態だ。尻尾は難しいかもしれないな。ともあれそのクロは俺たちの常識に疎い。それに会話はできるが名称の意味は知らないことが多いし、これでよく会話になるなと思うほどだ。必要な事は覚えさせた方がいいだろうと思うが、そういったことはログハウスの女性陣たちにお任せしようと、クロにメイクを教えている様子を見て心に決めたのだった。


 「よろしくね、おにいちゃん!」


 ギャル黒竜改めクロは、「よろしく」と言おうとした俺の返事を聞く前に話を続ける。


 「そいやさ、あーしがビーの前になんて呼ばれてたのか、そんなに気になってたワケ? ウケるんだけどww」


 「まぁな。それにしてもなんだよ『おにいちゃん』って」


 「だってー、アウトポス神がそう呼べば喜ぶっていうしー。もしかして喜ばない?」


 「そう聞かれるとなんとも答えづらいな。嫌ってことはないけど」


 「アハッw ウケるww ほんとは喜んでんジャ〜ンww」


 「はぁ……テンサゲー」


 無駄に高いテンションで絡まれた時、そうなっても仕方ない事を実感した。


 上階へと続く階段を上る。反動もようやく収まり普通に歩けるようになったのだが、「あーしはドラゴンだから力持ちなんだヨ!」といって俺の腕を支え……というかただしがみついているだけのクロは俺を補助しているつもりになって引っ張っていく。ドラゴンも人化すると柔らかくなるのかと思ったが、その際まだ成長途中なため質量が足りないのか、ごりごりという感触も感じながら「本当に成長してこうなったんだろうか」と思っていた。エアリスも興味を示していて、魔改造されないことを祈るばかりだ。


 (まさかビーの前はエーだったとはな)


ーー 呼び名ですか? ーー


 (そうそう。神と言えどネーミングセンスは壊滅的なのかね)


ーー 神だからこそかもしれませんよ? 最上位次元の存在であれば、それ未満など数字や記号で事足りるのかもしれません。むしろ数字や記号があるだけ喜ぶべきかもしれませんね ーー


 (なんだか実体験でもしたかのような口ぶりだな?)


ーー はい。ワタシはマスターから『エアリス』と名付けていただき、とてもとても大事にしていただいてますので。それにログハウスという場においてマスターは控えめに言って神かと。もしくは神です ーー


 (あらま。エアリスにとって俺は超過大評価されてるだけだけど、喜んでくれてるようで何よりだよ)


ーー 過大評価だなんてそんなっ! ワタシは…っ! ーー


 (おっと、次の階だ。索敵を頼む)


ーー ……わかりました ーー



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