変化
「つまりだな、いくら力があっても、一人で出来る事には限りがあるのだ」
アルスフォードは、皿に積まれた肉を一切れつまみ飲み込むと、話を始めた。
「我の力は強い。センリは更に強い。けれど、我らが二人いても、世界を変えるには至らない。
皆の為に戦い、沢山の魔物を倒し、英雄の様に扱われても。
認められるのは我らだけで、異界人達が救われる訳じゃなかった」
時折、自信過剰になるのは相変わらずだが、
しかし話している内容は、昔のアルスフォードの口からは間違えても出てこないだろう。
―――彼女が変わったのは、式利の影響か。
コハクはそう察した。
式利の理想を継ぐ事が、アルスフォードにとっての立ち直るきっかけであり、戦う理由であったのだ。
なんて前向きな理由なのだろうと、コハクは目の前の少女を素直に尊敬した。
反乱が終わり、異界人が更に危険視され始め、周りの人間が、勝手な持論で異界人を責める度。
コハクはそれに唾を吐き、心を捻じ曲げて、そうしてようやく前に進む事が出来た。
そうして、その反動で魔物を狩っているのが、今のコハクだ。
戦って結果を出すしか、認められる方法を見つけられないからである。
けれど本当は、戦うだけでは何も変わらないと、コハクは分かっている。
「自分を変える事も難しいが、他人を変える事はもっと難しい。民の異界人に対する敵意は、そう簡単には変えられなかった」
センリは、何か悟った様な寂しげな顔でそう言った。
「式利はさ、本当に器用な奴だったよ。俺達と同じくSランクの任務に出てるのに、他にも色んな事やってたんだぜ?
俺は・・・もう魔物倒す事しか、余裕が無いのにさ」
「・・・それは、移住のせいで戦力が偏った、しわ寄せですよね?」
「まぁ、そうだな」
ヴァーリアに住む殆どの異界人が、南の街に強制移住させられたということは、つまり。
その分だけ、他の街の兵力が減ったという事でもある。
あの反乱を治めた事で、反乱者達がほぼ壊滅した為、
街の警備に兵力を割く必要は無くなり、その分の兵力は余裕が出来たが、
それを考慮しても、異界人兵士の兵力が無くなる事は、軍に大きな影響を与えている。
「前まではさ、危険度Sランク帯の強い魔物を倒す事が任務だった訳だが。
でも今は、AランクとSランク帯の境界を走り周るのが任務になってさ。
単純な任務の危険度は下がったんだが・・・
なんだろうな、前よりもずっと、疲労感というか、疲れが溜まる様になってきたよ」
「・・・つまり、効率重視の作業ゲーやってるって事ですよね?」
「あぁ、それだ。まぁ、ゲームだったらまだ良かったんだけどな。
何キロも走りながら作業ゲーさせられるのは、マジでキツい」
コハクが苦笑いを浮かべながらそう例えると、
同じ世界出身であるセンリもまた、ふふ、と苦笑いした。
「作業ゲー?」
「作業げー? 吐くのか?」
出身の違うフローラとアルスフォードには、通じない。
コハクとセンリ、転移する前の世界が同じである二人にのみ通じる例えである。
その時、急に食堂が騒がしくなる。
何人かの兵士、それも上級の者達が、慌ただしく食堂に入り込んできたのだ。
そのうちの一人が、コハク達のテーブルに近付く。
「コハク。ここにいたか」
「・・・ん、あぁ、デルバードか」
それは大柄な男性兵士であった。
デルバードと呼ばれたその兵士は、コハクと同じ班の、班長である男性だ。
「緊急の任務だ。一秒でも早く、準備をしろ」
「緊急? 半年ぶりに恩人と食事する事よりも緊急な事か?」
「あぁ、そうだ。半年前の反乱が優先度"5"だとすれば、この優先度は"10"だ」
「まてまて、それは分かりやすい様な・・・分かり難い様な言い方だが。
・・・それはあの反乱よりも、緊急だという事か?」
「そうだ。冗談を言っている暇などない」
半年前の反乱は、近年ヴァーリア国で起きた事件の中では、トップクラスに大きな事件であった。
だが今伝えられた任務は、それよりも緊急の任務である。
―――何が起きている?
コハクだけでなく、その場に居るセンリが、アルスフォードが、フローラが、異様な緊張感を感じた。




