仕事で主人公ごっこをしている者 02
木々の間から、鬣の様に無数の触手を生やした、巨大な蛇の頭部が現れる。
コハクは、その大蛇の魔物に見覚えがあった。
「おい、コハク! 一人で先に行くな。我々の言う事を・・・。なんだ、この状況は?」
一人の大柄な男性兵士が、コハクの隣へ駆けつけてくる。
その後ろに、男女の兵士が2人、続く。
「うわっ、何々? 魔物じゃん!」
男女の兵士が、目の前状況を見て、驚いた声を漏らす。
周りには、複数の魔物の死体。
そして目の前には、巨大な蛇の魔物。
「メインバイパーだ。しかも、デカイな」
かつて、コハクが洞窟で遭遇した、黒い大蛇・メインバイパーという魔物である。
しかし、昔遭遇した個体よりもずっと大きい。
皮膚は黒いが、ところどころに赤い模様が浮かび上がっており、その不気味さを際立てている。
「かなり成長した個体だな。このサイズを相手にするにはSランクの兵士が3人は欲しいところだが、運がいいことに丁度3人・・・。
おい、コハク! 命令を聞けと言っている!」
男性兵士の説明を待たず、コハクはメインバイパーへと向かっていく。
「悪いな。じっとしてると、身体が震えてしょうがなくてね」
その震えは、恐怖からか、それとも武者震いか、そのどちらもなのか。
それとも、かつてのトラウマの相手と対峙する事の悦びなのか。
コハクにその答えを考える様な暇はないだろう。
今のコハクには、目の前の魔物を倒す事しか頭にはないのだから。
メインバイパーが、尾を振動させる。
それはガラガラヘビが威嚇をするときの動作とよく似ているが、しかし、威嚇ではない。
攻撃を行う合図である。
「来いよ。お前好みの餌をくれてやる」
タイミングを見計らい、コハクは地面を蹴って跳躍した。
魔力により強化された脚力により、大きく飛び上がる。
そして近くの太い木を蹴って、更に上へと飛ぶ。
その直後、メインバイパーの太い尾が振るわれた。
コハクの真下に生えていた木々がへし折られ、一掃される。
盾や魔法壁すら砕く程の強力な一撃だが、その分大振りであり、隙が生まれる。
コハクの片腕から"竜の尾槍"と呼ばれる、魔法で生成された黒い槍が放たれ、
魔物の尾の様な槍が、メインバイパーの身体に絡みつく。
そしてコハクは槍を急速に縮めると、一気にメインバイパーへと飛び込み、
その勢いのまま、剣を突き刺した。
奇声を上げ、メインバイパーがぐるりと頭部を動かし、コハクを睨みつける。
そしてその特徴ともいえる鬣の触手を伸ばし、コハクの右腕を絡めとった。
「邪魔、くせえ・・・!」
コハクは左手で触手を引き剥がそうとするが、触手の力はかなり強力で中々引き剥がせない。
ならばと、コハクは腕に絡みつく触手に"噛みついた"
そして、強引に噛み千切る。
「オイ、監視共。お前らもなんかしろ!」
コハクは噛み千切った触手を、唾を吐く様に吐き捨てる。
「全く、どうしようもない奴だなお前は」
男性の兵士が大剣を振るい、メインバイパーの長い身体を斬り付ける。
重い一撃に、鱗が砕け散り、黒い血が飛び散り、メインバイパーが怯む。
そこへ、二人の兵士が魔法の弾丸を撃ち込み、メインバイパーに追い打ちを仕掛けた。
魔法の弾丸が炸裂し、メインバイパーの巨体が地面に倒れこむ。
しかし、まだ仕留めてはいない。
陸に打ち上げられた魚の様に、メインバイパーが暴れまわる。
そんな魔物の頭部を狙い、コハクは竜の尾槍を振るい、鞭の様に斬り付ける。
コハクの操る2本の竜の尾槍が、メインバイパーの頭部に何度も切り傷を付ける。
その攻撃に刺激され、メインバイパーは首を擡げ、コハクを威嚇した。
「ほらほら、こっちに来い」
そしてメインバイパーは大あごを開き、コハクを喰らわんと飛びかかった。
しかし、コハクはそれを寸前で避け、鋭い牙の並ぶ大あごが、コハクを捕らえ損ねる。
代わりに、メインバイパーの大あごは光る羽虫を捕え、呑み込んだ。
それは、コハクの生成した使い魔。
強力な魔力を詰め込んで作られた、自爆させる為の使い魔である。
「餌の時間だぞ、食えよ」
コハクが使い魔を起爆させる。
メインバイパーの口内で爆発が起き、虹色の炎が燃え上がり、その頭部を吹き飛ばす。
吹き飛んだメインバイパーの上あごと下あごが、それぞれ地面に転がった。
頭部を失ってなお、メインバイパーはまだ陸に上げられた魚の様に跳ねていたが、やがてその動きは弱くなっていく。
そして完全に動きが止まったのを確認して、コハクはふぅーと息を吐いた。
「さて、コハク。異界人は見つけたのか?」
周りにはもう魔物がいないと確認出来ると、コハク達は一息ついて、適当に集合する。
「あー。それなら」
コハクが指を刺す方向、そこには下半身だけになった少女の遺体がある。
メインバイパーに吹き飛ばされた上半身は、見当たらない。
男女2人の兵士が「うわー」と引き気味に声を漏らした。
「失敗したのか」
「待て待て。あの女が「助けなんていらん」とか言って、手こずらせるからこうなったんだよ」
「それは言い訳だ。異界人を説得するのもまた仕事だろう」
「僕はカウンセラーでも、あいつの親でもなんでもないんだよ。
あんな反抗期こじらせてるような奴の相手、まともにやってられるか」
「結果は結果だ。さて、まだ周りに誰かいないか、周辺の歪みを調べるぞ」




