仕事で主人公ごっこをしている者 01
「・・・あれ?」
森の中で、一人の少女が目を覚ます。
「私は・・・一体何をしてたんだっけ」
少女は身体を起こし、周囲を見渡したが。
少女には、こんな森の中に入り込んだ記憶は無い。
そもそも、彼女には直前までの記憶がなかった。
「ここは何処? なんでこんなところに? 幻術? それとも記憶操作?」
少女はポケットから小型の連絡用端末を取り出し、知り合いに連絡を試みる。
しかし、誰も圏外で繋がる様子はない。
少女はめんどくさそうに溜息を吐き、森の中を進み始めた。
「ん・・・?」
すると、草むらの影から、人影が覗くのが見えた。
深く羽織ったローブで顔は見えない。
少女は人影を警戒して立ち止まり、ホルダーから拳銃を取り出す。
まだ銃口は向けないが、いつでも撃てる様にである。
「あの、すいません。そこの人?」
少女は拳銃を握りながら、正体不明の人物へ声をかける。
しかし、返事は返って来ない。
「あの、聞こえてますか?」
少女はもう一度声をかけるが。
しかし、ふと周りを見ると、
同じようなローブを羽織った人影が、草陰から何人も現れている事に気が付いた。
「何? なんなの、こいつら」
流石におかしいと感じ、少女は拳銃を握る手を上げて構えた。
ローブ姿の人物が、ゆっくりと少女へ近づき始める。
「止まって。貴方は何者?」
少女が拳銃を向けるが、正体不明の人物は歩みを止めない。
その時、深くローブを羽織っている顔面から、甲殻類の脚の様な物体が覗くのが見えた。
「こいつ、化け物ッ!?」
目の前の人物は人間ではない。
少女はそう判断すると、引き金に指をかけ、そして発砲しようとしたが。
その瞬間。
蛇の様に伸びる、黒く鋭い槍が、魔物を貫いた。
「・・・っ!?」
更にもう一本。
黒い槍が意思を持っている様にうねり、魔物を突き刺し、
そして真っ二つに引き裂いてトドメを刺す。
突然襲ってきた黒い槍に刺激され、周囲の魔物達が、グロテスクな頭部を露見させる。
そして魔物は威嚇する様に奇声を上げ、少女へ襲い掛かる。
しかし、何処からか伸びる黒槍が、触手の様に暴れ、残りの魔物共を貫き、切り裂く。
あっという間に、周りにいた魔物達は全てバラバラとなる。
「な、なんなの・・・?」
少女は拳銃を構えたまま、警戒しながら黒い槍の伸びる元を目で追った。
すると、その黒い槍の伸びる元、そこには何者かが立っている。
「おい、そこの奴。無事か?」
そこにいるのは、無数の黒い槍を束ねているコハクであった。
「・・・あなたは何者?」
少女は緊張した様子で、コハクへ銃口を向ける。
「おい、そんなもの向けないでくれ。僕は君を助けに着たんだよ」
「助けに来た? ねぇ、聞きたいのだけど。ここは何処? 貴方は何者?」
少女はコハクへ銃口を向けたまま問いかける。
コハクは呆れた様子で、蛇の様に伸びる黒い槍を手元に引き寄せ、
戦闘する意思は無いと、両手をひらひらと上げた。
「ここは異世界だ。君が住んでいた世界とは別の世界」
「異世界? 冗談でしょう?」
「いや、冗談じゃない。僕は君を助けに来たんだよ」
「助けに? つまり貴方は、その変な力で主人公ごっこをしてるって事かしら?」
「おいおい、助けたのにお礼の一言も無しかい。お前、ツンデレヒロインか?」
少女の冗談に、コハクが冗談を返す。
「助けなら要らないわ。あの程度の怪物、私でも始末出来た」
「あぁ、これだから無駄にプライド高い奴は面倒―――」
その時。
バキリと木々のへし折れる音が響く。
黒い影が、横薙ぎに振るわれる。
一瞬で木々が伐採され、そして。
少女の上半身が、消し飛んだ。
「は?」
下半身だけ残された少女の身体から血が噴出し、地面に倒れる。
「おい、おいおい」
コハクの視界に、黒く太い、蠢く何かが映る。
黒い蛇の魔物。
コハクは、その魔物に見覚えがあった。




