異世界で英雄になるのは難しい。なので、僕はアヴェンジャーになりたい

第３章

只、人を斬る事に執着しているだけだ 02

　窓を割り、魔法の弾丸がカグリへ向かい飛来する。

　それを、カグリは素早く体を反らして避けた。

「おいおい、まさかとか思うけどさぁ」

　そして、魔法の弾丸が発射された方向へ向け、風の刃を放つ。

　窓が砕け、壁が崩れ、大きな穴が開く。

「オイ、見張り。外にうるさい害虫がいる。確認しろ」

　カグリはデバイスで見張りの兵士に通信を取った。

　だが、崩れた壁の間から、魔法の弾丸が飛び出す。

「ちっ・・・」

　カグリは剣で魔法の弾丸を切り捨て、舌打ちを吐く。

　そして、直接その相手を斬り殺す為に、壁に空いた穴へと向かっていく。

　しかし、カグリの目の前に炎の槍が突き刺さった。

　煉の放った炎の槍だ。

　炎の槍が破裂し、カグリの身体を爆風で包み込むが。

「・・・オイオイどうした、元Ａランク。　片手が無くなって魔力も弱くなったか？」

　カグリは無傷でその場に立っていた。

「ちっ、効かないか・・・！」

「お手本を見せてやろう、元Ａランク異界人よぉ」

　カグリは素早く炎の槍を生成し、煉へ向け投擲する。

　煉はその槍を避けるが、真横に刺さった炎の槍は激しい爆発を起こし、煉を吹き飛ばす。

「うがぁ！！！？」

　そしてカグリは、床に転がる煉へと接近し、追い打ちを仕掛けるが。

　そうはさせまいと、カノールの操る大量のナイフが、カグリへ向けて放たれた。

　だが、カグリは剣を振るい、ナイフをすべて切り伏せる。

「いいねぇ、面白くなってきた」

　そして、カグリは多数の風の刃を生成し、カノールへ向け放つ。

「ぐっ！！！」

　カノールは魔法壁を展開するが、風の刃は凄まじい力で魔法壁を砕き、その衝撃はカノールを吹き飛ばす。

「まぁ、この程度か。さてと」

「カグリさん、外をうろついていた害虫を捕まえましたよ」

　兵士の少年が、雪妃を連れて店の中に現れる。

　雪妃は暴れて抵抗しているが、その両手両足には、しっかりと手錠が掛けられている。　

「ハイ、ご苦労さん。こっちに連れてきてくれる？」

「了解です」

　カグリの指示で、兵士の少年は拘束した雪妃をカグリの前まで引きずる。

「こんばんわ、雪妃ちゃん。私の事、覚えてるんだろ？」

　カグリはしゃがみ込んで、床に転がる雪妃に顔を近づける。

「昔、私の仲間を殺した事。覚えてるんだろ？」

「何よ、その事を根に持ってるってワケ？　頭イカレてる癖に、仲間思いなのね？」

　雪妃は、へらへらと笑うカグリを睨み付けた。

「いやぁ。あの程度で死んだ仲間なんて何も思わないね。

けど、私の邪魔をしたヤツを殺すってのは、特別興奮するんだよねぇ。という事で」

　カグリは立ち上がると、壁にもたれている煉に近付く。

「雪妃ちゃんに聞きたい事があるんだけど、答えてくれるかな？　

早く答えないと、コイツに剣をぶっ刺しちゃうよ」

　カグリは煉に剣を向ける。

「聞きたい事って何よ？　もたもたしないでさっさと言いなさいよ」

「おっほほー、超不利な状況でそんな強気に出るなんて、凄いねー、雪妃ちゃん。

聞きたい事って言うのは、アンタのお仲間の反乱者共が、何処に隠れているのかって事」

「そう。じゃあ教えてあげる。けど先に、その二人は解放して。この戦いには関係ないわ」

「雪妃ちゃん。勘違いしてないか？　そっちが提案持ち出せる状況じゃないって事を」

　カグリは煉へ向け剣を突き立てる。

「やっ・・・！　やめて！！！　この店にいる人達は反乱者じゃない！！！　私に用があるんでしょ！？　みんなの事は解放しなさい！！！」

「オイオイ。反乱者如きが、何イイ奴ぶってるんだよ」

　カグリはイラついた顔を浮かべ、剣を振り上げる。

「まずは一人、殺すからさぁ。良く見とけよ」

　そして、カグリが剣を振り下ろす。

　しかし、煉は炎の刃を生成してカグリの剣を払いのけた。

「おっと、まだ元気だな」

「当然」

　更に、カノールが魔法で近くのテーブルを浮かせ、それをカグリへ向け飛ばす。

　だが、カグリの放つ風の刃が、飛来するテーブルを粉々のみじん切りにする。

「くくく。引退しても元兵士か。殺しがいがあるな」　

　そしてカグリは、魔法の風を纏う剣を振るう。

　風の刃は、煉の炎の刃を容易く砕き、その衝撃が煉の身体を叩きつける。

「ぐあッ！！！」

　煉の身体が凄まじい突き飛ばされ、店のテーブルや椅子に衝突する。

「さて、もう一丁」

　しかし、カグリがカノールの方を向いた瞬間。

　無数のナイフがカグリへ向かい飛来する。

　だがそれらも全て、カグリの放つ風の魔法により砕かれてしまった。

　直ぐに残りのナイフを魔法で掴むカノールだが、それを飛ばすよりも早く、カグリは炎の槍を投擲する。

　その炎の槍をカノールはギリギリで避けたが、炎の槍は真横の壁に突き刺さると、赤い光を放ち、そして爆発を起こした。

「っ・・・！！！」

　カノールは咄嗟に結界を展開するも、距離が近すぎる、

　結界は砕かれ、カノールの身体が吹き飛ぶ。

　カノールの持っていた杖が、からんと音を立てて床に落ちる。

「い、嫌っ・・・！！！　カノールさん！！！」

　雪妃は自分を掴んでいる兵士を振り払い、カノールの元へ駆け寄ろうとした。

　しかし、手錠を掛けられている状態では、大した抵抗は出来ない。

「嫌っ！！！　離してよ！！！」

　兵士に態勢を崩され、床に押し付けられる。

「カノールさん！！！　カノールさん・・・！！！」

「っ、ぐぅっ・・・」

　爆発により、カノールの体はあちこちが焼け焦げていた。

　しかし、まだカノールは生きている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、カノールさん・・・！　私のせいで、こんな事に・・・」　　　

　雪妃にとって、カノールは恩人の一人だ。

　雪妃は、戦いに関われば死ぬかもしれない事は覚悟していた。

　それに、兵士であるコハク達とも戦うだろうこともである。

　だが、カノール達を巻き込んでしまう事は、思ってもいなかった。　

「ごめんなさい、ずっと反乱者だってこと黙っていて・・・！　ごめんなさい、みんなを巻き込んじゃって・・・！」

　後悔し、泣きながら、雪妃はカノールへの謝罪を叫ぶ。　

「・・・雪妃さん」

　カノールから、弱々しい声が聞こえる。

「貴女は、悪くないですよ」

「そんなっ・・・そんな事ない・・・！」

　雪妃は身体を起こそうともがくが、兵士の力が緩むことはない。

　それでも抵抗する雪妃の目の前に、カグリが立つ。

「雪妃ちゃんさぁー。今言わなきゃいけないのは、そんな事じゃないでしょ？」

　カグリが雪妃の顔を覗き込む。　

「今言わなきゃいけないのは、お仲間の反乱者が隠れている場所でしょ？」

「ぐっ・・・！」

　雪妃の頭に、隠れ家で待っている日向たちの姿が浮かぶ。

　皆、戦う力の持たない者達だ。

　彼女らは基地の地下にあるシェルターに避難しているが、軍が攻め込めば、そのうちシェルターも突破されてしまうだろう。

　それに、雪妃には分かっていた。

　このカグリという女は、絶対に自分たちを逃がしてはくれないと、分かっていた。

　今までこの女の手で殺された者達が、皆そうだったからだ。

　彼女の拷問を受けて、逃して貰った者は、誰もいない。

　情報を吐こうが、最終的に殺されるのだ。

　故に、雪妃がこの場で出来る事は、

情報は吐かずに、ただじっと耐える事であった。

　それしか、出来ないのだ。