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只、人を斬る事に執着しているだけだ


 雪妃は、反乱者の仲間がいる基地へと向かう途中、見慣れた店を目にした。


 カノールの店だ。

 雪妃にとっては、通い慣れた自分の実家の様なものでもある。



 しかし、雪妃は店の様子がおかしい事に気が付いた。


「ど、どういうこと?」



 店の入り口には兵士が一人、見張りの様に立っている。


 雪妃は、何か嫌な予感を感じていた。


 カノール達は異界人だが、反乱者ではない。


 戦闘に巻き込まれる理由は無いはずである。



 しかし雪妃は心配になり、兵士に気付かれないよう、建物の屋上からこっそりと店に近付いた。


 見張りは一人だけ。他には居ない。


 それを確認すると、雪妃は静かに下に降り、窓から中の様子を伺う。


 店の中には、カノールに、煉という兵士。それと店の従業員の少女が2人。


 そして数人の兵士がいた。


 

「・・・っ!? あいつは」

 

 その兵士の一人に、雪妃は見覚えがあった。


 それは数日前に、隠れ家を襲撃してきた兵士であり、


 そして数年前に対峙した女兵士、カグリである。




***


 


「これで全員か?」


 片手に剣を持ったカグリが、カノール達へ問いかける。


「えぇ。ここにいる者は皆、戦う意思など持っていない。あなた方の邪魔はしませんよ」


 カノールは丁寧でそれでいてはっきりとした口調でそう返す。



「そっか、そっか。それは良い事だ。でもおかしいなぁ?

ココに雪妃彩香という、反乱者がいると聞いてきたんだけどねぇ?」


「疑うなら探してみるといい。誰も隠れていませんよ。今ここにいる全員しかいません」


「あぁ、もう部下に探してもらってるんだ。

さて、それまでの間、少しお話がしたくてね。

雪妃彩香について、知っていることをお話して欲しいなぁ」

 

 カグリは店員の少女に近付き、剣で少女のつま先辺りを軽く突く。


 少女はびくりと身体を震わせ「ひぃ・・・」と口から小さな悲鳴を漏らす。



「言ったでしょう。私達は雪妃彩香という少女の事は、何も知らないですよ」


 カノールは少し眉を顰めたが、冷静に返事を返す。


「あー、あのさ。よく私は知人から、頭のイカレたやつだと言われるんだけどさぁ」


 カグリは店員の少女の頭を掴み、舐めるようにと見定める。


「こう見えて記憶力もいいし、考えのキレも良い方なんだよねぇ。

だから分かるんだけど―――この女、昔奴隷として売られそうになってたやつだよな?」


 カグリは、剣の先で店員の少女を示す。 



「それが、何か問題ありましたか?」 


「雪妃彩香の事も街で拾ったんでしょ? この奴隷ちゃんと同じ様にね。

ココにいないっていうなら、連絡取って連れて来てくれないかな?」


「もし、彼女が反乱者なのだとすれば。連絡してここに来ると思いますか?

私が呼んだ所で、のこのこと現れたりはしないでしょう」 


「ほーう、そうかい。じゃあこうしよう」


 カグリは剣を振り上げる。


「来なかったら、お友達を殺す」


 カグリは少女の胴体に剣を突き立る



「こんな風にな」


「う"ぐぇぇ・・・あぁ・・・!!!」


 そして、ためらう事無く剣を突き刺した。



「貴様!!!」


 煉が怒りの込めた声で叫び、炎の槍を生成する。


「オイオイ、少し落ち着きたまえよ」


 しかしカグリはふざけた調子で笑う。


 が、へらへらと笑うカグリの目の前に、突然、宙に浮いているナイフが突き立てられる。



「度が過ぎますよ」


 カノールが手を翳すと、テーブルに置いてあったナイフやフォークが宙に浮き、カグリの周りを取り囲む。


「器用だなぁ、元魔術師。国軍に立て付くつもりかぁ?」 


「目の前で大切な仲間を殺されて、黙っている訳がないでしょう」


「アンタらが協力しないから悪い」


 カグリが剣を振るう。


 凄まじい突風が放たれ、取り囲んでいた刃物が吹き飛ぶ。


「来いよ、怪我人ども」


「軍もここまで腐ったか」


 煉は腕に握る炎の槍を、カグリへ向け投擲する。


「温いな」


 カグリは少年の身体から剣を引き抜き、飛来する炎の槍を剣で弾き返す。


 炎の槍が砕け炎が飛び散るが、カグリは涼しい顔で笑みを浮かべる。



「さーて、2回目のチャンスをやろう。言う通りにしないなら、次はそっちの女を殺す」


 カグリが、もう一人の店員の少女へ近付く。


「さぁ、雪妃彩香を呼べ。私さぁ、斬りたくて斬りたくて我慢出来なくなっちゃうからさぁ、早くした方が良いよ」



 だが、カグリの行く手を、カノールの操る大量のナイフが塞いだ。


「ほーう。本気で戦う気か?」


 宙に浮かぶ大量のナイフの一本を、カグリは挑発する様に指でなぞる。


「義足の魔術師に、片手の元Aランク兵士相手とはねぇ。まぁいい。後悔しろ異界人」

 

 カグリは目の前に餌を置かれた獣の様な目で、カノールと煉を視る。



 その時。


 パリンと窓が割れ、魔法の弾丸がカグリ目掛けて飛来した。


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