まだ、終わりじゃない。
「ぁ・・・」
コハクが目を開く。
「あれ・・・?」
何故か、コハクは泣いていた。
長い夢を見ていた様に感じたが、コハクはすぐに今の状況を思い出した。
目の前には、既に形が薄れ、頭部だけしかはっきりと残っていないユークリウッドの姿がある。
コハクの腕がユークリウッドの首掴み、インヴェイジョンの力でその身体を喰らっている。
しかし、ユークリウッドの表情には、先ほどまでの、殺意も、怒りもない。
「・・・アリア」
そうして、ユークリウッドは。
少女の名前を呟いて、消滅した。
***
「式利!!! 大丈夫か!?」
「うぐ・・・さぁ、どう、でしょうか」
センリの呼びかけに、式利は弱々しい声で答える。
すぐにフローラが治癒魔法を唱え、式利の傷を癒す。
傷口が塞ぎ、出血は収まったが、とても無事とは思えない様子である。
「あの、コハクさんは、無事ですか? 奴は、倒せましたか」
そんな状態だというのに、式利が気にしたのは、この戦況だった。
「は、はい。僕は無事です。霧の異界人は、完全に消えたみたいです。式利さんのお陰です」
それを聞いて、式利はふふ、と微笑む。
「じゃあ、まだ次にやる事があるじゃないですか。コハクさん、早く雪妃さんを追いかけてください」
「で、でも式利さんが・・・」
先程、涙が出ていたで涙腺が緩んだのだろうか。
弱々しく微笑む式利を見て、コハクの目からはまた涙が流れ出る。
「私は大丈夫です。早く行ってください。ここで雪妃さんを救わないと、身体を張って奴を倒した意味もなくなってしまいます」
「・・・わかりました」
思えば、コハクはここ最近、ずっと式利に助けられていた。
初めて班を組んで、その班が魔物に襲われ、皆が殺され、その責任を負わされた時。
その時のトラウマで、魔物と戦えなくなってしまった時。
霧の異界人―――救世主こと、ユークリウッドに遭遇した時。
そうして奴にリベンジする為、雪妃を助ける為に、コハクと式利は、ずっと訓練を重ねてきた。
コハクは涙を拭う。
絶対に雪妃を救うと、心の中で式利に誓った。
「式利は、俺が軍の医療室まで連れていく。フローラも着くまでの間、魔法で癒してやってくれ」
「わかりました」
センリは式利を抱えて立ち上がる。
「コハク、気を付けろよ。まだ反乱は終わっていないからな」
「・・・はい。センリさんとフローラさんも。それと、式利さんも。どうかご無事で」
そうして、コハクは3人と別れ、雪妃の向かった方角へと向かった。




