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日常 01


 ヴァーリア国は、その周辺を魔物の侵入を防ぐ為の防壁で囲まれており、その外は草木の生い茂る林となっている。



 コハクがこの世界に転移してから1週間が経った頃。

 コハクはその防壁付近の林にいた。


 コハクの様なまだ戦い慣れしていない新入り兵士は、主に防壁周辺の魔物を討伐することが主な任務なのである。

 

 壁外には危険度のランクが決められており、外側に離れる程ランクは高くなって、より危険な魔物が生息している。


 防壁周辺の危険度ランクは最低のCランクであり、現れる魔物も弱く、戦い慣れてない戦士でも簡単に倒せるものばかりである。



 やがてコハクが林を進んでいると、草陰がガサガサと揺れるのが見えた。


 はっきりと姿は確認出来ないが、草陰からは濃い緑色の触手が見え隠れしている。


 間違いなく、魔物だろう。

 コハクは手のひらに力を集中させ、魔法を放つ準備を整える。


 この世界では、魔法を唱えてもゲームの様に魔方陣が展開されるなどという事はない。


 変わりにコハクの手のひらからは、眩い虹色の粒子が漏れ出して漂っている。


 そしてコハクは小石程の大きさをした魔法の弾丸を生成すると、それを草陰に潜んでいるだろう魔物へ向けて放つ。



 魔法弾が草陰に入った瞬間、光が膨張して破裂し、小規模の爆発を起こす。


 爆風に炙られ、植物の様な外見に牙を生やしたグロテスクな顎を持つ小型の魔物が姿を現した。


 中々に凶悪な見た目の魔物だが、その危険度は低い。


 植物の様な外見の通り、地に根を張っていて移動する事が無いため、成りたての兵士には良い練習の的である。


 コハクは剣を構え魔物に接近すると、蠢く蔓を剣で叩き斬り、魔物の頭部に剣を突き刺す。

 


 魔物が抵抗して暴れるが、コハクは焦らず両手に力を集中して魔法を唱える。


 先程と同じ様に、コハクの両手から虹色の粒子が漏れ出し、それは剣の刃を覆っていく。


 すると今度は魔物の傷口から黒い霧状の粒子が漏れ出し、それは剣を伝ってコハクの手のひらに吸収されていく。


 コハクが持つ"魔創"の力の一つ。


 インヴェイジョンという魔力を吸収する魔法である。   

  

 やがて、魔力を奪われた魔物は力なく絶命した。



「ふぅ。やっぱりこの程度の魔物を倒しても魔力はあまり増えない・・・かぁ」

 

 小型の魔物から吸収できる魔力は微々たるもので、この程度の弱い魔物を倒し続けたところで魔力が殆ど成長していない事はコハクも感じ取れた。


 例え毎日、何百という魔物から魔力を奪ったとしても、それを数年続けてやっとAランク兵士の持つ魔力に追い付くかと言ったところである。



「伝説の英雄さんは、一体どうしてそんな沢山の魔力を溜めれたんだろ・・・」


 恐らく危険度Sランクの強力な魔物を毎日の様に狩っていたのだろう、とコハクは推測するが、そもそもそこまで力を付ける事自体が難しい。


 英雄の力という特別な力を授かったと知った時、コハクはアニメや小説の世界に入り込んだか様な興奮を感じていた。

 しかしいざ実際に戦場へ出てみると、そんな心の高鳴りを感じる余裕などは消えていた。

 

 はぁ、と溜息を付きながら、コハクは地面に刺さったままの剣を引き抜く。


 そこに、複数の足音が近付いてきた。


「おっ、あれって異界人じゃね?」


「あっ、ほんとだ。何してんだろ?」


「草刈りでしょ」


 男二人に、女一人の班を組んだ兵士達である。


 彼らの言う"草刈り"とは、植物型の魔物を狩る事だ。



「・・・えっと、こんにちは」


 とりあえず、と挨拶をするコハク。

 

「あのさ、悪いけどこの辺は俺らが担当してるから、もっと奥に言ってくれないかな?」


「え? 奥ですか?」


「あっちだよあっち」


 男が指さす方は、防壁から少し離れた方向である。

 

「あ、あの。昨日少しだけあっちの方向には行ってみたけど、Bランクの境界近いせいか、危険な魔物がうろついていて危険なのであまり近付かない方が良いかと・・・」


「いやいや、あんた異界人でしょ? 異界人ってヴァーリア人より強いらしいし、平気でしょ?」


「私なんて異界人じゃなければ男でもないのに、ギリギリ魔法の適正があるからって戦士させられてるのよ?」


「そうそう。本来、俺たちは戦士になる必要なかったのにこうして戦士させられてるって事。だから危険な所に行くのはおかしいでしょ?」



「・・・はぁ、そうですか。じゃあ、草刈り。頑張ってくださいね」


 きっと、こいつらは自分の言う事を聞く気はないのだと思い、諦めてコハクは奥へと進む。



 この一週間で、コハクは一つ覚えた事がある。


 それは、この世界で異界人はあまり良い立場じゃないということだ。


 異界人全員がという訳ではない。


 例えば、センリの様な高いランクの兵士は、その実力から皆から一目置かれ、尊敬され、憧れを抱いている者も多い。

 また、赤髪少女のシンキは、片方の親が異界人であるもののその圧倒的な実力から、軍でもカギツキに次ぐ程の地位がある。 


 つまり、活躍すればそれ相当の地位や名誉は得ることが出来るのだ。


 しかし、それは一部の異界人だけの事。


「異界人が人々に為に身を捨ててでも戦うのは当然である」という、その考えがこの世界の常識なのだ。


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