対の終着
南第4地区にある、ヴァーリア軍の基地にて。
「ぐぅっ・・・」
ユークリウッド裂かれた肩に手を当てて止血しながら、治療用の魔術器で傷を癒すコハク。
援護に駆け付けた兵士達の御陰で、なんとか無事に逃げる事が出来た二人は、基地の一室で傷の治療をしていた。
「ちっ、やられました。骨が折れてるかもしれません」
式利も胸を抑えながら、コハクと同じ様に傷を癒す。
「ごめんなさい。僕がセンリさんみたいに強くないから」
弱々しい声でコハクが言う。
「そんな事を謝罪するのは止めてください。センリ様はヴァーリアでもトップクラスの剣士ですよ? いくらコハクさんが英雄の力を持つとして、そんな高いハードルを求めたりしていません」
「そ、そうですよね」
「そうです。・・・ところで」
ひと呼吸程の間を空けて、式利が口を開く。
「あれは、雪妃さんでしたよね?」
その名前を聞いて、コハクははっと目を開いた。
「はい。あれは雪妃さんでした。まさか雪妃さんが、反乱者だったなんて」
裏路地で、反乱者の少年を助けたのは、間違いなく雪妃であった。
初めは知らなかったとはいえ、コハクは雪妃に魔法を撃ったという事になる。
その一撃で彼女との距離が一気に引き裂かれてしまった様な、コハクはそんな喪失感を感じていた。
合わせる顔が無いとはこんな気持ちなのかと、コハクはそう感じた。
「私も、雪妃さんが反乱者だったなんて、初めて知りました。けど良く考えれば、不思議だとは思わないです」
「そう、なのですか?」
「はい。あまり他言する事ではないですが。彼女は昔、奴隷としれ売られかけたんです。
裏で奴隷商売をしている者達に捕えられ、連れて行かれそうになっているところを、私が助けたんです」
「そう・・・だったのですか」
コハクは、雪妃が小学生くらいの頃に、この世界へと転移してきたと言っていたのを思い出した。
彼女は「今までよく無事に生きて来れた」と自分で言っていたが、それはきっと、想像するよりもずっと過酷な生活だったのだろうと、コハクはそう思った。
「ところで、コハクさん」
改めて、式利はまたコハクへ話を振る。
「ひとつ、相談なのですが・・・」
***
「逃したか」
とある建物の一室で、ユークリウッドが呟く。
彼の特徴的な異形の右腕には、血が滴っている。
それは彼の血ではなく、交戦した兵士達のものだ。
しかし彼が死体を引きずっていないという事は、兵士を狩り損ねたのだろう。
「困ったな。これじゃあ今日は飯抜きになってしまう」
ふぅと息を吐くユークリウッドの元へ、一人の反乱者の青年が駆け寄る。
「ここに居ましたか、救世主様。街の警備をしていた兵士達が、撤退していきますが・・・」
「ええ、知ってますよ」
そう返事を返し、ユークリウッドは青年へと近付く。
そして。
「えっ?」
青年の腹部に、黒い刃が突き刺さる。
「なん、で・・・!?」
そして次の瞬間には、青年の上半身は半分に両断されていた。
「やっぱり、彼らの仲間になっていて良かった」
床に倒れる青年を見下ろしながら、ユークリウッドはまるでお菓子を与えられた子供の用に、くすりと微笑んだ。
「さぁ、アリア。頂こうか」




