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英雄 vs 救世主



 ユークリウッドは、魔法の蔦で束縛されている雪妃の傍に近寄ると、黒い刃を振るい、雪妃を束縛する魔法の蔦を切断する。


「貴女は逃げてください。戦いの邪魔になります」


「わ、わかった・・・」



 知り合いの少女と、世間を脅かす殺人鬼。


 コハクはそのあまりに不釣り合いな二人が並んでいる光景を、悪い夢の中にでも放り込まれた様な気分で、呆然と眺めていた。


  

「なんで? なんで雪妃さんが殺人鬼と一緒に・・・!?」


 そう呟くコハクを、雪妃は一度苦い表情を浮かべながら見ると、フードを被り裏路地を走り去っていく。


「待っ・・・!」


 雪妃が走り去るのを見て、ついコハクは後を追いかけようとしたが、式利がコハクの腕を掴んで止めた。

 


「コハクさん、落ち着いてください」 


「うん、わかった。・・・わかってる」


 しかし。

 

 何故、雪妃が反乱者と一緒にいるのか。


 何故、恐ろしい殺人犯がこの街にいるのか。


 何故、そいつが雪妃を助けたのか。


 冷静になるには、あまりにも考える事が多すぎるだろう。

  

 

 だがユークリウッドには、そんな都合は関係ない。

 

 魔物の様な異形の片腕を、黒い刃へと変化させる。


 威嚇とかそんなものではない。


 明らかな殺意。目の前の相手は、殺す事に躊躇しないだろう。


 コハクはその明確な殺気に、黒い大顎を開けた大蛇が迫って来る様な、死が近付いてくる恐怖を感じた。



「コハクさん!!!」


 そんなコハクの震える手を、式利が握る。


 混乱していた頭が冷め、はっと我に帰るコハク。


「今しなきゃいけないのは、思考する事じゃありません!!!」



 その瞬間、ユークリウッドが、コハクと式利の二人へ接近する。


 そしてユークリウッドは、間合いに入ったコハクへ黒い刃を振るう。


 1発、2発と。コハクの盾がユークリウッドの黒い刃を弾く。



 その攻撃の隙を突き、式利は魔法を唱えて無数の水の塊を生成し、それをユークリウッドへと叩きつける。


 それだけでは終わらない。

 

 叩きつけられた水は瞬時に凍結し、ユークリウッドの身体を凍りつかせていく。


 しかしユークリウッドは、するりと流れる様に氷から逃れていく。


(ダメですか。こうなったら、片っ端から魔法を撃ち込むしか・・・!)



 ユークリウッドはコハクの持つ盾を踏み台にして跳躍すると、式利へ向かって飛び掛かる。


 式利は剣を抜き、ユークリウッドの振るう黒い刃を剣で防ぐが、直ぐに2撃目が飛んでくる。


 速い一撃だが、式利はそれをしっかりと避けた。



「このっ!!!」 


 今度はコハクが剣を振るい、ユークリウッドの背中を斬り付ける。


 当然、その一撃はユークリウッドに傷を付ける事は出来ない。


 あくまで、少しでもユークリウッドの注意を分散させる為にと放った攻撃だが、その一撃を与えた際、コハクは違和感を感じた。



「・・・今のは、なんだ、これ?」


 ユークリウッドの身体、コハクの斬りつけた箇所から、僅かに黒い霧の様な物が漏れた気がしたのだ。


 その違和感は、ユークリウッド自身も感じたのだろう。


 ユークリウッドの攻撃の手が止まり、眉をひそめる。   

 

「・・・貴様」


 そして、ユークリウッドはコハクの方へと振り返ると、鬼の様な形相で襲いかかった。



「ぐっ・・・! 速っ・・・!」


 コハクはユークリウッドの振るう刃をなんとか盾で受け止める。


 もしも盾が無ければ、既に腕を切断されていた事だろう。


 だが一撃防げただけで安心などしてられない。


 ユークリウッドは片手でコハクの盾を掴み、強引に守りを剥がしにかかる。 

  


「ぐっ!? くそっ・・・!!!」 


 コハクは剣を捨てて、両手で盾を掴んで抵抗するが、ユークリウッドもそう簡単には盾を離さない。 



 だがそこへ、式利が虹色の魔法弾を放ち、盾を掴んでいるユークリウッドの片手を撃ち抜く。


 当然ながらユークリウッドに傷一つ付けれないが、ユークリウッドの手はあっさりと盾から離れた。



 そしてコハクは盾を握り直すと、それをユークリウッドへと叩きつけた。


 叩きつけた盾にはなんの手ごたえも感じられないが、しかし。


 剣で裂かれた時とは様子が違う。


 盾で叩きつけられたユークリウッドの身体はぐにゃりと歪み、一瞬だが黒い霧の様な姿となる。  



「やっぱり、こいつは・・・!」


 もう一度、コハクはユークリウッドへ向かい盾を叩きつける。


 盾を叩きつけられたユークリウッドの身体の一部が歪み、再び霧状に変化する。



「どうやら、透過魔法ではないみたいですね」


 ダメージが通っているかは不明だが、二人は徐々にユークリウッドの身体の仕組みを理解し始めていた。


「なるほど、通りで結界を透過しないワケですか」


 

 しかし、身体の一部が霧化したユークリウッドは滑る様に高速で移動し、コハクへと接近する。


「なっ・・・!」


 慌てて盾を構えるコハク。


 だがその瞬間、既にユークリウッドはコハクの真横に着き、黒い刃がコハクの肩を突き刺す。



「ぐぅぅあああっ!? ぐっ、くそ!!!」


 肩に鋭い痛みを感じながらも、コハクは盾を構え直しユークリウッドの黒い刃を弾き返す。

 


「コハクさん!!!」


 ユークリウッドがコハクに追い打ちを仕掛けるが、式利はコハクとユークリウッドとの間に魔法壁を生成して、コハクを守った。

  


 ユークリウッドは物体を透過するのではなく、身体を霧状にして攻撃をすり抜けている。


 その為、面積の広い物体をすり抜けるには、身体全体を一度霧状にしなければならない。


 壁で阻めば、数秒程度なら時間稼ぎになるだろう。


   

「コハクさんは一度後ろに下がって、止血してください」


「・・・はい」


 魔法壁に阻まれているユークリウッドは、何度も黒い刃を魔法壁へ突き刺して貫き、そして身体を霧化させて、空いた穴を通り抜ける。


 そしてユークリウッドは、霧化した状態のまま式利へと接近する。



「ちぃ、器用な殺人鬼ですね」


 式利はすぐに魔法壁を張り直す。


 しかし、霧化したユークリウッドは式利の後ろへ回り込むと、黒い刃を振るった。


「っ!!!」 


 ユークリウッドの振るう黒い刃を、剣で受け止める式利。


 ユークリウッドは更に激しく刃を振るうが、式利はそれを全て完璧に捌いてみせる。 


 剣の腕は、式利の方が格段に上だろう。 


 どれだけユークリウッドが黒い刃を振るおうと、式利には届かない。

  


 しかし。


 ユークリウッドは強引に式利へと接近し、式利の片腕に掴み掛ると、その自由を奪う。

 

「っ!? しまっ・・・!!!」


 もしもこれが普通の人間同士の戦いであれば、ユークリウッドは掴み掛ろうとした瞬間に身体を真っ二つにされていた事だろう。


 しかし、攻撃をすり抜ける事が出来る彼は、相手の反撃など気にする事なく、強引に攻める事が出来る。 



 そして、がら空きになった式利の腹へ向け、ユークリウッドは刃を突き出す。


 式利は捕まえていない片腕で腹を庇うが、ユークリウッドの突き出す黒い刃は、式利の腕を容易く切断するだろう。



 しかし、そう思われたが。


「・・・何?」


 黒い刃が式利の身体を串刺しにする事はない。



 宝石のような魔法壁が、防具の様に式利の腕を覆い、ユークリウッドの突き出す刃を防いでいた。


 それを見て、今まで無表情だったユークリウッドがにやりと笑う。


「中々、美味しそうな魔力だ。是非、彼女に御馳走したい」


「・・・っ!」


 ユークリウッドの獣の様な眼に睨まれ、式利はぞくりと寒気を感じ、身体が強張るのを感じた。   



 その瞬間、式利は身体が地面から離れ、浮き上がるのを感じた。


 式利は、それがユークリウッドに腕を引っ張られ、投げつけられているのだと気付いたのは、丁度身体が逆さになり、そして地面へ落ちていく時であった。


 咄嗟に、式利は捕まれていない片腕で頭部を守るが。

  

 呼吸を吸う間もなく、式利は地面へと叩きつけられた。

 

 それは「投げ」というよりは「ガラクタを地面に叩きつけて壊す」に近い。



「うぐっ!? うがぁぁぁっ!?」


 叩きつけられた衝撃と痛みで、声を上げる式利。 


 咄嗟に庇った頭部は無事だが、脚や胸は焼ける様な痛みが何度も響く。


「ぐっ・・・!」


 容赦なく、ユークリウッドの黒い刃の追撃が迫る。 


 式利は痛みで感覚のおかしくなった身体を無理やり起こし、振るわれる黒い刃の追撃を、片手に纏った魔法壁の鎧で受け止める。



(強敵だと覚悟はしてましたが、ここまで追い込まれるとは・・・!)


 しかしこうなれば防戦一方、ユークリウッドの容赦ない攻撃に、式利には反撃する暇もない。

 

 刃を振り上げるユークリウッド。



「式利さん・・・!!!」


 だが、その刃となっている腕へ、コハクは思い切り盾を叩きつける。


 一瞬、コハクは水を叩いた様な感覚を感じ。そしてユークリウッドの腕は霧状に変化する。



 直ぐにコハクへ反撃しようとするユークリウッドだが、しかし。


 彼の目の前に、分厚い魔法壁が展開される。


 魔法壁は裏路地いっぱいに広がり、完全にユークリウッドの行く手を遮った。



「なんだ?」


 ユークリウッドは一息吐き、上を見上げる。


 屋上には数人の兵士達が、杖を構えてこちらを向いていた。



「・・・ギリギリで間に合ったみたい、ですね」


 それは、式利の連絡を受けて駆けつけた兵士達であった。  

 


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