狩る者
「いい写真ですね」
笑顔の男女が映る写真を、青年は真っ赤に染まった手で手に取った。
部屋の床には血や肉片が飛び散り、そして男性の死体が転がっている。
部屋の隅には、恐怖で腰を抜かした女性が、地獄の様な光景を愕然と見つめていた。
ぐちゃりぐちゃりと耳障りの良くない音を立てながら、青年が女性へ近づく。
女性は今すぐその場から逃げ出したかったが、身体は恐怖で震えて思うように動かなかった。
「2人は結婚してるのですか?」
「ぃ、いぃ。ひぃ・・・!」
「この世界にも、カメラってあるんですね。それとも、魔法か何かですか? いいですね。僕も欲しいです」
今、この場で殺人を犯した本人だと言うのに。
青年は、まるで喫茶店でたまたま迎え合わせの席になった相手の様に、落ち着いた声で女性へ話しかける。
「それで本題ですけど。この家には冷蔵庫の様な、食料を保管する物はないのですか? 物が腐らない様にしておく、低温の倉庫みたいな」
「ぁ、ぁ・・・っ、あぁ、あああ・・・!」
青年が問いかけるも、女性は顔を手で覆ったまま泣き声を上げるだけである。
「あぁ、これじゃあ話にならないなぁ。それじゃあ、しょうがない」
青年の左腕から、太さや長さの異なる黒い触手が伸び、その束の中から黒く太い刃が生える。
触手は周囲の血肉の匂いを嗅いだせいか、腹を空かせた生き物の様に激しくうねる。
「ひぃっ!?」
そして青年は、女性へ左腕の刃を振り下ろし、刃が女性の肉を裂き骨を砕いた。
触手は飢えた獣の様に女性の身体へ絡みつき、その肉を喰らう。
その時。
鋭い音と共に、部屋のドアが真っ二つにへし折られる。
青年は異形の腕で女性を喰らったまま、顔を上げて吹き飛んだドアの方を睨む。
「やっほー、どうも。こんにちわーっと。うっわー、なにこれ」
ドアを破壊して現れたのは、一本の剣を担いだ女性の兵士であった。
「ヒドイことするねぇー。"異界人"さんよぉ」




