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悪役令嬢は魔法を学ぶ

 この世界の『魔法』は基礎魔法と固有魔法の二つに分類される。


 基礎魔法は別名五大魔法とも呼ばれ、火・水・風・木・土から成り立つ。

 ユーリはすでに五大魔法全てにおいて上級魔法まで習得しているのだが、その習得方法が異様だった。ニコラスいわくユーリのやり方はとても令嬢がするものではない。————否、一介の冒険者ですら逃げ出す方法だったという。


 固有魔法は五大魔法以外を指す。五大魔法とは違い、固有魔法を扱える者は数万人に一人の割合でしか現れない。故に、まだ未知の部分が多くあった。そんな希少な固有魔法の使い手が、今年三人も入学した

 レオンの固有魔法は、『魔法』全てを無効にしてしまうチートとも呼べる無効化魔法。その婚約者、ユーリは闇魔法の使い手。最後に特待生のアンネは歴代の聖女と同じく光魔法が扱えた。どの固有魔法も最高位の魔法だ。


 入学して最初の実技授業。彼らが注目されないわけがなかった。

 アンネは周囲からの視線を受けて、恥ずかしそうに俯く。内心は、今から始まるイベントが楽しみでにやけるのを抑えるのに必死だった。

 一方、注目されることに慣れているレオンやユーリは周囲の視線を気にすることなく、講師の話に耳を傾けていた。特にユーリは真剣に聞き入っている。

 ユーリはこの学園で魔法について学べるのを心底楽しみにしていた。固有魔法である闇魔法もすでに()()()()使えるのだが、満足はしていない。正直、五大魔法についても独学と父による実技しか知らないのだ。勤勉家なユーリは貪欲にさらなる知識と力を求めていた。



————



 アンネは初めての魔法の実技授業に緊張していた。

 万が一魔力が暴走した時の為に結界がはられているホールにはすでに生徒達が集まっていた。輪の中心には魔法学講師が立っている。

 癖の無いシルバーの長髪は後ろで一括りにされ、ハーフエルフの特徴である尖った耳が露わになっている。色白の肌に、ブルーとグリーンのオッドアイが映える。人形を思わせる無機質な美貌に男女問わず見惚れている者も少なくなかった。


「私が魔法学を教えるエーリヒ・バーデンだ」


 エーリヒの名前に生徒達がザワつく。エーリヒ・バーデンといえば、この国お抱えの魔法研究所所長の名前だ。そんな大物が何故学園の講師をと生徒達は戸惑いを隠せないでいる。


「さて、このクラスに固有魔法を持つものがいると聞いたが、どいつだ? まずは、そいつらが固有魔法をどれほど扱えるのかを知っておきたいのだが」


 ぐるりと生徒達を見回す。

 エーリヒは固有魔法の中でもさらに希少な力を持つ者達を己の目で()()()()()()、わざわざ自薦までして魔法学講師になったのである。

 生徒達は戸惑いつつも、レオン、ユーリ、アンネの三人へと視線を向けた。


 エーリヒはふむ、と三人を順に見た後、アンネに前へ出るよう言った。アンネは緊張した面持ちでエーリヒに従う。


「君の固有魔法は光だったな」

「は、はい」

「光か……確か治癒に特化していたな。攻撃系の初級だとライトアローか。できるか?」

「ライトアローなら多分、できると思います」


 エーリヒが即席の的を用意する。他の皆は指示されたところまで離れ、興味津々な様子で見守っていた。皆の視線とプレッシャーから手が震える。一度目を閉じて、息を吸う。気持ちが落ち着くとアンネは的を見つめた。半身を引いて、構える。


「ライト、アロー!」


 アンネが放った光の矢は的を容易く貫いた。エーリヒはその威力に満足げに頷き、拍手した。次いで、観ていたクラスメイト達からも拍手と歓声が湧き上がる。

 ライトアローを撃つことに集中していたアンネは我に返り、皆の反応を見て微笑んだ。ようやくクラスメイトとして受け入れられた気がして嬉しかった。


 アンネを中心に皆が騒いでいる中、ユーリだけが無表情でアンネを見つめていた。


 乙女ゲーム『危ない学園』から一部抜粋



————————



 ユーリはアンネに惜しみない拍手を送った。隣でレオンもたいしたものだと頷いている。アンネはそんなユーリの様子を見て、内心どや顔を浮かべていた。


 エーリヒは新しい的を用意すると次はユーリだと促す。闇魔法の初級にもダークアローがある。アンネの光魔法と比較するにはちょうど良いと考えたのだろう。

 ユーリは指定された場所に立ち、無言で構えた。弓を扱ったことがある者ならばすぐに分かる熟練された動き。ユーリが構え、引く動作をした瞬間、的に穴が空いた。 

 皆が「は?」と口を開いた数秒後、的の急所部分()()に穴が空いた。

 レオンを除く生徒達には何が起こったか分からず、的とユーリを何度も見比べる。


 ふぅ、と息を吐いたユーリの元にエーリヒが速足で近づく。先程までとは違い興奮で頬が染まっている。鼻息荒く迫るエーリヒに思わず半歩引いてしまった。ユーリの様子を気にすることなく、捲し立てるように話し始めた。


「おまえは無詠唱で魔法が使えるのか?! それに今の速さはなんだ?! 矢が見えなかったぞ?!」


「全てではありませんが、一通りは。速さについては、鍛錬の賜物だとしか……」


 別に隠すことでもないからとユーリは告げたのだが、エーリヒを含め皆が驚きの声を上げる。予想していなかった反応に戸惑い、レオンの方を見た。レオンが肩を竦めて返すが、納得のいかない表情のユーリを見て、仕方が無く口を開いた。


「ゲーデルでは、無詠唱で魔法が使える者は多くない。魔術師団でも団長クラスだけだ」

「そう、なのか。ん? だが、父上も使っているし、レオンだって使えるじゃないか」

「ラインハルト殿は団長クラスどころか剣聖だろうが。それと、俺が無詠唱できるのは固有魔法のみだ。ユーリみたいに五大魔法や等級関係なくできるわけじゃない」

「そうか」

「そうなんだよ」


 ようやく納得したユーリに、レオンは疲れたように頷いた。

 この後、レオンの言葉を黙って聞いていたエーリヒが根掘り葉掘りユーリに質問し始めた為、授業は中途半端な内容で終わってしまった。それでも、ユーリの異常さを直接目にしたクラスメイト達からは不満の声は上がらなかった。


 ただ、ヒロインであるはずのアンネだけが、ユーリへの怒りでプルプルと震えていた。

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