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悪役令嬢の中身はハイスペック男子  作者: 黒木メイ


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15/25

悪役令嬢は選抜クラスにお引越しする

 その日、学園内は()()話題で持ちきりになっていた。


「おい、聞いたか?」

「あの事だろ? 急遽編成された『選抜クラス』」

「そう、それ! Sクラスの中でも特出した生徒達の為だけに作られたクラス。しかも……担任はあのエーリヒ・バーデンだってよ!」

「まじか、羨ましい! ……とはいえ、俺らじゃ無理だよなー」

「そうでもないんじゃね? 最初は王太子達への優遇措置かと思ったけど……メンバーに平民(特待生)がいるってことはそれだけ実力をつければ……てことじゃん」

「その特待生も固有魔法の使い手だけどな」

「あ」


 もしかすると自分にもチャンスが、と高揚した気持ちが一瞬で冷める。友人に肩を叩かれ重い足取りで自分達のクラスへと向かった。

 そのやり取りを偶然見ていたダニエルは何とも言えない表情で新しい選抜クラスへと向かって歩き始めた。


 ダニエルは新しい教室へと向かいながら、先日国王から直々に下された勅命を思い出していた。正直、未だに自分が選ばれた者だという実感は湧かない。あのメンバーの中で一体自分には何ができるのか……柄にもなく不安が募っていた。


 選抜クラスに選ばれたメンバーは、固有魔法を持つレオン、ユーリ、アンネ。そして、規格外のユーリとレオン(二人)を除けば剣の腕は一流のカイと頭脳明晰なダニエル。


 急遽作られた選抜クラスは、魔王討伐の準備を行う為のカモフラージュだ。国民への正式な発表を待つ間、ただ待っているという訳にはいかない。しかし、この人数が授業を一挙に休むとなると下手な憶測を呼ぶ可能性が高い。ならばいっその事、特殊クラスを編成してしまおうとユーリが提案し、レオンが実現させた。二人の判断の早さと実行力には他メンバーも感心させられた。



 ――――――――――



 実験棟の端に『選抜クラス』はあった。日当たりの悪い場所にあり、今まではほぼ物置とかしていた部屋ではあるが、その分人は寄り付かず都合が良い場所だった。

 ダニエルが教えられた通りに教室の扉に手をかざすと鍵が開いた。教室には他の生徒や教師が入ることのないようエーリヒが細工を加え、外からは声も聞こえない仕様になっている。

 教室に入ると他のメンバーはすでに全員そろっていた。

 会議をする時のように口の字に机が並べられ、ユーリとレオンが司会進行を勤めるのか一人ずつ対極の位置に座っている。アンネとカイが横並びに座り、その向かいにも同様に椅子が二脚用意されていた。片方にはすでにエーリヒが座っている。一応担任だというのにそこに座るのかと内心思ったが本人は気にも留めていないようで、ただユーリの挙動を観察しているようだった。


 ダニエルが座るとレオンが一同を見渡して口を開いた。


「わかっていると思うが、ここでの事とアレに関する話、全て極秘事項だ。決して、外部にバレないように細心の注意を払ってほしい」


 皆が頷き返すのを見てからレオンは続きを話し始める。


「ここでは各自が手に入れた情報についての共有。それと、()()()に備えて各々の力を伸ばす実技を行うつもりだ」

「ん? ということは……」


 カイが少し嬉しそうに呟くがレオンに視線を向けられ口を閉じた。レオンは気にせず続きを話すように促す。


「えーとそれはつまり、俺らはそれ以外の授業は受けなくていいってこと……ですか?」


 日頃テストの点がいいとは言えないカイはどことなく嬉しそうな表情を浮かべている。その隣でアンネは一人百面相をしていた。顔色を見て憶測するとすれば「え? 勉強しないでいいの? ラッキー!」、「あれ……でもそうなるとテストやばくない?」とこんな感じだろうか。

 表情豊かな二人を見てレオンがニコリと微笑む。


「大丈夫だ。勉強については俺とユーリ、ダニエルがみっちりと教えてやるから。短時間で叩き込むことになるので()()キツいかもしれないが……まぁ、大丈夫だ」


 だから安心していい、と言ったレオンの目は笑っていなかった。

 さすがのアンネもこの表情には全くときめく事が出来ず、ぶるりと身体を震えさせた。


 空気を読んだのか、読んでいないのかわからないタイミングでユーリが手をあげた。


「どうした?」


 レオンの視線がユーリに向くと、カイとアンネが静かに息を洩らす。


「一つ確認しておきたいのだが……この中で魔物討伐の実践経験がある者がいるか知っておきたい。ある者は挙手してもらってもいいか?」


 ユーリの言葉にエーリヒ、レオン……そしてアンネが恐る恐る手を挙げた。驚きの視線がアンネに注がれるが、ユーリはなるほどと頷いた。


「まぁ、アンネはチシャ村出身だからな」


 ユーリの言葉にレオン達が納得する。ただ、カイだけはチシャ村の噂を知っていても尚、心配そうな表情を浮かべていた。アンネもその視線に気づいたのか、カイを見て何かを喋っている。カイが顔を真っ赤にして頷いているところを見ていたユーリはこれはもう確定だろうと満足気に目を細めた。


「そういえば、ユーリはどうなんです?」


 実践経験がなかったことが後ろめたく感じたのだろうか、どこかソワソワした様子でダニエルが尋ねた。


「ん? ああ、私もあるぞ。そうだな……皆の為にも『魔王の森』に入る前に実践をしていた方が良いと思うが……どう思う?」


 少なからずショックを受けた様子のダニエルから視線を逸らしてユーリがレオンに尋ねる。レオンも少し考えて頷き返した。


「そうだな『魔王の森』に入る以上、最低でも初級魔物は討伐できるようになっておいたほうが良い」

「なら、課外授業として『はずれの森』に行くか?」


 今まで黙って聞いていたエーリヒが提案を出した。『はずれの森』は王都の外れにある小さな森。森の中にいるのは初級魔物ばかりで人間の気配で逃げ出す魔物もいるくらいだという。冒険者を目指す子供達がまず行く場所だが、ある程度戦いのコツを掴むとすぐに飽きてしまうという森だ。


「そうですね……。エーリヒ先生、引率を頼めますか?」

「ああ、もちろん」


 二人が計画を立てている間、ユーリは真面目な顔で話を聞いているフリをしながら、他の事を考えていた。

 冒険者登録して最初に行ったのが『魔王の森』だった。つまり、ユーリは『はずれの森』にまだ一度も行ったことがない。初級魔物とはどんな魔物だろうか。もしや、ネコみたいな魔物ばかりだったらどうしようか。そうだった時、果たして自分は戦えるのだろうか……。ユーリは脳裏に愛ネコが浮かび、険しい表情を浮かべたままグッと拳を握りしめた。


「ユーリ、どうした?」

「あ、いや……何でもない」

「そうか? ……あまり、気負うなよ」


 見当違いな心配をレオンからされたがユーリはあえて否定はせずに、ありがとうと返した。

 ふと視線を感じた。カイの身体越しからこちらをじっと見つめるアンネと目があった。どうかしたのだろうかと首を傾げたが、アンネはすっと視線を逸らした。普段通りにカイと話しているアンネをしばらく見ていたが特に反応が無いので諦める。

 それよりも、と気になる二人に視線を走らせた。すでに緊張した面持ちのダニエルと全く危機感を持っていない様子のカイ。同じことを考えていたのかレオンと目が合い、軽く目配せをした。

 生徒達の様子をただ黙って観察していたエーリヒの口元には微かに笑みが浮かんでいた。

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