プロローグ オレと魔王の物語!
現在連載してる暗~い作品の合間に気分転換で書いてます。
完全きまぐれ更新です
「笑止! よもやあの勇者が人を騙すとはな!」
疲労困憊、満身創痍。
その二つの言葉は、まさしく今のオレの状態を表現するべくして昔から存在していたに違いない。
元々いた村から出発して苦節十日、ようやっとオレは目的の魔王城へたどり着いた。十日で苦節とか言うな、なんて茶々を入れる奴らよ。見知らぬ土地、見知らぬ生物、見知らぬ文化。持ってるスマホは電池切れ。この環境の中で誰の手助けもないまま十日かけて目的地へたどり着くこの苦労を苦節と言わずして何という?
「本当にあの勇者が言ったのか? 私を討てば、元居た世界に戻れると?」
もう一度言おう。苦節十日、何はともあれオレはたどり着いた。
私利私欲の為この世界を征服せんと目論んでいるらしい魔王の住まう城へ。
単身乗り込んだんだ。自前の──唯一所持していた衣類、ビジネススーツで。
「悪いが、私はそんな話、初耳だ。お前を戻す術も知らんぞ」
広い、広い、大広間。
王座と呼ばれる席には、魔王と呼ばれる存在がふんぞり返って座っている。
薄ら笑いを浮かべながら放たれたその言葉が、オレと魔王、二人しかいないこの広間に響く。
時刻? そんなものわからないが暗いから夜だろう。
今、この部屋の光源は、そこら中の柱や壁に取り付けられた皿のような器の中で青白く燃え続ける炎だけ。もちろん皿の中で青い火が燃え続けている理屈なんてわからない。だからそれがそもそも火かも不明だし、燃えていると表現するのかも微妙だが、とにかく人間のオレから見れば皿から青い炎があがっていた。
そんな薄暗い部屋の中で、オレの心にも薄暗い影が下りてくる。
「このような時間に大した装備もせず一人乗り込んで来るとは随分骨のある輩が来たもんだと思ったが──」
そこで魔王は言葉を止め、何かを堪えるように口元に手をやった。
魔王の豪奢な肩当てが不自然かつ不規則に上下し、くっくっと押し殺すような声が聞こえてくる。何を堪えているかなんて一目瞭然だ。
「まさか勇者の手により異世界から転送されて来た者が討ち果たすべくこの私に助けを求めにきたとは、これ如何に!」
ついに大袈裟な声を響かせ、魔王は笑う。
広く、冷たく、無機質な広間は必要以上に笑い声を反響させていた。
その猛烈なる呵々大笑ぶりに気圧されたオレも、つられて一緒に笑う。
それはそれは、さぞかし面白いだろう。
所詮、他人事なんだから。
この時のオレには、絶望の二文字しかなかった。
だけど、この物語はオレが絶望に打ちひしがれながらこの世界を生き抜く、なんて話じゃないし、魔王を倒してこの世界を平和に導く話でもない。
この魔王が、オレにとって最高の魔王となり、
この魔王にとってオレが、最高の従者になるまでの1年を描いた物語だ。