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朝焼色の悪魔-第2部-  作者: 黒木 燐
第1章 浸蝕
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【幕間】帰り道

 小波瑞絵みずえは2人の友人と、薄暗くなった住宅街の中の道をとぼとぼと歩いていた。3人とも黒を基調とした服を着ていた。彼女らは、友人の通夜から帰るところだった。

「ねえ、明日のお葬式、どうしよう。やっぱ、行かんといかんかなあ」

 友人の永久保香津美かつみが残りの二人に向かって言った。瑞絵は、少し驚いて友人の顔を見ながら言った。

「何言うとぉと。そりゃあ、行かんと……」

「うん、そうだけど、なんか……う~~~ん、……ほんとに杏奈が死んじゃったってのを実感したくないっていうか……」

「うん、わかるよ。だけど、友だちだもん。ちゃんと送ってやろうよ」

 と、谷川真緒が諭す様に言った。

「うん、そうだよね。……なんでやろう。まだ17歳なのに連れて行っちゃうなんて、神様はひどいよ」

 そう言いながら香津美はまた泣き始めた。後の二人の涙腺もつられて緩んだ。3人は歩きながらポロポロ涙をこぼした。3人はクラスメートの沢村杏奈の急死に、一様にショックを受けていた。彼女らは4人で今度の土日を利用して、好きなバンドのライブのために東京に行く予定だった。

「ライブどうしよう。こんな気持ちで行っても楽しめないよね」

 香津美が泣きながら言うと、瑞絵はキッと正面を向き、涙を拭きながら言った。

「私は行くよっ。だって、杏奈は楽しみにしてたんだもん。杏奈と一緒に行くよ。杏奈の写真持って会場に入るんだ!」

「そ、そうだよね」

 二人は同意した。

「でも、何でやろう。杏奈、全然元気やったのに、急に高熱で倒れて、5日間も苦しんで死んじゃったなんて……」

 瑞絵は、時折流れる涙を拭いてはいたが、仲間内ではしっかりとした口調で言った。

「検査しても原因がわからんで、薬もほとんど効かんかったって……。最後には血を吐いて死んだって……」

 真緒がそれを聞いて驚いて言った。

「検査しても原因がわからないって、そんな病気ってあるの?」

「知らんけど、そりゃあ、いろんな病気があるやろ」

「えっ、そうなの? 病院に行ったらなんでも治るかと思ってた」

 と、真緒は、信じられないというような顔をして言った。

「世の中には、お医者さんでも治せない病気のほうが多いんだって。風邪だってそのひとつで、病院に行ったから治るっちゃなくて、ホントは自力で自然に治っとるって」

 と、瑞絵は知ったような顔をして言ったが、これは、医大に通う兄の受け売りである。

「じゃあ、お医者さん要らなくない?」

「バカやね。治る病気もあるんやし、じゃなくても熱をさましたり、点滴したりがないと困るやろ。他にも、怪我した時とか、それから、手術をしたりさあ」

「それもそうだね」真緒は納得した。「じゃあ、きっと杏奈は風邪が治らなかったから死んだんだね。怖いね……」

 真緒が言うと、二人は黙ってしまった。これ以上説明するのが面倒くさくなってしまったからだ。だが、真緒の言ったことの半分は正解だった。一瞬の沈黙を瑞絵が破って言った。

「それにしても……、お棺の中のご遺体に会わせてもらえないなんて、一体、どんな状態やったっちゃろ……」

 そういえばそうだ……と、少女達は顔を見合わせた。そしてまた沈黙。だが今度の沈黙は少し長かった。彼らは無言で歩いた。

「そういえば、杏奈さ」

 香津美が思い出したように言った。

「先週ちょっと落ち込んどったやろ? 火曜あたりやったっけ」

「ああ、なんか、遅刻して来た時やね。中学生男子が電車に轢かれたのを間近で見たとか言って」

 瑞絵も、それを思い出して言うと、香津美もそれからさらに記憶が甦った。

「そうそう、それで気分が悪くてお昼も食べれんで、結局午後から早退したっちゃんね」

「そういえば、その子の血が近くに飛んできたとか言ってたよ~。思い出した~。気持ち悪いよぉ」

 真緒も記憶を呼び覚ましたらしく、両手を組んで寒そうに自分の二の腕をさすりながらさらに言った。

「やだ、その子のタタリじゃないの?」

「やめてよ、そんな非科学的なこと言うとは!!」瑞絵は真緒に本気で怒りながら言った。

「タタリなんてありえんやろ! 第一、亡くなった子に悪いやろ? 杏奈は病気で死んだの。原因は不明で病院で調査中。今わかっとるのはそれだけ」

「ごめんなさい……」

 瑞絵の剣幕に、真緒はしょぼんとして言った。瑞絵は言いすぎたと思って、急いで真緒に言った。

「こっちこそ、怒ってごめんね」

「まあ、この話はもうやめようよ。杏奈もきっと楽しい思い出話とか聞きたいって思っとぉよ」

 微妙なこの空気をなんとかしようと、香津美が話題を変えることを提案した。

「そうやね」

 二人は同意し、思い出を話始めた。しかし、最初は笑っていても、その思い出が楽しいほどその杏奈がもういないと思うと、悲しさがこみ上げてくる。瑞絵が言った。

「いい子やったよねえ。ちょっとドジやったけど、優しくて友達思いで……」

「すっごい不器用なのに、いっしょうけんめいで、絶対にあきらめなかったもんね。でも、やっと出来たら料理もマフラーも、とんでもないことになってて」

 香津美がクスクス笑いながら言った。しかし、その顔は半泣きである。真緒が続けて言った。

「そうそう、何で、マフラーがこんなことにって感じ? それで、バレンタインにあげるって編んでたのに、4本編んでお揃いだってあたし達にくれたんだよね。絶対にあれ、本命にあげるつもりで編んだ失敗作だよ。本命には結局買ったマフラーあげてたもん」

「どうするよ、これ、って思ったけど、捨てるに捨てられなくて、タンスにしまったままやったけど、形見になっちゃったね、あれ……」

 と瑞絵。

「杏奈のバカぁ……何で死んじゃったのよぉ……」

 真緒が、我慢出来ずにうわあんと泣き出した。一人が泣くと、もう、残りの二人も耐えられなくなった。三人は住宅街の真ん中で、抱き合って友の名を呼びながら、わあわあ泣き始めた。


(「第2部 第1章 侵蝕」 終わり。第2章に続く)   

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