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第9話 軍師、友達と魔物を造る

「今日からスィさんに付いて監視することになりましたリリフィーです」


 なんだか妙にスィを睨む褐色の肌の少女が訪れた。

 少し癖のあるふわふわっとしたロングヘアの、スィと同じくらいの年齢の女の子だ。

 褐色肌、シルバーの髪、そして赤い目は魔王と同じ、という事は当然魔族の子だろう。


 魔族七人衆(*´艸`)とか言っていたので、七人いるはずだが、魔王以外に会うのはこれが初めてだ。


 これだけあちこちをうろうろして、荒してる(改善してる)のに会わないという事はみんな引きこもっているのだろう。


「私はスィ・ゴ・キターオと言います。気軽に麗しく高貴なプリンセス・スィ閣下とお呼びください」

「スィさまと呼びます」


 スィは渾身のギャグをスルーされ、気が悪くなった。

 「プリンセスなら殿下だろ!」って突っ込んで欲しかったのに。

 難しすぎるわ。

 だが、スィよりも遥かに機嫌が悪そうな目の前のリリフィー。


「あなたはどうしてそんなに私を睨むのですか? 私はこれまでの人生で、誰かに恨まれるようなことをしたことが一度たりともありませんが」


 随分大胆な自信だ。

 問題はスィがそれを心の底から信じているのか、平然と嘘をついているのかどちらかという事か。

 あ、どうでもよかった。


「……魔王様から、あなたが私の作った岩石兵士を全滅させたと聞きました」

「それは間違いです」


 スィは息をするように嘘を吐いた。

 嘘を吐くことに一切の躊躇がない。

 だが、今回に限って言えば、彼女は嘘を吐いていないと考えている。

 だって、子どもは生きてるし。

 彼らは自ら川に飛び込んだだけだし。


「あれ? でも、魔王様にそう聞きましたけど?」

「それは、間違って伝わったのでしょう。事実ではありません。魔王様も報告を聞いているだけですし、色々な情報が混じってそう誤解したのでしょう」


 魔王は動きを封じられ、目の前でスィが岩石兵士を煽って飛び込ませたのを見ている。


「そう、なのですか……?」

「私がそんなことをするように見えますか?」


 スィは見た目だけなら貞淑なお嬢様だ。

 中身を知らなければ、そんな事をしそうにない。


「しそうに、ないですけど……」

「当然です、していないのですから」


 何より、実際にやった者が、こんなに堂々としていないと言い張るわけがない。


「岩石兵士は、とても勇敢な兵士たちでした」

「…………」

「あのような勇敢で忠実な魔物を造っていただき、ありがとうございました。彼らの献身が、魔王軍のエンマル侵攻の最も重要な鍵となりました」


 褒めてくれる。

 自分の作った岩石兵士を、褒めてくれる。

 それは、素直に嬉しかった。


「ありがとうございます……あの子たちは、私の誇りです」

「そうですね。あのような勇敢な兵士を多く失い、私も心を痛めています」


 これは純度百パーセントの嘘だ。


「そう、でしたか……ごめんなさい、悪いことをしました」

「気にしないでください。誰にでも間違いはあります。さて、誤解も解けたところで、甘いおやつでお茶にしましょう」

「あ、はい、私が紅茶を淹れます!」


 二人は仲直りのお茶をすることになった。

 スィは自分の嘘で相手が申し訳なさそうにしても、全く心が痛まない。


「あ、これ美味しいです」

「これは私が作らせたおやつです」

「凄いです! こんな凄いものを考えつくなんて!」


 それは別にスィが考えたわけでもなく、ミルフィーユというおやつなのだが、それを口頭でだけで作らされて、何度もやり直させられたパティシエ担当のお料理ナイフを褒めるべきだろう。


「あなたの淹れたお茶もおいしいですよ。このおやつにちょうど合います」

「ありがとうございますっ!」


 にっこり笑うリリフィー。

 思っていた人と違う。

 魔王にさんざん悪口を吹き込まれて、もっとわがままでサイコパスな女の子だと思っていたのだ。

 それがこんなに優しくて大人しい子だとは思わなかった。


 この子とは心が通じ合える気がする。

 監視、と言われたが、いい友達になれるかもしれない。


「ところで、岩石兵士はあなたが作ったんですよね?」

「そうです、ですから、戦死者が多くて悲しくて……」

「そうですね。個体が弱いとどうしても死者が多くなってしまいます」


「ですけど……強い魔物は難しいのです……」

「それは分かります」


 一番偉い魔王ですらほのおネズミとかおばけ布とか造ってるわけだし。


「軍師として言わせていただきますと、更に強い忠誠心と、爆発的な攻撃力が必要かと思います」


 スィは新しい魔物に関しての提言をする。


「それは分かるんですけど……」


 それが出来るなら苦労はしない、ということだろう。


「ですけど、それはやり方です。特化するところを特化すればいいのです」

「ふむふむ……」


 スィは、リリフィーに魔物を造る方針を教えた。

 もちろん、スィのやり方で。




 内情はともかく、魔王軍はこの短期間にカルバスの街、エンマルの街を支配下に入れ快進撃を続けている、と映っていることだろう。

 それはまた、人間たちにとっての脅威でしかない。

 そしてその現状を王国が放置するわけもない。

 王国は即応できる騎士団を一隊派遣することを決めた。


 そしてその動向は、すぐに魔王軍に伝えられた。

 魔王はビビって漏らしかけたけど、お姉さんなので何とか我慢した。


「スィ、軍師として、対応しなさい」

「分かりました。それはそうと、魔王様は落ち着いてください」


 魔王は生まれたての小鹿のような足になっていた。


「おおおおおおおおおお落ち着いているわ? あああああああああああなたこそ大丈夫?」


 めっちゃビビっていた。

 侵攻すれば、当然反撃されるものだ。

 だが、どうも魔王はそこまであまり考えていなかったようだ。

 基本、自分の理想しか見えていなかったし。


「何か方法ある? 街返せば謝れば許してくれる? ねえ、どうかな? ねえってば!」

「落ち着いてください。街を返しても攻められ続けます、魔王城を落とすまで攻められます」

「そんな……」


 絶望的な表情の魔王。

 もしかして既におもつ着用なのかもしれない。


「落ち着いてください。何とかなります」

「ど、どうやって?」

「私とリリフィーが作った新しい魔物を使います」


「え? そんなの作ってたの?」

「はい、戦いに特化した魔物を」

「おおおおおおお!」


 魔王はいつもの威厳とかそういうものを忘れて、感嘆する。


「岩石兵士をベースに更なる忠誠心と、爆発的な攻撃力に特化した魔物です」


 新しい魔物。

 それは岩石兵士を更にパワーアップした魔物。

 あの勇ましい岩石兵士を強くしたのなら期待できる。


「では、まずはお目通りしましょう。爆弾岩石兵士です」


 あ、これ、あかんやつや。

 魔王の部屋に来たのが、岩石兵士によく似た魔物。


「あ、あなた達が戦ってくれるの?」

「はっ! 魔王様のご命令とあらば!」

「一花咲かせて見せましょう!」


 岩石兵士にも勝る強い忠誠心。

 燃えるような闘争心が垣間見える。


「じゃ、じゃあ、お願いしてもいい?」

「お安い御用です!」


「咲いた花なら!」

「散るのは覚悟!」

「見事散りましょう、魔王様のため!」


 叫ぶのは忠誠心。

 この時点で普段の魔王なら、あ、こいつらヤバい、と気づいただろう。

 が、慌てて怖がっている今の魔王には、とても頼もしい戦士としか映らなかった。


「では、エンマルの街の街道まで行きましょうか」

「はっ!」


 スィは爆弾岩石戦士を連れて移動する。

 エンマルの更に向こうの街道。

 そこまで来ると、遥か向こうには、騎士団の騎影が見えた。


「皆さん、お願いします」

「はっ! 未だ帰らぬ」

「一番騎!」


「花の都の!」

「クダンで会おう!」


 爆弾岩石兵士たちは、叫びながら騎士団へと突っ込んでいった。


 どーん!

 どどーん!

 どどどーーーん!


 騎士団に突撃した爆弾岩石兵士は爆発して砕け散った。

 そして、騎士団を全滅させた。


「彼らの献身に敬礼」


 スィは形だけでもそう言った。


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