第4話 軍師、城を落とす
「カルバス城はこの辺りの領主であるカルバス伯爵が城主ね」
「ところで甘いおやつはありますか? そういう待遇を望みますが」
「聞きなさい! カルバス城は高い壁で覆われいて、城門以外から入るのが難しいのよ!」
「で、こちらの兵に空が飛べるのはいますか?」
「いないわ。そんな魔物を造ってはいるけど、空を飛べてかつ、兵に勝てるほどの強さは中々難しくて」
「役に立たない人ばかりですね」
「うるさい! だからこそ、軍師が必要なんでしょうが! 限られた兵、限られた条件でこそ勝って見せなさいよ!」
「そんな正論、聞きたくないですね」
「いいから! やるの? 諦めて帰るの? さっさと決めなさい!」
「ところで私は名乗ったのにあなたは名乗らないなんて、失礼ではないですか?」
「今!? 今このタイミングで私の名前!? あんた名乗ったつもりなんだろうが、あれ、かなり異常だったからね!? 本格的には一切名乗ってないからね?」
さっきからツッコみ過ぎて、魔王は疲れてきた。
「私は魔王って呼べばいいでしょうが」
「魔王(*´艸`)」
「何で笑ったの!?」
「さっき睡眠学習をしたのですが、魔王って負け犬に与えられた称号ですよね?」
「え? いや、まあ、確かに……」
魔王、魔族、という呼称は、かつての戦勝者から与えられた蔑称なのだ。
彼女は仲間となる自分たちに蔑称を使いたくないと言うことなのだろうか?
睡眠学習とかツッコむの面倒だから放置しよう。
「魔王(*´艸`)」
「うるさい! 私の名前はグリーヴィよっ!」
「おい、グリーヴィ」
「あ、はい……って、呼び捨てかよ! なんか敬称を付けなさいよ!」
「グリーヴィさん(*´艸`)」
「名前を笑うな!」
おそらくからかわれているのが分かる。
自分は魔王だ。
こんな小娘にいいようにからかわれているという現状が我慢ならない。
もう駄目だ、こいつは許さない、追い返しなんてしない。
「ねえ、あんたがもし、カルバス城を制圧出来たら、望み通り軍師にしてあげるわ。でも、一週間以内に出来なかったら、あんたは一生奴隷よ。こき使ってあげるわ!」
「魔族(*´艸`)」
「もうそういうのはいいって言ってるでしょうがっ! 私たちも呼ばれ慣れてるからしばらくはこれで行くわ!」
奴隷にするという脅しすらスルーされる。
ちなみに魔王グリーヴィは実はいい人系美人なので、実際奴隷にしたら親善大使みたいな役割をさせるつもりだった。
「まあいいわ、兵も貸してあげるから好きにしなさい。でも、城の防衛程度は残すのよ?」
「そんなに使いません。ところで、弱くてもいいので空を飛べる魔物はいるのですか?」
「いや、まだ開発中だけど、使うつもり?」
「いえ、何羽かまとめて私を引っ張ってもらって空を飛びたいと思ったので」
「その時は空の上から落とすように命じてやる!」
何故だか分からないが、魔王が怒っているのでそろそろ真面目に考えようか。
とりあえず、塀が大きすぎて誰も入れない。
いや、入ろうと思えば入れるのだろうが、それに気づいた衛兵に塀の上から叩き落されるのだろう。
となると、正面からか、それとも……。
「ところで魔物は誰も入れないのですか?」
さっきのおばけ布とか、うまく誤魔化して入れそうな気がする。
「いえ、入れる魔物もいるわよ? ほのおネズミとか」
「ほのおネズミ?」
また、女の子が造ったっぽいメルヘンな名前の魔物だなあ、とスィは思っていた。
「ネズミだけど、口から火を吐くのよ」
「それはいい攻撃になりますね」
「そうでもないわ。ネズミは小さいから炎も小さいし、放火くらいにしか使えないのよ。木材を燃やすほどの火力もないし、一度使うと一日程度間を置く必要もあるわ」
「おうんこ劣等生ですね」
「役には立つのよ! 城内に入れるから、中の情報を見て来れるし、それを教えてくれるのよ!?」
「なるほど。火を吐く意味がありませんね」
「ニ十匹くらい集めたらあんた一人くらい丸焦げに出来るわよ! やってあげましょうか?」
「まあ、とにかく、見て来たものを教えられるくらいの頭脳はあるのですね、ネズミ風情のくせに」
「私の造った可愛い魔物を悪く言わないで!」
「魔族風情のくせに」
「うがぁぁぁぁっ!」
魔王は衝動的にこの小娘に顔面パンチを入れそうになって、それではあまりにも器が小さすぎると、ぎりっぎりで我慢した。
でも、もう限界かもしれない。
さっさと行ってさっさと失敗して来い。
その時に思いっきり罵ってやる!
「勝手にしなさい。これを見せればどんな魔物も言う事を聞くはずよ?」
そう言って、魔王は黒い宝石の付いた首飾りを渡した。
「分かりました。好きにします」
スィも、本格的に作戦を練ることにした。
「さて諸君」
ほのおネズミを全員集めたスィは、その前で演説っぽいことを始めた。
「これから皆さんにはカルバス城を落とす先鋒をやっていただきます」
周囲からちゅうちゅう、ささやきの声が聴こえる。
「これは偉大なる魔族の皆様方が開発した、人間のみ動けなくなるお香です」
スィが取り出したのは、巻紙にくるまれた何らかの粉末。
ちなみにスィは心にもないことを言っても全く心が痛まない。
「これを持ってカルバス城に行っていただき、それぞれ所定の場所、所定の時間に火を吹いて、これを燃やしてください。そうすればしばらくして人間は動けなくなります。その隙に、城門を叩き壊し、二陣が入り込みます。その頃合いには皆さん逃げて来てください」
ほのおネズミたちが周囲の者と色々相談をしている。
「簡単な任務ですよね? それであなた達は名誉な称号がもらえるのです! 偉大なる魔王陛下から、直々にお褒めの言葉ももらえます」
一同、ちゅうちゅうとやる気を増す。
ちなみにスィは心にもないことを以下略。
「それでは、皆さん、一人一個受け取ってください。それぞれ場所の割り振りと時間を教えますので」
スィは、ほのおネズミ一匹一匹にそれを私、どの位置に潜入するかを指示した。
ほのおネズミたちは、もらった包みを背に縛り付ける。
「では、行ってらっしゃーい」
ちゅうちゅう
フィがほのおネズミたちを見送った。
「さて、それでは他の兵を連れて、城門に行きましょうか」
フィが魔物たちに招集をかけると、なぜか魔王がついて来た。
「何しに来たのですか?」
「あんたのやることが心配だからついて来たのよ」
「心配、してくれるのですか……?」
「妙な作戦で無意味に兵を殺さないか心配なのよ。あと、一度開戦してしまえば向こうからも攻められる可能性もあるわ、だから心配にもなるわ」
「キモッ……ああ、そっちですか」
「お前、今キモって言おうとしたわね?」
「キモサベと言ったのです。私達は親友じゃないですか」
「え……? そ、そんなこと……言って。べ、別に私はそんな事、思ってないんだから……」とか言いながら胸がきゅーんとするほど、魔王はローティーンガールではなかった。
「……それで、何をするつもりなのよ?」
「ほのおネズミに侵入させました。そして工作をしてもらうのです」
「それはさっきあの子たちから報告を受けているわ。でも人間の動きを止める薬なんて、誰が作ったの? 私は聞いたことがないわ」
「でしょうね、多分誰も作ってないと思いますし」
「は? でもあんた、あの子たちに人間の動けなくするお香を渡したのよね?」
「渡していませんが」
渡していない、とか言うが、さっき渡したと聞いたのだが。
しかも、ほのおネズミのリーダから聞いたから、間違いない。
「そう言うと、彼らは頑張ってくれると思ったので。優しい嘘、ですよ?」
「……本当は、何を渡したのよ?」
「あれは、ただの爆薬です」
どーん! どんどん、どーん!
一斉に、カルバス城のあちこちが爆発した。
それは強大なカルバス城をして、主要箇所や城壁の一部が破損するほどの爆発規模となった。
そして、その爆発が起きた数は、だいたい現存したほのおネズミの数と一致していた。
「おま……」
「それでは全軍、破損した壁から侵入して玉座を落としてください!」
魔王の言葉は、スィの号令と、それに従う魔物たちの怒号に消えた。
やがて、開城させ、降伏させるまでに時間はかからなかった。
今日の成果
カルバス城陥落
カルバス領を魔王軍の領地とした
ほのおネズミ絶滅
自分の作った可愛いほのおネズミを絶滅されたが、成果を挙げたため怒るに怒れない魔王