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第3話 軍師、魔王と会う

「で、何の用なのだ?」


 多少、以上に不機嫌な美形。

 シルバーの髪は無造作に肩を越えて腰近くまで伸びており、陽に灼けたような褐色の肌とともに、おそらく生まれながらのものなのだろう。


 つり上がり気味の目は強気の自信家であることを匂わせる。

 この強さと美しさを兼ね備えた美人、それが魔王だった。


「……女性? 軍師と魔王の許されざるロマンスは?」


 遠路はるばる彼に会いに来たスィが魔王を前にした一言目。


「知るか! お前が勝手に勘違いしたのだろう」

「というか、その、『冷たく見えて実は面倒見が良さそう』系の(ツラ)は反吐が出ます」


 スィは正直な感想を言った。

 確かに美形のその女性は、スィよりは数年歳を重ねた程度の、まだ少女と呼んでもいい年齢なのだが。

 その冷たく見える表情も、妙にいいスタイルも、なんとなくバブみを感じる。


「失礼な奴だな! 用がないなら帰れ」

「用はあります」


 すかさず言い返すスィ。


「いえ、用があるのはあなた側ですね」

「何を言ってるの? 忙しくはないけれど、そこまで暇でもない」


 そう言われても仕方がない。

 言っている意味が通じてない。


「あなた達は幸運ですね、あの天才美少女、スィ・ゴ・キターオが軍師をしてくれるそうですよ。これは喜んでいいと思います」

「知らねえよ! 誰よそいつ!?」


 先ほどまで、なんとなく威厳を感じるような口調ではあったが、スィがあまりにもあれなので、地が出てしまった。


「その見た目は美しく、だが、賢く、若くして勇者軍の軍師を務めた少女。どこかの王女という噂もありますが、不明。王国の軍師の娘でもあります」

「いや、今、軍師って言ったわよね? どこかの国の王女ってのは、どこから出て来たのよ?」

「彼女の出処は謎に包まれています」


「さっき普通に王国の軍師の娘って言ったでしょうが!」

「彼女の出処は謎に包まれています」


「……まあいい、その者がどうしたのだ?」


 深呼吸して威厳を取り戻す魔王。

 何だかんだで、ちゃんと聞いてくれる魔王様、我慢強い。


「その、絶世の美少女で世界一の天才が」

「盛り過ぎは後で苦労するわよ?」

「なんと、魔王軍の軍師をしてくれるそうです。これはとても名誉なことです!」


 魔王もそう聞いていると、なんだかすごい人物に思えて来る。

 これは勇者側の罠かも知れないが、そこまで美少女とか賢いとか褒め称える人物に、会うだけ会ってみるのもいいかも知れないと思った。


「で、その者はどこにいるのだ?」

「目の前にいます」

「は?」


「私が、かの有名なスィ・ゴ・キターオその人です」

「お前かよ!」


 まあ、ちょっとだけそうかな、とは思っていた魔王。

 だが、その言い方にそれだけはないな、と思ったのだ。

 なにしろ──。


「自分で出処は不明とか頭おかしいのか!?」

「謎めいていた方が女は輝きます」

「知るかっ!」


 怒られた。


「とにかく、私を軍師として雇うのがいいと、さっき私が適当に思いついた占いにも出ています」

「それが何かの根拠になると思ってるの、あんただけだからね?」


 魔王は最初、さっさと追い返そうと思った。

 それはこれが王国のスパイだと思ったからだ。

 だが、普通に考えて、スパイがこんな奇行をするだろうか?


 となればスパイではない人間の女の子だ。

 しかも王国の軍師の娘?

 更にさっき確か勇者軍の軍師をしていたと言っていた。


「ねえ、あんたが王国軍師の娘って言うのは本当?」

「私の出処は謎に包まれています」

「それはもういいっ!」


「そうですね。私の父は王国の軍師です。私はいつかあれをぶっ殺して後釜になろうと思っていました」

「怖いわね!? で、勇者軍の軍師をやっていたのも本当?」

「本当です。が、私は苦渋の選択で勇者を裏切り、魔王様の軍師をしてあげることにしました」


 何だろう、この子からずっと漂ってくる、上から目線?


「これは魔王様にとっても名誉なことですよ?」

「あんたの基準は、あんたにしか通用しないからね?」


 魔王軍がまだ侵攻を開始しない理由は様々あるが、最大の理由は目の前の貴族領を攻めあぐねているというのもある。

 こいつには色々聞きたいことがある。

 どうして勇者軍の軍師という人間としては名誉ある職を捨てて、魔王軍という異種族の軍師になりに来たのか、とか、そもそも、軍師としての能力はあるのか? など。


「分かったわ、あんたを試してあげる。それで納得が行くようなら、軍師にしてあげるわ」

「やだ……こんな上から目線の女の方なのですか、魔王って? 女性の上から目線は嫌われますよ(一部を除く)?」

「お前が言うなっ! そもそも、魔王ってのは普通、上から目線でしょうがっ!」


「あーはいはい、高飛車お嬢様系ですね。おうんこ魅力的でない(クッソだせぇ)

「あんた……」


 魔王は、いかにしてこいつを虐待したと思われないように泣かせられるかを考えるほどには常識的で高潔な人物だった。

 まあ、人間の、しかも将来的に影響力のありそうなこの少女が少なくとも目の前に現れてくれたことは、魔王にとってもいい機会でもある。


「まず、あんたが私たちの仲間になる前に、私たちが世界征服を志すに至った経緯を話すわね?」

「あー、そういう自分語りいいです」

「いいから聞きなさい! ちゃんと聞いてから仲間になるならなりなさい!」


 魔王が怒鳴ると、スィが超面倒くさそうな顔をする。

 もういいからこいつニ、三発殴って追い出しちゃおうかな、と思い始めていたが、何とか我慢した。


「私たち魔族の歴史は常に迫害の歴史だったわ」


 それでも話を始める魔王のメンタルの強さね。


「かつて魔族は、この世界を二分して争った種族の一方だった。奴らには奴らの神がいて、我々には我々の神がいた。お互い神を懸けての戦いだったわ」


 魔王も見て来たわけじゃなく、聞いた物語を語ってるから分かりやすい説明になってはいない。

 簡単に話すとこうだ。


 かつて二つの種族、二つの信仰する神が激突した。

 それに勝ったのが現在の人側だ。

 負けた種族側は勝者から悪魔と称され、種族も魔族と言われ、迫害された。


 戦った以上、勝者と敗者が生まれるのは仕方がない、それで敗者が迫害されるのも同様だ。

 だが、それは遙か昔の出来事だ。

 今なお、彼らは魔族として迫害され続けている。


 もう、いいのではないだろうか?

 最初こそ彼ら魔族と呼ばれる種族の残党は人間と調和しようと考え、様々な手で、取り入ろうとした。


 途中まではうまく行く。

 庶民の一部と仲良くなるところまではいつもうまく行くのだ。

 だが、それを広めようとしていくと、必ず裏切られ、魔族が庶民をたぶらかしたと言われる。

 それで処刑された同胞を数多く見て来た。


 これでは駄目だ。

 奴らが暴力を持って我々を征するなら、我々も暴力を持って征してから調和をはかるしかない。


 まずは彼らを征服し、対等以上に話が出来る状態にしてからでなければ、話を聞いてくれないのだ。

 だからこそ、彼らは世界征服という野望を掲げた。


「私たち残された魔族は七人。その七人で兵となる魔物を作り出し、兵器を開発しているのよ。私たちは、人と対等に話がしたい、それだけのために、まずは世界を征服するのよ……!」

「………………」

「あ、ごめん……熱くなり過ぎたわね……」


 魔王は、思わず熱くなって、目頭が潤んでいる自分に気づき、多少恥じるように笑う。

 人間の少女に自分の、自分たちの想いを洗いざらい吐いてしまった。

 いや、これは間違いではない。

 自分は、自分たちは、人間にこそ、これを聞いて欲しかったのだ。


「…………」

「……!」


 目の前の少女の瞳が潤んでいる。

 泣いてくれたのか?

 自分たちの不遇な境遇に共感してくれたのか……?


 ならば、彼女はもう同胞だ。

 私たちは種族は違えど、同じ理想を持つ──。


「ふぁあ……え? もう終わりました? くだらなくて眠ってしまいました……」


 彼女の潤んだ瞳はあくびによるものだった。

 あかん、こいつあかん

 いるよね、可愛いから何してもいいって思ってる子。

 これはもう、激昂して、蹴り飛ばして出て行かせるだけでは済まされない。


「まあ、いいわ。あんたを試してあげる」


 にやり、と笑う魔王。


「そこの町にある、カルバス城を落としてみなさい。一週間以内に!」


 こいつに、彼女らが未だ達成していない攻略をさせて、失敗したら泣くまで罵って追い返してやろう。

 そんなことを考えていた。


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