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第20話 軍師、教える

「退屈なのです。リリフィー、風流せい」

「いや、そんな雑なこと言われましても」


「そんなことで私は動じません。風流しないと隣国を攻めます」

「脅しも雑なんですよ! ……っと、じゃあ、歌をうたう魔物でも造りますか?」

「それがどんな風流になるのですか?」


「いえ、歌いますから、風流に歌う魔物にしますから」

「いい声で鳴くのはいいかも知れません」

「……それ、ちょっと意味が変わって来てませんか? そういう目的なら作りません」


「はぁ、つっかえ」

「ていうか、勝手に連れてきて何言ってるんですか! 私だって、仕事もあるんですよ!」


 怒るリリフィーだが、こいつが仕事してるの見たことない。


 スィがオボキの街の別荘に住み着いて、半月が過ぎた。

 ここで、魔王の見えない隙に何か大きなことをやろう、などと言う、深夜のファミレスで大学中退したフリーターが熱く語ってるみたいなことを考えたのだが。

 特にやりたいことがなく、移植して来た魔族たちの家を荒したり畑を掘り返したりしていたが、特に面白くもなかった。


 隠居した元領主に会いに行くと、甘やかせてくれるが、ボケてもツッコまないのでつまらなくて、駄々甘やかされて帰って来る、甘やかされてんじゃねえか。

 それで帰って来て、特別に作らせた大量に密輸したおはなし牛の乳風呂に入ると、一緒に入るリリフィーにいつも言うのだ。

 「退屈だ」と。


「退屈なら、もう帰ればいいじゃないですか。ここにいても何もしないんですよね?」

「今帰ったら、みんなに嘲笑されるのです」

「それは、ただの自意識過剰じゃないですかね?」


「いえ、みんな嘲笑うのです。大体こんな事を言われるのです」


魔王「出戻りが!」

キャンヴェラ「お前は私の下だから何でも言う事を聞くのだ!」

リリフィー「おならぷう」

エメルーシャ「その羞恥心のない頭脳を解剖させて欲しいにゃ!」


「いや、私だけひどくないですか!? こんなこと絶対に言いませんよ!」

「言うのです、そこだけは自信があります」

「いえいえいえいえ! ここまでの人生で一度も言ってない言葉を、わざわざ言うわけないじゃないですか!」


「うるさいので、もっとソフトにしてあげます」


魔王「出戻り(○´艸`)」

キャンヴェラ「お前は私の下(○´艸`)」

リリフィー「おならぷすっ」

エメルーシャ「その羞恥心のない頭脳を解剖させて欲しいにゃ(○´艸`)」


「すかしただけじゃないですか! そもそも、私もマナーを弁えてますからそういう事しませんって!」

「そういうこだわりは捨ててもいいと思います」

「もっとソフトに! みんな優しい世界だと思って! ベリーザソフト!」


魔王「おかえり」

キャンヴェラ「おかえり」

リリフィー「おならぶりっ、あ……ごめっ……!」

エメルーシャ「おかえりにゃ!」


「出てる! 私、なんか出てる!」

「生理現象だから仕方がないのです。私もそこは容認します。今後はクソフィーと呼びますが」

「容認してないじゃないですか! ていうか出してません! 呼ばないでください!」


「うるさいので呼びません」

「はあ……ありがとうございます」


 ちなみにリリフィーは魔族なので、屁糞はバニラビーンズの匂いがする。

 知らんけど。


「ところで、クソフィー、一つお願いがあるのです」

「だから、呼ぶなっつってんだろ!」


 スィはリリフィーに頬を掴んで上下に揺さぶられた。

 リリフィー怒らせるのは大したもんだ。


         ■


 魔王は、オボキの街に来ていた。

 この街に住み着いているスィが変なことを企んでないかの監視が表向きの理由。

 本当は、リリフィーから「久しぶりです、今度お茶でもしませんか?」と言われたからだ。


「リリフィー、久しぶりね、あいつは何も企んでないわよね?」

「それが……、まあ、色々企んでまして……」


「ふうん、まあいいわ。お茶を飲みながら詳しく聞かせて」

「はい、いい喫茶店がありますので、そこに行きましょう」


 魔王は誘われるまま、喫茶店に向かった。


「あらあらこんにちは、お久しぶりね、りりちゃん」


 喫茶店に行くと、見知らぬ中年女性が話しかけて来た。


「あ、こ、こんにちは、お久しぶりです」


 リリフィーが挨拶を返すが、彼女は魔族ではないから、普通の人間なのだろう。


「ご一緒していいかしら?」

「あ、いいですよ」

「え!?」


 今から二人で話をするはずなのに、何故こんなおばさんを同席させるのだろう?


「はー、最近色々いい事があってね、今日は二人に奢っちゃうわ! 好きなもの頼んで?」

「はい、ありがとうございます。魔王様、何にします?」

「え、あ、じゃあ、カプチーノで……」


 妙に親し気な彼女は、一体何者なのだろう?


「それで、いい事って何ですか?」

「それがね! 牛が産んだ子供が双子だったのよ!」

「へー、そうんですか、それは凄いですね」


 リリフィーが、明らかに心からではない声で喜んでいる。

 何なのだ、このやり取りは?


「そこのあなた! 何か悩み事がありそうな顔してるけど、何かあるの?」

「え? あ、特には……」


 割と人見知りの魔王はちょっとキョドった。


「言ってみなさい? おばちゃんが聞いてあげるから!」

「………………」


 圧がひどい。


「その……部下の一人が、全然いう事を聞かなくて……どうしていいのか」

「なるほど、大変よね、上に立つ者はそうそう怒ることも出来ないからね?」

「…………」


「おばさんもね、若い頃だけど、集落のまとめ役の補佐をしたことがあるのよ、だからね、その気持ち、本当に分かるわ! 大変よね、人をまとめるのって!」


 集落のまとめ役のしかも補佐と、一応は一国をまとめている魔王を一緒にされても困るとは思ったものの、魔族では絶対に分かる、とは言ってくれない気持ちの同調に、魔王の心は揺れる。


「でもね、やっぱり今でも思うの、私はその子とちゃんと向き合ったのかって。その子の事、最初から否定してたんじゃないかって」

「え……」


 魔王は不安になる。

 そう言えば、自分はスィとちゃんと向き合ったことがあるだろうか?

 いう事もやる事も奇抜で、こちらを小馬鹿にしているとしか思えない態度の彼女を、怒鳴ってしかいなかったのではないか。


「向こうがね、こっちの言う事を聞かないのは、こっちも向こうの言う事を聞いてないからじゃないのかしら。いう事がおかしかったら、それはおかしい、って言う前に、一度考えてみて、じゃあ、こうしたらどうか、ってその意見を汲んだ提案をしてもいいんじゃないかしら」

「そう、ですね。そうかも知れません」


 確かにムカつくし、やる事全てが自分を馬鹿にしているとしか思えないが、結果は出しているし、彼女がいなければ魔王軍はいまだに街の一つも支配していなかっただろう。

 その彼女を、自分はどう考えていたか?


「これからは、もう少し向き合ってみたいと思います」

「そうね、そうね、それがいいと思うわ」


 何者かと思ったが、やはりこの人はいい人だ、信頼できる人だ。

 リリフィーが仲良くなったのも分かる。


「ありがとうございます、相談に乗ってもらって」

「大丈夫よ、それにね、私はある人の言葉を真似して言ってるだけなのよ!」

「え? そうなんですか?」


 この人に教えた人なら、とても信頼できる人なのだろう。


「それでね、これからその人の講演会があるの! よかったら来る? おばさん、二人くらいなら入れさせられるけど!」

「いいですね! 行きたいです!」


 魔王が何かを言う前に、リリフィーが答えた。

 少し迷っていたのだが、まあ、別にいいか、会ってみたいし、と魔王は思った。


「じゃあね、今から行くわよ? もういいかしら?」

「はい」


 そして、三人はカッフェを出て、講演に行くことになった。


          ■


 広い講堂を埋め尽くす人。

 全員が、しん、と黙って誰かの登場を待っている。


 魔王にはそれが誰なのかは分からない。

 だが、その人々の、純真にその誰かを待っている姿を見る限り、とても愛されている人物なのは分かる。


 講演会、と言っているが、これから何が始まるんだろう?

 だが、あのおばさんが信頼している人だ、凄い人に違いない。

 魔王は自分が魔王とかそう言うの忘れて、人間に混じって席に着いた・


 観衆がざわざわとざわめく。

 誰か登場するのだろうか。

 そして、それが大きな拍手に変わる。


 ゆっくりと、講演台に人が上がると、それが歓声に変わる。

 そして、そこに現れた者。

 ここまで読んでて分かんねえって人はいないと思うけど、なんかそれっぽく書こう。


 そこに現れた人物を、魔王は知っていた。

 魔王の悩みの種。

 それでいて結果を出すから文句も言いにくい、小娘。


 何なのだこの歓声は?

 あのサイコパスがなんでこんなにカリスマがあるのだろう?


「さて、皆さん、最上(さいじょう)ですかー!?」

最上(さいじょう)でーす!」


 全く乱れのない声。


「今が最上と思わない人は幸せになれません。私は天啓にてそれを教えられたのです。私はその人の幸不幸を手の裏を見て診断できます」


 講演は長く続いた(省略)。


 なんか、高い壺が売られたので、魔王は買おうとしたけど、耐え切れなくなったリリフィーに止められた。

 その後、スィはこっぴどく叱られ、強制的に魔王城に戻ることになった。


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