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第17話 軍師、押し付ける。

「おい、グリーヴィ」

「はい、何でしょう、スィさま!」

「私は疲れたのです。甘いおやつはないのですか?」


「はい、ただいま! おい、グリーヴィ(○´艸`)!」

「……何よ?」

「スィさまが来ているのだ、おもてなせ!」


「何であんたに言われなきゃならないのよ! ていうか、帰れ!」

「何だと! スィさまのご訪問を歓迎しないとは、それでも魔王か!」

「こんなんでも魔王よ!」


 少し涙目になる魔王。

 ここは魔王の謁見の間。

 スィというやっかいさんが、クローン魔王というやっかいさんを連れて現れたので、魔王は心底ブルーだった。


 しかもスィはクローンを、魔王の本名であるグリーヴィと呼んでいる上に呼び捨てだった。


「グリーヴィはよくやりました。私の足の裏をなめてもいいです」

「ああ……本当ですか? ありがとうございます!」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 喜んで舐めようとするクローンを止める。


「何だ? 私はこれからご褒美をもらうのだ、邪魔をするな」

「そういうことは止めて!」

「何故だ! お前には関係のないことだろう!」


「いえ……もうやりたいなら勝手にやればいいんだけど! どうしてここに来てするのよ!?」

「愉悦のためですが?」

「…………っ!」


 もの凄い殺意が芽生えたが、クローンが警戒したので襲いかかれなかった。

 そして、苦虫を噛み潰したような顔でスィを睨む魔王。


「愉悦です」

「はあ、はあ、んっぐ!」


 いつの間にかスィの足の裏を舐めていたクローンをもはや止めることも出来なかった。

 魔王はもはや何も出来ずに睨むしかなかった。



「うーーん」


 スィは困っていた。

 魔王の悔しがる様子を見たので、もうクローンは必要なかった。

 いや、役に立つのだが、常に性的に見られているので、本当に困る。


 あと、リリフィーを殺意のこもった目で睨むので、怯えて風呂にも入りに来なくなった。

 リリフィーも使い勝手のいい奴隷なので、近くにいないと不便だ。

 ※個人の感想です


 何とかもっとこう、あんな肉食なクローンではなく、もっと従順なのに変えて欲しい。

 というかあれの本質は魔王だから、魔王ってヘタレに見えて恋をすると肉食なのかも知れない。


「というわけで性格を変えてください」

「お前はいつも無茶なことを言うにゃー」


 自分の興味ある事しか考えないサイコパスなエメルーシャに呆れられるスィ。


「出来ますか?」

「出来なくはないにゃー。でも、DNAの再組成は全身の作り直しになるにゃー。作り直した方が楽だにゃー」


「では、これを殺して作り直してください」

「待ってください!」


 クローン魔王が叫ぶ。

 まあ、そりゃそうだよね。


「どうかしましたか?」

「わ、私を殺すと聴こえたのですけど……」


「そんなことは言っていません」

「……そうですか?」

「作り直すと言ったのです」


「同じことではないですか!」

「違いますよ」


 確実に殺して作り直すと言ったし。

 だが、スィがそれを認めないのはこの短い間そばにいて理解している。

 自分は殺されるのだ。

 自分は彼女に逆らえないし逆らいたくもない。


 このまま殺されるしかない。

 ならば。

 ならば最後に一回でいい。


「スィ様!」

「なんでんぐっ……!」


 クローン魔王は、スィの唇を奪った。

 もちろん舌を入れた。

 スィは抵抗するが、クローンは力でねじ伏せて、最後までキスをし切る。


 やがて、スィの力も抜けていく。

 されるがままに口を蹂躙された。


「ふう……」


 クローン魔王はやり切った顔になった。

 そこにもう迷いはない。

 自分はもう死んでもいい。


 自分は、やり遂げたのだ。

 このまま殺されるだろうが、もうそれでいい。

 わが人生に、一片の悔いなし。



「エメルーシャさん、この子はやっぱり改造でお願いします。記憶も残す方向で」

「また面倒なことを言い出したにゃー。でも出来るからやってやるにゃー!」



 改造は実施された。


 目を開くクローン魔王。

 何だろう、物凄く頭が重かった。

 感情も記憶も混濁している。


「目を覚ましましたか?」


 目の前で話しかけるのは……誰だっただろうか、名前が思い出せない。

 確か、私の憧れ、尊敬する人だ。

 この人のようになりたい、けれどなれないのが私のコンプレックスだ。


 内気で消極的な私には、この人のように相手の顔も窺わずに誰が相手でもはっきりと物を言う事が出来ない。

 この人のように妖精のように可憐にふるまう事は出来ない。


「これまでの事を、思い出しましたか?」


 これまでの事?

 何だろう?


 ああ、思い出した、この人はスィさまだ。

 スィ・ゴ・キターオさま、魔王軍の軍師で、魔王様すらその顔色を窺うような人だ。


 この方が魔王軍に入ってから、二つの街を魔王軍配下にしたという実績もある。

 こんな方に私は。

 私は──!


「…………っ!」


 思い……出した!


 私はこの人に、キスをしたのだ。

 抵抗するこの人に、無理やり唇をくっつけて──。


「……っ! ……っ!?」


 思い出すだけでも顔が真っ赤になる。

 恥ずかしい、顔がまともに見られない。

 何という事をしてしまったのだろう?


「どうかしましたか?」

「いえ、あの……すみませんっ!」


 とにかく、そんな畏れ多いことをした事を謝らなければならない。


「いいのですよ。それだけ思っていてくれたのですから」

「は、はい……」

「また、これから頑張ってください」


 自分の無礼な行いを許してくれるスぃさま。

 何と貴い人なのだろう。


「あれが私のファーストキスでしたが」

「え……?」


「気にしなくてもいいです」

「は、はい……」


「窒息するかと思うくらい吸われましたが」

「すみません……」


「気にしなくてもいいです」

「は、はい……」


「力強かったので少し痛かったのですが」

「あ、あのっ! 何か謝罪のしるしに何かしますからっ!」


「気にしなくてもいいです」

「は、はい……」


 スィはこれで十日は遊べると思った。

 そして、そのためだけに記憶を残したのだ。


 何故?

 スィだから。




「こんにちは、遊びに来ました」

「……帰ってって言ったら帰ってくれる?」


「いえ、今日は緊急の用件で来たので」

「さっき遊びに来たと言ったじゃないの!」


「遊びですが緊急です」

「意味が分からないわ!」


 魔王を怒鳴らせるのが目的と分かっているのに怒鳴ってしまう


「今日は人を紹介に来たのです」

「誰よ? 言っておくけど、魔王城の物は全員知って──」


「姉さん!」

「!?」


 いきなり抱きしめられる魔王。

 何事かと思ってその顔を見ると、自分と同じ顔だった。


「あなたの双子の妹のグルーポンです」

「ツッコむところが多すぎて何からツッコむか迷うけど、まず名前! その名前は、なんか、駄目な気がするわ!」

「気にしなくてもいいです。名前がかぶる(同じグリーヴィ)と分からなくなるから変えただけです」


「気にするわよ! 何なの!? どうしてこの子が私を姉さん呼ばわりするの?」

「そう教え込ませたからです」

「でしょうね! そうでしょうね! でもそうじゃなくって!」


「今日からグルーポンと一緒に暮らしてあげて下さい」

「何でよ!」

「姉妹だからです」


「違うわよ! クローンじゃないの!」

「だ、駄目ですか……姉さん……?」

「駄目とかそういう事じゃなくて!」


 何だかんだ可愛い女の子(自分)に冷たく出来ない魔王。

 可愛い女の子(スィ)にいつも冷たく当たっているのだが。


「私と一緒は、嫌、ですか……、姉さん?」

「だからそう言う事じゃなくって!」


「別にいいじゃないですか、姉妹一緒に住めば」

「だから姉妹じゃないって言ってるでしょ!」

「そんな……」


「あーもうっ! 分かったわよ! 一緒に住めばいいんでしょうがっ! でもルールは決めるからね!?」

「あ……はいっ!」


 グルーポンの誠意、というか、スィの押しによって、魔王は双子の妹という名のクローンと一緒に過ごすことになった。


 スィはなんとかクローンの世話を人に押し付けることが出来、ほっとしたところだ。

 クローンも姉と幸せに暮らすことが出来、ウイン―ウイン―ルーズだった。

 もちろん、ルーズは魔王だが。


 それでも、魔王も孤独な立場から分かち合える血縁が出来て少しは幸せになったのかも知れない。


 もちろん、スィにはそんなことを言う事はないが。

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