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第16話 軍師、増やす。

 スィはおこだった。


 ほぼ怒ることのない、て言うか、だいたい人を怒らせてストレスを解消しているスィが怒るとか、おこがましいにも程がある。


 おこだけに。



 スィがおこおこになった理由は、美しき我が分身(クローン)が処刑されたことだ。


 いや、分身が苦しんで死のうがどうでもいいし、特に愛着もない。

 ただ、せっかく手に入れた奴隷という手足を奪われたところがおこなのだ。


 スィも魔王城で、色々な者を使役しているように思われている。

 実際に軍師として先頭にも立っている。

 だが、実際には彼女の指揮で動いてはいるが、それは魔王(○´艸`)の指令でスィの指示に従っているに過ぎない。

 独自に動いてくれるのは、多少躊躇もあるが、結構ちょろいリーフィーくらいだった。

 彼女にしても、魔王が駄目と言えば、従うだろう。


 だが、クローンは違う。

 何しろ自分と同じ事を考えているのだ。

 自分がしたいと思っていることを、クローンもしたいと思っているのだ。


 説明の手間もない。

 なのに、処刑されてしまった。


 エメルーシャとはある程度仲良くなったので、また造ろうと思えば造れなくもないが、また処刑されてしまうだけだろう。

 とは言え、今は対策が思い浮かばないので、魔王(○´艸`)を怒らせてストレスを解消するしかなかった。

 無力な自分を嘆きつつ。



「こんにちは」

「……何しに来たのよ??」

「近くまで来たので、寄りました」


 部活のOBか近所の親戚みたいなノリだった。


「用はないって事ね?」

「あります。今から衝撃の告白をするのです」

「……何?」


「実は、処刑されたのが本物の私でした」

「あっそ、じゃあんたは処刑ね」

「待ってください、優しい嘘(スィ・ジョーク)です」


「発言と内容の差!」

「それにしても、あなたは私を平気で処刑できるのですね」

「嘘って分かってたから言っただけよ」


「いいえ、あなたはサイコパスだから平気で処刑できるのです」

「あんた以外に言われたら反省する発言だったわね!」


「これからは『魔王(○´艸`) オブ サイコパス』と名乗ってはいかがでしょう」

「名乗らないわよ!」

「なんだか、ヒールっぽくて格好いいですよ」


「だから! 私たちは! イメージの改善をしたいのよ!」

「でも、占領した村の魔王様(○´艸`)のイメージ最悪ですよ」

「あんたのせいでしょうがぁぁぁぁぁぁっ!」


 キレられた。

 だが、怒らせるのが目的だったので、それは成功したので、帰ることにした。

 ちなみに魔王は既にスィの訪問を天災だと思う事にしていた。


 天才だけに。



 だが、いつもなら晴れる心が、あれだけでは晴れなかった。

 もう、ガチギレの表情は見飽きた。

 魔王はすぐにキレるし、ちょっと怒らせるとガチギレするしで、エンターテイメント性が薄れたのだ。


 もっとこう、怒りたくても怒れない、苦虫を噛み潰したような表情が見たい。

 何度も言うけど、スィってガチサイコだからね?


 だが、復讐など意味のない事であることは理解している。

 こんなものはただのエンターテイメントだ。


 娯楽は甘いお菓子だけでいい。

 もっと実益の事を考えよう。


 美しき我が分身(クローン)を造っても処刑されてしまう。

 ならば、処刑されない物を造ればいいのだ。


 不老不死の美しき我が分身(クローン)

 何といい響きだろう。

 だが、それはなんかやだ。


 自分より長生きする美しき我が分身(クローン)は、存在が許せない。

 自分が死んだら爆発して、周囲に脅威を与えるようなのがいい。



 スィはとりあえず超わがままだった。


「そういうのは造れますか?」

「無理だにゃー、まず不老不死で無理だにゃー。しかも不老不死なのに、死ぬとかどう考えても無理だにゃー」


 無理だった。

 矛盾してるから考えるまでもない。

 わざわざ聞きに来るの凄いよね。


 後は量産してもらって、処刑される以上に製造していく方法もあるが、そんな下等生物みたいな生存方法は嫌だった。

 スィは野良猫ガッツで頑張れないエレガントなお上品だった。

 少女には、何も起こらないのだ。


 となると、別の方法だ。


「同じ姿で、性格だけ変えることは出来ますか?」

「出来るにゃー。凶暴にも出来るにゃー。根暗なスィを明るくも出来るにゃー」

「私はネクラではありませんが、それでお願いします」


 スィはまたエメルーシャにクローン、いや奴隷を造って貰うことにした。



「出来ました。新しい素直になれない優し(クローン)い子です」

「……何よその、美しく可憐な女の子は!?」

「自愛がひどいですね」


「で、どうして私の可憐な姿をしてるのよその子!?」


 スィも大概だけど、自分の姿って分かってて褒めたたえるの凄いよね。


「これが私の新しい奴隷です」

「それは駄目! っていうか、この城の魔族のクローンを造るの禁止!」

「禁止と言われても造りましたし」


「造ったら全て処刑するわよ!」

「これもですか?」

「!」


「魔王様と寸分違わず同じ姿のこれを、処刑できるのですか?」

「く……っ!」


 確かに、人形でもなく、動いて生きている自分と同じ姿のクローンを処刑するのは、あまりにも心が苦しい。

 断末魔で泣かれた日には生涯もののトラウマになりかねない。


「一体くらいいいのではないですか? 生まれつき双子だったとでも勘違いしてください」

「出来るかっ! ……まあ、造っちゃったものはしょうがないわね。それはそのままでいいわ。でも、あなたの奴隷にはさせないわよ!」


「それは難しいかも知れません」

「なんでよ!」

「彼女は私が大好きなのです」


「スィさまぁ……」


 魔王に似たその女の子は、甘えた声を出して、スィに背後からしがみついた。

 そう、この魔王のクローンはただのクローンではなく、遺伝子を操作してスィが大好きなクローンなのだ。


「何よ! 何なのよそれ!」

「スィさま……私に構ってぇ」

「構って欲しいなら言う事を聞くのです」


 スィが頭を撫でながらそう命じる。

 すると魔王クローンが嬉しそうに甘えてくる。


「許さないわよ! そんな事は!」


 魔王が魔王クローンを捕まえて引き離そうとする。


「黙れっ!」


 クローンにめっちゃ切れられて怯える魔王。

 性格はほぼ同じだけど、そこに愛があるだけクローンの方が強い。


「私は今日からスィさまだけのものよ。誰にも引き離させない……っ!」


 自分に言われて涙目になる魔王。

 本当、なんでこんな子が魔王なんだろうね。


「スィさま……私をもっと愛してください……愛を……」

「そんな牝犬みたいな声を出されましても、あなたは私の好みの性別ではないのです」

「スィさまぁ……」


 長身のクローンが、スィに覆いかぶさって押し倒してくる。


「あなたは私の好みの性別ではないのです。ですが、こんなことをされると少し切なくなってくるので……あっ……!」


 なんか、敏感なところに触れたらしい。


「そこは駄目です、切ない気分に……ふぁっ!?」


 いつも小声で感情に乏しい、人を小馬鹿にするような口調のスィから、結構ガチっぽい声が聞こえた。

 なんか、身体もびくんってなってる。


「今はやめてください、また今度に……あんっ!」


 魔王クローンは暴走して、スィを襲おうとしていた。

 スィは魔王より力がないので、ガチで来られるとどうしようもない。


「魔王さん、私を助ける名誉を与えます。これで勲功を挙げてください」

「どうしてその状態でそんなことが言えるのよっ! 助けて欲しくないの!?」



「助けなかったら、目の前でおいしいケーキをこれ見よがしに食べてあげます」

「くっ……卑怯よ!」


 魔王は甘いものに目がないお年頃なのだ。


「しょうがないわね、キャンヴェラを呼んで来るわ」

「急いでください、この城一の麗しの花が憎悪の汚物に汚されてしまいます」

「……今度何か言ったら、呼びに行くのを十秒遅らせるわよ!」


「では褒めたら十秒早くしてください。私は実は魔王様が可愛いと思っていました」

「私もですぅ、スィさまぁ」


 クローンの方が興奮しただけだった。


「しょうがないわね、行ってくるわ。それまで何とか耐えなさいよ?」

「もう限……あふっ!」


 なんか限界っぽかった。

 いい気味だと思った魔王も、あれで目覚められたら多分自分が対象になると思い、急いでキャンヴェラを探した。


 探して帰ってきたら、びくんびくんしてたけど、ギリ何もなかった。

 半裸だったけどよくある事なので、魔王以外誰も気にしなかった。


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