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第15話 軍師、増える。

「それではもう一度行くのです」

「どこへ行くのですか?」


 のんびりとリリフィーと風呂に入っている時につぶやいたので、当然リリフィーが聞き返す。


「聞いていたのですか?」

「それはそうなりますね? 二人しかいませんしね?」


 本当は頭からステーキソースをかけられて怯えている、おはなし牛もいるのだが、可哀想なのでいないことにしたい。


「聞かれたのなら答えなければなりませんね。ついでに同行を許します」

「同行も何も、私の仕事はスィさまの随伴ですけど」


 じゃあどうして、昨日研究棟に付いて来なかったのか問い詰めたいが、スィが自由行動したことがバレるので黙っていた。


「研究棟です」

「研究棟? あそこはエメルーシャさんの領域ですよ?」


「昨日行って、隅から隅まで調べられました」

「どうして私に言わずに行くのですか!」


 速攻バレた。


「これには訳があるのです」

「何ですか?」

「魔王さまに行けと命じられました」


 魔王はスィに誰か魔族七人衆(○´艸`)を紹介しろと言われたので、紹介しただけだった。


「魔王さまの命令なら仕方がありません……すみません、怒ったりして」

「気にしなくてもいいです。よくある事です」


 リリフィーが申し訳なさそうにするが、スィは一切罪悪感を覚えなかった。


「それで、また今日尋ねようと思っているのです。あなた以外にも親友(マイメン)を増やしていきたいのです」


 魔王の前で奴隷呼ばわりしたリリフィーの事を平然と親友(マイメン)呼ばわりするスィだが、当然心は痛まない。

 奴隷と言ったことは忘れていないし、今も奴隷と思っているが、全く一切一片も心は痛まない。


「そうですか。確かに私もエメルーシャさんとはもっと仲良くしたいです」

「では行くのです。奥まで調べてもらうのです」

「え? え? お、奥って、何の……あ、ちょ、ちょっと! 服! 服を着ないと!」


「どうせ、奪われるのです」

「言ってる意味が分かりませんし! どっちにしろ着なきゃだめです!」


 スィは叱られながらも服を着て、二人で研究棟に向かった。




「また来たにゃ! お前は調べたら人間だった奴にゃ!」

「最初からそう言いましたが」


 スィは若干苦手な魔族が数人いるが、エメルーシャもその一人だった。

 だが、苦手は克服していきたいと思っている。

 キャンヴェラのように手遅れにならないうちに。


「お前の事は調べつくしたにゃ! エメラナ人85.4%、ヴィラス人9.8%、月経周期は28.45日、今は18日目、乳房の形状は右が3.4グラム多い、乳輪は左が0.23ミリ大きいにゃ、性器の形状は──」

「待ってください。私すら知らない個人情報を広める前に、今日は新しい研究素材を連れてきました」


「にゃ?」

「え?」


「この子は自由に研究してもいい子なのです。素体として提供するのです」

「ほんとかにゃ!」


「ちょ、ちょっと! そんな事一言も言ってませんよ?」

「サプライズです」

「で、ですが……!」


親友(マイメン)には、サプライズがつきものですよ」

「そういうのではなく! あ、ちょ、ちょっと、エメルーシャさん!」


 リリフィーはエメルーシャに連れられて行ってしまった。

 スィはただ、自分だけが調べられた恥ずかしさを、リリフィーにも道連れにさせて溜飲を下げたかっただけだった。




「ひどいです……」


 しばらくして、全裸で戻って来たリリフィーが泣いていた。


「よくある事です」


 そして、その原因はさらっとそれで済ませた。


「あんなところにあんなものを挿入()れられたり、あんなところから出た体液まで採集されるなんて……」

「そんな些細なことはともかく」


 スィは自分の行った行動の結果が自分に関係ないなら何の興味もなかった。


「私の目的は、エメルーシャさんと親友(マイメン)になりに来たのですが。彼女はどこに?」

「……私のデータを解析しています」


「では、その結果を聞いて、それからお話をしましょう」

「いえ! 聞かなくてもいいです! 私が一人で聞きますから!」

「私は親友(マイメン)の事は何でも知っておきたいのです」


 スィは、リリフィーの身体の事には何の興味もないが、リリフィーの人格まで否定するほどの情報をただ、知りたかった。


「そ、それなら別に……い、一緒に聞きましょうか」

「いえ、やっぱりいいです」


 ただ、本人が嫌がってないならそこまで聞きたくはなかった。

 みんな忘れてるかもしれないけど、スィってクッソ性格悪いからね?


「とりあえず、話をしましょう。親友(マイメン)を増やしましょう」


 スィはリリフィーを連れて、研究棟の奥に踏み込んだ。




「それで、多分親友(マイメン)になれました」

「……別に報告しに来なくてもいいんだけど。どうして多分なのよ?」


 律儀に魔王に報告に来たスィを、魔王は面倒そうに対応する。


「彼女はサイコパスなので、本当に話が通じたか分からないからです」

「サイコパス同士は話が通じないでしょうしね」

「リリフィーさんはサイコパスでしたか」


「サイコパスはあんたよ!」

「そんな些細なことはともかく、一応友情の印をもらったのです」

「友情の印? 何をよ?」


 魔王ですら話が通じるかどうか微妙なエメルーシャから友情の印をもらった。

 それは確かに凄い事かも知れない。


「それは今、魔王さまが見ているのです」


 そういう言葉遊びが面倒な魔王はイラっと来た。

 月経周期が二日目なのかもしれない。


「さっさと言いなさいよ! 言わないと監視役をキャンヴェラに変えるわよ!」


 魔王はスィの弱点はキャンヴェラだと思っているし、実際確かにちょっと苦手としているが、おそらく魔王の思ってるのとは違う。


「それは、こういう事です」

「!?」


 その声は、目の前のスィからではなく、魔王謁見の間の入り口から聞こえた。

 だが、確実にスィの声だ。


 入り口を見ると、そこにはスィとリリフィーがいた。


「え? ええっ!?」


 では、この目の前のスィは何者だ?


 不細工大好き以下略は話す機能は付けていない。

 という事はこれは一体何なのだろう?


「そこにいるのは純度99.99のクローンです。ほぼ完全な私です」

「え……」


 目の前のスィはどう見てもスィで、その表情や言葉遣いまで含めて完全なそれで、一切違和感はなかった。


「クローンって……確か記憶とか共有出来ないよね?」

「それが出来るレベルのクローンです。あの研究棟で作ってもらいました」


 つまり、目の前にいるのは、性格も記憶も含めて、ほぼ完全なスィそのものなのだろう。


「……なんでこんなものを?」


 正直、不細工大好き略だけで不愉快になるのに、これ以上増えられても困る。


「私の影武者です。それを先頭に立たせて殺されます」

「あんた、誰にも命狙われてないわよね!?」

「これから占領する街が増えると、アイドルとして数が多い方がいいですし」


 どこの街に行っても受け入れられるという完全な自信だ。


「それに、私の魔王城美化計画が倍速で進みます」

「…………」

「これで一層魔王城が美しくなります。よかったですね」


 もちろん魔王城は美しくはならない。

 この城は女性ばかりの職場環境のような感じのスタイリッシュな空間が自慢なのだ、魔王的には。

 だが、このスィはそれを魔王城らしくないと言い出して、壁や床にガイコツを埋めたり、柱に逆さ十字を刻んだり、どんどん悪化させているのだ。


 これ以上の悪行を、しかも倍速化させるなどありえない事だ。

 そこらにガイコツとか置かれても、怖くて漏らしてしまうかも知れない。

 もうおむつ必至だ。

 魔王は属性としてオムラーにはなりたくない。


 というか、スィ一人でも持て余しているのに、二人もいたらウザい。

 単純に考えて、ストレスが倍になることだろう。

 倍で済めばいいが、それ以上の可能性もある。


「ねえ、これ、クローンはこっちの方なの?」

「そうですね。両方美しいですが。カリスマ性が少し劣りますから」


 もちろん魔王はそんなものを感じたことは、一切ない。


「じゃ、こいつ、処刑」


 魔王はこれ以上スィが増えるのは我慢できなかった。


 スィ(偽)は、公開絞首刑となった。

 魔王が言い出して、みんなで見たのだが、死ぬまで数秒苦しんでいる様子に、魔王自身が罪悪感を覚えて、数日間脳裏にその様子が浮かんで苦しめられた。


 リリフィーは三日ほど寝込んでしまった。


 ただ、スィ自身は表情を変えずに甘いおやつを食べながら眺め、そのまま美化活動に行ってしまった。


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