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第12話 軍師、魔王を表舞台に引き出す

「それで、スィさまはカルバスの街では絶大な人気を誇っています」

「……そう」


 リリフィーから報告を聞いた魔王は、妙に嫌なものを感じる。

 スィが人間に絶大な人気がある、それ自体は悪い事ではない、むしろ喜ばしいことだ。

 彼女は魔王軍幹部であるし、彼女の人気は魔王軍の人気でもあるはずだ。

 が、最近、どうもそうじゃないのではと思うようになって来ている。


 スィの人気はスィ個人の人気であり、魔王軍とは全く関係なく、いや、むしろ、彼女の人気は魔王軍の嫌悪感を生み出した先に発生しているのではないだろうか? と感じたのだ。


 それは魔王様が鋭いのだが、リリフィーが大歓迎を受けたと聞いて、それが揺らいでいる。

 この子が大人気になるのか。

 確かに可愛い子ではあるが、でも、女としての美しさは自分の方が上なのではないだろうか?


 自分もスィについて行って出てみようか?

 いや、それでもし微妙な反応だったら?

 魔王は勇猛果敢でクールな女性に見えるが、その実チキンなお姉さんだ。

 もし微妙な反応なら、二度と人前に出なくなるし、怯えられようものなら、帰ってから泣き出すかもしれない。

 一人寂しく泣く魔王様はあまりにも惨めだろう。


「それで、その……魔王様に無断で人間の前に出てしまいましたけど……」

「ああ、どうせ、スィが強引に出させたんでしょ?」

 

「は、はい、全くその通りです!」

「なら仕方がないわ、それに怯えられなかったのよね? 何の問題もないわ」


 ちょっと悔しいけど。


「それで、彼女の様子はどうなの?」

「やること全て無茶苦茶ですけど、全て理にかなっています」

「そう! それなのよ!」


 物凄く納得が出来る。

 それだ、それなのだ。

 スィのやっていることは、はっきりと言えば異常だ。

 言っていることも頭がおかしいと思えてしまう。

 だが、それでも、全て、正しいのだ。

 だから始末に負えない。


 異常にしか見えない行動をやった結果、必ず成功する。

 彼女の功績は目覚ましく、だからそれは讃えられなければならない。

 彼女がいなければ、まだ魔王軍に領地はなかった。

 だからいろいろ面倒なのだ。


 もはや領地を得た魔王軍は、攻撃するだけではなく、守らなければならない。

 領地を取り返しに来る人間たちと戦わなければならない。

 これまでと違い、こちらの都合ではなく、向こうの都合なのだ。

 それらに臨機応変に魔王たちが対応できるか、と言えば無理だ。


 この前の騎士団の行軍ですら、魔王は震えていたのだ。

 ちびりそうだったのを、大人なので我慢したのだ。

 だから、もう彼女を追い出すことは出来ない。

 悔しいが、いてもらうしかない。


「まあ、分かったわ。それでエンマルの街の方は?」

「あ、いえ、私が付いてからは一度も行ってません」

「え? そんなにも行ってないの? でも、連絡事項を伝えたりすることもあるでしょう」


 魔王は回数や期間は決めていないが、定期的に町を訪れて、様子を伝えつつ、いつか魔族が町に行くときの受け入れ準備をして欲しいと伝えてある。

 だから、長期間行かないという事はそれに反している。


 確かにエンマルの街は若干遠い。

 だが、それは理由にならない。


「理由は? 聞いてないの?」

「遠いから、みたいです」

「あの子には、おはなし馬を与えてあるはずよ? それを使えば遠くはない距離よ」


「それが……スィさまのおはなし馬は、ノイローゼにかかってしまい、壁に向かって『俺はラッパー、孤独なラッパー』とぶつぶつ言うだけになっていて……」

「はあ!? 何をすればそうなるのよ!?」


 おはなし馬は、馬なのでどちらかというと繊細な魔物ではあるが、ノイローゼに追い込まれたという報告はこれまで聞いたことがない。


「そこまでは聞いていませんけど……」

「いいわ、今日は私もついて行きましょう」

「は、はいっ!」


 魔王はスィについて行き、エンマルの街へ行くよう指示した。


「馬が壊れやすいのです」

「精神的に壊すのはやめなさい」

「脆いから仕方がありません」


「脆くなんてないわ! あの子たちは可愛がればきちんとそれに応えてくれる子たちよ?」

「でも、すぐに壊れますよ?」

「何をすれば壊れるのよ?」


「何もしていません。ただ、道中他愛もないお話をしているだけです」

「……どんな?」

「普通の話ですよ? 『あなたは馬ですか? 人ですか?』『馬としての誇りはありますか?』『人型でないという劣等感はありますか?』『どうしてこのような形で造ったのか、魔王様を恨んだことはありますか?』などです」


「あほかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 そんなものを道中ずっと聞いてたらノイローゼになる。


「あなたはおはなし馬に話すのは禁止! 今日は私もエンマルの街について行くわ! 行くわよ!」

「待ってください、準備がありますし」

「何の!?」


「新曲を引っ提げて行きたいのです。エンマルの街は厳しいので」

「必要なし! 早く行くわよ!?」


 スィは、魔王の背に乗ってエンマルの街へ向かう。


「海が見たいわ!」

「うるさい!」


「わ、私も一度見てみたいです!」

「いつか見せてあげるから! 今は我慢して!」

「わ、分かりました!」


「格好いいですね。魔王様のくせに」

「叩き落してあげましょうか!」


 エンマルの街は、そんなには遠くないので、そんな会話をしているうちに到着した。

 魔王にとって目の前で岩石兵士を絶滅させられた思い出したくはない地域だが、ここまで来たら行くしかない。


 元貴族の屋敷に入る。

 ここは発表の前の控室みたいに使っている。


「魔王様も出るのですか?」

「出るって言うか……そこは流れで、みたいな?」


 魔王はチキンなので、自ら積極的に出たいとは言わない。

 嫌がる彼女が強引に連れ出される感じが望ましいと思っている、魔族で一番偉い人。


「流れとは何ですか?」

「その……魔族が出てきてもいい感じの雰囲気ってあるじゃないの? そういう感じになったら、ってことで」

「分かりました。では、そろそろ時間なので行ってきます」


 スィは部屋を出て、謁見の間みたいなところに向かう。

 魔王は物陰からこっそり外を覗く。


 人はまばらで、そこまで多くはない。

 リリフィーに聞いていたような熱気もないようだ。


「みんなー! 今日もプリンセス☆スィのギグに来てくれてありがとう!」


 観衆はほぼ無反応。

 多少ざわめいた程度だ。

 そして、それに確実に気を悪くしたスィ。

 ああ、そう言えば、仕込みをしなければと言って忘れていたのを思い出す魔王。


「今日も特に連絡はありません」


 観衆はやはり無反応のままだ。


「このまま帰るのもなんですので、歌を歌います」


 スィが言うが、観衆はぞろぞろと帰って行った。

 ああ、こっちではこんな反応なのか。

 とは言え、これが本当なのだろうな。

 本来、連絡事項とはそういうものだ。


「今日は魔族のお友達が来てくれています」


 ……え?


「出番ですよ?」

「え? ちょっと待って? 今そういう流れじゃないでしょ?」


「いいから来てください!」

「ちょ、ちょっと……!」


 魔王は容赦なく謁見に引っ張り出された。


「今日は私の親友(マイメン)グリーヴィちゃんです。魔王を務めています!」


 そこから見る民衆は、まだ結構残っていた。

 魔族、そして魔王を一目見ておきたいという興味本位だろう。


 その好奇の目が一斉に魔王に向く。


 そこかしこからのざわめく声。

 おそらく魔王が女であると思ってもいなかったのだろう。


「それでは一曲歌っていただきましょう、曲は『私はキュートな魔王様』!」

「え? え? わ、私が歌うの!?」


 慌てる魔王。

 だが、流されやすさナンバーワンの魔王でもある。


「わ、わーたしは、ステキなまおうさまー」


 歌い始めた。

 必死に歌詞を即興で考えて歌う。

 あまりに必死過ぎて、周囲も全く見えていなかった。


「せーかーいーをー、支配、しちゃうぞー」


 一曲歌い終わった後、下を見ると、誰もいなかった。

 しかも隣にいたはずのスィもいなくなっていた。

 魔王の目が潤んだ。


 ここではスィもリリフィーもいるし、泣くわけには行かないと我慢しているが、帰ってから夜に絶対なく感じが垣間見えた。

 そして、帰ろうとしたら、彼女のおはなし馬をスィが乗って、既に帰っていた。

 リリフィーもそれについて行ったようだ。


 魔王は、すすり泣きながら歩いて帰った。

 その姿は、もはや魔族の王のそれではなかった。


 それ以降、魔王は引きこもってしまった。


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