第10話 軍師、百合の花を咲かせかける
「もう、スィさまを信じませんし、監視を強化します」
爆弾岩石兵士をまたも絶滅させられた、というかそれ以外使い道のない魔物を造らされたリリフィーは怒りながらそう言った。
「ですが、あの兵士はとても役に立ちました。王国の騎士団を退けたのです。それは今の魔王軍ではなかなか難しい事ですよ?」
「それは、そうですけど……」
「あなたの作った魔物は、魔王軍を救ったのです。これは誇ってもいい事です」
リリフィーはどうにも納得が行かない。
魔王にもあの軍師は口が達者だから理詰めで来ても騙されるなと何度も言われたのだ。
「と、とにかく、監視は強化しますっ! 今日からは密着二十四時です!」
言ってる意味は分からないが、とにかく面倒なことになりそうだと感じたスィ。
「ずっと密着ですか?」
「ずっと密着です」
「お風呂も一緒ですか?」
「お風呂も一緒です」
「寝るのも一緒ですか?」
「寝るのも一緒です」
「おトイレも一緒ですか?」
「お、おトイレは……外で待ってます」
「あなたのおトイレの時も密着ですか?」
「し、しませんっ!」
「なんだ、大したことないのですね」
鼻で笑られるリリフィー。
「わ、分かりましたっ! 密着しますっ! おトイレも覗きますっ!」
「それではただの痴漢ですよ?」
「私は、魔王様の命令で……」
「では、魔王様が痴漢なのですね?」
「…………」
リリフィーは黙って涙目でスィを睨むだけになったのでスィも溜飲を下ろした。
「分かりました、ここはお互い妥協しましょう」
「はい」
「密着はあなたの仕事なのでしてもらっても構いません。ですが、あなたも魔物を造ったりしなければなりませんし色々大変でしょう。ですから、私が軍師として策を考えている時には自由にすればいいと思います。そんな時には何も起きないでしょうし」
確かに、軍師として作戦考案中に何かをしでか、という事はないだろう。
自分も数少ない魔族として、新しい魔物の開発もしていきたい。
確かにこれはいい妥協かも知れない。
まあ、実際のところは、その時こそ止めるべきなのだが。
「分かりました、そうしましょう。ですけど、それ以外は密着ですっ!」
「お風呂もですか?」
「お風呂もですっ!」
そんなわけで、お風呂タイムにも密着して付いてきた。
「いやーん」
「…………」
「うふーん」
「…………」
スィの自称挑発にも応じず睨み続けていたリリフィー。
「そんな所で立っていられても恥ずかしいので一緒に入りませんか?」
「私は仕事中です」
「私と近しくなる仕事ではないのですか?」
そんな仕事だっただろうか?
確か常に監視していて、あいつが変なことをやろうとしたら止めなさい、と言われた。
「私の仕事は監視です。だから、馴れ合いません」
「私に影響を与えられるのは、私の親友だけですよ? これは魔王様でも無理なのです。あなたがそれになれば、かなり役に立つ人になりますよ?」
自分を操作出来れば、役に立つ、とか、自分が迷惑な存在だと認めなければ中々出てこない発言だ。
「……ですけど」
「もちろんこれはただのいいわけです」
あまり表情のない彼女が、小さく微笑む。
「本当はただ、あなたとお風呂に入りたいだけです」
「スィさま……」
リリフィーは情に流されて爆弾岩石兵士を作った女の子です。
彼女は風呂に入ることにした。
「これ、どうしてお湯が白いのですか?」
脱衣してからもう一度入ってきたリリフィーが聞く。
風呂の湯が白く濁っていて、なんかヤバい気がしたのだ。
「おはなし牛に二択を聞いたら快く母乳を提供してくれました」
「二択ですか?」
「はい、母乳を寄越すか食肉になるか」
「そりゃ母乳提供するでしょう! そう言うところを直して欲しいのです!」
「ですが、私が美肌を保つためには、母乳は必要なのですよ」
「ですから、頼み方ですよ。脅すのではなく、お願いするのです、くださいって!」
「まあ、そんなことはいいから入ってください」
スィが湯船に誘う。
注意をめっちゃ軽く流されたが、確かにこんなところに裸で突っ立っているわけにもいかないだろう。
「では、入ります……ふう」
「広いでしょう。これ全てを母乳で満たそうとすると、おはなし牛のお乳から血乳が出たので、今では一割が母乳です」
「だから、そう言うところっ!」
そう言ってスィに詰め寄るリリフィー。
「あ……」
お互い裸なのを思い出す。
スィの肌は真っ白で、しかももの凄く肌理が細かい。
自分のこの褐色の魔族としての肌も嫌いではないし誇りを持ってはいるが、この肌には勝てない、と実感する。
「どうかしましたか?」
「スィさまは……綺麗ですね」
「ごめんなさい、あなたは私の好みの性別ではないですっ!」
抱きしめられた。
それは暖かい、柔らかい包容。
だが、「好みの性別ではない」に自分もと言わなかったので、スィは身の危険を感じていた。
強引に来られたら身を任せてしまうかも知れない。
「どうすれば、なれますか……?」
リリフィーは、あまりに肌が綺麗なので、全身で触りたくなって抱きついた。
そして、どうにかして自分もこうなりたいと、秘訣を聞いた。
が、スィはその言葉を「どうすればあなたの恋人になれますか?」と、解釈した。
「まあ、無理ですね、諦めてください」
「そんな……」
「こんな事を言いたくはありませんが、まず人種が違いますし」
「魔族では、駄目ですか……?」
「いえ、駄目というわけではありませんけど」
「何でもしますっ! どんな事でも耐えますっ!」
あまり知られていないことだが、スィにも心というものがある。
そして、見た目は可愛いし家柄もよく、才女なので、言い寄られることもなくはなかった。
とは言え、彼女も今で十四歳、この半年は勇者軍にいたので、粗野な奴らが構ってもらうために意地悪したりするような感じだった。
それ以前は、まだ子供だったので言い寄られた、というよりは可愛いと話しかけられていた、というのが強いだろう。
だから、ここまで真摯に、まっすぐに言い寄られたことはなかった。
ここまで来ると、例え好みの性でなかったとしても、切なくなってくる。
好きとか、嫌いとかではなく、この子の願いを出来る限りで叶えたくなってくる。
何しろ、自分はそれが出来る立場なのだ。
とはいえ、さすがに女の子と付き合うのは、ご遠慮願いたい。
スィの本来の好みは渋めの男性なのだ。
リリフィーは見た目はいいとはいえ、何もかも正反対なのだ。
「お願いします! おはなし牛をもっと連れて来いと言われれば連れて来てもいいです!」
だが、出来る限り何とかしてあげたい。
ここまで言ってくれるのだ。
なんだか切ない気持ちすらこみ上げてくる。
何かないだろうか?
そう言えば、巷の噂で聞いた伝説のような話がある。
それは確か、このような状況だったかもしれない。
女の子同士で、一緒に話し、場合によっては、抱き合い、一緒にお風呂に入ったり寝たりもする。
心を通じ合わせはいるが、だが、それは恋人ではないという。
何と言ったか、確か……親友?
そんなものが、実在するかどうかは分からない。
何しろスィはこれまで生きて来て、そんなものに出会ったことがない。
だが、今この場を解決する一番いい方法かも知れない。
「私と、親友に、なりますか?」
「え……?」
いきなりの言葉に、リリフィーは問い返す。
やはり、伝説は伝説でしかないのか。
「いえ、聞かなか──」
「そうです! 私たちは親友ですっ!」
リリフィーがぎゅっと抱きしめて来た。
ああ、これが親友というものなのか。
それでリーフィーが納得した、という事なのだろうか?
ならば、解決したも同然だ。
「では、私と一緒に毎日お風呂に入るところから始めましょう」
「それだけ、ですか……?」
「こういうものはすぐにというものではないはずです、長く時間をかけてじっくり育てて行くものなのです」
分かってると思うけど、もう一度整理すると、スィは恋人になって欲しい、というお願いを親友で妥協させようとしています。
リリフィーは、スィのような美肌になりたくてどうすればいいか聞いて、この牛の母乳の風呂に毎日入るだけでいいと言われました。
「分かりましたっ! それじゃ、毎日一緒にお風呂に入りましょう!」
「はい、そうですね」
それで、両者は納得しました。
こうしてスィに風呂友が出来ました。




