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第1話 軍師、勇者の元を去る

 スィ・ゴ・キターオはちょっぴりサイコパスだけれど、いたって普通の可愛い女の子だ。


 彼女が笑うと、花々も恥じらい、うつむいてしまうと言われている。

 色素の薄い金髪は、おとなしい彼女とは対照的に、明るくその存在を主張し、どんなに人の多い場所に紛れても、彼女の存在を光り輝かせていた。


 彼女の父は王国の軍師という高い地位におり、彼女はいつか父を殺して後釜になるべく、戦術戦略兵站の勉強を重ねて来た。

 血統のおかげで頭のいい彼女はみるみる吸収して行き、あらゆる戦い方を覚え、そして「自分ならこうするのに」を考えて行った。


 そんな折、西の果てに魔王と称する者が、配下の魔族とともに森に城を建てたという。

 魔族はかつて神々の兵と戦い、滅んだはずの忌まわしき者たち。

 それが世界征服を企み、魔物を造り出して兵力を高めているという。

 大国と言えるわが王国は、場所も離れているし問題もない。

 だが、西の森近隣の小王国や貴族領は気が気ではない。

 何しろその貴族は王国の貴族なのだ。


 王国はこれを見捨てることは出来ず、かつて魔王を倒したという勇者の末裔を招集し、彼を中心に勇者軍、というものを結成させた。

 若い勇者と、それに賛同する熱い魂を持った血気盛んな若者ばかりで構成された義勇軍だ。

 国王は彼らを援助し、彼らの成長を手助けした。


 そして、彼らが集団である以上、まとめたり動かしたりするための軍師が必要となる。

 それには彼らと同じ若い目線で物事を見ることが出来るような、つまり勇者の頭脳にふさわしい者が必要だと考えられた。

 その候補に最初に名前が挙がったのはスィだった。


 スィの方もそれはやぶさかではなかった。

 スィももう十四歳。

 そろそろ自分専用のグッドルッキングガイズが欲しいと思っていたところだ。

 自分が男たちを手の平で踊らせて守らせるグッドルッキングガイズ。

 それは夢見る少女(自称)には願ってもない機会だ。

 だから、引き受けることにした。


 が、初見でまず失望することになる。

 グッドルッキングガイがほぼいない。

 勇者自身は、まあ、合格点に達している。

 顔も整っている。

 が、それ以外のほぼ大半は、何の価値もない男ばかりだった(ここで論じているのは美醜のみの話です)。

 悪臭の漂ってきそうな、でかく醜い男に「あなたは何故この隊グッドルッキングガイズに志願したのですか?」と訊きかけてしまった(ここは勇者軍です)。


 とは言え、勇者をはじめ、グッドなルッキングの(ガイ)もいたので、やる気のあるポーズはしていた。

 いや、自己主張は苦手なので、あまり喋らなかったのだが。

 そして、軍に付いて、勇者軍バッドルッキングガイズを見回っていると、彼女は気づいてしまった。


 あ、こいつらクッソみてえに無能だ。

 やる気しかねえ。


 もちろん彼女もいいところのお嬢様だから、クッソとは言わない。


 おうんこみたいに無能ですわね。

 やる気しかありませんことよ。


 こんな言葉使う奴は人類が進化する過程で淘汰されたに違いない。

 お○んこをおうんこだと思ってた知り合いの話はまた今度。


 とにかく勇者軍が無能過ぎた。

 やる気はやたらあるが、言ってることは馬鹿。

 いや、それは仕方のない事だろう。

 彼らの仕事は軍師ではなく戦士。

 学のない体力自慢の集団なのだから。


 だからこそ、頭脳という部分は専門家に任せればいいのだ。

 だが、全軍の指揮を任されているスィの意見にも「それでは駄目だ!」と怒鳴るように言い、彼女のいう事を聞かない。

 彼女の提案を、もう一度勇者に聞きに行く始末だ。


 更にこの勇者があまりにも馬鹿だ。

 正直なところ見た目はいい。

 綺麗なものを汚したくなる背徳的な日には、顔面パンチしたくなるくらい、整っている。


 そして、スィの可愛さに気づき、彼女が自分に付き従う軍師と聞いてやったら頑張ってる。

 まあ、それはいい。

 自分の美貌(自称)が、人のやる気を引き立てるならそれも軍をまとめる一つの手だ。

 が、こいつ、精神的に子供(ガキ)過ぎた。


 スィの気を惹きたいあまりに、スィの言う事を聞かないのだ。

 それ以上の事をして、尊敬されようとするのだ。

 当然頭の悪い奴は頭の悪い事しか思いつかない。


 勇者はそれを最高の案だ! と言い張って周りを巻き込んで通してしまう。

 そして自分の凄さをスィに見せつけようとするのだが、スィとしてはただ自分の立場を崩されただけに過ぎない。

 それが妙案なら致し方がないし、勇者を尊敬して、その案を具体化することに頭を使う事だろう。

 だが、その案がとても頭が悪く、尊敬のかけらも出来ない。


 更に言えば、こいつらクッソ弱い。

 いや、おうんこ弱い。

 腕試しにゴブリン狩りに行くことになり、スィは陽動部隊と後方弓隊、本攻撃部隊に分けての作戦を立てた。

 が、勇者は「ゴブリンごときに身構えちゃ、魔王なんて倒せねえぜ?」とか、格好良く言い放ち「一人十匹だ! 俺は三十匹やる!」とか言って先頭で走って行った。


 これで本当にゴブリンを全滅させて来たら、スィも考えを変えたことだろう。

 が、先頭切ってゴブリンに突っ込んだ勇者は、ゴブリンが腕を右から左に振るだけで吹き飛び、気絶した。

 その後わらわらと出て来たゴブリンに、他の者は逃げ帰って来て、勇者をその場に置いて来た。


 しばらくしてから、全てを奪われた勇者が裸で帰ってきたという。

 その裸体を見て、ステキ、きゅんってなることはなかった。



 この物語は、使いどころのない彼らを意外な使い方で戦わせ、魔王軍を跳ね退けて快進撃を続ける一人の少女軍師の、愛と情熱の物語。



 ではなく、合理的に物事を考える少女スィが、自分のキャリアのために勇者を見捨てる話である。


 さて、このように弱いし言う事を聞かない勇者軍ではあるが、勇者の元に軍師の娘スィが招聘されたことは世間に伝わっている。

 何せ美男勇者と、それに付き従う美少女軍師なのだ。

 これはとても絵になる構図なので、後の伝説に残すため、どんどん広まって行ったのだ。


 名が知れるという事は、当然、今後のキャリアにも関わって来る。

 こいつらにこのまま付き従っていたらどうなるだろうか?


 スィにはこいつらの未来は見えていた。

 魔王軍に行き当たって敗退、しかも二度と立ち直れないほどの痛手を負う事だろう。

 画期的なアイディアや発想があれば、こいつらでも魔族を撃退できるだろうが、あいにくこの世界で生まれ十四年の記憶しか持ち合わせていないスィにはそんなもの(チート能力)はなかった。


 となれば根気よく育てるしかないのだが。

 合理的なスィにとってそれは費用対効果が悪い。

 そして、このまま従軍していると、その責任は軍師に向いてしまう。


 軍師スィは、あの勇猛果敢な(世間の想像)勇者軍ですら敗退させた。

 若い自分のキャリアが、こんなクズどもの世話で汚されるのは我慢ならない。



 だからスィは、こんな書き置きをして去っていった。


 拝啓、私はどちらかというと背景のある男性は好きです。

 私が何の前触れもなく切りかかったら、すい、と避けて「おいおい、お痛が過ぎるぜ子猫ちゃん?」とかいう人が最適でしょうか。

 「お嬢ちゃん」でもいいですが、こちらを弱いと揶揄(からか)いつつも、尊重しているという姿勢は忘れない方がいいです。

 私は弱いと暗に言われたことを悔しく思いつつ、でも憎み切れず、ただ睨むことしか出来ないでしょう。


(以下、男性論が数ページに渡り続く)


 あなた方は、私の要求を満たせないばかりでなく、提出した改善案を無視し、再三にわたる注意書を無視しました。

 よって能力不足及び、改善の見込みなしとみなし、私はあなた方を指揮することを放棄いたします。


 今後は勇者様が軍師を務めればよろしいかと思います。


 かしこ



 追伸


 勇者様が立派なのは股間だけですね(○´艸`)


 あと、私の事を陰で「顔はいいけど、スタイルがまだお子ちゃまなんだよなあ」とか言ってた奴、許さないからな。

 絶対泣かすからな。

 名前は憶えてるからな、いつか訪ねて行くからな。

 確か、ゲリガトマライナイネン……。

 まあ、名前は忘れたけど。

 絶対に行くからな。

 顔は覚えてるからな、確か目が二つあった。

 覚悟しとけよ。

 「じごくもかくや」という目に遭わせてやるからな。



 挨拶と追伸が異様に長くかつ熱く、本文は態度不良社員の解雇通告みたいな冷めた内容の手紙を置いて、スィはいなくなった。


 ていうか、何の前触れもなくいきなり切りかかるシチュってなんだよ?


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