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ウロウロする一人と一羽

只々、ひたすら歩いた…しかし、いくら歩けども街は愚か人の姿もない。あるのは広大な平原と野生の動物と思われる不思議な生き物たちのみ。足が六本ある狼、羽の生えた蛇、管楽器のような角を持つ牛の群れがオーケストラさながら演奏していたり、筋肉隆々の腕が生えた大きなダチョウ?を見た時はあまりの可愛くなさに白目を剥きそうになった。次第に空はオレンジ色に染まり太陽も沈みかけ、腕時計を見ると十六時を過ぎたあたりで、晶は途方にくれていた。


「無断欠勤…クビ…無断欠勤…クビ…」


 ブツブツと呟きながら遠い目をしていた晶だが、くぅっとお腹が鳴り昨日の夜から何も食べていないことを思い出す。


「朝食は食べるべきだったなぁ~、こんな世界に来て自分の食生活を見直すことになろうとは…。フフフ…コンビニはどこじゃァァァァ!!スーパーはぁぁぁぁぁ!ファミレスはぁぁぁぁ!自販機はぁぁぁぁ!ウゥゥゥ・・・」


 23歳にもなって泣きべそをかきながら、現代社会の粋を集めたものを叫び、喚き散らす。こんな世界にいても私は普通の現代っ子なのだ。


「はぁ…あの安くておいしいミラノ風ドリアが食べたい…」


 涎を垂らしながら、うふふふ・・・とお腹が減りすぎてハイライトの消えた虚ろな眼で、こんな平原のど真ん中にあるはずもない物を思い浮かべていると風の便りが届いてきた。


「…~~~」


「はぁ~…ため息が多くなったなぁ。ため息をする度に幸せが逃げるっていうよね。あぁ~私の幸せがァァ…」


「…ょ…ょ」


「ん?なんか聞こえ…」


「ぴよ~~~~~」


「え?な、なに…?」


 何か聞こえた?と言わんばかりに周囲を見渡す。


「ぴよ~~~~~~!!!!」


「なななななn、何なんでここにぃぃぃ!?ついてきちゃったの?」


 声のする方に視線を向け、その声の主をみて目を剥く。その声の主は、平原の丘で目を覚まして一番最初に出会った大きなスズメであった。あの頭のアホ毛は見間違うはずもなく、その巨大スズメは晶に向かった飛んでくる。いや、猛然と突進してくる。すごく嬉しそうな鳴き声を奏でながら、後ろに六本足の狼のような生き物を数匹引き連れて…


「~~~ッ!!」


 顔面蒼白!もはや声にすらならない。此処まで歩いてくる途中で何度か目撃した狼だ。遠目だが、数匹で鹿っぽい動物を仕留めていたり、群れで子育てをしている姿を見していたのでなにか動物のドキュメンタリーを見ているようで微笑ましく思っていた。だけども、まがりなりにも肉食獣なので決して近寄ろうとはしなかった。そんな六足狼達は目を血走らせ、ギラリと光る牙の間からダラリと長い舌と涎を滴らせながらスズメを追っていた。その気持わかるっ!まんまるで美味しそうだよねっ!



「ぴよ~~~~!!!」


「わわわわ!、すずめちゃ~んこっち来ちゃだめぇぇ!!」


 伝わるはずもないのにそんなことを叫びながら、一人と一羽は六足狼達から必死に逃げる…が人が狼の足から逃げ切れる訳もなく、あっけなく追いつかれ囲まれてしまう。


「グルルルル」


「ハァ…ハァ、ゔぉえっ」


「ぴよ!ぴよ~!!」


 また逢えたと歓喜の舞を踊るスズメが一羽と日頃の運動不足が祟って息も絶え絶えな女が一人。えっ!なんでそんなに嬉しそうなの?空気読んで!うひぃっ、一番大きい狼の目こわっ!見た限り六足狼の数は、一際多きい群れのリーダーであろうのをいれて五匹、リーダーの体長は2mくらいで取り巻きは1mほど。人間が狼の群れに囲まれるイコールうん!もう間違いなく終わっているでしょ。そんなことを考えながら息を整える。


「どうしよ…これ」


「ぴよ~~」


 晶はこの状況をみてかなりヤバイと感じていた。これが小型犬の群れであればもしかしたらとも思ったのだが2mもある狼なんて洒落にならない。今までの私だったらだけどね。


「ふふふん!ここはもう覚悟を決めるしかないようですね。ファンタジーの世界に舞い降りたこの田井中晶が不埒な狼どもを懲らしめてあげましょう!」


「ぴよっ!」


ビシっと腰に手を当て、一際大きな狼に対して人差し指を突き付けて高らかに宣言する。その横では真っ白なスズメも腰?に左の手羽先をあてながら右の手羽先を向ける。


(なにこれ///かぁいいよぉ!!)

「をほん!ここはファンタジーの世界、つまり魔法が存在するのよっ!」


って、ゲーム好きの友達が言っていたし、私も某有名ゲーム「ファイナルなファンタジー」で遊んだことぐらいはあるのだ。つまりファンタジー世界では魔法が使えるのよっ!勝った!私はこれまでにない程の勝利を感じていた。ふふふ


「いくわよっ!雷魔法サンダル!」


「ガウッ!」


「ひっ…」


「グルルル」


「うわーん!最強魔法アステマウェポン!」


「ガウッ!」


「ひゃっ…んん~どうして出ないのよぉ!私の最強魔法~!」


出るわけなかった。たしかにこの世界に魔法は存在しているが、そもそもそんな魔法名でもないければ魔法を使うには余程の修練を積まなければならないのだ。というかゲームの魔法名すら正確に言えてない時点で晶はすでに詰んでいるという事に気付くのはまた別のお話である。


 その時、群れの一匹が晶めがけて飛び出してきた。晶は、あぁ~これもうだめだわと背を向けてしゃがみ込む。そして次の瞬間、猛然と飛びかかってきた六足狼が吹き飛ばされる。


「ギャウン」


(あ、あれ?私死んだ?)


 ズドン ズカッ バキャッ


(さっき狼が飛びかかってきたから、きっと今私は噛みつかれて血が大量にブシャーってなってて骨は噛み砕かれて、きっと内蔵も引っ張り出されてヒョイパクーってされながら、あっ!ホルモン焼き食べたくなってきた。アレ美味しいんだよね!シロコロだっけ?あれとご飯があれば最強だよね!焼肉サイコー!そして、血溜まりのなか微睡んでゆっくりと死に向かっていってるんのよ。きっとそう!私まだやりたいこと沢山あったのに親不孝な娘でごめんなさい。悲劇のヒロインな私をどうか許して下さい。お母さん、お父さん、お兄ちゃん、紫ちゃんごめんなさい。私は先に逝って待ってるわね。どうかいつまでも健やかで。でもよかったぁ、死ぬときって全然痛くないのね!うふふ)チラッ


「ふぁっ!?」


「ぴょッ!?」


どうやら、私がトリップしている間にすべてが終わっていたようだ。狼達がうめきながら地に伏している。


「ぴよちゃんがやったの?」


「ぴよっ!」


どう?すごいでしょ!と言わんばかりのドヤ顔である。かぁいい。あと、どさくさに紛れてぴよちゃんと呼んでみた。かぁいい。


「すごぉい!ぴよちゃん世界一かぁいいよ!」


「ぴよん!」


なにこれ可愛すぎる。


「ふぅ、でも死んだかと思った…」

「ぴよ~~~」


 その場にへたり込んだ晶と物凄い勢いでモフモフを擦り付け甘えてくるぴよちゃん。

 ぴよちゃんのフカフカ羽毛を手でモフモフして癒されながら周囲を見渡すとまだ、気を失っている小狼たちの中で一際大きな狼が呻いていた。どうやら前足を怪我しているようだ。きっとぴよちゃんにやられたのね。でも自業自得よ!ぴよちゃんが助けてくれなかったら私が、この狼さんにあんなことやこんなことをされてかなりスプラッターな絵面にされていたんだから。モザイク必須モザイク少女にされるところだったわ。えっ?少女じゃないって?ひっぱたくわよ!

そんなこと考えながら狼を見ていたのだけれど、狼さんからしたら、命をかけて自然の中で生きていただけなのよね。このまま放って置いたら、きっとこの先生きるのにも支障があるわよね。なんだか、それはかわいそうかも……。

うーんうーんと一通り唸ったあと晶は徐ろに立ち上がった。


「よしっ!気が変わった。あなたの治療をしましょう。今から少し触るけど絶対噛まないでね!えっと、振りじゃないよ?」


「グルルルル」


狼は晶が何を言っているのかわからなかった。いや、言葉は理解している。解らないのはなぜ敗者の傷を治すだなどと言っているのかだ。今までだってそうだった。敗者は勝者の食料に過ぎないのだから。晶はただのちょっと変わった動物だと思って接しているが、この狼は魔物だった。人語を理解し、人よりも圧倒的な胆力を持っている。今回だって負けたのはこの人間にではない、隣で馬鹿騒ぎしているこの雌のシルキースパロウにだ。決して人間などという下等な生き物に遅れを取ったわけではない。ないのだがなぜだろうか、この人間からする匂い、すごく心地が良いのだ。あの眼差し、おっかなびっくりに我に触れているがすごく優しく暖かい目をしている。足は痛むがもっと触れていてほしいとも思ってしまう。


「ガウ…」


「もう少し!もう少しだから待って!はいっ!良いよ!おっけーでけた!うふふ」


「ぴよっ」


なにか変なものでベッタベタだった。


「包帯とかないし、とりあえず絆創膏で良いでしょ。いやぁ~よかったよカバンの中に絆創膏入れておいて。えへへ~」


「ガァウ」


でもなんだ、足の痛みがなくなった。この”バンソーコー”とかいうのの力か。いや違うな、先程からあの人間が触れていた場所から魔力を感じる。しかし、あの人間は戦いのときに魔法が使えなかったはず…どういうことだ。少し試してみるか。


「クゥン」


「おっ!なになに?頭なでてほしいの?いいよぉ。狼さんって意外と甘えん坊さんね~」


やはりだ。この人間の触れた場所から魔力の残滓が感じ取れる。この人間は気づいていなさそうだが…魔法はたしか、思いの力で発動させる。魔法はその者の深層を覗くことができる。攻撃魔法ならば、相手を打ち倒したいと思う力が強ければ強いほど発動したときの威力が変る。また、属性などもその者の性格や心理状態が影響してくる。

例えば、火属性の魔法。これは大概暑苦しい思考をしているものが使えるようになる。所謂、熱血馬鹿だ。あとは、過去に火に関する鮮明なイメージを頭に植え付けられたとき等だ。逆に闇属性の魔法ならば、性格が歪んでいたり暗い者が発現する。闇魔法を使える者は早死にする場合がほとんだ。しかし、回復魔法はそうはいかず思いの強さだけでは発現しない。相手を治したいだけでは絶対に発動しないのだ。そのものが持つ清く汚れの知らない心があって初めて発現する。だがそんな生物は稀で少なからず邪念や邪心を持っているものだ。つまり回復魔法の使用者は、生物の器を超越した美しい心を持っているという事なのだが…どうもこのアホ面をした人間からはそのようなモノは感じられん。まぁ、我が知る限り回復魔法の使い手はこの娘以外に一匹しか知らぬが。”精霊シームルグ”奴は生命を司る死の精霊だからこそ回復魔法も使えるのだったかな。

 

「さて、他の子が起きる前に退散しましょ!いこっ!ぴよちゃん」


「ぴよぉ!」


 日もすっかり落ち辺りは薄暗くなっていたが、不思議にも草原の地面が淡い光を放っていて何とも言えない幻想的な美しさが広がっていた。腕時計を見ると時刻は十八時になろうとしていた。


「はぁ~、結局無断欠勤しちゃったなぁ」


「ぴよ~~?」


「はは…なんでもないよぉ」


 ぴよちゃんに心配そうに見つめられて何とも言えない笑みをこぼす晶だった。

 すこし休憩し、おもむろに立ち上がる。



「さてこれからどうしようかな?元の世界に戻る方法を探すか、この世界に永住するか。いやでもまずは食べ物か」


 ブツブツと呟きながら歩いていたがずっと歩きっぱなしだったから流石に足が痛くなってきていた。

 今日は野宿だなと諦め混じりにテクテク歩く晶。

 の後ろをなんだか楽しそうにピョンピョン跳ねながら付いてくるぴよちゃん。


「ぴよちゃんさぁ…もしよかったらだけど……私と一緒にさ……大冒険しないかい!」


イケメンの口説き文句を想像しながらサムズアップする晶。


「ぴよっ!」


その言葉に、バンザイをし了承の意で返すシルキースパロウことぴよちゃん。


「やったぁぁぁ!ぴよちゃん世界一かぁいいよぉぉぉ!私ね!ぴよちゃんとお話してるとすごく楽しいんだぁ!お話している気分なんだけどね!」


晶は平然と話しているが普通人間は鳥と話はしない。晶自身もぴよちゃんを頼りになる普通の動物だと思っている。だが、どうして一人と一羽が意思の疎通を図れているのか全く考えない晶であった。そんなこんなでワイワイガヤガヤと歩いているともうすでに辺りは暗くなり夜の帳が降りていた。時間にして"二十一時"を回った頃であった。一人と一羽は平原の小高い丘の上で満天の星空の下に寝転がっていた。


「はぁ~、今日は此処で野宿するかなぁ。おなか空いたよぉ。」


「ぴよ!」


「あぁ~お米食べたい。あのお空に浮かぶ星の一つ一つがご飯粒だったらなぁ。あきら」


「ぴよ?」


もはや意味不明である。


「ポエムだよ~ぴよちゃん私のいた世界で流行ってたのぉ」


「ぴぃ!」


「うふふ、ぴよちゃんたらポエムは食べ物じゃないよ!もう食いしん坊さんなんだk……あっ、思い出したっ!」


「ぴよ?」


唐突にカバンを漁りだす晶を何事かと見やるぴよちゃん。


「ん~確かココらへんに~入れたと思ったんだけどなぁ。あっ!あった!じゃじゃーん!カ~キ~ノ~タ~ネ~!」


某青い猫型ロボット風に喋る晶と不思議そうに柿の種を見つめるぴよちゃん。


「食べる?」


「ぴい!」


「おっけ~。これ量は少ないけどすごく美味しいんだから!」


「ぴぴぃ!」


「そうだね。節約しながら食べないとねぇ。一緒に食べよっ!」


お腹いっぱいにはならなかったけど、星空の下一人と一羽は仲良く寄り添いながら一袋の柿の種を分け合って食べる。食べ終わればもうやれる事はないので明日に備えて寝るだけだ。何もない平原の真ん中で防犯に不安が残るけれども、


「強くてかぁいいぴよちゃんが居るから安心だねっ!」


「ぴよッ!」


 晶の言葉にまかせて!の意で返すぴよちゃんは目を輝かせぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながらファイティングポーズをとる。


「きゃー!ぴよちゃんかっこよすぎぃぃぃ!」


 そんな黄色い歓声を聞きながらドヤ顔で手羽先を振るぴよちゃん。そんなこんなで一日目が終了した。

 その日、晶は夢を見ていた。会社で上司に盛大に説教されているところに、ぴよちゃんが乱入してその上司の頭をピシャーンと小気味良い音で思い切り引っ叩いた夢を。

 そんな夢を見て、うなされるながらによによするという奇行を繰り返す晶を心配そうに見つめながらそっと寄り添うぴよちゃんであった。


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