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降り立った大地は草しか生えない

本日より、まったりと書かせていただこうかと思います。

更新速度は、う~んどうなることやら。

旅物語なのでね、まったりとね

 朝が来て夜が来る。延々と続く繰り返しの毎日。

 太陽が「お早う!」とイラッとする満面の笑顔で元気よく挨拶をし、おおよそ12時間の勤務を終えると「お先に失礼します。」と帰宅していく。そして、月が「お疲れ様。」と暗がりから囁き、またしても人の感情を逆なでするように挨拶をする。なんの変哲もない毎日。2勤交代シフト制。儘ならない現実である。


 しかしてまた、朝が来た。いつもと変わらない朝だ。PiPiPi…PiPiPiッと、カナリヤの様なけたたましい鳴き声の目覚ましを止める。時刻は"六時"ジャスト。寝起き一発、眠気眼を擦りながら欠伸をしまだ少し暖かい布団から這い出す。


「…ん・・・、ふあぁ~… 寒っ」


 吐く息も白くぶるりと身体を震わせながら、また今日も会社に従属する為に渋々起床する。少し薄暗い8畳1ルームの部屋から見た外の世界は白んでおり、外気はその冷たさのせいかとても澄んでいる。全身を刺すような寒さに両腕をクロスさせ擦りながら洗面所まで駆け抜ける。その道すがら、去年の秋頃に買った電気ケトルのスイッチを入れるのも忘れない。自分で言うのもアレだが近年稀に見る良い買い物だった。1月4日の早朝、新年明けましておめでとう!な世間の雰囲気の中、新年早々会社に行かなくてはいけない憂鬱を押し殺し洗面所に向う。


「ちめたっ」


 本当に冬は嫌になる。洗面所までのフローリングはアイスリンクよろしく氷上の如き冷たさ、蛇口から出る水は氷水なのでは?と思う程だ。まずは顔を洗い、歯を磨く。うひぃ~と言語として用をなさない声を吐き出しながら顔を洗い、愛用している三色の歯磨き粉を歯ブラシに付け歯を磨いていく。部屋に戻る途中、沸かしておいたケトルからお湯を頂戴し、長年愛用している可愛らしい青い狸が描かれたマグカップにお茶を入れた。猫型ロボットとか最高にかわいいよね!

 会社の出勤時間は八時三十分で会社までの道のりは"door to door"で一時間ほど。内訳としては家から駅まで二十分、電車で三十分、駅から会社までが十分。つまり、家を出る時間はだいたい"七時十分"となる。社会人たるもの十分前行動が基本である。なので、出勤時間まではまだ少し余裕がるのだ。ゆっくりお茶を飲みながらテレビをつけ、新年覚めやらぬ特番混じりのニュース番組を見る。朝から天真爛漫なニュースキャスターの女性が「本日から仕事始めの方、いってらっしゃい。」等と思ってもいないことを言っている姿を横目に少し思案する。


「……そうだった、今日から仕事始め……電車混みそうだよね」


 恙無い日々の始まりである。時間に少し余裕があるとはいえ、早めに家を出た方が良さそうだと、いそいそと準備を始める。

 私、田井中晶の朝は至って普通で、まず顔を洗い歯を磨き、お茶を片手にテレビをつけニュースを見る。その後はシャワーを浴びて髪を乾かし薄く化粧をして、スーツに着替え家を出るのだ。ちなみに朝食は食べない派だ。


「さてと、行こうかな」


 外よりは暖かい家から出たくなくなる前に、少し気合を入れて玄関のドアに手を掛けた。家にいつまでも居るとだんだん仕事に行きたくなくなるのって、なんでなんだろうね?ドアを開けた瞬間、外の冷気が気温の寒暖差からか凄まじい勢いで内側に流れ込む、その底冷えしそうな寒さに出勤する気が失せていくのを感じる。しかし、行かねばならない。なぜなら私は社畜なのだから。なんてね。只今の時刻は"六時五十分"肌を刺す冷たい外気の中を駅までテクテクと歩いて行く。


 (いつもだったらこの時間帯って通勤中の人がかなり多いハズなんだよね……)


 そう、いつもなら家から大きな森林公園を抜けて駅までの道のりには、自分と同じく会社へ向かうそれなりに大勢の会社員や学生さんなどがいるはずなのだ。


「あれ?今日は人がいないな~休日だっけ?」


 否、1/4 本日は"水曜日"である。


「平日だよね…まぁ、正月明けだしまだ休暇でも取得してるのかな」


 羨ましいことで、と少しの違和感と嫉妬を胸に森林公園を歩いていた。いつもウォーキングをしている初老の男性も、犬の散歩をしている天然パーマのおばちゃんもいない。ジョギング中の可愛いお姉さんも。本当に自分ひとりしかいない静かな公園を歩いていると、この世界には自分しか存在していないんじゃないかと一人きりの世界を思い受かべて背筋がゾワっとする。

 この世界にはウンザリしていた。来る日も来る日も家と会社の往復、休日は在れども折角のお休みなのだし寝ていたい。特段面白い事があるわけでもない。これを聞くと「友達居ないんかい!」と思われるかもしれないが、友人と遊ぶこともたまにあるのだ。私の名誉のために言っておこう!ボッチで断じてない!はず……。只、普段から仕事で疲れすぎていてお休みだからと心が躍る気分になることがないんです。学生の頃は楽しかった。二十歳になった時は成人の仲間入りが出来たと、知らない世界を見た気がして気分が高揚したし不安にもなった。だからかな、自分ひとりの世界を想像した時に少し怖いと思ってしまったのだ。私とて、人並みに人恋しいんだよ!断じて一人ぼっちの世界など望んではいない!まぁ、面白おかしい世界を夢想しないわけではないのだが。ボッチワールドでなければね。そんなことを考えていた自分が可笑しかったのか、クスッと微笑し小さく呟いてしまった。


「フフッ、どこかに面白可笑しい世界ってないのk……」


 その瞬間、世界が暗転した。なんの前触れもなく、音もなく静かに目の前がブラックアウトしたのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 眩しい光が瞼の裏をオレンジ色に染めながら。何かが頬を撫でる。サワサワと暖かいソレが顔に触れる感触にまだ寝ていたいと思いながらも重い瞼を持ち上げる。


「んん~…… 眩しい」


 目の前にあるのは、白いモフモフ。寝呆けた頭で思考する、暖かいな~くすぐったいな~と。


(あぁ~……フフッなんだか指の先っちょツンツンされてるなぁ~くすぐっt)


 パクッ


「ッ!? え!? うわっなになに!?」


 目の前のモフモフが右手の人差し指に食らいついた。驚愕、一気に覚醒した頭でそのモフモフを見る。


「白い……スズメかな?」


 目の前のモフモフは多分スズメだ。フォルムだけ見れば……スズメなのだがそのデカさが尋常ではなかった。全長はゆうに3m超え、身体は雪のように真っ白け、頭部にピンクのアホ毛が生えていた。時間にして約一分少々、目の前の巨大なスズメに度肝を抜かれて声を出せずにいた。ハッと我に返りその大きさに恐怖を覚えて引き攣った顔で涙目になりながら全力後退をした。


「ぴぃ!」


 大きいスズメが愛らしいつぶらな瞳を輝かせ、近づいてくる。


「ひぃぃぃぃ!あわわわわわわ……こっこないでぇぇぇ!!あっちいけぇぇぇぇ!でかいぃぃぃ!食べられるぅぅぅぅぅ!」


 完全にパニックだ。その場から飛び上がり全力で逃げる。普通サイズの鳥は見慣れた生き物だったが、そのあまりの巨大さゆえにパニックに陥った晶は驚嘆の声をギャアギャアあげながら走りまわる。あまりに滑稽な様子にスズメも遊んでくれ~といった様子で晶を追いかけ回す。逃げる晶に追うスズメ。その光景を別の誰かが見ていたら苦笑間違い無しだろう。





「はぁはぁ……」


 私は今大草原の上に寝転がっている。肩で呼吸をしてながらバクバクと鳴る鼓動を抑えつつ真っ青な空を見上げる。額から溢れ落ちる黒い髪と光る汗。すごく清々しい気分です。走り回って身体に篭った熱がそよ風に乗って流れていく。今、晶が転がっているのは360度広大な平原に囲まれた丘の上だった。青々とした空に燦々と輝く太陽と2つの月?のようなもの、遠くの方には森が見え、近くに周囲に色とりどり花が咲き乱れた小さな池があり、大小様々な生き物が水を飲んでいたり寝ていたりしている。


「ふぅ、なんて綺麗なんでしょう」


 もはやこんな言葉しか出てこなかった。ここはまさに幻想的なほどに美しい野生動物の楽園の様なところであった。


「ふふ…私死んじゃったのかな?それとも…夢?」


 そんなことを呟きながら自分の頬を抓ってみようと腕を上げる。

 のしっ


「……」


 今の現状を説明するのなら、私は大っきいスズメに下敷きにされている。スズメのくせに中々の重量じゃないの。私の華奢な身体がミシミシと悲鳴をあげているよ。


「ふがっ夢じゃない…みたいね……重いよぉぉどいてよぉぉぉ」


 このままでは圧死しかねないので、ちょっとすみませんねぇ~と言いながらご丁寧に横に転がしスズメをどけさせてもらった。スズメはと言うとスヤスヤと寝息まで立てて寝ていた。


(この子意外と可愛いかも。ううん、すごく可愛い!!あ、膨らんだっ!きゃー!なにこれ?なにこれ可愛いんですけどぉぉぉぉ!)


 ふへへぐへへと悶絶しながらも起こさないようにと口元を抑えて転げ回る。興奮して緩みきったその顔は絶対に人には見せられない。淑女としてっ!しかし現実は非情で淑女のソレではない顔を晒しながら、静かにカバンからスマホを取り出しこっそり写真を取りまくる。

 カシャカシャカシャカsykシャカシャkシャ・・・・はぁはぁ


(ふへへ~もう死んでもいいかも~)


 だらしない顔をしながら、ふと腕時計を見ると時刻はすでに八時を回っていた。


「ゲッ!」


 ヤバイヤバイと手にしているスマホで自社に遅刻する旨を伝えようとディスプレイを見る。しかし圏外の表示を目にして、はぁ~…っとため息を吐き、晶はその場で蹲った。


「どうしよぉ、此処が何処だか解らないし、このままじゃ会社に遅れちゃう…遅延届けってもらえるかな?」


 この現状を見て、考えることがそこなのかと思うかもしれないが社畜とはそういう生き物なのである。とりあえずと、近くに落ちていたカバンを拾い上げ、車も電車も走っていないだだっ広い平原を歩くことにした。もしかしたら、人に出会えたり、どこか街みたいなところに出れるかもと。でも薄々気づいてはいるんだけど、ここって日本じゃないよね?ううん、それどころか地球ではない何処かだよねぇ。もはや会社も糞もあったもんじゃないね。あ、淑女がこんな汚い言葉を使ってはいけませんね。おほほ。小鳥さん(スズメだけど大きいから大鳥?怪鳥?)に小声でバイバイと言って、私は歩き出した。まだ見ぬ、冒険とファンタジーと可愛いものを探しに!私の冒険はこれからだっ!ご愛読ありがとうございました。私の次回作にご期待ください。なんて冗談を交えながら、一人で小芝居を打ちつつ呑気に歩きだす。



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