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015×拳銃と黒槍

 騎士団長が、左の掌を広げてこちらに向ける。

 なんだ、と疑問符を我流は頭上に浮かべる。

 戦闘は開始されたはず。

 それなのに何の意味もない、不可解な行動。虚を突くにしても、無造作過ぎる。右腕が使えないのは承知している。だから左手を使うのは至極最もだが、攻撃の構えではない。

 少なくとも騎士団長の方から仕掛けてくるつもりはないようだ。足が全く動いていない。近づいてくるならば、それなりの予期動作が下半身にでるはず。それが見られないということは、迎撃するつもりか。

 だが、左手一本だけで?

 経験に差がある我流相手に、最初から奇策を打ってくるとは考えづらい。とにかく不自然だ。

 特に考えがあったわけではない。

 しかし背筋が凍りつくような悪寒。言葉では到底表しきれない第六感のようなものが、閃光のように脳内を駆け巡って。

 肉体が勝手に反応した。

 刹那――。

 不可視の衝撃波が、我流の躯を突き抜けた。

 嫌な予感がして真横に跳んだが、完全には躱しきれなかった。脇腹の辺りの服が僅かに破れている。

 痛みに耐えるために奥歯を噛み締めていると、ハンマーで殴られたような衝撃が頬に走る。一度目の攻撃と同種の攻撃。だが、その実態がまるで掴めない。

「いっ――」

 また、見えなかった。

 それに、物凄く速い。

 騎士団長は特に感慨もない表情で、左手をかざしているだけだ。足どころか、身体の全てが微動だにしていない。攻撃のモーションなどは皆無。しかも溜めなしに、次弾を装填して連射することができる。

 風、ではない。

 もっと攻撃的に特化し、鋭さを増している。

 まるで、拳銃だ。

 見えざる弾を発射しているようなものだ。

 だが、あくまで軌道は直線上に限られる。あの左手を銃口に見立てれば、避けるのはそこまで難しくない。

「――がッ」

 そのはずだったのに。

 避けたはずの攻撃が直撃した。

 でも、想定していたより、ダメージを受けていない。先ほどよりも数倍威力は弱まっている。たじろいでいると、次の銃撃が皮膚を裂く。今度は強力な一撃。来るタイミングが分かってきたおかげで、クロスアームブロックが間一髪間に合った。

 そうか。

 攻撃パターンは大きく分けて2つ。

 1つは、銃口を絞る攻撃法。

 一撃は重いが、軌道は読みやすい。

 2つ目に、銃口を広げる攻撃法。

 一撃は軽いが、加害領域が広くて当てやすい。

 騎士団長はこの2つを使いこなしている。前者は一点を穿つ破壊力で、後者は、面による破壊力といったところか。交互に2つの攻撃パターンを繰り返されたら、とてもじゃないが避けきれない。ダメージが蓄積して、足が動かなくなったらそこで試合終了。

 だったら、攻撃に転じるしかない。


「《グングニル》」


 《グングニル》を投擲すると、騎士団長は微動だにせず左手を掲げる。

 そして、そのままの状態で突風を発生させて吹き飛ばす。

 その攻防の間隙を縫って肉薄する。

 尖って固い肘で、騎士団長の細い頬骨を砕く。……前に、掌で受け止められる。そして我流逃がさないようにと、ギュギュと掴む力を強くする。後ろに退いても逃れられないだろう。まずい――と、開いていた肘を一層畳む。身を屈めて、掌の拘束から逃れるために、裡門頂肘に類似した動きで突進する。

 それを阻むように、騎士団長は膝蹴りを入れてくる。

 我流の肘と騎士団長の膝が衝突し、威力を相殺した直後――。

 破壊音が後方で響く。

 紙一重の差。

 あと少し肘を掴まれる時間が長かったら、痛いじゃ済まなかった。

 騎士団長は、突き放すように左手を押し付けてこようとしたが、斜め下に払い落とす。騎士団長からすれば、即座に我流のことを引き剥がしたいだろう。遠距離から、狙撃している方が、より安全に我流を倒せるのだから。だからこそ、その動きは読めていた。

 ここで一気に勝負を決める。

 新たに生成した《グングニル》を突き刺す。

「――――!」

 ――が、黒槍の一撃は空振った。

 タイミング的に捉えたはずだった。だが、助走もなしに一気に距離を離される。一体何が、と当惑する我流に、容赦なく衝撃波の雨あられ。

 腕を咄嗟に上げる我流だったが、そんな防御など焼け石に水。

 衝撃を殺すことができず、背骨を橋の硬い鉄骨に打ち付ける。

 動揺する余裕はない。

 距離が生まれ、また振り出しに戻ってしまった。

 だが、ある意味これはチャンスか。

 さっきは騎士団長に接近し過ぎて、死角が生まれてしまった。

 そのせいで、一体あの一瞬で何が起こったのか。

 どんな動きを騎士団長がしたのか。

 分からずじまいだ。明確化できた事実は、接近するのは逆にリスクを伴うということだ。

 ならば、今度は後退する。

 中途半端に距離をとれば、あちらの独壇場。

 だが、逆に長距離であれば活路は見えてくるはずだ。

 今すべきことは、あちらの暴風圏外までさがることだ。幸いないことに、こちらには《グングニル》という飛び道具がある。接近戦はむしろ得意な方ではない。

 ジリ貧のこの状況を打開する一手。

 それは、《グングニル》の投擲だ。

 騎士団長に吹き飛ばされたばかりだったが、あの《グングニル》は100%の威力とはいえなかった。

 《グングニル》を投擲する時。

 普段は腕の力だけで敵に射出する。

 つまりセーフティがかかった状態だ。どうしてそんなことをするかと言えば、隙が大きいからだ。下半身に力を入れながらの投擲スタイルとなると、モーションが大きくなって反撃されやすい。

 だが、あちらの有効打を受けにくい遠方まで離れれば、その弱点はなくなる。あちらの攻撃を受けず、こちらの攻撃を与えるという一石二鳥の策だ。

 ――そして、一撃が飛んでくる。

 騎士団長のその衝撃波を避けきれない振りをして、勢いに逆らわずに後ろに跳躍する。よし。充分に距離をとった。これならば、《グングニル》を存分に扱える。


「《グングニル》」


 ――だが、そんな目論見を看破したように、騎士団長が銃弾のように接敵してきた。

「なっ――」

 ロケットのように加速した騎士団長は、掌を後方に向けていた。発生させた衝撃波による推進力を利用して、特攻してくる。

 日影や桐咲と違い、騎士団長はあまり動かななかった。

 ゆったりと、こちらが攻撃してくるまで待ち構えているような戦闘スタイルだった。だからこそ、緩急の違いに対応できない。足を使わなかったのは、いつでも追い詰めることができるからだったからか。

「ぐあああああっ!」

 勢いのついた突きを、胸元にモロに喰らった。

 全身の力を奪う、とんでもない一撃だ。

 だが、それだけでは騎士団長の攻撃は終わらない。

 痛みのあまり、目を眇める我流は鉄橋を背もたれにして動けないでいた。うううう、と情けない呻き声を上げながら、抵抗らしい抵抗もできず。そのまま騎士団長の左手から放たれた銃弾のような衝撃波がゼロ距離で、我流の脆い全身を引き裂いた。

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