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001×流星群の騎士

舞台は現代で。

近未来的な架空的設定要素はありますが、時代的には今現在。

内容は能力バトルっぽいやつをずっとやっていく方向性です。

 城の瓦礫が落下してくる。

 それも、一個や二個ではない。

 数え切れないほどの瓦礫が、土砂崩れのように襲いかかってくる。

 ゴロゴロと人間の数倍の体積はあるだろう瓦礫は、ただ重量落下しているわけではない。そのどれもが物凄い速度で、大砲のように飛んできている。

 落下というよりは、狙撃されている。

 そんな表現が正しかった。

 城壁を抉った張本人は、無表情のまま睥睨してきた。

 城から見下ろしているのは女。

 二歳ほど年上だからか。

 可愛いというよりも、綺麗で端整な顔立ちをしている彼女は怖かった。あまりにも人並み外れた美貌を持っている彼女が、どこか人間離れしていて機械かなにかにさえ見えた。感情などあるのか。

 そんな女の唇が僅かに震えた気がした。しかし、彼女が何かを喋ったとしても、ここからでは鼓膜を響かせることはできない。

 だから彼女は、想いを口に出すことはない。

 戦いの最中だというのに、重要なことを伝えようとしたのではないか。

 一瞬の逡巡の後、嚥下したのではないか。

 だが、そんな……言葉なんて無粋なものは不必要だった。

 ただその時。

 彼女の表情が全てを物語った。


 ――退くの? それとも――。


 辺り一面。

 色鮮やかな花が咲いている楽園のような場所で。

 男の口が自然と綻ぶ。

 まだ16歳の少年。

 容貌はまだまだ子どもっぽくて、中学生だった頃の残滓が未だ色濃い。

 まるで蒼穹のように澄み切った瞳。

 思春期特有の、夢物語を信仰しているような表情にも似ている。挫折を知らず、なんでもできると思い込んでいる。そんな無鉄砲さを彷彿させるけれど、でもどこか違う。

 そんな枠に当てはまることはできなかった。

 彼はきっと他の誰よりも壊れていた。

 刹那の時間、少年は自問自答した。

 どうするか?

 そんなこと、騎士になると決意した時から決まっている。

 きっと女も男と同じ答えを望んでいる。女と話したことなどなかった。だが、戦闘が開始されてから半刻。短くて濃密な時間が、百の言葉よりも雄弁に彼女の胸の内を明かしてくれた。

 落下してくる城壁。

 それらはまるで流星群のよう。

 少年は背を向けることなく、地面を削るようにして跳躍する。

 城壁一つ一つの、足を引っ掛けやすい箇所を瞬時に判断する。

 そして、城壁と城壁を飛び移っていく。

 ロッククライミングとの相違点は、登るのに使うのは足だけであること。そして命綱がない。ただそれだけのことだ。

 少年はみるみるうちに駆け上がっていく。

 西洋風の豪奢な造形をしている城の頂きへと。

 彼女に一矢報いたかった。

 だが――頂上に着く前に、一際大きな城壁の欠片が頭上をすっぽり覆い隠す。会場を蓋をするような壁は、燦然とした光を遮断した。

 避けられるタイミングではない。

 ならば、迎え撃つのみ。


「《グングニル》」


 虚空に生成した、身の丈以上の長槍を掴む。

 それは、黒く光沢のある槍だ。

 《グングニル》を猛烈な速度で投擲し、巨大な城壁をパックリと縦に割る。直撃すると黒槍は霧のように散滅する。

 破砕された城壁に安堵する。

 ……が、開かれた扉のように真っ二つになった城壁の間から、女性が飛び降りてきた。逆光を浴びている彼女は、城壁の影を飛び回っていたのだ。しかも、男との動きに合わせて降りてきていたから、ここまで接近されていることに気づかなかった。

 《グングニル》の本領が発揮されるのは投擲する時だ。

 至近距離ではむしろ邪魔になる。特に、彼女のような実力者となると武器を生成する暇すら与えてくれない。

 振り下ろされてきた拳に、こちらも拳で応える。

 互いの拳をぶつけ合って衝撃を相殺した。腕の骨に痛みが走る。一瞬顔が歪むが、彼女は攻撃の手を緩めてくれない。

 空中で壮絶なラッシュが始める。

 隙を探るための捨て技というよりは、一撃で戦闘を終わらせようとしている躊躇いのない腕の振り。体力温存などといった打算はない。

 これは。

 ――純粋な殴り合いだ。

 彼女は拳を突き出しながら笑っているように見える。

 嵐のように乱打する彼女の拳の一つが、胸部を強打する。だが、少年の拳も同時に彼女の鳩尾に深く突き刺さる。一瞬攻防が停滞する。

 そして、地面が肉薄する。

 当たり所が悪ければどうなるか。

 最悪の想像が頭を駆け巡る。

 それなのに。

 地面など全く意に介さず、両者は拳を振り被っていた。そこに思考など介在する余地はない。全開で殴打した二つの拳は服を擦れ、軌道がズレる。そして互いの拳が互いの肩に直撃する。

 少年は吹き飛ばされた勢いを利用し、バク宙するようにして着地体勢を整える。でも、着地しても威力を殺しきれずに、多量の土埃を巻き上げながら回転する。受身を取れる速度ではなかった。

 ぐるんぐるんに世界が廻り。

 やがて停止する。

 そして、無傷とはいえないが、ボロ雑巾のようになっただけで済んだ。後頭部を打ったが、首の骨も無事だ。

 柔らかな芝生と、名も知らぬ花。

 それから、ある意味では敵の攻撃に救われた。

 彼女の力が大したものでなかったのならば、回転速度が落ちていた。そして取り返しのつかない深手を負っていたであろう。

 摩擦熱で焦げそうな総身に鞭打って、彼女を視界に収める。……はずだったが――いない。どこに。上か、それとも左右に。焦点を敢えて合わさずに、全方位どこからの攻撃にも対処できるように備える。すると、影がさっと横切る。

 ――まずい。

 咄嗟に肘鉄を後方にいる女に喰らわせる。

 だが、空振り。

 相手もこちらの動きを読んでいたようで、水面蹴りでこちらの足を浮かせる。うわっ、と呻き声を上げる暇もなく。瓦割りする要領で手刀が追撃してくる。こけた態勢で、なんとか少女の手首の骨辺りに拳を突き出して防ぐ。

 余っている手で食らわせた掌底アッパーで、女の顎を浮かす。だが、相手の打ち下ろしてきた拳もこちらの頬を同時に捉えた。まさに互角の力。このままじゃ埒があかない。執拗な左ジャブで牽制しつつ、距離をとる。

 彼女も同タイミングで後ろに跳んだ。

 意外だった。

 離れた方が《グングニル》の威力が強まる。こちらが退いたことを好機とみて、追走してくるかと思った。どうやら相手も辟易しているようだ。今こそ、千載一遇のチャンスと見るべき。

 だが、それはとんでもない間違いだった。

 彼女が離れた場所に鎮座していた瓦礫に手を触れると、まるで無機物に意志が宿ったみたいに動き出した。筋力で城壁を投擲しているのは考えにくかった。あの細身のどこにそんな力が? と驚愕していたが、女は触れただけだった。ただそれだけで、瓦礫をここまで操るとは。

 真っ直ぐ飛ばしてくるのではなく、翻弄するようにうねうねとした動き。

 対応できるだけの柔軟性。

 そして瓦礫だけでなく、彼女の動向をも把握できるだけの視野の広さ。

 その二つが求められている。

 再び《グングニル》を生成すると、真横に薙いで瓦礫を切断する。

 でも、そんなものは焼け石に水程度の効力。

 次々に瓦礫が大砲のように向かってくる。

 ただ闇雲に城壁を落下させてきたと思いきや、投擲武器の確保のためにあれだけの残骸を落下させたのか……。

 相手は一手先だけでなく、二手先、三手先まで読んでいる。こっちは後出しの対応だけで、いっぱいいっぱいだというのに。均衡が崩れるのも時間の問題。

 だったら、破れかぶれだ。

「ああああああああああああああああああ!!」

 咆哮と共鳴するような爆音を響かせながら、《グングニル》を持って突き進む。小細工は不要。ありったけの力を、手に持つ黒槍に注ぎ込んで肥大化させる。

 空間と地面を削りながら特攻する。

 飛来してくる障害物などものの数ではない。巨大な隔壁のような城壁を、次々に吹き飛ばしていく。健気に咲いていた花弁は儚く散っていく。

 グングンと、突進の速度は加速していって、地がひっくり返るような衝撃が鼓膜を震わせる。顎が外れそうなほどの振動が《グングニル》から伝わってきても、その手は意地でも離さない。

 そして。

 そして――。

 

 世界が白に包まれた。


 ――チカチカと、スポットライトのせいか視界が明滅する。

 少年は興奮のあまり気絶していたようだ。

「……7…………8…………」

 女性の声が反響する。

 先ほどまで死闘を演じていた女のではなく、マイク越しの解説者の声だ。

 どうやら無我夢中で相手を倒しきったらしい。その記念すべき勝利の瞬間をフィルターに焼きつけられなかったのは残念だ。しかし、まだいくらでもチャンスはあるだろう。これからも試合を――『騎士の饗宴ナイトカーニヴァル』を続けていくのだから。

「…………9…………10!! 立てません! デビュー戦を惜しくも勝利で飾ることができませんでした!」

 デビュー戦?

 確か、対戦相手は自分よりも経験溢れる選手ではなかったか。

 ぼんやりと焦点が合ってくると、少年は自分が花畑に寝転がっているのに気づく。全身が痺れて全く動かない。覚醒したばかりの脳では、迅速に状況が把握することなどできない。

「我流選手の今後に期待しましょう!! 皆さん、本日の『騎士の饗宴ナイトカーニヴァル』はこれにて終了いたしました!! 二人とも素晴らしい戦いでした!! 観客の皆さん、惜しみない拍手を!!」

 我流虎徹がりゅうこてつの騎士としての初試合。

 それは、見事なまでに完璧な敗北で締めくくられた。

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