昔々の話
それは人間がちょうど機械を扱い始めた頃だった。人々の間ではこれで様々なことが機械で効率よくできるのだと喜んでいた。しかし、その動力は石炭や石油を燃やして得ていた。よって二酸化炭素や有害物質が放出されるのである。とある賢者が黒い煙が空に上るのを見て、少し環境に悪いのではないかと思ったが、特に行動を起こすことはなかった。しかし機械の発達はとどまることを知らず、次第に規模は大きく、それに伴い出てくる煙の量は増えていった。賢者は、心配していたことが杞憂でないことをよく確かめてから、機械を作った者にこれ以上の機械の使用を控えるように言ったが、聞く耳を持たなかった。街中の人に言って回ったが、白い目を向けられるばかりであった。
機械が国中に普及し、空は常に黒い雲に覆われるようになった。そこから降る雨は、濁りきっていた。そして国を囲っていた森は、次第に枯れ果てていった。このことを王に伝えても、我が国が豊かになっているから関係ない、と言われて機械の使用をやめるつもりは全くないようだった。次第にこの国の空気は賢者にとって汚く感じ、家族とともに他の国へと越すことにした。
ついには、機械が地球上あらゆるところへと広がっていった。賢者は機械は悪であると常に言っていたが、人々はその便利さに目が眩み、誰もそう思っていなかった。やがて狂人などと呼ばれるようになった。賢者は機械を使うことによる欠点を機械の発信地である自分の街に戻って王に直接伝えようと考えた。そこで自分の街に戻ったが、入り口からすでに咳き込むほどの色のついた霧が立ち込めていた。
街には病人しかいなかった。賢者さま、私達をお救いください、私達が間違っておりました、賢者を昔まで軽蔑の目で見ていた老女はそう言った。
機械を扱う工場が煙突からどす黒い煙を吐き出しているのだった。賢者は王を尋ねたが、それは毒の霧を避けるように山の上へ移っていた。この外道めが、と賢者が言い、王の癪に触ったようで話も聞いてもらえずに処刑された。
賢者の息子が成人したころ、世界中で地球温暖化、公害が目立つようになった。原因はわかりきっていた。世界中で有毒ガスの排出を抑制しようとしていたが、どの国も自分の国の国益を優先し、結局状況は変わらなかった。地球にはいずれ住めなくなるだろう、そう考えた賢者の息子はなんとか人の住むことのできる星を探し、そこで住むための用意とロケットの作成を始めた。それを知った人々は次々に乗せるように言って、燃料がぎりぎりの人数まで乗れるようにロケットを作った。しかし乗せてほしいという人々は増えていく。もうこれ以上無理だ、と賢者の息子が言うと、非難が殺到した。自分勝手だとか、友達になってあげたのは誰だとか、食料を支えたのは私だとか、その部品は俺が作ったとか。
人類に愛想を尽かせた賢者の息子は一人でその星に移住した。
かなりの年月が経って、賢者の息子が様子を見にくると、その星に人はいなくなっていた。
放射線量がかなりあった。この星の人々は核兵器でお互いに殺しあったのであろう。