薄暗い校舎の衝動
破壊衝動というものを知っているだろうか。
人は誰しもこれからは逃れられないものだと僕は思っている。
それが向けられる対象は、人工物然り、自然然り、・・・人然り。
そして、それは自身の気に入らないモノに率先して向けられる。
だからこそ喧嘩、殺人事件、戦争が起こり得るのだ。
ならば、僕がこの様にクラスメイトに手を掛けるのも仕方のないことだろう。
「清水君?何してるの?それに、そこに倒れてるのって誠仁君?」
そして法で罰せられる事案を隠し通そうとする事は人の性である。
「そうだよ、菊池さん。今、僕の目の前に倒れてるのは青木誠仁君だ。」
「なんで、どうして誠仁君が倒れてるの!?」
彼女は慌てて倒れているモノに近づいてそれを抱き抱える。
そして彼女は怯えたように目を見開き、次いで体を細かく震わせた。
触れたモノから温もりは伝わらず、背面にある大きな裂傷に気付いたのだろう。
「どうして、どうしてこんな酷い事したの!」
「何を言っているんだい、菊池さん?僕は何もしてないよ。」
そう、何もしてないはずだ。気が付いたら目の前に倒れていたはずだから。
「じゃあその手に持ったナイフは何!」
そう言われて僕は手を見てみる。
そこには血で染まった右手の上に血に汚れたサバイバルナイフが鎮座していた。
そうか、彼女の抱えるソレは僕が殺したのか。
「なるほど。僕が彼を殺したみたいだ。」
「何を他人事のように・・・ひっ。」
「じゃあ僕が犯人で君が目撃者ってわけだ。つまり菊池さんが黙っていればこの事は誰にも知られることはないってことだね。僕も無闇に人を殺すことはしたくない。もちろん黙っててくれるよね?」
バタバタバタ―――――――――
彼女は抱えたものを投げ捨て駆けだした。
彼女は約束をしないまま。
「まったく。ちゃんと約束してくれなきゃダメじゃないか。しゃべらないって約束するだけなのに。」
さあ、おいかけようか。
彼女の口を封じるために。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
私は彼、清水君から逃げ出していた。
後ろを見ると彼は追い掛けてきていた。
右手に血塗れたナイフを握りながら。
どうして。
どうして清水君が誠仁君を殺したんだろう。
どうして清水君から逃げ続けなきゃいけないんだろう。
いろいろなどうしてが頭の中を埋め尽くす。
どうして、
どうして、
どうして。
どうして私がこんな目に合わなきゃいけないんだろう。
気が付くと私は一つの教室の中に立っていた。
「やっと追いついたよ、菊池さん。」
振り返ると彼が教室に入ってきた。手にナイフを持ちながら。
「もう逃げられないよ菊池さん。大人しく口を閉じてくれるとうれしいのだけれど。」
どうして、
「おや?もう抵抗しないんだ?まあ僕が楽だからいいんだけど。」
どうして、
「じゃあ、さよならだよ菊池さん。最後の鬼ごっこは楽しかったよ。」
どうして私がこんな目に合わないといけないのよ。」
「え?・・・うわっ」
そして校舎に断末魔がこだまする。
気が付くと目の前には赤黒く染まった物体。
私はさっきまで何をしていたんだっけ。
「あっ、美香。」
声に振り向くと一人の女子がこっちに向かって駆けてきていた。
「ねえ、美香。リョウくん知らない?」
「清水凉君?さあ、私はわかんないな。」
「そっか。で、美香はここで何してるの?」
「私?私は・・・ちょっとぼーっとしてたみたい。」
「そうなの?美香もしっかりしなきゃダメだよ。それにしても、リョウどこ行ったのかなぁ。」
ふと窓の外を見ると薄暗く、不気味な赤い空が広がっていた。
「ナツ、そろそろ暗くなるから帰ろうよ。」
「そう?じゃあ帰ろっか。そんなに急ぐ用事でもないからね。」
「ほら、早く行くよ、ナツ。」
「待ってよ美香。」
そして私は逃げ出した薄気味悪い今日の放課後から。
床に横たわる二つの物体。周りを何かが囲んでいた。
「今日の獲物は三人か。」
「今日はなかなか面白かったですな。明日はどんな舞台を見れるのでしょうか。」
「必ずしも見れるわけではないぞ。」
「そして役者がいるから私たちは生きていける。そのことを我等は忘れてはいけないのだ。」
「私たちは彼等に感謝を忘れることはないでしょう。」
「今日も生きることができました。彼らに感謝し頂くとしましょう。」
「そうしよう。我等、汝等に感謝する。」
影は立ち去り、何もかもがいなくなった。
そしてまた一つの断末魔が校舎に木霊した。
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