第1幕 真実
昨日の事務所爆破は、テレビ、新聞、週刊誌など様々なメディアに紹介された。5代目斉藤組直系杉山組組員は事務所にいた全員が死傷、杉山道三は無傷で済んでいた。竹田は致命的に片目と、全身火傷だけで済み、一命は取りとめたらしい。他の組員は死んだであろう。
龍一が目覚めたのは巨大なビジョンがある日本の首都、新宿である。既に時刻は夕方をまわっており、会社勤めのサラリーマンやOL、そして授業を終えた学生が行き交っていた。龍一はビジョンでニュースを見て、歩き始めた。
近くのコンビニに寄り、ちょっとした腹ごしらえをしようとお茶とおにぎりを手に取りレジに向かう。清算を済ませ、コンビニを出ようとすると男が二人揉めていた。一見して見ると、チンピラが一般人にいちゃもんを付けているようだ。龍一はそれを気にせず、横を通り過ぎようとしたらチンピラが龍一の肩を掴んできた。
「おぅこら!なに見とんじゃガキ!」とチンピラは龍一に因縁を振ってきた。龍一は肩から手を弾き、そのまま立ち去ろうとしたら今度は龍一の胸ぐらを掴んできた。
「こらぁ!なにしとんじゃ!死にたいんかあぁ!」
チンピラは凄みを効かせ、龍一を脅す。
しかし龍一には効く筈もない。
「全くいい加減なおっさんだな。そんなんじゃ女にゃモテないぜ。センスのない絡みじゃ逆に引かれるよ?」
龍一はチンピラに向けてため息を漏らす。
「あぁ!誰に口きいとんじゃ!ちょっとこっちこいや!」
「たち悪すぎ。それにおじさんこそ誰に言ってんの?痛い目見る前に消えて、そこら辺の一般人に吠えてれば?」
龍一の言葉にチンピラは遂にキレ、龍一に殴り掛かってくる。
龍一はやれやれ、と一言いい、チンピラの拳を避け、チンピラの顔に頭突きを喰らわす。チンピラの鼻からは血が出て、膝を着いた。そして龍一は何の躊躇いもなく、そのままチンピラの顔を蹴り上げた。もうチンピラは歯向かう力もなく、そのまま倒れている。
龍一はチンピラに近付き、髪の毛を掴んで顔を上げる。
「相手が悪かったな、おじさん。」と龍一はチンピラに言った。
「はぁ…はぁ…お前、ただもんじゃねーな。」
「まぁこれでも組張ってるからね。」
「…どこの組だ?」
「安藤組だ。」
龍一はチンピラに言い放つ。するとチンピラは鼻で笑いながらこう言った。
「あぁ、あの杉山組のケツ持ちか。俺はそんな情けねー組の頭にやられたのか。情けねー。本当情けねーな。」龍一は黙ってチンピラの顔を殴る。
チンピラは小声でさらに話を続ける。
「けっ。たかだか50人の組員もまとめられねぇくせに、頭なんか張って意気がってるから仲間に捨てられんだよ。」
「…何言ってんの?」
「知らねーのか、まぁ無理もねえな。こんな組長だもんな。昨日の杉山組事務所爆破の後、安藤組の組員は全員杉山組に鞍替えしたんだよ。」
「なっ!なんだと!」龍一は驚愕した。
(馬鹿な!そんなことはない!あの盃迄は、俺は組員に逢っている!そんな時雨、片時もなかったはずだ!況してや内通するにも奴等は接触していない!出来る筈がないんだ!どこで?いつ?俺の居ない時か?)
龍一は思いを巡らせ、自分自身に問いただす。
(そうか?竹田の野郎か!?竹田はうちの組員とは連絡を取り合っている!仕事を依頼した時。その時しかないはず。あの野郎!全ては俺を一人にしたのはそういう事か!盃なんてはなっから無かったんだ!俺だけを出し置いてそんなことしやがったのか!畜生!…畜生っ!)
龍一は裏切られた。自分がしてはならない裏切りという卑劣な行為を相手にされた。
(うちの組員全員か!?全員グルだったのか!あいつらには仁義が無いのか!?俺の、親父の組に対する忠誠は無かったのか!?畜生!)
龍一は混乱した。まさか無いではあろう事が、現実に起きた。拳を強く握り、手からは血が出ている。それくらい憎しみが出ていた。
「残念だったな。気の毒に。裏切られるとはな!ハッハッハ!!ざまーみろ!アッハッハッハ!」
チンピラは高らかに笑い龍一を貶した。「うるせぇ!!黙まれ!黙れぇー!!」
龍一は激怒し、チンピラの顔面を殴り付けた。今までに無い、それは残虐で、恐ろしく異常なまでに殴りまくった。
チンピラの顔は元の形がわからなくなるぐらい凸凹し、骨などが砕け、真っ赤に血に染まった。
チンピラは既に息絶えていた。回りの人々が悲鳴を上げ、店の人は警察を呼んだ。
それでも尚、龍一の手は止まらない。その恐ろしさに誰も近付けず、誰もが早く警察が来るのを願っていた。
そんな中、その民衆を遮るように一人の男が龍一に近付く。
龍一は気付いていない。
そして龍一の腕を抑え、止めさせる。しかし龍一は、その男の手を払い、続けようとする。
だが次の瞬間、男は龍一の首に手刀を打った。
龍一はその場に倒れ、うつ伏せになった。
そして男は静かに龍一を担ぎはじめ、車を呼び、龍一を連れて何処かに消えていった。
僅か一分掛かるか掛からないかの、瞬間的な動作に誰もが目を伺い、その場に呆然と立っていた。