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Infinity-Revenge  作者: 天龍
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序章2 盃

 車に乗り、杉山組の事務所へと向かう龍一は考え事をしていた。これからの自分の組の事。そして自身の事。杉山組と盃を交わせば組織は大きくなる。組織が大きくなれば組員もそれだけの多い人数になる。統率力、財力。そしていつもよりもカリスマ性が要求される。良いとされた組織拡大も、不安と同じに多い。龍一はそのことで頭がいっぱいだった。

(こんな時親父はどうする?何を思う?不安はないのか?いやいや。親父には頼るな。いや頼れないんだ。この世にはもういない。なぜこんなにも重い。願った事なのに。

…くそっ。こんな性格は嫌いだ。俺の駄目な所だ。治さねば。そうじゃなきゃ出来んのだ。頭なんて張れやしない。そうだ。自分で決める。頭なんだ。俺は。


夢を叶える。そう信じてここまできた。やるしかない。)


龍一は思い思いを考えた。事務所に向かっているのも忘れるぐらい。


気付けばもうそこは杉山組の事務所だ。

都心の中心部。それゆえにその広さを現し、威厳を保った扉。暗い朝方なのにまるで昼間のような明るさだ。他の店を寄せ付けぬ門番は、目をギラギラさせて見張りという仕事をこなしている。



組員にドアを開けられ、重い足を上げて外に立つ。いつにもない緊迫した空気が龍一の身体を取り巻く。

杉山組組員は龍一を見て、お疲れ様です、と一言いい、その重い扉を開ける。

中は不動産のような間取り。

しかしそれは表向きである。

不動産屋には門番なんて物騒な連中はいない。

開店前だけであろう。

自分の組員を車に待たせ、一人でいい、と一言いい、アタッシュケースを持ち中に入る。

門番が道案内し、忍者扉のようなもので隠し部屋を匿うようにしている。もし警察に踏み込まれても大丈夫なようにしているのだろう。扉に手を掛けて奥に乗り込む。そこには四人の組員が顔を出す。その一人は先程の電話の相手。つまり依頼者だ。杉山組の若頭、竹田新蔵である。彼は若い頃から杉山組長の知り合い。親密な関係だからこそ若頭という大役を任せている。

「遅かったな。またいつもの仕送りか?お前も人がいいな。」

「自分にとっては親みたいなもんです。それより組長は?」

「今は席を外している。全く困った所だ。あの歳でまだ欲求があるからな。本当に手に負えないくらいだ。」竹田は苦笑いで話す。

五代目斉藤組直系杉山組組長杉山道三は昔から女ぐせが悪いらしい。そのことでよくトラブルを起こす。その度いつも処理をするのは竹田だ。竹田はその事でよく頭を悩ます。

「酒に酔えばうちの組員にも手を出す始末だ。今日もそれなりに酔っているはずだ。気を付けろよ。言葉一つで命に関わる事だ。だから今からでもお前には釘を指しておく。肝に銘じておけ。」

「わかっています。だてに修羅場はくぐってませんよ。杉山組長もそこまで手に負うような方ではないですから。」龍一が自慢気に言うと竹田は笑う。

「まぁお前の事だ。そんな心配は無いと思ったんだが。一応な。」竹田とそのような雑談をしていると裏から人の怒鳴り声がする。

杉山道三だ。またいつもの様に酒をかっくらっていたのであろう。組員は血だらけであった。直ぐ様竹田が止めに入る。すると直ぐに怒鳴りが止む。やっぱりこの道30年のベテランだ。このような事は既に手馴れている。

そして竹田に促されて龍一の所に寄ってくる。

「ご無沙汰しております。杉山組長。今日は誠に恐縮ですが盃の件を見事に用意していただいてありがとうございます。その心意気、痛み入ります。」

龍一は椅子から立ち深々とお辞儀をし、手元にあったアタッシュケースを杉山組長に渡す。

「依頼物のブツでございます。どうぞ納めください。」

杉山は酒が抜けてないのか、いつになく不機嫌だ。

「ちっ。うるさいガキだ。盃、盃うるさいわ!さっさとブツよこさんか!」

杉山は龍一から乱暴にアタッシュケースを奪い取る。

緊迫した空気が流れるが龍一はたじろぐ事もなく

「そうですね。失礼しました。場もわきまえず自分だけが話しを進めてしまって。」

「当たり前じゃ!全くこれだから最近のガキが組を張るとこんなに調子こいてしまうんや!考えろ!ボケェ!」杉山は当たり散らすように暴言を吐く。

「誠に申し訳ありません。」

龍一は自身のプライドを捨て、その場に静かに土下座をする。

組の為、夢の為に一番屈辱的なポーズをとる。

龍一にはそうするしかなかった。組が全て、家族のようなもの。

そう信じてここまできた。小さな組はこの盃を落としたら潰れてしまうのだ。そしたら皆どうする?皆は親父や自分の為に組に入って来た組員だ。その期待を踏みにじるようなことはしたくない。勢力を大きくし、今まで以上な組にする。そうすれば皆納得するはず。裏切りはしない。やってはいけない。


そう考えていると杉山組組員の一人、竹田が口を開く。

「親父。口を挟むようで誠に失礼なのですが、この若者を許してやってはいかかでしょうか?これだけ謝っているのに、これから手を取り合っていく仲間です。それを踏みにじるような事はしたくありません。どうか許してやってはくれませんか?私からもよろしくお願いします。」

竹田は龍一と同じ様にその場に膝まずき、土下座をする。


杉山は少し水を飲み、

「そうだな。少し度が過ぎた。今日の酒は少々悪い酒だ。こうなってしまったとは言い訳に近いがこちらも悪かった。勘弁してくれ。」

杉山は落ち着きを取り戻し、水を飲む。

「いえいえ。こちら側が全面的に失礼致したこと。責任はこっちにあるのです。それを許してくれるなんて願ってもない。誠に光栄です。」

龍一は直ぐ様謝罪をする。

竹田は顔を上げ、

「悪かったな。組長も謝っておられる。どうか許してくれ。」

「とんでもない。許すどころか怒ってもいませんよ。全てはこちらの責任なんですから。むしろこちらが謝るべきです。」

龍一と竹田のやりとりに杉山が口を挟む。

「もうよい。わしも自分を見失しなってた。…そうだな。これからは手をくんで仲間になるんだからな。それくらいは水に流すようにしないとな。」

杉山はタバコに火を付け、煙を吐く。

「恐縮です」と一言龍一はいい、椅子に戻る。

竹田は

「組長。直ぐにでも盃の準備を。」

と杉山に聞く。

すると杉山は、

「しかし安藤。お前のところの組織は、どのくらいのものだ?」

と龍一に聞く。


「事務所は3店舗と組員が50人です。本部は…」

龍一が話すと杉山が口を挟む。

「そんなんでうちと同等の盃か?」

と杉山が貶す。

「組長。今はそんなこと…」

「やっぱり、おかしくないか?うちの半分以下の組に…、そんなしょぼくれた組とうちを同等にするのは…」


空気が変わる。

「しかし、私どもはその条件であなた方の依頼をこなしてきました。それを守って戴かないとうちも目処が立ちません。その事を十分に話したではありませんか?」

龍一は杉山に問いただす。

「竹田。お前はどう思う?この盃、有効か無効か?」

杉山は竹田に話を振る。竹田は無言だ。

「しかし、それでは話しが違います。それでは…」

龍一は杉山をさらに問いただす。

その時竹田が口を開く。

「組長。安藤は盃をするためにここまでうちの仕事、依頼をこなして来ました。そこで今更この話は無かった、それではうちの面子にも影響を及ぼすでしょう。」

竹田が杉山に話しを持ち掛ける。

しかし次の言葉はとても残酷なものだった。

「ですが、安藤組をこのままうちの傘下、いや。同等にするのも如何なものかと。」


竹田の口から思いも寄らぬ一言が発せられた。

「何故ですか!組長はいいとして、あんたは俺等の組織がどういうもんかわかってたはずだ!なのに今更そんなこと言いやがって!話がちがうじゃねーか!あぁ!」龍一は怒鳴り付ける。

周りは黙秘し続ける。

「そうだ。竹田…いや他の組員が拒否するならわしもその期待に答えなければな。そうだろ?竹田?」

「おっしゃる通りです。組長。」

竹田が杉山に頷く。

「てめぇらそれでもヤクザか!一回言った事を変えんのか!」

龍一は立ち上がり反論を続ける。

「黙れ!ショボい組に力は貸せん!それだけだ!お前もそれを認めるくらい大人になりやがれ!」

「そんな一方的な要求呑めるわけねぇだろ!てめぇらヤクザの風上にもおけねぇカスどもだ!ショボいだのほざいてんじゃねぇよ!」

「このガキ!組長になんて口きいてんだ!ぶっ殺すぞ!」

辺りの組員はみんな龍一に向けて怒号を飛ばす。

「黙ってろ!約束の一つも守れねぇくそ組織が!嘗めんじゃねー!」

龍一は後ろの組員を蹴り飛ばす。組員はドアを破り、ロビーのような部屋にまで吹っ飛んだ。倒れたところでピクピクしている。

「おい!てめぇら!このガキ殺っちまえ!」杉山の一言て組員がドスを片手に、龍一めがけて向かって来る。

龍一は一人目の組員のドスを避けて、ボディに一発入れる。

組員は腹を押さえて倒れた。龍一はドスを取り、向かって来た組員の腹を刺す。刺された組員は悲鳴を上げ、腹を押さえる。腹部からは夥しい血が出ている。それに他の組員が怯え、たじろぐ。竹田が応援を呼び、裏から組員が次々に入って来た。総勢10名は部屋に集まった。龍一は直ぐに壁際に寄り間合いを取る。

緊迫感あふれる部屋で竹田が懐からトカレフを出し、龍一に向けて銃口を向ける。

「手間取らせやがって、このクソガキ!死ねや!」

絶体絶命。しかし龍一は笑っていた。極めて冷静に、

「ふっ。そんな玩具で勝った気になってんじゃねーよ。俺だったら脅す前に迷わず撃つぜ。」

竹田がトカレフを撃つ。弾丸が龍一めがけて飛んでいくが僅かに反れた。

「あーあ。この距離で当たんないとは。センスがないんじゃねーの?しかもラストチャンスだったのにな。」

龍一はそう言い放つと懐から何かを出そうとする。竹田が

「動くな!」と一言。だがそんな脅し、今更効くわけがない。

「早く撃たないとここにいる奴、みんな死ぬぜ?」

龍一は懐に入れていた手を静かに出した。それはパイナップル型の黒い物体。

手榴弾だ。そして龍一は迷わずピンを抜いた。

竹田は撃つのをやめ、杉山を裏口から外に出す。そして竹田が向いたその時、手榴弾が目の前の床に置いてあった。

「さようなら〜!」

龍一はそう言って窓ガラスを破り、外に飛び出す。

「伏せろー!」竹田が怒鳴りを上げたとき、事務所はかつてない光に覆われ、それは轟音と共に消えていった。



龍一は爆風に吹き飛ばされたが、何とか受け身を取り上体を起こす。

直ぐ様立ち上がり、仲間の所に逃げ出す。

しかし仲間は車の中で血を流し、すでに息絶えていた。

そして龍一は仲間に手を合わせ、追っ手から逃げていった。




畜生!畜生!

あのくそ野郎ども!

ふざけやがって!

俺の全てを奪いやがって!

ぶっ殺してやる!

俺も奪われたように、奴等の全てを奪ってやる。




復讐だ。












序章   終り

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