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一話

 『転生』、それは古来より考え信じられてきた妄言である。

 人は死んでも来世があるという『転生』は死を恐れる者が思いついた体の良い逃げ道であり、最上級の飴として宗教から利用されてきた。

 あまりにも都合が良すぎる魔法のような言葉を自分こと矢森太一は無論信じていなかった。

 死んだらそれで終わり。

 強くてニューゲームなんてあり得ない。

 『転生』は14歳辺りの少年少女が発症しやすいある不治の病の数ある原因の一つであり、たった一言の害悪だ。

 そんな持論を展開しつつ現代社会の日本で細々と生活を営んでいた自分は梅雨が明ける間際の時、『ファンタジー』を思い知らされた。





   ◇◇◇◇◇◇◇



 あれは突然だった。


 当時20歳で大学2年だった自分は夜遅くまで大学のサークルの友人達とファミレスで学祭の打ち合わせをしていた。

 学祭当日の簡単な流れが大まかに決まったところで大学に泊まって作業する組と自宅で休息をとる組に分かれ解散となり、休息組の自分は自宅への帰路についた。



 そして翌日の日付となり人が居らず閑散とした道を1人歩いていると不意に暗い道を光々と照らしていた電灯が一斉に瞬いた。

 不自然な点滅を繰り返す電灯に最初は停電かどこかの電線がイカれたのかと思ったが、何かがおかしいことに気づいた。

 快晴だったはずの空からは腹の底から響くような重低音。

 ここにいてはいけないと本能が訴えかけそれに従い慌てて走りだそうとした時、視界が真っ白に塗り潰され身体中に激痛が走った。

 まるで身体から何かが無理矢理引き剥がされるようだった。

 あまりにも辛すぎて声を出すことも出来ず平衡感覚も失い痛覚も麻痺し、挙げ句の果てに自分は意識を失った。





   ◇◇◇◇◇◇◇



「―――それで次に目が覚めた時にはこの世界、『アース』で再び赤ん坊としての生を歩むことになったそうですよ」


「ふむふむ、じゃあその人は今どんな人生を送っているんだろうね?」


「さあ、どうでしょう。―――少なくとも幸せには生きていられてるのではないでしょうか」



 目の前で愉快そうな表情を浮かべる胸辺りまであるセミロングの銀髪に透き通るような薄青紫色の瞳の美少女、美少年のどちらでも通用するような中性的な顔立ちをした主に自分はそう答える。

 会談が始まる前にあまりにも暇だった主が何か作り話でも何でも良いからとにかく話してと言ったため咄嗟に思いついた話だったがなかなかの好評価だった。

 やはり現実味が無いので例えそれが実体験でも良くできた作り話にしか思えないのだろう。

 そんなことを考えつつ主の前に置かれたティーカップに新しい茶を注ぐ。

 ありがとう、と微笑み茶を啜る主に笑顔を返しつつ自分は応接間に飾ってある世界的にも名のある職人が半年掛けて制作したとされる掛け時計を確認する。

 名工の掛け時計の針はちょうど会談が始まる10分前の時刻を指していた。



「そろそろゴン・ダンバーラ公爵との会談が始まる時刻で御座います姫様」


「ありがとう、クー。さっさと五段腹の会談終わらせちゃって部屋に戻ろっ」


「姫様、ここではクズハとお呼び下さい。あと五段腹ではなくゴン・ダンバーラ公爵です」


「あんまりそれは意味が無いと思うんだけどな。実名と一文字違いなだけでしょ、クズハとクズノハって。それならクーって呼んだ方が良いじゃない」


「そこは気分の問題です」


「そういう問題なのかな・・・?」



 会談の時間が迫って来たので苦笑する主、アルティア帝国第二皇女シルベスタ・アルティアを第二皇女専属護衛クズノハ・フウマこと旧名矢森太一は追いたてる。




 そう、自分は意識を失った後あろうことか絶対あり得ないと考えていた『転生』をしていたのである。

 ―――しかも異世界へと。

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