噂。
伏線的11話目。
シモネタ警報発令中。
「ほぉいえばふぁ、へんほーふぇいの」
「飲み込んでから喋れキタナイ」
ごくん、と耀が口に頬張っていたハンバーガーを飲み込んだ。おいこら、まだ咀嚼できただろ。モッタイナイ。
つっても、後の祭りだし言わないけど。
「そういえばさ」
耀が、律儀に始めから言い直した。
「転校生の話って、皆もう聞いた?」
「……いや」
「聞いてないですねっ」
「僕も聞いてないね」
「俺も知らないなぁ」
「僕も、聞いたことないよ」
全員、初耳のようだった。
今は約束通り、大和の奢りでマ〇クに来ていた。メンバーは、いつもの耀、穂花、高木、碓氷とついでに財布の大和の計6人だ。モチロン俺も入れて。
「そっかぁ。知らないんだ」
一人だけ情報が進んでいる耀は、にやにやと口を緩ませている。
「つーか、どこ情報だよそれ」
「んー? 担任のさとーせんせー」
「あかるんは教師と表面上は仲言いもんね」
じみーにトゲのある表現をしますね高木センセー。
「うん」
「いや、耀ちゃん、そこは素直に頷くところじゃないから」
呆れたように、大和がツッコむ。ぬるいな大和。耀はそんなへなちょこツッコミには反応してくれないぞ。
「ところで、転校生って男かい? 女かい?」
「お、気になっちゃいますかぺらっぴ」
ぺらっぴこと碓氷が頷く。
「それはもう」
「お前の場合、どちらでも歓喜しそうだな」
モチロン、皮肉だ。だが、碓氷は今度も頷きやがった。
「それはもう」
「いやいや、水代、そこも素直に頷くところじゃないからっ」
「戦艦ちょっと黙ってて。ツッコミはろぎーがするから」
「え、あ、ゴメン」
哀れな大和。所詮お前は特徴も個性もないただのイジられキャラだよ。この場の誰にも勝る部分のない、キングオブ残念だよ。
「あ、ジュース無くなった。大和、おかわり」
「おかしいなぁ! 今、確かに、言葉の中で俺を哀れんでたはずなのになぁ!」
うわ、凡人すぎて等々他人の心が覗けるようになったのか! すごいぞ大和、能力者の仲間入りだ!
「代償は、嫌われていることに気がついてしまう、とかな」
「え、いや、なんの話?」
「こっちの話」
いーからおかわり買ってこいボケ。……いや、何かパシってる気分になってくるな。やっぱ自分で買ってこよ。
「あ、ろぎー、僕の分も」
「だとよ大和。金」
「ちょ!? 非道くない!? 凛さん、ガツンと言ってくださいよ!」
なんであえて高木なんだ。
「ん? 早く飲み物欲しいからさっさとお金出してよ山田」
「うわぁああん! ここには敵しかいないのかぁぁああ!!」
「穂花、このバカの仲間の振りをしてやってくれ」
「あっ、分かりましたっ」
喜んで、といった感じに、大和の横に腰掛ける穂花。あれ? 思ったより普通に事が進んだな。
「うう、鏑木さん、やっぱり鏑木さんはてんし――」
「――それで、いつ裏切ればいいですかっ?」
うっわ。ひど。流石に今のは俺でもビビるわ。
「ちくしょぉぉおお!! もう誰も信じられねぇぇええ!!」
あーあー、泣き出した。メンドクセぇな。仕方ない、慰めてやりますか。
「なあ、大和」
地味に本当に涙を浮かべている大和が、顔を上げる。
「ぐず……言葉ぁ」
なんつーか、マジで哀れだな大和。高校生にもなって泣かされるとか、ちょっと本気で慰めてやるかな。
「泣き止まねーと香菜ちゃんに穂花のこと言うぞ」
「オニィィィィイイイイイ!! ここに!! 鬼が!! 居ます!!」
なんかしくじったっぽい。慰めるのって結構難しいな。
「とりあえず、うっさい」
俺が口を塞ぐより先に、高木が大和の首筋に手刀を放った。一撃で昏倒してた。相変わらず、すげえ。純粋な戦闘能力で言えば、高木が最強だもんなぁ。喧嘩じゃ勝てん。
能力を使わない限り。
そんな武闘派女子(男の娘の疑いあり)高木が、耀に話の続きを促した。
「それで? その転校生がどうしたの?」
「あーうん。なんかねぇ、めっちゃ可愛いらしいよ」
「マジすかッ!? どんな? ねえどんな!?」
彼女持ち17才の大和が異常に食いついた。復活すんのはや。つかてめぇ、マジで香菜ちゃんに言いつけるぞ。そして振られてしまえ。
「えっとねえ、甘栗色のやぁらかそーな髪の毛の……」
「うん、うん!!」
「……ショタ系の男の子だよ」
おういえ。マジか。マジか。なんか、マジかしか感想が浮かんでこない。男か。しかも可愛いのか。
「ジーザスッ!! どうしてだ! どうしてそんなに溜めておいて男なんだ!! 野郎なんていらねぇぇええ!!」
「うるせえ」
「だって、だって!! もう、もう何も言えねぇ!」
マジでうるせえ。
「名言いただきましたー」
「耀、このアホの口に猿ぐつわをしてくれ」
気のない拍手をしている耀に頼む。高木でもいいけど、こいつのは本格的すぎて解放に時間がかかる。大和にそんな手間をかけるのめんどい。
「いえっさー。布ないからパンツでいい?」
「いいけど脱ぐなよ。猥褻物陳列罪で捕まる」
「いえっさー。止めときます」
「ちょっとろぎー、折角の美少女の生ストリップの機会を壊さないでよ」
なに言ってんだこのイケメン。頭湧いてんのか。
「耀、碓氷も追加で」
「さーいえっさー。隊長、窒息死はアリですか」
「構わん。思いっきり縛れ」
深く考えずにゴーサインを出す。碓氷の場合、殺しても死ななそうだし平気だろ。
「穂花もなんか飲むか?」
おかわりと、騒いだ謝礼をするついでに、穂花にも確認しておく。高木が横から「僕はコーラね」と言ってきた。ちっ、ウーロン茶でも買ってこようと思ってたのに。
「あ、私は大丈夫ですよっ」
「ん、そうか」
にっこにっこ笑いながら首を横に振るので、頷いてレジに向かう。
「スイマセン。コーラとりんごジュース一つ」
注文すると、女性の店員さんは愛想良く笑顔で応対してくれた。
「コーラお一つ、りんごジュースお一つですね」
「あと、うるさくてスイマセン」
「いえ、お気になさらずに」
いい人や。伝票(っていうのかこれ?)を持って戻ってくる。口を塞がれた大和と碓氷が、ついでとばかりにスマキにされていた。たぶん、高木だな。
「うちの男性陣は弱いな」
「ろぎーも縛られてみる? 特別に亀甲縛りしてあげるよ?」
高木が、ちょっと顔を上気させて言ってきた。
「俺にエムの気はない」
丁重に断っておいた。ちらっと見ると、碓氷は少しだけ興奮した顔をしている。うわ、こいつマジモンの変態だ。ヤベーやつだ。
「残念。縛った後は穂花にプレゼントしようと思ったのに」
「わあっ、いいですねっ。次の誕生日はそれでお願いしますっ」
いやいや! いやいやいや!!
「俺の意思は!? 尊厳は!?」
「ない」
高木に即答された。
「ろぎー、安心して。その前に私がリンリンの亀頭を縛っておくから!!」
「色んな意味でヤメロ!」
だめだ、もう俺には収拾がつかないほどカオスな空気になってきてしまった。ここ、一応一般のお客さんも居るんだからな? 公共の場だぞ公共の場。耀が美少女じゃなかったらセクハラで捕まってるっての。
「じゃあ、転校生のき」
「言わせるかぁ!!」
恐ろしいことをのたまおうとしていた、はず、の耀の口を、手で塞いで発言を阻止する。それを見て、残った女子二人がきゃーきゃー喚く。面白がって。
だめだ、マジでダメだ。流石に事実上男が俺一人という今の状況は、危機的すぎた。
女は、男よりも遥かに強いのだ。色んな意味で。
そのことを胸に刻み込まされた放課後だった。
【続く】
何はともあれお粗末様でした。
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