ろぎーと奇怪な仲間たち(の一人である少女との登校時間的情景のお話)
登場人物紹介的1話目
~サブタイが長いのは仕様です~
突然だが、日常とはなんだろう。
みんな大好きウィキ〇ディアでは、毎日繰り返される生活のことだと言う。
俺が愛用しているネットの辞書サイトいわく、ふだん。つねひごろ。らしい。
なるほど、変化がなく、繰り返されるあたりまえの日々が日常と言っていいのかもしれない。
ということを踏まえて、一般的な学生の日常とは、毎朝同じ時間に起き、朝ごはんを食べたり食べなかったりして、自転車やら電車やらバスやらで登校し、つまんねーと思いながら授業を受けて、放課後は部活を行なったり友達と駄弁りながら下校する。こんな感じだろうか。
しかし、この当たり前の日常というやつは、人によっては“非日常”だったりする。
更に言えば、俺にとっての“日常”は、他人にとっての“非日常”だったりもするわけだ。
そんな俺は普通の高校に通う普通の学生、ではない。学校は普通だが、色々普通ではないのだ。
俺の名前は虛木言葉。あだ名はろぎー。
学年は2年で、クラスはA組。出席番号はなぜか12番である。数学が苦手で現代文がそこそこ得意。得意教科だった世界史が2年生になってなくなったことを嘆いている程度で、ここまでなら普通の学生だ。俺には何と、まだ付加ステータスがある。
俺、虛木言葉は能力者である。ついでに恒常的に殺し屋に誘拐されそうになったり命を狙われたりしている。
ああ、中二病患者が狂喜しそうな設定だ。だがあいにく、俺は中二病なんか患ってないし、殺し屋うんぬんも妄想虚言の類ではない。残念なことに。
というか中二病患者ってある意味尊敬する。俺だったら羞恥心で死ねる自信がある。『し、静まれ俺の右腕……ッ』とか人前で口走っちゃった日にはその場で悶え死ぬ。
とか言ってる俺は中二病を体現している存在なわけだが。それはそれ、これはこれだ。そうそう、頑張れば邪気眼くらいはなんとかなりそうな俺の能力は……いや、今は止めておこう。
とにもかくにも、俺の非日常的な日常物語、開幕である。
✽ ✽
突然だが、俺の家族について話そう。
うちは4人家族で、俺、姉、父母の4人だ。
姉は去年で高校を卒業した。しかし就職も進学もせずフリーターをやりながら某国民的アイドルグループ(♂)のファンをやっている。バイト代の8割を趣味につぎ込んでいるので、金はあまり持っていないようだ。
母は派遣社員で、姉と同じアイドルのファンだ。母も結構な金額を使ってはいるが、俺の昼の食費やその他諸々はしっかり払ってくれているので、まあセーフだろう。
父は、正直あまり分からない。夜に仕事に行き、早朝に帰ってくる。そんで仕事ぎりぎりまで寝て、起きたらすぐ出社? だ。
なぜいきなりこんなことを言い出したかというと、あれだ、微妙に普通じゃないだろ? と言いたかったわけだ。
一般家庭がどんなものなのかは知らないけど、俺は自分の家族が一般的だとは思っていない。
だから、変わった人間には耐性があるつもりだ。母は俺に仕事の同僚と話すみたいに仕事の愚痴をこぼすし、姉は女らしくない、まあそれはどこの家の“姉”という生き物にも当てはまるかもしれないが。とりあえず女が大っ嫌いなのだ、女のくせに。父は無口、無愛想、何考えてるか分からない。俺は未だに父親に軽い人見知りに似た感覚を持っている。
つーわけで、ちょいと一般的じゃない家族に囲まれて、それに耐えながら育った俺は、嫌いな人間のタイプって言うやつが限りなく少ない。ほぼないと言ってもいい。生理的に受け付けないくらい気持ちの悪いやつとかは別だ。
だからだろうか。
俺の高校の友人は、変わったやつが多い。
というか、俺のクラスは変人の宝庫だ。
例を挙げたらキリがないので自重するが、とりあえず俺の友人4名だけは紹介したいと思う。
來雨 耀。今をときめくキラキラネームの少女だ。名字もキラキラしてるからある意味マッチしてるけど。価値観が世間とずれ気味な天然系。発想がエグくて俺と気が合ういわゆる悪友。
水代碓氷。イケメン。滅びればいいのに。笑顔が眩しい美男だが、女とのデートより俺と遊ぶことを選ぶ、というか選びすぎたせいでゲイ疑惑が浮上しているイケメン様。とばっちりで俺までゲイ疑惑を掛けられ、ついでに碓氷ファンに敵視されている。
鏑木穂花。耀とは違う方向での天然。頭ん中お花畑。俺のことが好き(?)らしい。恥も外見もなく愛をぶつけるラブリストを自称している。
高木 凛。たぶん男。きっと男。男のはず。女装系男子。学校にも女子の制服で来る変態……のはず。男の娘なのか本物の女子なのかは本人しか知らない。クールなツッコミ役。時々言葉攻めで人を殺そうとするドS。
以上4名、俺を入れれば5名が同じクラスに集っている。実はもう一人、しょっちゅう絡んでいる男がいるが、アイツは普通に普通の男子高校生なのでスルー。
そして現在、俺はこの中の一人、耀と待ち合わせをしている。
場所は通学路の途中の信号機で、いつも俺と耀はここで落ち合ってから登校してるのだ。
押しボタン式の信号機が取り付けられた電柱に背中から寄りかかって、目を瞑って耀を待つ。
「……………………………………………………」
…………………………………………
……………………………………
…………………………
………………遅い。
いつものことながら、遅い。
更に待つ。
………………
……………………
…………………………
………………………………
頭上で小鳥がさえずり、時折通る車の排気音が眠気を誘う。
黙って待っているせいで、朝に追い払った眠気が再び襲いかかってきた。必死に抗うが、俺には勝てそうもない……。俺の屍を……超えてゆけ…………。
「虛木ろぎーじゅうなな歳ドウテー、待った?」
……………………………………………………
「…………あり? ろぎーくーん?」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
近くですぅぅ……と空気を肺いっぱいに吸い込む音がした。
「ろぎぃぃぃいいじゅうななさいどぉおおてぇええっ!!」
「耀。近所迷惑って知ってるか?」
閉じてた目を開けて正面を睨んだ。一軒家を囲っている塀しかなかった。あり?
「ふへへ、起きた?」
という声は、後ろから聞こえてきた。
首だけで振り返ると、電柱からぴょこっと生えてる頭と目があった。
ほとんど赤に近い茶髪は小さいツインテールで、眼はくりくりしてる。口は大きい。身長は確か160センチにギリギリ届かない。
「あと胸がまな板」
「む、それは誰のことですかねぃ」
あ、心の声漏れた。
しかし、俺は多少の失言くらいでは慌てない。取り繕わない。
「決まってるじゃありませんか。てめぇだボケ」
「うわぁあろぎーがグレたぁああ!!」
「うるっせーって言ってるだろッ。騒ぐなッ」
電柱の反対側に回り込んで、耀の頭をぐりぐり押さえつける。
「暴力反対ぃいい。おーかーさーれーるー」
「被害妄想も大概にしろコラ。童貞にそんな勇気あるわけねーだろ!」
「あ、童貞は認めるんだ」
「事実だしな」
そう言うと、耀は顔を弛緩させてふへへ、と声を出した。相変わらず独特な笑い方だ。
「卒業させてあげようか?」
アホなこと言い出した。
「俺は幼女趣味なんだ。お前じゃ興奮しない」
なので丁重にお断りした。
「あり、この前は熟女趣味って言ってなかったっけ」
「あー幼女サイコー。ロリコンで良かったー」
我ながら凄まじい棒読みだ。
「てゆーかー、私って幼女体型だから許容範囲じゃね?」
え、なにそれ自虐ネタですか。
「ふへへー」
「真似すんなぁ。ふへへは私のキャラだぞう」
「おま、キャラ作りだったのかよ!」
「もちのろんっすよ」
そう言ってふへへ、と耀が笑った。
「あ、てか今何時?」
急に普通に戻って耀が俺を見上げてきた。ちなみに、今の体勢は頭を押さえつけたりツッコミ入れたりしている間に、俺が耀を小脇に抱えている格好になった。どうしてこうなった。
「ん、今は、8時50分」
「あり、1時限目始まっちったねぇ」
「だな」
などと言いながら、俺たちは慌てなかった。顔を見合わせてふへへ、と緩く笑いすらした。
「今日の1時限目って誰センセーだっけ」
いつの間にか耀が押していたらしく、信号が変わったので、耀を降ろして歩きだした。小動物みたいに小股歩きで耀も付いてきた。
「確か、古典の古田」
みんな大好き古典の古田先生は、頑固で熱血の定年間近な先生だ。最近、自分の間違いを認めないという理不尽属性持ちだということが露呈した。
「うへぇ古田ったかー。ろぎー、1時限目はバックレよーぜー」
「黙れバカ。こないだそれでこってりシバかれただろ」
「えぇ~、中間の順位は私の方が高かったよお。てことでろぎーはバカ決定ね」
そういうことじゃない。と訂正するのもメンドクサイ。あと道行く奥様方の目線が痛い。『なにあの子達学校もいかないで』って声が聞こえてきそうなくらいガン見されてる。世のおばさん共は遠慮と慎ましさを覚えるべきだよなー。
「あ~今何時ぃ?」
耀がだるーんと俺にしなだれかかってきた。疲れた時は大抵こうやって甘えてくる。悪い気はしない、例え腕に押し付けられるほどの胸囲がなかったとしてもだ!
「ねえ、今何時なのさ」
力強く拳を握った俺に何かを感じ取ったのか、些か冷たい声で促された。
「ん、ああ、今は……」
ちらっと右手首の腕時計を見た。
「9時15分」
今頃A組の教室では、古典の古田が熱く人様の名言を語っていることだろう。彼の言葉は驚くほど心に響かない。自分自身の言葉じゃないからだ、と俺は分析している。無駄に年食ってるわけじゃないんだからさー心に響く話の1つでもして欲しいもんだね。
「急ぐか?」
一応、確認した。
「ゆっくり行こっか」
にへらーと弛緩した顔で返事された。
「だろうな」と苦笑いすると、
「ふへへっ」と耀は笑った。
いつもながら気の抜ける声と顔だ。
結局、俺たちが学校に着いたのは1時限目が終わる少し前の9時33分だった。
【続く】
何はともあれお粗末様でした。
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