パパの秘密基地
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一部グロイシーンもありますので、苦手な方はご注意ください。
ぼくの名前は、コリン。先月八歳になったばかり。
ぼくのパパは、優秀な外科医。町の大きな病院で働いているお医者さん。ぼくのママは、元女優、すごく美人で優しいママ。そして、家にはお手伝いさんのマーサが住み込みで働いている。家族のいないマーサは、十八の時から家で働いている。ぼくが生まれた時からずっとだから、今は二十六才。
パパは手術がすごく上手い。パパを頼って遠くの町から患者さんがやってくるくらい、有名なお医者さんなんだ。パパは人間のお医者さんだけど、時々動物の怪我も治している。 ぼくの家の地下には、病院の手術室のような部屋があるらしい。ぼくもまだ一度も入ったことがないから、よく分からないけれど。
そこは、パパのお部屋。ママもぼくもマーサも、その部屋には入らせてもらえない。大事な手術用具やお薬が置いてあるからって、パパは言う。
ぼくがもっと小さかった頃、ぼくの部屋には紙で作った小さなお家があった。ぼくはその紙の家の中で遊ぶのが大好きだった。そこは、ぼくだけのお城。ぼくだけの『秘密基地』。ぼくの紙のお城のように、あの部屋はパパだけが入れる、パパの『秘密基地』なんだと思う。
ある日の朝、ぼくは家の前の道路に横たわる子猫を見つけた。きっと車にひかれたんだと思う。血を流してグッタリとしている。よく見ると、お腹が裂けて中から内蔵が少し飛び出ていた。ここの道路は車がよく通るから、時々猫の死骸が見つかる。
見つけた時は、電話して死骸を取りに来てもらう。ママに電話してもらおうと、ぼくが家に戻ろうとした時、子猫の微かな鳴き声が聞こえてきた。
はらわたが出ているのに、子猫はまだ生きていたんだ。でも、今にも死にそうなくらい弱っている。ぼくは恐る恐る子猫に近づいて、そーと子猫を抱き上げた。なま温かい血のべっとりとした感触が両手に伝わった。
ぼくは気持ち悪くなって、大急ぎで家に戻って行った。
──パパに治してもらおう!
その日、パパは仕事がお休みで家にいた。動物の怪我も治せるパパだから、きっと子猫も治してくれるだろう。ぼくはパパとママのお部屋へ走って行った。
ベッドの上に起きあがったママは、子猫を見て悲鳴を上げた。
「コリン! 死んだ猫を持って来ちゃダメじゃない!」
「まだ生きてるよ。さっき鳴いてたもの」
ぼくは両手に抱えた子猫を見つめる。今は目を瞑ってグッタリとなっていた。ぼくの両手の隙間から、ポタポタと子猫の血が滴り落ちて、床に赤い染みをつけていった。
「車にひかれたのか? 見せてご覧」
パパはベッドから起きあがると、ぼくの側に来て猫を抱き上げた。
「ねぇ、まだ生きてる? パパ、子猫を助けてあげて」
「うーん、かなり難しいが……」
「あなた、子猫を早く外に出して! もう死んでいるわ」
ママは見るのもいやだって言うように、子猫から顔をそむけて言った。
「パパがなんとかしてやろう」
「子猫はまだ生きてる?」
「ああ……大丈夫だよ」
パパはぼくを見て微笑み、子猫を抱えたまま部屋を出ていった。ぼくもパパの後について行く。パパの両手の中で、子猫はじっとしたまま動かない。目も閉じたまま死んだようにグッタリしている。ぼくは子猫が死んじゃったんじゃないかと心配した。でも、パパは大丈夫だって言う。パパが言うならきっと助かるね。パパは名医だもの。
「お前は外で待っていなさい」
地下室のドアの前で、パパはぼくに言った。ここから先、パパ以外の人間は立入禁止だ。
「大丈夫さ。一時間もすれば、子猫は元気になる」
パパはそう言うと、地下室の重いドアを開けて中に入って行った。バタンと音を立ててドアが閉まる。ぼくは心配だったけど、パパの言葉を信じて待っていた。
パパはやっぱり名医だ。
一時間くらいして、パパが地下室から出てきた時、パパはタオルでくるんだ子猫を大事そうに両手で抱えていた。真っ赤な血で染まっていた子猫の血は、綺麗に拭かれて、お腹からはみ出ていた内蔵も元通りお腹に入ったみたい。お腹の裂け目もふさがれていた。
子猫のお腹が、膨らんだり縮んだりして動いている。そう、子猫は息をしていた。目を瞑り、気持ちよさそうに眠っているみたいだ。さっきは死んだようにグッタリして、呼吸もしてないように弱っていたのに。
「パパ、スゴイ! 子猫は助かったんだね!」
「ああ、一晩ゆっくり眠ったら、明日には元気に走り回れるようになるよ」
パパは優しく微笑んだ。
「やった! ねぇ、この猫飼っていい?」
「そうだな……」
パパは、ちょっと考えて手の中の子猫を見つめた。
「いいだろう。だが、当分の間、餌はパパがやるようにする。お前は、子猫に餌をやってはいけないよ」
「うん!」
ぼくは嬉しくて、元気良く返事した。まだ、子猫だし、大手術の後だから、食べるものには気を付けなきゃいけないんだね。
「名前、何て付けようかなぁ」
ぼくは、もう頭の中で子猫の名前を考え始めていた。
ぼくは子猫に『チャーリー』って名前をつけた。
チャーリーはすっかり元気になって、家中を駆け回っている。日に日に大きく強くなっていくのが分かる。チャーリーは青い目をした薄茶色の猫で、とてもかわいい。
でも、ママはチャーリーが嫌いだった。ママは、元々動物があまり好きじゃない。特に子猫のチャーリーを、ママは嫌っていた。
「いつも人を盗み見るような目つきをして、気味が悪いわ。餌もほとんど食べないのに、何故あんなに元気なのかしら?」
「パパが特別な餌をあげてるらしいよ」
「特別な餌? 何を食べているのかしらね?」
足元にまとわりつこうとするチャーリーを、ママは手でシッシと追い払う。
「大きくなりすぎよ。餌を変えた方がいいわ」
ぼくもパパがチャーリーに何をあげてるのか知らない。パパはいつも地下室でチャーリーに餌をやっているんだ。だから、ぼくもチャーリーが餌を食べてるところを見たことがない。でも、ぼくはそんなこと気にならない。チャーリーが元気ですくすく育ってくれるなら良いんだ。
ある日。
ぼくが庭でチャーリーと遊んでいると、マーサの大きな悲鳴が聞こえてきた。マーサは庭の花壇の手入れをしていたから、きっとまたミミズかモグラでも出て驚いたんだろうか? マーサは恐がりなんだ。でも、その時の悲鳴は今までで一番大きくて凄まじい声だった。心配になったぼくは、チャーリーを連れて花壇の方へ走って行った。
マーサは口元を手で押さえて、しゃがんでいた。青い顔をして、気分が悪そうだ。
「マーサ、どうしたの?」
「来ちゃダメ!……」
マーサは必死で吐き気を抑えている。
「あっ……」
ぼくはチラリと花壇の方を見て立ちすくんだ。
なんだろう? あれは……。マーサが花を植えようとして掘った穴から、何かが見える。どこからか蝿が飛んできて、穴の方へ集まってくる。プーンと匂う血なまぐさい匂い。ぼくも気分が悪くなりそうだった。
「……一体誰がこんなことを……」
マーサは泣きそうになりながら、スコップで穴を埋め始めた。
あれは……猫の頭? 手か足の一部も少し見えた。どうやらたくさんの猫の死骸らしい。ぼくの両腕の中のチャーリーが、突然暴れだしミャーミャーとうるさく鳴き始めた。チャーリーはじっと穴の方を見つめている。
「ダメだよチャーリー!」
体をねじってぼくから逃げだそうとするチャーリーをしっかり押さえながら、ぼくは走ってその場から離れて行った。ぼくの胸はドキドキした。猫の死骸がたくさん。どの猫も原型をとどめていなかった。バラバラの頭、足、手……。えぐられた内蔵。真っ赤な血。 鮮明な映像が頭の中をぐるぐる回る。ぼくは我慢しきれなくなって、チャーリーを放すとその場にしゃがんで吐いた。あんなに残酷な物、初めて見た。車に跳ねられた動物の死骸より気持ちが悪かった。
花壇で猫の死骸を発見して数日経った日。ぼくとパパにとって、とても悲しい出来事が起こった。
大雨が降る日。ママは町の中心街まで車で買い物に出かけた。いつもより帰りの遅いママを待っていたぼくとパパの元に、突然電話が鳴り響いた。電話を取ったマーサは、真っ青な顔をして、パパに受話器を渡す。
「……パパ、どうしたの?」
電話が切れた後も、受話器を握ったまま立ちつくしているパパに、ぼくは尋ねた。パパの顔も色を失っている。
「パパ?……」
ぼくはパパの服の裾を掴んで引っ張った。
「コリン……ママが交通事故に遭った。今、救急車で病院に運ばれたらしい」
パパはようやくそれだけ言うと、受話器を元に戻した。
「ママが? ママ、大丈夫なの?」
車にひかれた時のチャーリーの姿が目に浮かぶ。血だらけのチャーリー血だらけの……。
「すぐに、病院に行こう」
どしゃ降りの雨の中、ぼくとパパは車を飛ばして病院へ向かった。
ママが運ばれたのは、パパが勤めてる病院。ママは治療室の中にいた。
「コリン、ママはこれから緊急手術を行う。お前はロビーで待っていなさい」
「ママは大丈夫?」
ぼくはパパの体の間から、治療室を覗こうとした。ママのことが心配だった。
「大丈夫、すぐによくなるよ」
パパはいつもの優しい笑顔でぼくに言った。パパの笑顔はぼくを安心させてくれる。
「わかった。ママを助けてね」
ぼくは頷いてパパを見上げた。パパは外科医の表情になっていた。真剣な顔をしたパパはカッコイイ。優秀なパパなら大丈夫だね。
ぼくは一人、ロビーの椅子に座って手術が終わるのを待った。
しばらくして、マーサが病院に来てくれた。独りぼっちで椅子に座ってるぼくを、マーサはギュッと抱きしめてくれた。マーサもママのことが心配なんだと思う。マーサの体温がぼくに伝わる。ちょっとだけぼくは安心して、マーサの膝に頭をのせたまま眠ってしまった。
しばらくして、廊下をバタバタ歩く足音やドアの開け閉めするバタンという音が遠くで聞こえた。ぼくはまだ眠りから覚めてなくて、ぼんやりとした頭で薄めを開ける。先生や看護師さんの姿が横切って、誰かがぼくの頭を撫でた。
『かわいそうにね……まだ、小さいのに……』
涙ぐんだ声で誰かか呟く。え? 何があったの? ママは? ぼくは必死に起きようとしたけど、瞼が重くて目が開かない。これは、夢なのかな?……。ぼくの意識はまた途切れる。
次にぼくが目を覚ました時、ぼくの側にはパパがいた。椅子で眠っていたぼくを、パパはかがんで見つめていた。ぼくは目をこすりながら、起きあがる。
「パパ、ママは? 手術は終わったの?」
あたりをキョロキョロ見回すと、ロビーの隅の公衆電話でマーサが電話をかけていた。他には誰もいない。
「終わったよ。お前はマーサと一緒に家に帰りなさい」
「ママは? ねぇ、ママは無事だったの?」
パパはニッコリと微笑んで、ぼくの頭を撫でた。パパの大きくて温かい手の温もりが、頭から伝わってくる。
「ああ、大丈夫だ」
「ママに会わせて!」
ぼくは椅子から立ち上がる。
「待ちなさい」
パパは大きな手でぼくを掴んだ。
「ママにはもう少し治療が必要なんだよ。パパがママを連れ帰って家で治療をしようと思う」
「パパのお部屋で?」
「ああ、そうだ。そうしたら、ママは元気になって明日にはお前に会えるよ」
「わかった」
パパは『秘密基地』で、ママを治療してあげるんだ。チャーリーの時みたいに! パパの治療なら大丈夫。ママはチャーリーみたいに元気になれるね!
ぼくはパパの顔を見てニッコリと笑った。
パパの言うことは正しかった。
パパは一晩中、地下室でママを治療していた。パパしか入れないパパの『秘密基地』で。パパの手術なら大丈夫。パパは魔法使いより上手く、怪我を治せるんだ。
翌朝。ママはもう起きあがって、庭に立っていた。交通事故に遭って大ケガしたなんて嘘みたいに、元気そうで顔色もよかった。
「ママ!」
ぼくはママに飛びついた。
「よかった! 心配してたんだよ」
ママは見上げるぼくの顔を優しく撫でる。少し冷たいけど柔らかいママの手。ママは黙ったまま、優しく微笑んでいた。
ママは日に日に元気になっていった。
交通事故に遭う前よりも元気になったみたい。パパの治療のお陰だね。
でも、ママはほとんど何も食べなくなった。ぼくが少しでも料理を残したら注意していたのに、ママはマーサが作った料理をほとんど食べない。
「ママ、なんで食べないの?」ってぼくが聞いても。
「まだお腹が空いてないの。後で食べるわ」って言ってちっとも食べない。
何故だろう?
ママが元気なら心配ないけれど……。ママは前よりずっと綺麗になった。いつも唇が赤いんだ。真っ赤な口紅を塗ってるみたいに。今まで真っ赤な口紅なんてつけたことなかったのにね。
そんなある日。
お手伝いのマーサが突然姿を消してしまった。マーサには行く所なんてないのに、どこに行ったんだろう? マーサの部屋はそのままで、お金も荷物もなくなっていなかった。書き置きさえしていない。パパとぼくは近くを探してみたけれど、マーサの姿はどこにもなかった。
パパは警察に捜索願いを出しに行った。でも、マーサは、とうとう見つからなかった。
お手伝いさんがいなくなったから、新しいお手伝いさんを雇うのかと思ったけど、パパは雇わなかった。その代わり、パパは病院勤めをやめてしまったんだ。
家のことは全部パパがするようになった。料理も掃除も家事は全部。それ以外の時間、パパは地下室の『秘密基地』で過ごすようになった。
パパはいつか、家で病院を開くと言っていた。
ママもずっと家にいた。ママは前から家事はしない。時々、家の近くを散歩したり、スケッチを描いたりしている。驚いたのは、前は嫌っていた猫のチャーリーをママは可愛がるようになった。チャーリーもママになついて、よくテラスに座ってうたた寝しているママの膝に寝そべっていたりする。
それから一週間くらい経った頃。
ぼくは一人で近くの池に散歩に行った。マーサの行方は未だに分からない。
池はかなり広くて深い。釣りをする人もいる。ぼくは、池にとめてある小さなボートに乗って池に出てみた。本当は危ないからって禁止されているんだけど、ぼくは時々こっそりボートに乗って遊んでいる。
その日も池の中央近くまでボートを漕ぎ出した。深く濁った池の水。時々魚の泳ぐ姿が見えるけど、水の中はほとんど見えない。
ぼくがゆっくりとオールを漕いでボートを進めていくと、オールに何かが当たる鈍い音がした。何かがオールにかかり、重さが伝わってくる。ぼくは力を入れて、オールを上げた。
「……?」
重いサッカーボールのような丸いものがオールと一緒に浮かんでくる。
「あっ!」
浮き上がったものを見て、ぼくは悲鳴を上げた。ボールに見えたのは、人間の頭だった。髪がついた頭が、ボールのようにゴロンゴロンと水面で転ぶ。頭以外のものはない。
マーサだ! それは、行方不明のマーサの頭だった。
ぼくは無我夢中でオールを漕ぎ、岸まで戻って行った。体中がガクガクと震える。マーサが何故池に!? 彼女の胴体や手足はどこにいったんだろう? 早く、早く、パパとママに報せなきゃ! ボートを下りて、ぼくは走る。
「コリン!」
途中でママに会った。ママはチャーリーを抱いていた。
「ママ! ママ! 大変だよ! マーサが!」
ぼくはママのところまで夢中で駆けて行く。チャーリーはママの腕を離れて地面にジャンプした。
「ママ!」
ぼくは泣きながらママの胸に飛び込んだ。
「コリン……」
ママはぼくを抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。
「マーサが見つかったの?」
「うん、マーサの頭が池に……」
「そう……」
ママはギュッとぼくを抱きしめる。ママはちっとも驚いていない。マーサが死んだのに……ううん、殺されたのに。
「ママ」
ぼくはママの顔を見上げた。ママは微笑むと、ぼくの顔と同じ高さまでかがむ。
「マーサが殺されたんだよ……」
恐怖のためぼくの目から涙が流れる。
「ママ」
ママは黙ったまま、ぼくの顔を優しく撫でて、ぼくの首筋に顔を近づけた。
「ママ?……」
「コリン、私のかわいいコリン」
ママはぼくの首にキスする。次の瞬間、ズキンと首に痛みが走った。
「ママ! 痛いよ」
ぼくはママの腕から逃れようとするけど、ママはぼくをしっかりと掴んで放さなかった。
「大丈夫よ、コリン。痛いのは最初だけ……後でパパに治療してもらうから心配しないで」
首筋になま温かい感触が伝わる。タラリと赤い筋が流れ落ち、ぼくの服を染めていく。
「ママ……」
もう一度、鋭い痛みが首に走った。ママがぼくの首を噛んでいる。
「マ……」
あまりの痛みにぼくの意識は薄れていった。
『地下室のパパのお部屋へ行きましょう』
遠のいていく意識の中で、ママの声を聞いた。『パパの秘密基地?……』ぼくは、暗い暗い闇の世界へと落ちていった。
気付いた時、ぼくは固いベッドの上にいた。ひんやりとした感触。薄暗い部屋。
ここはどこだろう?
ぼんやりと霞んでいた世界が、だんだんはっきり見えてくる。
「コリン、気がついたかい?」
パパがぼくを覗き込んでいた。いつもの優しい笑顔。パパは温かい大きな手でぼくの頭を撫でた。
「ここは?」
ぼくはキョロキョロと目を動かしてまわりを見る。ぼくが乗っていたのは手術台で、側には手術用具や薬品が見える。パパの地下室の部屋だ。ぼくは初めてパパの『秘密基地』に入れたんだ!
「コリン、大丈夫?」
側にはママもいた。ママは心配そうにぼくの顔を見下ろす。ぼくは首筋を触ってみた、さっきママに噛まれた首には傷の跡もなくて血も流れていない。パパが治してくれたんだね!
「うん、なんともないよ」
あれ? ママはどうしてぼくの首を噛んだりしたのかな? さっきまでぼくは何をしていたんだっけ? 池の方に行ったような気がしたけど……よく覚えていない。
これより、なんだかお腹が空いたなぁ……。
「もう起きてもいい? ぼく、すごくお腹が空いたんだ」
「ああ、良いよ。お前はもう元気になった」
ぼくは手術台から身を起こして、ニッコリと笑った。なんだかとても気分がいい。体中から元気が沸いてくるみたいだ。
「コリン、何が食べたい?」
パパは優しく微笑んでぼくを見つめた。
「えーとね──」
ぼくは、ゴクリと唾を飲み込んで考えた。ぼくが欲しいものは、生クリームたっぷりのケーキでも、とろけそうに甘いプティングでも、チーズたっぷりのピザでもない。
ぼくが一番欲しいのは、赤い赤い血。真っ赤な血が滴り落ちる生の肉……。 完
三回目の「ホラー」作品です。投稿は最後になりましたが、実はこの作品が一番最初に完結してました。^^;
たまには「ホラー」もいいなぁと思いました。ストーリーは王道のような気もしますが、王道のストーリーは好みです。