第一話 ナツヒとの遭遇③
「今回も短めだな」
「作者さん曰く、『これぐらいをデフォルトにしようかな』だそうですよ」
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……オーケー。まずは深呼吸だ。
それから圧倒的すぎる疑問点を解消しようか。
「……火星人?今お前火星人と言ったか?」
「はい。……珍しいですよね。ここは地球ですから。というよりも私は太陽系第三惑星たる地球に生命がいることに喫驚しているんですよ」
……さっき、さんざん怒鳴り散らした後だからな。大人の対応をしよう。頭ごなしに否定はよくない、きっと。
例えどんなに電波な発言であったとしても。
相手を肯定するアイデアその①
俺が勝手に『火星人』と変換しているだけで実は…。
「禾生人?」
※禾生は山梨県にあった村の名前で、今現在は駅の名前に残っているだけです。
「はい、火星人です」
「…禾生出身?」
「しつこいですね、そうですよ」
「…山梨県生まれ?」
「何をどうしたらそうなるんですか?」
違ったらしい。もう少しだけ考えよう。
……他に火星人といったら……。
アイデアその②
「じゃあ…六星占術?」
「確かに六星占術だと火星人+ですけど!そんな話じゃなくてですね。私は火星から来ました。太陽系、第四惑星、火星からです。分かりましたか?」
…………。
匙を投げることを許可しよう、俺。こいつは俺の手には追えない。
結論として、だ。
「病院行こうか」
「ものすごく失礼な事いいますね、あなた」
いや、我ながら正しい反応だと思うのだが。
しょうがない。ボロ出すまで付き合うか……。
「じゃあ証拠を見せてくれ、証拠を!お前が火星人だという証拠を!」
「……今度は往生際の悪い犯人みたいな態度になりましたね……。証拠ですか?例えばどんなものを見れば納得してくれますか?」
「乗ってきた宇宙船」
「……あー、やっぱりそうなっちゃいます?」
「そうなっちゃうな」
「……実はですね、壊れちゃいまして、宇宙船。だから地球にいるんです……け、ど」
「……」
「……」
「……………………」
「な、何ですかその『こいつ、マジでヤベェ』とでも言いたそうな目は!」
「おお、正解だ。相手の表情は読み取れるらしいな」
こういったタイプはこっちに被害が及ばない距離から生温かく見守るのが吉だな、うん。動物園的感覚で。
「今物凄く失礼なことを言われた気がします!……ああ、いいですとも!そこまで言うのなら見せてあげましょう!車検を面倒臭いからといって蔑ろにしていたせいでエンストした私の宇宙船を!」
「お、おう」
一気にまくし立てられてしまった。何かがこいつの逆鱗に触れてしまったらしい。俺の『甲斐性なし』と同じようなものだろうか。
しかし、ああ言ったということは何かしらのものを見せてくれるということだ。
この電波少女が何を持ち出すか楽しみだ。
急いでいるのにここで引いたら負けだと思えてきたっから不思議だ。
………ん?
……ちょっと待てよ。
急いで(・・・)いるのに(・・・・)?
重要なことを思い出し、時計を見る。
午前8時18分
「うぉ!」
「急にどうしました?」
時間がギリギリ……アウトだな、すでに。しかし今から全力で駅に走れば5分程度の遅刻で済みそうな時間。
慌てて出ていこうとするが、件の電波少女に引き止められた。
「あのさ、急いでるからさ、取り敢えず出てくれない?」
「イ・ヤ・で・す!あそこまでこけにされて『ああ、そうですか』と引き下がったら火星人の名折れです!それによく言うでしょう。『目にはジャーマンスープレックスを歯にはフランケンシュタイナーを』って!」
「言わないし、過激だし、何故か両方プロレス業だし。仮に元の言葉に直しても用法おかしいし」
「隙あり、です」
「あ、ちょ、お前引っ張るな!」
そのまましばらく引っ張られ続けました。
……力、強いんですね。
引きずられた状態で住宅街を歩くとか何の罰ゲームですか、これ。
それにしても周りの視線が痛いな。辺りを見回しているのは目をあわせたくないからですね。気持ちは分かりますよ。銀色電波少女に引きずられる大学生がすぐそばを通っているんですから。
ああ、空が青いなぁ。