第一話 ナツヒとの遭遇②
「今回は繋ぎの話しなので短めです」
「まあ、内容薄いのはいつものことだけどな」
「……そんなこと言っちゃだめですよ、圭介さん」
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思わずその少女をまじまじと見つめてしまう。
……何だ?この状況?何が起こった?
「初めまして、ナツヒと申します。よろしくお願いします」
「はあ、ご丁寧にありがとうございます。私の名前は蛍火圭介といいます。……って!いやいやいや!普通に挨拶している場合ではないだろ!何時からそこに居た!」
空気に流されてお見合いみたいな挨拶をしてしまいましたよ!
「先ほどドアを開けてくれたじゃないですか」
「確かに俺はドアを開けたが、その時には誰もいなかったから、それじゃ答えになってないだろ」
「そのドアが開いたタイミングで普通に入りましたよ?」
「本当か?どうやって?」
「まあ、その話は後々話すとしまして。私が何故ここに来たのか聞かないんですか?」
こいつ、スルーしやがって。
あまりよくないが、まあいい。
乗ってやろうじゃないか。
ここに来た理由に興味があるのは確かだ。
「その理由とやらを聞こうか」
「雨風を凌げる場所を探していました。しばらく泊めてください」
……状況を整理しよう。
①見知らぬ少女が突然訪問(不法侵入←これ重要)。
②その少女は全身銀タイツで、よく見たら頭にはウサギのミミの形をした何かを身につけている。
③訪問理由は「しばらく泊めてほしい」とのこと。
……結論。コスプレ好きの家出少女か?最近結構いるらしいからな。……コスプレ好きではなく、家出少女が、だ。
そういったやつが次に言い出すことといえば……。気にしたらヤバいな。無視しよう。
さて、危ない発想を脇に置いておいてっと。こいつの事情なんざ知ったことはないが、一つ確かなことを言わせてもらおう。
「そんな余裕があるように見えるか?この五畳一間台所バストイレ付きに住むただの大学生に」
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「聞けって、人の話を」
しかも不束者て。使い方おかしいだろ。
「無いんですか?甲斐性なしですね」
「……あのなぁ」
「はい?」
「あるかボケェエェェ!」
「きゃっ」
甲斐性なし、の一言で溜まっていたものが一気に吹き出した。「甲斐性なし」なんて男が言われたくない台詞ベスト3に入るんじゃないだろうか?他の二つはご想像に任せるが。
「ただの大学生のバイトだけでもう一人養えるだけの余裕をどう捻出しろと言うんだ!何で突然現れたやつに『甲斐性なし』などと言われなければならない!余計なお世話だ!だいたい何なんだその服は?!銀タイツだと?!昭和の人間が考えた『THE・未来人』みたいな格好しやがって!そしてそのウサミミだ!お前はウサギなのか?月で餅でもついているのか?だったらお前が行くべきはこんな安アパートではなく月だ!月に帰れ!」
「……ぅぅ」
「あ、いや、泣かせるつもりはなかったんだが」
年下(に見える。見ためと実年齢にギャップがあるなんてよくある話だろ。特に女性は。)相手に何をむきになっていたのだろう。大人気なさすぎる。冷静になってみたら自分の無茶苦茶な発言がそうとう恥ずかしいものだった。何だよ「月に帰れ」って。
「……私、……月に……帰んなきゃいけ……ないんですか?」
「いや、さすがに言い過ぎた。悪かった」
というかその無茶苦茶発言忘れてください。悶え死にそうです。
「……酷いです……」
「事情くらい聞くからさ。取り敢えず泣き止んでくれないか?」
目の前で泣かれると罪悪感が半端ない。
……そもそも。何故、自宅で見ず知らずの少女を慰める、などというシチュエーションになっているのだろう?果てしなく疑問だ。
しかし少女の次の発言により、そんな些細な疑問は第三宇宙速度で太陽の引力すらも振り切り、何十光年もの彼方に飛ばされることになる。
「……私、火星人なのに……」
………………………………………は?
今、何と言った?この銀タイツは。