第一話 ナツヒとの遭遇①
「今回から本編がスタートだ」
「この作品には『ラノベ的ご都合主義』が含まれているそうですよ」
「……ああ、だから俺はこんなに苦労しているのか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……PP……PP……PPP……PPPP……PPPPPP……
意識の遥か彼方で電子音がなっている。
……ああ、もう朝か……。
………よし。
午前6時00分、いつも通りの時間であることを確認し、起床。
ここから、台所に行ってお湯を沸かしつつ炊き上がっているご飯をお茶碗に盛って、玄関に新聞を取りに行き、台所に戻りお茶漬けの元を取り出しご飯にふりかけ、ちょうど沸騰するお湯をかけていただき、その後新聞を読む。
慣れてなかったころは大変だったよな、と何度も繰り返してきた一連の動作を特に考えもせずにこなしながら改めて思いつつ新聞をめくる。
「何かおもしろそうなニュースは……と。一面は政治の話しか。政治は……代わり映えなし、か。今度の首相は何か月持つんだろうね、ホントに」
前の首相なんか就任一か月で「総理大臣という役職が想定以上の重責を伴う役職であり、私には役不足だと痛感した次第でありまして……」だの日本の政治家特有のまだるっこしい表現(しかも役不足の意味を違えている)を捨て台詞にさっさと止めてしまったのだからこの心配はもっともだと思う。
ページをめくり、経済面、スポーツ面と斜め読みし、ローカル面を開く。
「……ん?『UFO騒動』?……ふむ、結構近所……というかバリバリ徒歩圏内だな」
そこに書かれていたのは、言ってはなんだが月並みな記事だった。
曰く、『日付が変わる頃に原因不明の発光体が観測された』
曰く、『地球上のものとは思えない軌道をしていた』
曰く、『複数の目撃情報があるから信憑性は高い』
……週刊誌の埋め合わせの記事かよ。学級新聞でもよし。
とにかく、ローカル面とはいえ大手新聞社の載せる記事とは思えなかった。
よっぽどネタが無かったのだろうか。
俺としてはこっちの『紅葉、今が見頃』をもっと大きな記事にした方が良かったと思うのだが。このモモジもイチョウもなかなかキレイだ。
とは言うものの…。
「UFO、それに宇宙人か…。」
大学では航空宇宙学を専攻し(予定。学科が分かれるのが2年生からなんだ)、将来は宇宙関係の仕事(技師方面で、だ。宇宙飛行士はそもそも視力でアウト)に就きたいと思っている身なので、こういった話題に心が踊らないといったら嘘になる。
「いや、違うな。そんな理由じゃない」
宇宙人。その単語を聞いて俺が思い浮かぶのは『フェルミのパラドックス』と言われるものだ。簡単に言うと「科学的には宇宙人と地球人は接触可能だと期待出来るのに、実際にはそういった地球外生命体との接触はなされていない」というものだが、……まあ、ARIA51の話でもないし、接触出来ていないのは本当なのだろう。
こんな頭でっかちな科学者のようなことは考えずとも『宇宙人』と言われれば皆、何らかのイメージがあるのではないだろうか。 自転車で空を飛んだり、放射線の混じった大気の中でしか呼吸できなかったり、珪素生命体であったり、はたまた光の巨人にやられるものであったり。
とにかく、宇宙人の登場する作品は数多く存在する。それこそ挙げればキリがないほどに。それだけ人類は宇宙人――まだ見ぬ未知のものに惹かれ続けているのだろう。
「…………」
……この記事で童心に帰ったのだろうか。
ダメ出しをしておきながら、内心気に入っていたらしい。
我ながら天の邪鬼な性格をしている。
「いるんだったら、会ってみたいな、宇宙人」
ふとそんな事をつぶやいていた。
そう、これが子供のころから抱き続けてきた夢なのだから。
俺の原初風景なのだから。
「さすがにタコみたいなのは嫌だけど。グレイ型でも充分喫驚するな、うん。あれ?でも会っても普通の見た目だったら気付かないんじゃ?髪の毛の色がメンデル無視とかでも軽くスル―しそうだよな。……益体もないこと考えてるな、我ながら」
そんな独り言を言いながら時計を見る。
時計は6時45分を指していた。
「ん、いい時間になったな」
そこから歯を磨き顔を洗い、寝間着から着替え、定期券と携帯電話と財布をカバンに入れ、ガスの元栓を締め、さあ出発というタイミングで
ピンポーン
チャイムの音がした。
「……こんな時間に誰だ……?」
7時前に訪れるような人間に心当たりはないが、しかし無視する訳にもいかずドアを開ける。呼び鈴あるくせにインターホンは無いのはどうかと思う。
「………ん?」
誰もいない。幻聴か……?この歳で幻聴はさすがに勘弁して欲しいのだが……。……否、確かに聞こえたな。すると考えられるのは……。
「ピンポンダッシュだったのか?」
こんな安アパートに?こんな朝早くから?暇な子供がいるものだ。違う気もするが興味もない。
「まあ、いいか。さて」
気にせず行きますか、と続けようとして
「お邪魔しています」
聞いたことのない声に遮られた。しかも後ろから……つまり家の中から声がしたのだ。
勢い良く振り返り、眼前に広がる光景を見て思わず絶句してしまった。
そこには『全身銀色タイツ』の『中学生くらいの少女』が居間に平然と座っていたのだから。
……正直パニックですよ、内心。
何が起こった?