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珈琲

作者: 木村きゆ
掲載日:2026/10/07

 いつも通り朝の六時には目が覚めた。今日は、いや、今日も、だ。今日もあんまり寝覚めが良くない。あなたが一緒に寝ててくれたら、もっと気分よく起きれたのかな。

 そういえば今日は土曜日だった。忘れてた。昨日少し遅くまで起きてたから、もうちょっと寝たかったかも。決まった時間ぐらいに起きる能力って、遅刻しないから便利なんだけど、代わりに融通利かないよね。

 二度寝するか、どうしようか。私、二度寝が下手なんだよなあ。一応やってみようかな。というわけで横になってもう一度目を閉じる。

 うん、駄目。とても寝れる気がしないや。しょうがない、起きるか。

 寝台から降りると遮光カーテンを開ける。うわっ、眩し。夏って何か凄く外が明るい気がする。

 ふわふわと言わせながら、大あくびをする。うん、眠たい。寝れないくせに眠たいの何とかならないかな。

 とりあえずまあちゃんと起きよう。歯を磨いて顔を洗って保湿。いっつものことだけど、めんどい。するけどさ。しないといけないのわかってるけどさ。めんどい。

 ご飯もどうしようかなあ。どこか食べに行っちゃおうかな。早起きできたご褒美とか何とかって事で。作るの面倒くさいだけだけど。

 下を手っ取り早くデニムに履き替えて、上はもうそのまま着てたTシャツのまま。もうこれでいいや。めんどくさいし。家を出て駐車場に行くと、車のドアを開ける。まだ朝早いのに、車の中はすごく暑い。我慢して乗り込むと、一瞬で汗が出始める。すぐにクーラーをフルパワーで付けた。

 運転しながらどこに行こうかなって少し考えたけど、すぐにチェーンの喫茶店でいいやって決めた。モーニングのセットにしよう。うわやべえ、一緒に来たときのこと思い出してしまった。へこむ。運転中は止めて欲しい。事故ったらどうすんだ、私。

 何とか無事着いて、モーニングを注文した。三分ぐらいで出てきた。コーヒーはブラック。砂糖もミルクも入れない。何もいらない。いらない事思い出してしまった今は、とにかく苦いのが欲しい。

 本当に本当に、くっだらない喧嘩が原因。出て行かれて、もう一週間も経った。もう帰ってこないのかな。どうなんだろ。

 うん、わかんないや。

 コーヒーを一口飲む。苦いことは苦いけど、正直苦さが足りない。もっと苦いのが欲しい。馬鹿な自分の罪が精算できるぐらい苦いのを。

 まあうん、冷めちゃうし食べよう。こんな気分でも美味しい。あなたが好きでよく二人で来たんだよね、この店。一人で来るのは初めて。

 コーヒーを飲み終わったけど、まだ食べ終わってないしまだ飲みたかったから追加を頼んだ。うんと濃くて苦いのを、とお願いすると、店員さんに苦笑いされてしまった。届いたのは、うんと、というほどではないけど確かに濃くて苦かった。

 食べ終わって、コーヒーを飲む。この苦さが気持ちいい。今はこれが落ち着く味。

 飲み終わるとすぐに席を立ち、会計を済ませて店を出る。携帯電話を触ってだらだらなんてしたくもないから。どうせ何の連絡も来ないんだから。

 どうしようかな。このまま真っ直ぐ帰るっていうのもつまらないのかな。けど他にどこか行く所もないし。少し考えてから、ちょっとだけ遠回りして帰ることにした。

 途中でコンビニに寄ってまたコーヒーを買う。アイスコーヒーがおいしい。飲んでいると、直接風が当たる部分が冷えてきて、クーラーを切って窓を開けた。暑いけど、風が入ってくるから少し汗が出る程度の暑さ。アイスコーヒーがよりおいしく感じる。

 大した見どころもなくドライブは終わる。そりゃあそうだよね。近所をぶらっと回っただけだし。

 家に帰るとひとまず洗濯機を回して、掃除機もかける。いっそ色んなところ掃除しちゃおうかな。お風呂、トイレ、玄関。ベランダと網戸もやっちゃおうかな。押し入れからホースを引っ張り出してきて、ベランダと網戸を水で流す。結構跳ね返ってくるけど、この暑さだからそれが気持ちいい。

 一通り綺麗になったから掃除終わり。ホースは水を抜いてから丸めて物干しに引っ掛けておいた。

 いっぱい頑張ってる間に洗濯も終わってる。洗濯物を干して、ついでに布団も干した。

 なんかもう色々終わってしまった。これ以上やる事が思いつかないや。うん、考えないように色んな事してたのにね。

 冷蔵庫に入れてるペットボトルのコーヒーをグラスに氷を入れて、注ぐ。朝からいいの飲んじゃったから味はまあまあって程度に感じてしまうけど。

 ご飯も食べて体も使ったし、寝れるかな。クッションを枕にして、床に寝転がる。

 あくびが一つ。目を閉じる。大丈夫、あなたがいなくても何とでもなるから。

 すっ、と落ちるように自然に眠りについて。

 起きた時にはまだ一時間も経っていなかった。しっかり寝たような気がするのに。不思議。まあいいか。

 お昼ご飯はまだいいかな。なんかお腹空いてないし。

 午後、どうしようかな。やりたかった事とか、何だか凄く沢山あった気がするのに、何にも思い出せない。

 キッチンに置きっぱなしだったグラスの中に、氷が溶けて薄い茶色の水が溜まっている。それを捨てて、新たにアイスコーヒーを作った。

 とりあえずテレビを付けてみた。けど何だか全然面白い気がしなくて、チャンネルを何度も変えてから、結局消した。テレビなんていらない気がした。テレビ台の棚にある映画なんか、見ようって気にもならない。

 思わず溜め息が漏れた。

 何だろう、この物凄い虚無感。いいや、分かってる。そう、ちゃんと分かってる。あなたがいないから。

 あなたがいないだけで、こんなに部屋が広くて、こんなに家は静かで、こんなに私は自由で、そしてこんなにも退屈。

 ああ、私は何をすればいいんだろ。今までどう過ごしてたんだろ。全然思い出せないや。

本とかを読んでも、ゲームを付けても、すぐに止めてしまう。何も楽しくないや。

 ああ、とびっきり苦いコーヒー飲みたい。

 もう熱いのでもいいかなって、お湯を沸かしてインスタントコーヒーを大量に入れて作ってみた。

 そう、この濃くて苦い感じ。馬鹿な私にぴったりの味。

 飲み干してから、洗濯物と布団を取り込む。

 寝台の上に布団を敷いて、その上に横になる。別に今は眠くないけど。干したばっかりの布団、あったかくて柔らかい。お日様の匂いがする。そんな事を感じながら、そのままただただぼんやりとしていた。いつまでもいつまでもぼんやりしていた。

 初めて会った時の事。

 付き合い始めた時の事。

 あなたと歩いた道。

 あなたと行ったお店。

 考えるのは、全部あなたの事だけ。

 いつの間にか、陽は暮れていた。寝てたのかな? 寝てなかった? どっちだろう。

 夜になってもお腹は空いてないし、夜ご飯もいいかな。代わりに冷蔵庫からビールと、ちょっとだけ残ってたチーズを取り出す。

 蓋を開けてグラスに注ぐと一気に飲み干す。とても染みる。お酒、そこまで飲む方じゃないけど、何だか飲みたい人の気持ちが分かった気がする。もう一本あったから、そっちも飲んでしまおうかな。取り出して蓋を開けた。

 二本で結構酔ってしまった気がする。眠気が出てきた。先にシャワー浴びてこよう。

 シャワーから出た後、私はまたアイスコーヒーを作る。

 うん、そうだ。連絡しとこうかな。

 喧嘩しても、出ていったらやだ。

 寂しい。

 その二行だけ送って、携帯電話を置いた。少し待ってみたけど、返事は来なかった。だからそれはもう明日でいい。今日はもういい。

 もう、歯を磨いて寝ることにした。

 布団に入って、あなたを思い浮かべる。

 今日もあなたの事を想った。

 例え会えなくても、あなたを愛した。

 布団の中で、胸が締め付けられるような気がした。

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