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500円玉が転がった先

作者: 翠蓮
掲載日:2026/07/06

最近はキャッシュレス決済が増えてきたが、私は現金も持ち歩いている。

都会ならお財布なしでも暮らしていけるのかもしれないが、田舎はまだまだそうはいかないのだ。

現に今、私が買おうとしている自販機は現金のみだ。


財布の中を見れば、小銭は500円玉以外は5円や1円しかなかった。

なので500円玉を投入口に入れようとしたら、入れ損ねて落としてしまった。

落ちた500円玉は転がって、自販機の下に入り込んでいくのが見えた。

私は屈んで覗き込むようにしながら、自販機の下に手を入れてみた。


ぐっ


「うわっ」


ありえない感触に、声を上げて飛びのいた。

自販機の下の隙間に入れる人間などいるはずもない。

なのに、確かに手首をつかまれたのだ。

上から見ても、自販機の下にはうっすらと暗がりがあるだけ。

差し込めるような細長いものも辺りに見当たらない。

しばらく、その暗がりを見つめながら、どうしよう…と迷っていたが、同時にじわじわと怒りのようなものがこみ上げてきた。


500円は、決して小さくはない金額だ。

自分のお金を拾いたいだけなのに、なぜこのような邪魔を受けねばならぬ。

脳内の武士が不服を申し立てた。

確かにそうだ。

そう思うと、恐怖より怒りが勝ってきた。

そちらがそのような理不尽な行いをするというのならば、よかろう、こちらも相応の対応をするまで。

脳内武士はやる気満々だ。

私は覚悟を決めて、再び自販機の下に手を差し入れた。


ぐっ

同じように手首をつかんでくる感触。

だが今度はそこでひるまず、私は手首を返してソレをつかみ返し、両足を踏ん張ると腰に力を込めた。


「ふぬぅ!」

女子にあるまじき声を発しながら、私は力の限りつかんだ腕を引っぱりあげる。


すぽん!と何かが抜ける気持ちいい感覚があって、しかし握った手を見ると何もつかんでいなかった。

そしてワンテンポ遅れて、ジャラジャラジャラと何かが溢れるような音。

足元に目を落とすと、硬貨が雪崩のように自販機の下からあふれ出ていた。


「いや怖い怖い怖い」


どんだけ溜め込んでたんだよ。

てか、物理的にこの量はおかしいだろ。

いろいろツッコミは浮かんだが、私は硬貨の山から500円玉1枚だけ拾い上げるとその場を去った。


武士は高潔なのだ。




ジャンルをホラーにするかコメディにするか迷いました。

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